3月14日の昼下がり。今日は除霊の仕事が無いからと、横島は自宅で休んでいた。
視線はカレンダーから離れない。

「あぁ…プレゼント渡さないとなぁ」

右掌の中にある小さな箱を弄びながら、誰に言うでもなく小さく呟く。


GS美神短編「始動!YGP(横島ゲット計画)・・・?」


ふと聞こえるノック音。
プレゼントの催促にでも着たのだろうと、腰を上げて玄関へ向かう。

何と言おう…そんな思いが過ぎる。
『バレンタインデーのお返し』と言えば易いが、横島の手の中にある箱にはそれ以上の思いが多分に含まれているのだ。

「いやー、わざわざ来てく…れ…」
「ん」

ドアを開けて、満面の笑みで迎える。
今日、告白したい人が着てくれたから。

そう横島は思っていたのに視線先には思った人の顔は無く、視界の下に金色の髪が見える。
視線を下げると、無表情のままに掌を上にしてこちらに差し出した格好のタマモが立っていたのだ。

「帰れ」
「ちょっと、その言い方は無いんじゃない?」

問答無用で帰宅を促すが、『どきなさい』と言わんばかりに小さな身体を割り込ませて勝手に家に上がっていく。
まさに勝手知ったる我が家という風体でちゃぶ台にどかりと座り、再び手を差し出す。

「何の真似だ、タマモ」
「聞いたわよ。 今日は男が女にプレゼントを渡す日だって」

頭が痛くなる。誰に聞いたかなど一目瞭然だった。 勿論、こんな一方的な理論を唱えるのは横島がバイトしている美神令子除霊事務所所長の『美神令子』本人しか居ない。

「あのな…」

一々説明する気力すら起きず、ため息が出てしまう。

「何よそのため息は。こんな可愛い美少女がわざわざプレゼント貰いに着てあげたというのに…」

憮然とした声。誰のせいだと反論したくもなるが…

いや、判っているのだ

美神さんが、俺…横島なんかまともに相手してくれるはずが無いって

がしっとタマモの両肩を掴み、タマモの視線を真正面に捕らえる。
これは…逃げだって判っている。でも…

「タマモ、プレゼントはな…俺だ」

目を閉じ、触れるだけの口付けを交わす。
逃げるなら、逃げてくれ…そんな思いが浮かぶ

抵抗してくれ

嫌がれ

怒れ

こんな意気地の無い男なんて…でも、タマモは抵抗しなかった。

「良いわよ、貰ってあげるわ」

心が溶けてしまいそうな優しい笑みを浮かべながら零れるタマモの言葉。

「い、良いのか?」
「もちろん。横島…ううん、タダオの事好きだしね」

溢れる想いに、思わず強く抱き締めてしまう。
『痛いよ…』というタマモの声に弾かれるように離れた横島に、くすくすとタマモは笑む。

「極端よね、タダオって…」

『そこが魅力なんだけどサ』そう呟きながら床に落ちている小さい箱を取り上げ、中身を見てさらに声を上げて笑む。
中にあったのは、精霊石をあしらった白金の指輪。

「あっ」

横島の口から思わず声が漏れる。それはそうだ。だって、その指輪は…

「もう…これって『もう少し大きくなったら結婚しよう』って意味なの?結婚するまでに2、3人子供が出来そうな気がするんだけど…」

『それはタマモに渡すつもりで買ったんじゃない』
そう言葉に出さなくてはいけないのに、声にならない。
声にならない声を塞ぐように、タマモの唇が再び触れる。

「安心しなさいよ。タダオを捨てるような馬鹿女なんかにはもう二度と触れさせたりしないから」

びくりと硬直してしまった。

全部知っていたのだ、タマモは。

涙が溢れる。
人生初めての失恋。いや、叶えられぬ恋も合わせれば二回目か。

ぎゅっと頭を抱き締められる感覚。
『よしよし』と小さく囁きながら優しく頭を撫でてくれるタマモの感触を感じながら、横島は声を出して泣いた。区切りをつけるために。目の前のタマモを愛するために…



「・・・これでよしっと」

タマモは今まで書いた計画書らしきものを見直し、満足そうに頷く。

今日は3月13日。

そう、これは明日横島忠夫を我が夫とするためにタマモが作り出した壮大な計画案だった。



「・・・で、その横島君を捨てるような馬鹿女って誰?」

びくりとタマモの身体が震える。振り向かなくても判る。あの勝ち誇った声。

「そ、想像上の産物だから…み、ミカミっていうわけじゃ…」

声が震える。もう、完全に主従関係を構築させられてしまい、それに従うしか脳の無い自分が恨めしい。

美神はタマモにくすりと笑み

「そうねぇ…もし、そんな女が居ても大丈夫よ。『私の』横島君に近付かせたりさせないから」

明らかに『私の』の部分を強調させて言ってくれる。
『明日の準備しなくちゃ横島君に悪いわね』と高笑いを残しながら去る美神に歯噛みしながら、タマモは計画案を力一杯破り捨てた。

「こうなったら…第二の計画を…そう、名づけて『横島ロリコン化計画』略してYRPを!」

力の限り叫ぶ。雄叫ぶ。拳を振り上げて誓う。

でも

『くぅ〜・・・』「あ、あぅ…」

空腹には勝てない。
そろそろキヌが夕食を作っている時間である。

「ま、まぁ…ご飯食べてからで良いわね」

まだまだ、色気より食い気が勝るタマモであった。


はしがき

というわけで、ホワイトデーなお話をお送りしますゆめりあんでございます〜
ひ、久しぶりにエロ無しですよおにぃさんっ
珍しいですねー。明日雹が振るかも!?

って、私がエロ書かなかったら天変地異が起こるんかぃ!?

・・・なんて一人ノリツッコミをしつつ

また、次回に。

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