夏も終わりかけた昼下がり、ここは横島忠夫の一室。 そこに『ほけぇ〜』っとした顔でテレビを見るタマモが居た GS美神短編「晩夏の夜長の他愛も無い行為 〜ソレはタマモの反撃〜」 家主である横島は、突然の休暇を取り、既に1ヶ月以上音信不通状態。 タマモにとってはきつねうどんや稲荷寿司を二日に一回は食べさせてくれる人間だった。 その横島がいない今では、一週間に1回食べれるかどうかまで落ち込んでしまっている。 だから、食べれない苛つきを吐き出すために横島の家に来たのだ。 「暇ねぇ・・・」 思わずぽつりと漏れてしまう。 最初は一生懸命見ていたテレビも、面白みが失せて来ていた。 手に持つパッケージの背表紙を見る 『超必殺技伝授』 仰々しい名前である。 これは、横島が隠していた秘蔵のDVDの中からタマモがチョイスした物なのだ。 何故これをチョイスしたのかと言うと、実は理由がある。 背表紙から表へと視線を移すと、そこにはタマモに似た女の子が首輪を付けられ、それを横島に似た男が首輪に繋がる鎖を持っていた。 二人が何故裸なのかはタマモには分からないが、この出演者と名前に惹かれたのだ。 最初はプロレス物なのかと見ていたが、タマモにとってはよく分からない単語が飛び交っており、半分も理解できない状態である。 「あっ…」 思わず身を乗り出してしまう。 『まるで舌戦でござるな』 この前の夜にシロに話したあれ…そう、キスに似ているあの舌同士で戦うあれをやっていた。 「まさか・・・これは・・・」 再び背表紙に目をやる 『超必殺技伝授』 「そう・・・そういう事なの・・・フフッ・・・」 笑みが浮かぶ。 「そう・・・休暇というのは嘘なのねヨコシマ」 つまりはこうだ。 横島は人知れずこの『超必殺技』を会得するために修行をしていた。 だが、一人では修行し辛かったのか、眠りに来た私…タマモを使って修行をした。 勿論、良心の呵責もあったのだろう。 それで私の減り気味だった妖力を回復させることで落ち着いた。 そして、完成…あるいはそれに近い状態まで持っていけた横島は、それを試すために神魔界へと行った。 神魔界というのは、美神からの情報である。 どうやら休暇をとった前日に妙神山という神族が居る場所と魔界に連絡を取った形跡があったらしいのだ。 横島似の男が私…タマモに似た女の至る所に白いドロドロしたものを吐き出しているのが映っている。 あれは『ヤマイモ』等ではなかった。 恐らく、相手に止めを刺すものなのだ。 現に女の方は四肢を投げ出し、か細い泣き声を上げながら動けなくなってしまっている。 何と恐ろしい技か… 「みてなさいよヨコシマ…帰ってきたらギャフンと言わせてやるんだからっ」 タマモは高らかに宣言すると、ビデオを巻き戻して最初から再び見始めた。 『あぁーっ 許して下さいタマモ様! 貴方の僕たるこの横島が、これから毎日きつねうどんと稲荷寿司を奢らせていただきますっ』 ・・・等という妄想を抱きながら、歪な笑みを浮かべながらビデオを見るタマモの背中には瘴気が漂っているように見えたのは幻覚では無いのかもしれない。 それから数日後の深夜・・・ 「ヨコシマー・・・って、寝てるわよね・・・クスクス・・・」 横島家の玄関を無遠慮に開きながらタマモは小さく呟く。 狭い横島の家は、玄関に立つタマモからも鼾をかく横島の姿が見れ取れた。 近付いたタマモは、念の為にと額に『縛』と書かれた文珠を当てると、タオルケットを剥ぐ。 「さぁ覚悟しなさい…苦痛に歪むヨコシマの姿が目に浮かぶわ」 嬉々としてズボンをパンツごと脱がせて息を呑んでしまう。 「あっ・・・あ・・・」 声が詰まる ビデオで大体の大きさは把握していたつもりだったが、それは気休めにすらならなかった。 まるで大人と子供の差である。 勿論、『子供』はビデオに出ていた男の方だ。 『ふはははーっ 策士策に溺れるとはこの事だなタマモ君。今日からきつねうどんと稲荷寿司は月に一回以下にしてやろう』 高笑いをする横島にびーびー泣きながら土下座する自分の姿が脳裏に過ぎる。 負けるわけには行かない 全ては・・・稲荷寿司ときつねうどん毎日ゲットの為にも 「なっ!?」 触ろうとして気付く。 『そこ』からは神族特有の神気と魔族特有の魔気が感じられたのだ。 身体が震える。 怖気づく自分に叱咤する。 『勝てるか』ではない『勝つ』のだと。 恐る恐る触れる。 そうだ。この日の為に大して好きでもないバナナを使って練習したのだ。 だけど・・・ 涙が溢れそうになる 身体が熱い 叫び、泣き、土下座して命乞いをしたくなる 『それ』は凄まじいまでに霊力が集中してきているのだ。 端的に見れば、既にタマモの妖力を超えている。 こんな物で貫かれたら、命が幾つあっても足りない。 直に振れ、直に見て分かる これは『武器』なのだと そして、『弱点』なのだと 「はむっ」 一気に頬張る。 『歯を立てるな』『吸え、頬で扱け』『喉を鳴らせ、舌を休ませるな』『男の顔から目を逸らすな』 ビデオで言っていた言葉が脳裏に浮かんでくる。 そうだ。私も勉強し、修行したのだ。 『負けないっ!』そんな思いが勇気を奮い立たせてくれた。 一気に喉奥まで咥える。 なのに…もう入らないと思うほどに奥に入れたのに、まだ半分も入ってなかった。 このまま貫かれて自分は死ぬのではないかという恐怖からか、背筋にゾクゾクっという電気が走ったような感覚が突き抜けていく。 吸え、扱け、舌を休ませるな 半分の入らないから何だ。 入らないなら手を動かせば良いだろう。 『ズズッ』という唾を啜る音が嫌というほどに耳に届く。 光明が見えた瞬間 『それ』が跳ねたのだ。 私の技が効いている証拠なのだ。 『いけるっ!』そう心で叫び、更に強く動かしていく。 既に膝が笑っている。口や手の感覚などとっくに無くなっていた。 口の奥に入れる度に、頭の中をぐちゃぐちゃにかき混ぜられたかの様に何も考えられない。 一瞬の隙 そう、一瞬だった。 八重歯が当たってしまったのだ。 『しまった!』と思うが既に遅い。 喉奥まで入れていた『それ』が爆ぜたのだ。 『早く抜け!』と身体に命令するのに動いてくれない。 どろどろとしたものがどんどん吐き出され、嫌が応にも飲まなければならなくなってしまう。 身体が『きゅうぅぅぅっっ』と得体の知れない感覚に襲われる 目の裏がちかちかする 全身がガクガクと痙攣する ふわりと浮く感覚 死んだのかと思った。 それほど凄まじいものだった。 やっぱり勝てないのか? そんな思いが生まれる。 元より勝てない勝負を挑んたのではないのか、と 力が、戻る 死んでなかった。 身体を動かす・・・動く。大丈夫だ。 口から引き抜くと、ソレを待っていたかのように白い物を顔中に掛けられてしまう。 その感覚に再び身体ががくがくと震えてしまう。 泣きたくなる。 今から土下座すれば許して貰えるだろうかと思うが、既に遅いのは分かりきっていた。 顔に掛けられた『これ』が横島の答えなのだ、と まだ…終わってない そんな思いがわき上がる 『終わってない』? 完敗だったではないか、これ以上何をするのだと脳裏で自分が嘲け笑う声が聞こえる。 だが、終わってない。 「はぁ・・・はぁっ・・・」 身体が震える 力の入らない身体を奮い立たせ、横島にタマモは跨った。 目が・・・合った 横島は起きていた 何かを言いたそうな表情だが、『縛』の文珠はそれを許さなかった。 「ヨコシマ・・・まだ・・・こんな物じゃないわよ」 強がりなのは分かっている でも、言わなければ泣いてしまいそうだった。 足の裏を舐め『命だけは』と哀願したくなりそうだった。 「んっ・・・・んぁぁぁぁぁぁっっっ」 何が起きた 全身が痙攣する 息が吸えない 口は空気を求めるかのように『ぱくぱく』と動く 横島に貫かれたと分かったのはそれから数秒後だった。 横島に使った文珠が切れたのだ。 やはり甘かった あのビデオは横島が持っていたもの 一朝一夕でどうにうかなる代物ではなかったのだ。 横島が・・・笑っていた 涙でよく見えなかったが、恐らく嘲笑であろうことは確かなはずだった。 だって 「んぁっ・・・んくっ・・・ひゃうっ・・・きゃうんっ!!」 腰をがっちりと掴んだ横島は、下から何度も貫き始めたのだ。 多分、私はこのまま下から口まで一直線に貫かれて死に絶えるのだ そう感じたが、もうタマモには成す術が何も残っては居なかった。 頭の中がかき混ぜられる 奥を貫かれるたびに全身が痙攣し、目の裏で火花が散り、何も考えられないくらい真っ白になった。 全てが…白く…塗りつぶされる… 私は、横島に殺される 身体に力が入らなくなり、横島の胸に身体を預けるが、それでもなお横島は貫く事をやめない。 なのに・・・なんで・・・ 「タマモ・・・タマモぉ・・・」 なんで・・・そんな切なく私の名前を囁くのだ・・・ 暫くして、私の中で爆ぜるのを感じた。 私は、あの白いどろどろしたもので全てを白く塗りつぶされるのだ。 なのに・・・この男は・・・ 「んっ・・・」 なんでこんな優しいキスをするんだ・・・ 優しく撫でながらキスをしてくる。 横島の思いが流れてくる。 そして、気付いた 自分の妖力が溢れんばかりに増えている事に 私は…馬鹿だ… これは、相手を『倒す』技ではなく、『生かす』技だったのだ。 相手を生かすために、自ら苦痛を受け入れるのだ。 知らなかった・・・何も・・・ 何が平伏させるだ 何がきつねうどんだ 何が稲荷寿司だ そんなのがどうした 愛しさが溢れてくる こんな、馬鹿な私を受け入れてくれる横島に そうだ・・・前に私の身体に付着していたあれ・・・ あれは、夏の暑さに弱っていた私を助けるために横島が施してくれたのだ。 涙が溢れる。 後悔の涙 「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・」 幾ら謝った所で許される所業ではない。 だけど、横島は許してくれる。 優しくぎゅうっと抱きしめてくれる横島の腕が、顔を預ける胸の温もりが 悲しみに彩られた私の心に光を与えてくれる シロ、ごめん 心で謝る。 色恋など自分には必要ないと思っていた。 だけど、今では『ヨコシマのモノになりたい』と 横島の妻とは言わない。傍に居させてくれるなら良い。 でも、ひとつだけ・・・ただひとつだけ叶えたい事があった。 それは・・・ 「ヨコシマ・・・私、ヨコシマとの赤ちゃんが欲しい」 「え・・・あ、あぁ・・・それも良いな」 再び涙が零れる…嬉しかった。 でも、この言葉だけで十分。 『呼んで』もらえれば、後は私一人でやれる。 例え、それで命を落とす事になっても悔いは無い。 「ありがとう、ヨコシマ・・・じゃあ、『呼んで』」 「・・・え?」 間の抜けた横島の声に部屋が静寂に包まれる ・・・もしかして 「ヨコシマ、もしかして赤ちゃんの作り方知らない?」 「い、いや知ってはいるけど」 「だったら呼んで・・・『コウノトリ』を」 「はぁ!?」 びっくりしてしまうほどの大きい声。 やっぱり知らないのだこの男は。 くすっと笑みが浮かぶ。 やはり横島はそれで良いのだ。 「仕方ないわね。教えてあげるわ」 ゆっくりと顔を上げ、横島ににこりと笑み教えてあげるのだ 「赤ちゃんはね、コウノトリが運んでくるのよ」 はしがき ふぃー・・・一気に書き上げました。 18禁ですか? 私的にはノーマルですがっ というわけで、『知らない』タマモンをお送りしましたゆめりあんでございます。 謎が残りましたね ヨコシマは神界と魔界どっちに行t・・・ 違います シロはどーなった!? ですねっ では、続きはシロ・・・え? 神魔の方が良い? 大丈夫です、そう思っているのは私以外の人だけですから って、シロを気にしてるのは私だけかい!? ・・・などと一人ボケツッコミをしつつ また、次回に