「タマモ、起きているでござるか?」
「・・・なに?」
とある年の夏の夜、美神令子除霊事務所の屋根裏部屋に居候しているシロとタマモ。
寝苦しさを紛らわすかのごとく始まった二人の話…
だが、後にこの話が大変な事件を起こす事を、二人は知る由も無かった…
GS美神短編 「夏の夜長の他愛も無い話」
ぼぅっと天井を見ていたタマモにふと掛けられる言葉。ただの意思確認の言葉だった。
視線だけをシロに向けると、こちらを見ていない。
「タマモ、一番好きなのは何でござるか」
「揚げ」
タマモにとって思考する必要すらない問いだった。
だが、シロが聞きたいのはそういう事ではなかったらしい。
数秒の逡巡の後、再び問いが始まる
「もう一度聞くでござる。一番好きな「揚げ」…だから話の腰を折らないで欲しいでござるよ」
「だって、それ以外に一番が来る事は無いから」
どんな物でも揚げに適う者は無い。それがタマモの持論。
シロだって、同じ質問なら迷わず肉と答えるだろうに、と心で呟く…
ギシッとベッドがきしむ音がする。
視線をずらせば、隣のベッドで寝ていた…いや、寝転んでいたシロがタマモのベッドに座っていた。
「茶化さないで答えるでござるよ。食べ物以外で、一番好きなのは何でござるか?」
そういう意味か、とタマモは嘆息する。
知る人間を逡巡し始め、選択していく。
美神であり、キヌであり、今隣に座ってるシロであり…
「横島かな」
深く考えずに出た言葉。でも…何故か頭の中の横島だけはタマモに笑いかけていた。だから…
ふとシロに視線を向けると、思いつめたような顔をしている。
それはそうかもしれない、とタマモは思う。シロは横島の事を『先生』と呼び、尊敬し敬愛しているのだ。
「どれ位…好き…なので、ござるか?」
どれくらい? 言われて考える。 だが思いつかない。では、と考え方を変えてみる。
傍に居る…全然良い。一緒にご飯を食べる…全く構わない、いやむしろ一緒に食べた方が揚げを食べる機会が増える。一緒に寝る…全く問題なし、というより昨日一緒に寝ている。
「結構好きかな」
確かに横島は馬鹿でスケベである。だが、タマモにとってそれはマイナス要因にはなりはしなかった。
「結構って…どれくらいなんでござるか?」
「横島との子供を持っても良い位に」
子供…考える間も無く口から出た言葉だった。だがよく考えても、全く問題は無い、とタマモは思う。 横島は文珠という特殊な能力を持ち、ハンズオブグローリーという型破りな霊波刀を操り、神魔とも繋がりがあり、直接は見てないが魔神と戦って勝ったとも聞いている。
…優良物件ではないか。良いどころか最高である。
こうなると、今すぐにでも子供が欲しいとさえ思ってくる。
だが、思考の渦がシロの吐息によってかき消される。
何時の間にかタマモに馬乗りになっていたのだ。
「た、タマモは子供の作り方…知っているでござるか?」
恐る恐る聞くシロに『当たり前じゃない』と自慢げに言うタマモ。
少し前まで全く知らなかったが、美神に教えてもらったのだ。
「子供はね…コウノトリが運んでくるのよっ」
「な、なんですとー!?」
『ガビーン』という擬音が似合いそうな驚き方をするシロ。この辺りは横島に似ているなぁ、とタマモは心の中で呟く。
「って、ミカミが言ってたわ」
「み、美神殿に聞いたでござるか」
「だって、おキヌちゃんに聞いてもさ…最初は『畑が…種が…キャベツが…』とか言ったかと思ったら、バー何とかとか、く…栗?とか、ペー何とかとかいきなり難しい言葉を使い出すし」
「ぺーでござるか…どこかの噺家みたいでござるな」
「そしたら、美神があきれた声で『赤ちゃんはね、コウノトリが運んでくるのよ』って教えてくれたってわけ。」
「せ、拙者は男女が同じ布団に寝る事で出来ると思って居たでござるよ…」
確かに、タマモもそう思っていた節が無かったわけではない。
だがそれは違うと、今は断言できる。
「だって、ここ最近横島と一緒に寝てるし。それで子供が出来るならもう出来てるはずでしょ?」
「ふむ…そうでござ…って、先生と一緒に寝てたでござるか!?」
「最近夜に出て行くと思ったら…」と悔しそうにシロが呟いて居る。
だが横島と寝る事は、タマモにとって良い事と悪い事を同時に起こしていたのだ。
「良い事と悪い事、で、ござるか?」
「うん、それがさ…」
タマモの話がゆるやかに始まった…
夜、横島の家に行き一緒に寝たいと言うと、横島はしぶしぶとだが一緒に寝てくれる。
「ちょっと待つでござる」
「アンタの言葉じゃないけど、いきなり話の腰を折らないでくれる?」
「今は夏でござる。先生の家はくーらーが無くて暑いでござろう?」
確かに横島の家は暑い。だが、そんな事は全く気にならなかった。
布団に寝転がると、横島はぎゅっと私を抱きしめ、耳元で「タマモ…タマモ…」と囁い…
「せ、先生がぎゅって「今度割り込んだら話やめるわよ」きゅーん…」
…囁いて、額にちゅってキスをしてくれたのだ。
「お、おでこにちゅーくらいどうってことはないでござる」
「シロ、思いっきり動揺してるわよ? でも、額だけじゃないのよねー」
クスっと笑ってタマモは続けた。
「横島がもう一度額にキスしようとしたから、わざと上を向いたのよ」
「くちっ!? 唇にちゅーしたでござるか!?」
「でもさ…まるでアンタみたいに口の中舐めてきたのよ」
そう、唇同士が触れたかと思った瞬間に、割り込んできた横島の舌。
タマモはキスしたかったのに、舌で邪魔された。そう思い込んで
「タマモも先生の口の中舐めたでござるか」
「むかついたし。折角私がキスしてやろうとするのを舌で邪魔したのよ?」
舌同士の攻防は暫く続いた。口が、舌が疲れきってしまうほどに続いた後ゆっくりとはなれ…
「で、どうなったでござるか?」
「それから寝ちゃった」
「うぅ…その舌戦は兎も角、ぎゅーは拙者もしてもらいたいでござるなぁ…」
もう一つあったと、タマモは両手をぽんと叩く。
「そうそう、横島と寝た次の日ね、凄く身体…主に霊気かな…凄い調子が良いのよ」
「へぇぇ…先生と一緒に寝れる上に体調まで良くなったでござるか…良い事尽くしでござるな」
「ところがそういうわけでもないのよねぇ…」
それだけで済めば最高なのだが、とタマモは思う。
だが、横島との一夜はそれだけではなかった。
「起きた次の朝さ、体中に何か白い粘ついたのが付いてるのよね。顔は勿論、胸や口の中や股…そういえばこの前はお尻にも付いてたわね…」
「ねばねばでござるか?」
「そうよ。それでさ、横島には着いてないの。あの時はむかついたわねー。口の中何か苦かったし、直接横島の口の中に流し込んでやったわ」
「また舌戦でござるか」とシロは苦笑し、すこし考える。
『白くてねばねばした物』どこかで聞いた事がある…確かおキヌ殿が…と。
「あー!」と突然シロが大声を出す。
「何?」
「思い出したでござるよ! 白くてネバネバ!」
『そんな事も知らないでござるか、所詮キツネでござるな』と言いそうな顔。むかつくが、ねばねばは身体に付いた正体不明のアレしかタマモは知らない。
「それは…」
「それは?」
「ヤマイモでござる!」
何だ芋かと思ったが、どうやらシロの話では摩り下ろすと白くてねばねばしたものになるらしいのだ…確かに似てる気もしなくもない。というより山芋自体をタマモは見た事が無いのだ。
「ヤマイモはねばっこいでござるが、滋養の効果があるでござる。体調が良くなったのも、きっとヤマイモのお陰でござるよ。・・・ただ、少し痒くなるでござるが」
「痒くなる?」
どうやら肌等に付くと、痒みを感じるらしい。
確かに、多量に付いていた口の中や股の辺りがむずがゆかったような気が…
「そういえば確かに、ジンジンしてむず痒かったわね…掻き辛くて横島に掻いて貰ったけど」
特に股の辺りが酷かった気がする。
横島は、奥の方を掻く為に荒い息を立てていたから余程辛かったのだろうな、とタマモは思った。
「まぁ、白いのがそのヤマイモなのはいいとしてよ。それさえ除けば横島と寝るのは私は好きよ。」
「良いでござるなぁ…拙者も…「寝れば良いじゃない」えぇ!?」
何を簡単な事をとタマモは思う。
恐らくシロでもちゃんと頼めば、あの横島である。きっと何だかんだ良いながらも一緒に寝てくれるはずなのだ。
「そ、そうでござるか? うぅ…楽しみでござるなぁ…」
嬉しそうに尻尾をパタパタとさせながら自分のベッドに戻るシロを見ながらタマモは、ふわ…と欠伸をかみ殺した。
「そろそろ寝るわよ」
「わかってるでござるよ。お休み、タマモ」
「うん、おやすみ…」
それから数分もしないうちに、二人の寝息が静かに聞こえ出していた…
だが、話はここで終わらなかった・・・
とある山のとある修行場にて…
Prrr…Prrr…ガチャ…あ、夜分にすみません。はい、小竜姫です。…はい、お久しぶりです。…えぇ…えぇ…実は、こんな夜に電話したのは訳がありまして…あはは…そう言って貰えると助かります。実は最近体調が優れなくて…えぇ、病気ではないのですが…それで、ヒャクメに相談した所、良い『民間療法』があると聞きまして…えぇ…えぇ…だって、昨晩タマモさんという妖狐の娘に横島さんがその『民間療法』を施したとヒャクメから聞きまして…ど、どうしました?…えぇ…あ、それでですね…えぇ、差し出がましいのですが妙神山にご足労願いまして…えぇ…はい、そうです…あ、私だけではなくてですね…えぇ…え?ヒャクメですか?はい、隣に居ますが…はい、そのヒャクメと一緒にその『民間療法』というのをして頂きたくて…えぇ…あ、予定ですか?…はぁ………あ、ヒャクメが美神さんも知ってるとの事で…え?…まぁ…すみません…はい、では楽しみにお待ちしてますね。
それから数分後…とある…いや、魔界にて…
Prrr…Prrr…ガチャ…久しぶりだな、横島。私だ。…よもや忘れたとは言わぬだろうな…そうだ、ワルキューレだ。あぁ…うむ、実はな…小竜姫?…いや、何も聞いては居ないが…ふむ。…話を戻すぞ。ジークに『民間療法』というも…どうした、横島?…ふむ?…あぁ、私だけではない。その『民間療法』が時間がかかるなら仕方ないな、では美神の方に…む、良いのか?…なら、私を含めて20柱程…あぁ…多いか?…心配するな。横島の好みそうな女性型魔族のみに絞ってある。…あぁ…ベスパか?…あぁ、勿論入って…どうした?
「ベスパ、代わって欲しいそうだ。」
…ひ、久しぶり…だな、ヨコシマ。…あぁ…あ…げ、元気にしてる…あ…うん…あ、わ、私は『民間療法』というのは…だって、ヨコシマが嫌だろう?…え…あ…あり…がと…いや、違うっ…うん…何ていうか、嬉しい…かな…うん…うん…判った…伝えておく…あ、そのっ…あ…そうじゃなくて…えっと…その…また…うん…お…お義兄ちゃん……ば、バカ!…だって…あ…ありがと…うん…
「横島さんが、明日妙神山に来てくれるそうですよ、ヒャクメ」
「ワルキューレ大尉、ヨ…えと…お義兄ちゃんが、明日きてくれると…」
「お…俺はどうしたら良いんだぁぁぁぁ!!!!!!」
はしがき
…なんて所で終わらせてみたり。
ギリギリOKですか? 会話的には小学生〜中学生レベルのつもりです。
小竜姫様とワルキューレ様の脳内はどうかは知りませんが…!?
って、美神さんの話はどうした私!?
でも仕方ないんですよー…思い浮かんじゃったんですし?
皆さんは何歳まで「一緒に寝ると子供が出来る」って思ってました?
ゆめりあんは、中学まで思ってました。何気に、それが元ネタになってます。
一緒にパパンと寝た次の日に布団の中見て「子供出来ないねー」なんて言ってたのは良い思い出なのです。
その後思いっきりシバかれてたパパンには手を合わせるしかないのですけどねっ
次の短編こそ美神さんメインの話をっ
ではではー
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