「んっ…あ〜…っく、ふぅ…」 ゆっくりと身体を伸ばし、『私専用』の執務室へと足を踏み入れる。 薄暗い室内にある画面の無い計器の数々。 恐らく…いや、確実に私以外には扱えない代物ばかり揃えられた部屋。 その中央に添えつけられた椅子に座り、ゆっくりと身体を沈めていく。 私専用の部屋にある、私専用の椅子。 勿論ただの椅子ではない。 私の能力を最大限に利用する為の物だ。 私の能力。 全身に隙間無くある『目』という名の器官を使い、全世界の情報を一括に入手・管理する力。 情報収集にかけては私の右に出るものは居ない。と、自負している。 「さって、始めるとするのね〜」 間の伸びた声を出しながら、目は真剣に、意識はいい加減に。 生真面目な性格ではないから仕方ないのだ。 唯一の親友である小竜姫はこんな私を咎めはするが、そもそも今回の仕事はその小竜姫からの物なのだ。 しごく、個人的な…ね。 GS美神短編「監視という名の覗き」 『ヒャクメに頼みたい事があります』 小竜姫が切羽詰った声色で私に頼みごとをするのは、一体何百年ぶりだろうかと思った。 小竜姫に手渡された依頼書は、確かに正式なものではあったが そこに書かれている内容は、とても真面目なものには私には見えなかった。 『魔王因子を内包した人間、横島忠夫の監視と報告』 ここはまだ良い。 『監視内容は、一般生活状況から…』 ここから段々と怪しくなっていた。 何せ、声をかけた女性に関する詳細な情報から、食事に何を食べたか トイレの回数及び尿の成分分析、はたまた自慰の回数から何を『おかず』にしたか とどめと言わぬばかりに、トイレと自慰は最大画質で動画保存しろとまで書いてあったのだ。 「まったく…公私混同しないで欲しいのね〜」 仕事は続けながらも愚痴は出る。 と、その時『ピピ』とシグナル音が耳に届いてきた。 だらけた座りを直し、大急ぎでコンソールを叩いてリンクさせていく。 シグナル音。これは、ターゲットである横島さんが… 「あぅ…今夜も巨乳なのね〜…」 横島さんが、自慰を始めた合図なのだ。 意識の中に横島さんの自慰をしている部屋の様子が浮かんでくる。 そこでは、横島さんが『巨乳Love』と書かれた雑誌を読みながら硬く反ったモノを扱いていた。 小竜姫にとっては残念な話だが、横島さんの『おかず』は大体巨乳物が多い。 本であったり、ビデオであったり、ジャンルも様々ではあるが 小竜姫の様に胸の小さい女性が『おかず』になることはほぼ皆無に等しかった。 小竜姫はまがりなりにも親友であるし、彼女の恋路も応援はしたい。 神と人の恋。事例は少ないが、古今東西話の種になる程度にはある。 せめて巨乳でも、小竜姫に似た女性でも映っていれば小竜姫も喜ぶだろうに と考えても仕方の無い事なのかも知れない。 私がするのはあくまで監視なのだ。 『あれをしろ』『これをしろ』と言うのは間違っている。 …しかし 「暇なのね〜」 横島さんの事は憎からず思ってはいるが、恋愛感情など欠片ほども無い。 そんな男の自慰姿を見たとしても面白くもなんとも無いのだ。 終了予定時刻は後15分といったところか。 開始してまだ1分ほどしかたっては居ないけれど。 「あ、いいこと思いついたのね〜」 『うふふ』と笑みを零しながらコンソールを操作していく。 リンク対象は横島さん。 リンクレベルを少しづつ上げていけば、横島さんが想像している物が私の頭の中に転送されてくるという仕組みだ。 「さてさて、本当の『おかず』は何なのね〜うふふ〜」 ピントの暈(ぼ)けた映像が少しづつ鮮やかになってくる。 クセのある黒い髪。でも、おキヌちゃんの様に長くは無く ある程度成長はしているが、メリハリの無い身体。は、意外に小竜姫に似ている…? 服は着ておらず、延々とキスをし続けているから顔は良く見えないけれど… でも、この感じ…見たことが… 身体にある沢山の『目』に、頭上中央の赤い髪。 「って、これ私なのねーっ!?」 擬音で表すなら『ガビーン!?』といった所だろうか。 思わずコンソールのボリュームつまみを一気に回してしまい、横島さんとのリンクレベルが跳ね上がってしまう。 『ヤバい』と思うも既に遅い。 あまりリンクレベルを上げ過ぎると、リンクした相手に『覗き』をしている事を知らせ兼ねない上に 相手の想像している事がダイレクトに脳内に伝わってくるようになってしまう。 私達神族には厳密に言う『肉体』が無い、いわば精神の塊のようなもの。 想像であっても、リンクレベルを上げてしまったら… 「あ、こら…んんっ…ちゅ…んや…だ…ちゅる…っん」 『はぁむ…っちゅ…ちゅる…んちゅ…』 横島さんの興奮が私に伝わってきて、一気に身体が高潮してくる。 ボリュームの摘みを持っているのに、手が言うことを聞いてくれない。 「ぷ…っはぁ…はぁ…はふ…ん…」 本当にキスされているわけでも無いのに、身体に力が入らなくなり 口の周りは涎で汚れていた。 間近に見える横島さんの顔。 あれ、これは横島さんの妄想の中なのに…と思うけれど、リンクレベルが上がりすぎている所為で 妄想と現実の区別が頭の中で混濁している。 『ダメだろ、こうやって覗きなんてしたら…オシオキしないとな』 「あ…バレて…きゃうっ!?」 『ニヤ』と悪戯顔で笑む横島さんに強く抱きしめられた瞬間、『ビリッ』とまるで軽い電気ショックを浴びた様な感じが全身に襲ってくる。 違う、これは電気ではない。 それを証明するように、一気に横島さんの感覚が現実味を帯びてくる。 「き、強制接続…そんなの非常識すぎるのねーっ!!」 「案外上手くいくもんだな。おぉおぉ、ヒャクメの身体がはっきりと分かるぞ」 恐らくは文珠を使ったのだろう。こちら側からしか繋げていなかった精神リンクが横島さんの方からも繋げられて まるで本当に触れられているような感じがする。 目に見えるのはいつもの執務室の筈なのに、私以外誰もいない筈なのに まるで本当に居るかのような感覚のある横島さんが私に覆いかぶさっていた。 「俺の声はお前にしか聞こえないけど、お前の声は他の奴らにダダ漏れ…ふふふ…」 「う…よ、横島さん…えっちな事はダ…ん…っは…っくぅ…」 そう、実際にこの執務室に居るのは私だけ。 横島さんが見えるのも、聞こえるのも、触れられるのも私だけ。 ここで誰かに見られれば、私が仕事を放り出して自慰に耽っている様にしか見えないだろう。 神族の戒律は厳しいのだ。そんな事を知られれば下手すれば堕天、最低でも能力制限の上に数百年単位の拘束及び謹慎が言い渡されるだろう。 だがそんな私の事などお構い無しに、横島さんは私の耳からゆっくりと舌を這わせてくる。 どんなに抵抗を試みようとも、横島さんからの強制接続の所為で一時的に私の身体は言うことを聞かなくなってしまっている。 いや、例え言うことを聞いたところで戦闘能力の無い私ではあっという間に横島さんに組み伏せられるだろう。 そして、どんなに助けを呼ぼうとしても私にしか知感出来ない横島さんから逃げることは不可能だ。 服の上からなのに、まるで素肌に触られて居るような…ってそう言えば横島さんの中では私は裸なのだ。 つまり、どんなに服を見繕うとも横島さんには意味を成さないわけで… 「何と言うか…類は友を呼ぶというか…?」 「何処を見ながら言ってるのね〜…流石にそんな事を言われて落ちっ…いぃっ!?」 横島さんが意地悪な顔で私の胸を見ながら悪態をつき、私の意識を外させた瞬間に思い切り乳首を摘んで来たのだ。 予測出来ない感覚に『ビクリ』と身体が跳ね上がる。 それでも千切れるのではないかと思うほどの強さで摘み上げる横島さんの手は離れない。 「っはぁ…たい…痛いのね…ひんっ…ひゃう…きゃうっ!!」 「だけど、痛くなった乳首を舐められると…っちゅ…何時もの何倍も気持ち良いだろう?」 『ぽろぽろ』と涙が零れたのを見計らった様に突然手を離し、今度は唇と舌で優しく愛撫してくる。 突然鋭い痛みから強い快感に変わり、堪えていた声が漏れてしまっていた。 それなりに胸は感じる方だとは思っていたけれど 唇で甘噛みされるたび、舌で転がされるたびに湧き上がる快感は今まで感じた中でもひときわ甘美で抗い難い力があった。 「はぁっ…んや…あっ…っく…乳首…ばっかり…え…うそ…ぁ…や…まっ…横島さっ…あぁっんむぐぅぅぅぅーーーーっっっ!!」 『ぞくぞく』とした感覚。気付いた時には遅かった。 そこまで強い物ではなかったけれど、私は乳首を愛撫されるだけで絶頂を迎えてしまっていた。 咄嗟(とっさ)に口を手で塞いだのは良いものの、止めと言わぬばかりに乳首を噛まれて 塞いだ口から強制が止まらず漏れてしまったのだ。 「別に変な事じゃないさ。キスだけで絶頂(イ)く事だってできるんだからな」 「っは…んん…横島さ…もう止め…まだ…んゃ…身体…敏かっ…ぁくっ…」 一度の絶頂で身体のスイッチは完全に入ってしまっていた。 貪欲に快感を貪りたくなる。もっと気持ちよくなりたい、と。 精神的にリンクしている横島さんにはそれが分かっているのだろう。 声だけの抵抗は無駄に等しかった。 「も、もう…や…あっ…ん…くぁ…はふ…い、絶頂(イ)きそうで絶頂けないの〜…んっく…」 「あぁあぁこんなに濡らして…そんなに気持ちよかったか? もっともっと気持ち良くなるぞ。抵抗しても無駄。これはお仕置きだからな」 胸を、秘所を弄び、絶頂ギリギリで燻ぶられて思考がゆっくりと濁っていく。 なぜ、どうして。疑問が浮かんでは悦楽にかき消される。 童貞の横島さんがこんなに上手い訳が無いのに。 そう考えて、はっと思い出した。 「あっ…リンク! は、早く切っ…あぁっ!!」 横島さんからのリンクはあくまで向こうの情報を送られるだけ。 こちらも繋いでしまってるから、私の感情が横島さんに漏れてしまっていたのだ。 何処が感じて、何処を触れば気持ち良いのか。 もう少しで絶頂きそうとか… 「実は俺のことが気になってる、とか…な」 「ーーーっ!? ち、違うのねーっ!!」 どんなに言い訳しても、今の横島さんには無駄なのは分かってはいるけど それでも否定したかった。 心の奥底に沈めた思い。 親友が…小竜姫が横島さんの事を好きだって気付いてから… 違う 私は… 「なるほどなぁ…確かに意識しなくても相手の思考を読めるってのは、普通に考えれば嫌だよなぁ」 「ひ、人の頭の中を勝手に読まないで欲しいのねー!!」 『イヤイヤ』と頭を振っても、横島さんの想いが流れてくる。 『好き』という感情。その中に含まれる想い。 その好きには美神さんも、おキヌちゃんも、小竜姫も、他の沢山の人も入っていて そして、それはいい加減にではなく…とても純粋で… 「おっ頭の中を互いに読めるってのも中々悪くないと思うぞ。ヒャクメの目が潤んで凄くエロい顔になってきてる。」 「やぁぁ…見ないで…欲しいのねぇ…」 横島さんの好きが、私の好きに絡んで どんどん私の身体を火照らせていく。 きっと分かってるはず、知ってるはず…私が… 「あぁもう可愛いなぁ…もうヒャクメの頭の中って俺に犯される事で一杯じゃねーか。そっかそっか…」 一々口に出さなくても分かるのに、態々私の耳元で全部囁いてくる。 何を聞きたいか、言って欲しいか。ぜんぶ…全部伝えて私を溶かしていく。 「さて、飲み込め。ほら…」 「あ…ん…よほひまはん…ん…っく…」 口に咥えさせられた文殊を抵抗無く飲み込む。 文珠に入れられた文字は『送』。 横島さんも文殊を飲み込んでいく。文字は見えないけど分かっている 『転』 そして、横島さんが射精した時にキスすれば… 「カミサマらしいっていうのか、こういうの。処女妊娠だもんな」 「や…はっ…はや…欲し…横島さ…」 焦らす様に耳の傍で囁きながら、横島さんは私の秘所に『にちゃにちゃ』と擦り付けて来る。 熱病に冒されたように頭の中がえっちな事で一杯になって、横島さんの囁きすらも私には快楽に変換されている。 まともに呂律の回らない私を抱きしめてくる。 横島さんの頭の中に私を貫くイメージが…あれ、無い… 「よ、横島さ…?…あぁぁぁっっっっ!!!」 「バカ。声でかすぎだっての。 見えるってのは逆に弱点でもあるな。全く予想できなくて…あ、スケベだなぁ…ひと突きで絶頂くなんて、なっ!」 そう、全く予想出来なかった。 いや、予想する必要は無かった筈だった。 だって、今まで全部私に分からないことは無かったから。 でも、今の横島さんは私に悟られない方法を知ってしまっている。 だから、出来る。 全く予測出来なかった全身を貫く凄まじい激痛と、その痛みすらも一気に覆すほどの凄まじい快感が頭を焼いて 自分のことなのに、自分でも知覚出来ない絶頂が襲ってきたのだ。 「ひっ…あぁっ!…よこっ…さ…まっ…とまっ…かえっ…かえっ…やぁっ…んっ!」 「っく…凄ぇ締め付け…はいはい、俺も気持ち良いからそのまま絶頂ってろ。」 荒々しい腰使いと不規則な手捌き。 もし誰か私達の行為を見ていたら不思議な顔をするかもしれない。 それだけ横島さんの動きは『変』というに値する動きだから。 だって、それは… 「っと、ここにここっと…おぉおぉ、面白いように感じてるな」 「やぁぁっ!…それだめっ!…だっ…また強っ…つよっ…強すぎるのぉ!!」 『私専用』の愛撫だから。 多分百回は軽く超えていると思う。 もう『快感』がイコール『絶頂』に摩り替わっていると思ってしまうほどに。 涙や涎や色んなもので顔中が汚れて、滲んだ視界一杯に横島さんの顔が… 「孕め、ヒャクメ」 「んゃ…ほんっ…ほんとに…あぁっ…できっ…ん…んんーーーーーっっ!!!」 横島さんにキスされた瞬間、身体に吸収された互いの文殊が重なり 同時に『ドクドク』と膣奥に何か液体が流れていくのを感じた。 横島さんの赤ちゃんの種。 魔王因子を含み、ルシオラという魔族の霊基が備わった液体。 それが私の子宮を蹂躙し、満たしていく。 それでもなお足らぬと横島さんは腰を動かし続けて…続けて…あれ? 「んっ…はぁ…横島さん…ちょ、ちょっと止まるのね〜」 「何で今更止め…って、あれ?」 激しい腰つきがゆっくりとなって、それでも腰の動きは止まらないけど 私と同じ疑問にたどり着いてくれたようだ。 「ヒャクメ、説明を頼む」 「えっと…ん…ぁっ…その腰をまずは…止めないのね〜…あぅ…んっ…横島さんは膣内射精(なかだし)する為に精液だけ私の膣奥に『転送』するつもりだったみたいだけど」 『気持ち良い』で頭の中が一杯なのを必死に止めながら頭の中をゆっくり回していく。 恐らく神族との生殖行為によって一時的に霊力が増幅されて横島さんまでも一緒に『転送』してしまったのだ、という事なのだろう。 「って、これ何なのね〜?…『有』?」 手渡された文殊。横島さんは顔が真っ青。感情も『怖い』で埋まって… 怖い? 「さ、ヒャクメ。その文殊を持った手を上げなさい」 「へ? あ…」 横島さんとは明らかに違う声。 火照った身体に冷水どころか氷を叩きつけられた気分だった。 目に見えているのに、耳に聞こえているのに意識が、感覚が拒絶している。 それでもその声に抗えず、手をゆっくりと持ち上げれば その人の手がゆっくりと重なって… 「い、いぃひだだだだだだっ!!!! ご、ごめんなさっ! ごめんなさいなのねーっ!!!」 『ミシミシ』と骨が軋む音と共に、激昂した感情が私の頭の中に流れてくる。 恐らく…いや、『共有』の効果だろう。小竜姫が守っていた文殊は『共』。 「ぁ…ん…そう…こぉんな…きっ…んんっ…気持ちの良いことを…ふふっ」 「え、笑顔が怖すぎるのねーっっ!!」 横島さんも余程怖いのか、声を一切出すことも出来ず 思い切り蹂躙していた横島さんのも、既に小さくなって私の膣から… あっ… 「良かったですね、ヒャクメ。横島さんに初めてを捧げられて」 「あぁぁぁ、こっ…これっ…これっ…訳がっ…というか、手ぇっ! つぶっ…潰れちゃうのねぇっ!!」 『全部分かってますよ』と笑みを浮かべているのに、小竜姫の目は全く笑っていない。 冗談無しに『殺される』と思った…けど… あ、違う… 怒ってるけど… 「あら、バレましたか。確かに横島さんとエッチなことをしたのは怒ってますけど…だってこの後すぐに横島さんが私の事を可愛がってくれる筈ですし、ねぇ…横島さん?」 そう、私と感覚共有した小竜姫は凄く興奮しているのだ。 小竜姫は壊れたように何度も頷く横島さんに覆いかぶさって… って 「ここはえっちする部屋じゃないのねーっ!」 「あら、ヒャクメはもう『しない』んですか?」 私のツッコミが冷静に返されてしまう。 共有してるからこそ分かる。分かってしまう。 私も、もっと… 「うぅ…となりに仮眠室があるから、続きはそこでするのね〜」 「えぇ、行きますよ。横島さん♪」 『うふふふふ…』と不気味な笑みを浮かべながら横島さんを引き摺って隣へと向かう小竜姫に続くように私も腰を上げる。 泣きそうな顔をする横島さん。でも、私は小さく舌を出してこういうのだ。 「自業自得なのね〜。観念して3人で気持ち良くなるのね〜」 私が発端なのを棚に上げて。 はしがき ナンジャコリャー!? なお話をお送りしますゆめりあんでござります。 説明の地の文の多いこと多いこと… ここまで書くつもりは無かったのですけど、ね。 やはり変化球ではなく普通に押し倒された方が楽だったかもしれません… 久しぶりだから…なんて言い訳しつつ… また、次回に。