「むぅ〜…むぅぅ〜…」


出窓に顎を付いて唸る。
視線の先…窓の外は大雪だ。だが見ているのは雪ではなく、そのずっと先。見えないほどに遠くにある。
でも、私の視線がそこから動くことは無い。

「今日も来ない心算(つもり)なのかな…むぅ…」

私の視線の先にあるのは、アンアンことアンリエッタ皇女が住まうトリステイン城。
そこには今、時はウィンの月に行われる聖ブリミル聖誕祭に伴って来訪しているウェールズ様…ウェールズ・テューダーが居るはずだ。

−時はウィンの月エオロー週ラーグからの一周。貴女のために…−
「むぅぅ…」

もう100回以上も読んだウェールズ様からの手紙。そこには、聖ブリミル聖誕祭のメインとなる日を私と一緒に過ごしてくれるという言葉が載っている。
しかし、今日はラーグ。そう、もう来てもおかしくないはずなのに、来てくれないのだ。
折角トリステイン魔法学院の冬期休暇に併せて実家へと戻り、少しづつ貯めたお小遣いで建てた離れも造ったというのに。

もっとも…ちぃ姉さまが2割、エレ姉さまとシャルが3割にルイ姉さまが1割出してくれたりと、私が支払った額は極僅(ごくわず)かなのは胸の内に留めておこう。
何せ、小さなこじんまりとした家を建てようとしたのに…出来た時には、この今居る家と遜色無いほど大きな家になってしまっていたのだから。

「はぁぁ…」

大きなため息が口からこぼれる。
今夜はウェールズ様とその離れで、しかも二人きりで過ごす予定だったのだ。
だからメイドさん達には先に行って貰い、屋内を暖かくしてもらうよう頼んだというのに。
二人きりでお風呂に入り、二人きりで食事をして、二人きりで夜を共にする予定が…

「むぅ…むぅぅっ…」

『ぺしっぺしっ』という音が聞こえるほどに弱いけれど、出窓を叩く。
不思議と涙は出ないけれど。不思議と怒りは湧かないけれど。
それでも、何か分からぬ理不尽な思いが

「むぅぅぅぅっっ」

出窓を叩かせる力となっていた。



2011クリスマスアンケート企画 第一位「リズ x ウェールズ」
「あなたが居てくれるから」



あれから1時間ほど、そろそろ日付も変わりそうなほどに夜遅く。
結局お腹がすいた私は食堂に降りていた。
今私の目の前にあるのは、暖かい野菜スープと小さなパン。そして

「私はウェールズ様とお食事しますから、今夜は要らないですっ」
「むぅ…はく…はく…んく…」

『にやにや』と笑みを浮かべるルイ姉さま。
知っているのだ、この人は。

今日という日がどれだけ忙しい日なのか、ということを。

それでも私は待ちたかった。けど、空腹には勝てない。
だから目の前で、半日前に私が言ったことをルイ姉さまに言われても黙って食べ続けるしかないのだ。

「ふふっ…そんなにむくれないの。今夜は私が一緒に寝てあげるから」
「むぅ…いーですよーっだ!」

笑うのを堪えながら頭を撫でて来る。それが私の神経をどれだけ逆なでしてくるのか、このルイ姉さまは知ら…ううん、知っててやっている。
それでも私は怒り、小さく舌をだして拒絶する。何を言っても、きっとルイ姉さまは私に部屋に来るのだろうな…と思いながら。

「今夜は冷えるわよー?」
「そんなの知ってますーっ!!」

食事が終わり、立ち上がる私の背中にからかうような声がかかる。
私が泣かないように、落ち込まないようにと…そういう思いを隠しながら。
それは分かっているのに血のせいなのか、口から出るのは感謝ではなくて怒り。

だから、心の中でだけ…感謝しながら、部屋に戻るわけだ。



「へ…ヘンタ…ーーッッ!!」

自室に戻っての第一声が『これ』というのはどうなのだろうか。
しかし、想像して欲しい。自室…つまり自分の部屋にマッパの男が居たとしたら。

絶叫しない人は絶対居ないはずだ。例えそれが、想い人であろうとも。

「あっはっは! 落ち着いてください、我が姫。少々急いで飛んできたので服が雪で濡れてしまったのですよ」
「…ッ!…はっ!? だからって、いきなり部屋の中で裸にならないでくださいっ!」

『サイレント』の魔法で声を封じられていたが、一瞬だけだったのだろう。すぐに声が出ることに気付いて声を荒げる。
しかしウェールズ様は悪びれた様子も無く、いつもの屈託の無い笑みを浮かべながら暖炉の前で暖を取っていた。

暖炉の上の方にかけられたウェールズ様の服は確かに濡れている。
ウェールズ様の言葉をそのまま受け取るとするならば、100リーグ近い距離を『フライ』の魔法で飛んできたコトになるわけだ。

「おや、人肌恋しくなりましたか、我が愛しき人」
「お風邪を召されては、アンリエッタ姫殿下に申し訳が立ちませんから」

『風』の二つ名を持つウェールズ様とて、その距離を飛ぶことは並大抵ではなかったはずだ。
私は手早く寝巻き…ようするに身に着けるのはネグリジェのみ…に着替える。
そのまま『ぎゅう』と抱きつけば、冷え切った冷たい感触が伝わってきた。

だから私は無言でウェールズ様の手を取り、引っ張った。
ベッドへ、と…だ。

「ふむ、随分と大胆になりましたね。据え膳食わぬは男の恥、という言葉が…あっー!!」
「つべこべ言ってないでさっさと寝てくださいっ!!」

軽口の止まらぬウェールズ様を投げるようにベットに放る。もちろん力の無い私ではそうはいかないが、ウェールズ様が空気を読んでくれたのか単にタイミングが良かったのか。ウェールズ様はベッドの中にダイブしていた。

反対側から私も入り、再び抱きつく。少しだけ暖かくなったウェールズ様の体温が感じられる。
ウェールズ様の心音が、『この人はここに居てくれているのだ』と安心させてくれていた。

「遅くなりました」
「すごく、遅かったです」

ウェールズ様の腕が私を抱きしめてくる。
その腕で『ぎゅう』と抱きしめられるだけで、心と体が温かくなってくる。
鼓動が…早くなる鼓動が、ウェールズ様に聞こえてしまいそうで顔が少しだけ火照ってきていた。

「予定では日が落ちる前までに終わる予定だったのですが…世の中ままならないものです。心配…しました?」
「…ちょっとだけ」

ウェールズ様の声が優しく包み込んでくる。
少しだけ眠い。少しだけ幸せ。少しだけ…どきどきしていた。

そして私はゆっくりと目を閉じ…ようとしたのだが

「凄く、当たってるのですが」
「当ててるんですよ、愛しい人」

そう、今ウェールズ様は裸。抱きしめ抱きしめられれば、自然と腰が近づく。
しかも狙ったかのように私の大事な部分に当て、内股に挟み込む様に当ててきている。
『トットットット…』と心音が跳ね上がっていく。身体が、火照り始める。
自然と内股に力が入り、ウェールズ様の堅くなってきているモノを挟み込んでしまっていた。

まだ冷えるウェールズ様の身体と違い、あそこは熱く滾っている。
それを無意識に『逃がさぬ』とばかりに挟んでしまっているのだ。

「もう、濡れてきていますよ。ほら、少し腰を動かすだけで…聞こえるでしょう?」
「あ…ぁっ…し、知りませっ…んんっ…ひゃっ…む、胸と…おしっ…同時っ…ぃ…だめぇっ…」

久しぶりに嗅ぐウェールズ様の匂い。私を狂わせる甘美な媚薬。
お母様がパパ様に抱きしめられた瞬間、全く逆らえなくなるように。私もウェールズ様には逆らえない。

最高相性というものらしい。
その男(ヒト)のフェロモンに、どうしようもなく興奮させられてしまうのだ。

ウェールズ様の右手が私の乳首を転がす度に。左手がお尻を撫で、すぼまりを撫でる度に。
私の身体が熱くなり、『欲しい』と願うスイッチが入ってしまう。

「んっ…ぁ…ぁ…ぁ…あぁっ!!」

ウェールズ様の堅いモノが後ろまで擦ったからだろう。難なく指が後ろに入ってしまう。
その鋭い感覚に声が上がり、身体が跳ねたためだろう。すぐに抜けていた。

「ぁ…はぁ…はぁ…ん…くぁっ!!」
「ふむ、随分と『いける』ようですね」

二度目の挿入。
指が二本。難なく私の『後ろ』に入ってしまっていた。
『前』とはあきらかに違う感覚。異物感と共に来る鋭い感覚に身体が跳ねる。
でも今度は抜けることはなく、易々とウェールズ様の指に弄(もてあそ)ばれてしまっていた。

「さて、我が愛しき人。『どっちに欲しいですか』」
「ま、前…っに…くださっ…はやっ…はやくっ…切なくて…苦し…ぃ…あぁぁぁっ!!!」

後ろを弄っていた指が引き抜かれる。
もう、前の方が『ずきずき』と痛いくらいに痺れてきている。少し擦られただけなのに。
後ろを苛められただけなのに。どうしようもなく欲しくなっていた。

それにウェールズ様は応えてくれた。そう、思っていた。
そう、忘れていたのだ。

「あ、あぁっ!!…だめっ…だめぇっ!!」
「おや、何が駄目なのですか、愛しき人? 貴女のお望みどおり、『じゅくじゅく』と蕩けたオ○○コに入れてあげたというのに」
「後ろも感じるのでしょう、愛しき人。ほら、少し突いただけでこんなに締め上げて…」

ウェールズ・テューダーは自由人という名の、変態だということを。
でなければ、態々『偏在』の魔法を使って二人になって前と後ろの両方を貫こうなどと思わないあはずなのだ。

ただの一突きで頭の中がはじけてしまう。軽く小突かれただけで、瞬く間に絶頂に昇らされてしまう。
意地悪なこの人に『嫌い』と、嬌声交じりの声にかき消されていた。

激しくされているわけではない。
ただ、強く抱きしめられて。ゆっくりと、優しく動かされるだけ。
それなのに、堪らなく気持ちが良い。

「…さま…ウェールズさまぁっ!!」

泣く様に鳴く様に啼く様に叫ぶ。
力の限り抱きしめて、両方から貫いてくる愛しいと言ってくれる人の名を。

好き、とか。愛してる、とか。よく分からない。
ただ、居てくれるから。安心できる。
きっと、この人が居てくれるから、幸せな気分になれる。
居てくれないと、とても、とても寂しいのだ、と。

「ウェールズさま…ぁ…〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっっ!!!!」

好きと、愛してると、言えぬこの口で。
それでもあふれ続けるこの思いを、想いを込めて。




「うぅ…う?」

気付けば朝になっていた。などというのはよく聞く話だ。
しかし、それを実感したのは初めてかもしれない。

私の家、私の部屋。暖炉に火がついた暖かい部屋。
開けられた窓からは燦然(さんぜん)と輝く朝日が、真っ白な銀世界を照らしていた。

「…ゆ…め?」

まさか?と思いながら、眠い目を擦り起き上がる。
いつもの服装。乱れた様子も無く、ベッドが汚れた形跡も無い。
そもそも…

「うぇーるずさま…?」

ウェールズ様が居ない。
掛けられた服も無ければ、ハンガーも無い。

軽く手を叩いてメイドを呼び、着替えて廊下に出る。
あわただしくメイドたちが働いているのに、家の人が…家族が居ない。

低血圧な頭で、少しだけふら付く。
寝ぼけた頭で一階のリビングに向かう。
途中、ルイ姉さまの部屋やちい姉さまの部屋のドアを開けても居なかったから、恐らくリビングにいるだろう、と。

「ぁ…」

ふわりとした浮遊感。
何のことは無い。階段に気付けず、足を踏み外しただけ。
魔法の使えない人ならば、運が悪ければ即死。でも私はメイジ。

腕を振る。杖を振る。それだけで魔法が使える。
でも今回は魔法を使う間もなく、『風』に包まれていた。

まるで春風のように温かい風は私を包んだまま、滑るように私を運んでいく。
恐らく行き先はリビングだろうと、身体を預ける。

あぁ、これはウェールズ様の風だ。と、感じながら。

『ぽふ』と身体に感じるやわらかい感触。それがソファーだというのは理解できたけれど…

「えぇっ!?」

まだ眠い頭をたたき起こしてソファーから起き上がる。
見回す必要も無く、気付いた。気付けた。
リビングの配置が違う。
踏み外した階段だってそうだ。場所が違ったのだ。

それもそのはず、ここは『離れ』として造った家だったのだ。
いつのまに来たのだろうか。恐らくはウェールズ様が連れてきてくれたはずなのだけれど。

「もうすぐで朝食が出来上がります。このままお待ちくださいまで、リーゼロッテ様」
「ふぁ…い…」

再び眠気がぶり返してしまい、欠伸交じりにメイドさんに返してしまう。
そういえば、この人はラインメイジだったはずだ。右手に持つ杖がそれを示して…

右手に持つ?

「あ、危険です。今奥様と…」

弾かれるように飛び上がり、玄関へと走る私の背中に冷静なメイドさんの声が届くけれど無視!
走る、走る、走る。

私は風の魔法が苦手なので速度を上げることは出来ない。
リビングから玄関までおよそ100メートル。私の足では20秒はかかってしまうのが辛いところだ。

「ウェ…ふひゃぁぁぁぁっ!?」

玄関のドアを開けた瞬間に襲ってくる突風プラス雪。
あまりの強さに転がるように後ろに吹き飛ばされてしまっていた。
どこの天変地異だと言いたくもなるけれど、吹き飛ばされる瞬間に見えた数十人のお母様が恐らくは原因だろうコトは理解しているつもりだ。

「あらおはよう、私の愛しい娘。今少しばかりこの馬鹿をお仕置きしているところです。大人しく待ってなさい」
「おやおや、仕置きだったのですか。私はてっきり暗殺されようとしたのかと思っていました…がっ!!」

私の方に笑みを浮かべて話しかけたお母様が雪と一緒に吹き飛んでしまう。
しかしそれは偏在だったのだろう。何も無かったようにお母様が『その場』に立っていた。
やはり技量としてはお母様の方が上、といったところなのだろうか。それともウェールズ様は息切れしているのだろうか。

お母様の偏在が1人消える間にウェールズ様の偏在が10人消え、ウェールズ様の偏在が10人消える間にお母様の偏在が2人増えている。

それでも焦燥感など微塵も感じさせない笑みを浮かべながら飛び回り、戦うウェールズ様の姿は

「頑張ってー!ウェールズ様ーっ!!」
「我が愛しの君の応援を受ければ万人力! さぁ、今日こそ義母様と呼ばせていただきますよっ!!」
「あらあら、どこのネズミの小骨とも分からない男に私の娘をやれると思っているとしたら、とんでもない愚か者だわっ!!」

思わず応援したくなるほどに美しかった。
何か、お母様の方も攻撃が激しくなった気もするけど…きっと気のせいなのだろう。

私は幸せだ。
パパ様が居てお母様が居て。エレ姉様が居て、ちい姉様がいて、ルイ姉様がいて。
ウェールズ様が居る。

でも、今は少しだけ天秤が傾いている。
『あの人が居てくれるから』と、口には出せないけれど想えるほどに。

「もちろん、シャルもね?」

こちらもいつの間に来たのだろう。
私の手を握るシャルに笑みを浮かべて、もう一度2人を見る。

「おや、もう息が上がってきましたか? ご安心を、義息たる私が優しく介護して差し上げますよ」
「偏在の生成が2秒も遅れ始めた青二才に言われなくは無いわねっ!!」

真っ青に晴れた空に目を細めながら。

「ウェールズ様! お母様! 2人とも頑張ってーっ!!」

うん、やっぱり皆が居るから私は幸せなんだ。
今は、それで良いよね。




あとがき
というわけで、リズxウェールズSSをお送りします夢璃杏でござります。
オクトメイジから離れて結構経ちまして、少しだけキャラを忘れてました。
ぶっちゃけヤバかった!

甘く書けたかなぁと、悶える話になったかなぁと。
それだけが気になっています。

二位の方は25日までには…っ!
大丈夫、25日はまだ期日内だ!なんて逃げ口上を言いつつ。

えぇもうすいません。いつもこんな感じなのです…
納期ぎりぎりなのです…

でも、がんばるっ!
では、クリスマスアンケ二位にまたお会いしませうー。

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