今より数百年も昔。
京の都に魑魅魍魎を退治する者…陰陽師と呼ばれる、それはそれは徳の高い者達が居ったそうな…

「ったく…お前は…何でまた貴族の娘などに手を出すのだっ!」
「仕方ないだろう、可愛かったんだしさ」

…一部例外もあるが。
その例外の一人、つまり今同僚である西条に怒られている男。
この男が今回の主人公なのである。

名を、横島…と言った


アンケート企画 第一位 小竜姫SS「竜の恩返し」


「横島、判っているのか? 今度不祥事を起こしたら、お前は…」
「あぁもう、判ってるっつーのっ!」

怒号が尻すぼみになる西条を、『あっちいけ』と言わぬばかりに横島は手を振った。
西条の言いたい事は横島にもよく判っている。
戦乱の時期、全国各地に魑魅魍魎が闊歩しているこの時期に
矢面に立つ陰陽師がこのような不祥事を起こすのは、陰陽寮全体の沽券に関わるという事は。

「とは言ってもなぁ…」

横島は今年で20歳になる。
同僚である西条は妻どころか既に2つになる子供まで居るのだ。
勿論横島の所に縁談が来ない訳では無い。
だが、全員が今ひとつしっくりこなかった。

「横島様、お茶をお持ち致しました」
「あぁ、すまんな」

声をする方を向けば、キヌが茶と茶菓子を用意してくれていたようだ。

キヌは、今川家の領土の小さな村の娘で
昨年大掛かりな除霊を行った際に横島がつれて来た…いや、半ば攫ってきたのだ。
その村の巫女として育ったらしいのだが、家事に炊事にとその辺りの町娘の数倍は働き者で
横島の家に来てほんの一期で、ほぼ全ての事を任せられるまでになっていた。

今としては、キヌが居なければ横島は家で茶どころか水一つ飲めない程である。

『おキヌちゃんと祝言を挙げればよいだろう』

と周囲によく言われるが、キヌは今年で15
一昔前ならいざ知らず、今時15の小娘を嫁に取るなどありえない話なのだ。

『あと、3、4年もすれば…』
「…あの、何かおっしゃいました?」

思考の波に飲まれていた横島の口から漏れた小さな呟きに、キヌは不思議そうな顔をした。
取り繕う様に『なんでもない』とは言ったものの…


「俺が嫁を取らないのは、ある意味キヌの所為かもしれないなぁ…」

『何かあったら、何時でも』と笑顔を残して去るキヌの後姿を見ながら、横島は自嘲的に呟いた。
キヌは完璧すぎるのだ。
其れが故に、他の女を見ても必ずと言って良いほどキヌと比べてしまう。

声をかける基準は、キヌ以上の可愛さがあるか
それ以降はキヌ以上の気配り、心配りがあるか

「キヌ」
「はい、横島様」

呼んで数秒と経たぬうちに現れるキヌに笑みを浮かべ、一言

「キヌよ、私の子を身篭って欲しいと言ったら…どうする?」
「ふぇ、ふぇぇぇっ!?」

真っ赤になって腰を抜かし、口をまるで金魚の様に『ぱくぱく』としているキヌを見て
横島は『やはり、あと2、3年だな』と、小さく苦笑した。

「いや冗談だ、それよりもキヌ」
「あ、はい。今日は『捕り物』でございますね。お召し物はご用意致しております」

『冗談』の言葉に大急ぎで身を繕うと、キヌは何時もの口調で喋り始める。
しかしながら、動揺は残っているようで声はまだ震えていた。



「遅いぞ、横島」
「馬鹿言うな、定刻通りの筈だぞ」

都に程近い森林の入り口で苛立つ西条に、横島は月を指して抗議する。
今日は『捕り物』。それも大捕り物らしい。
何でも、貴族の膝元の陰陽師が捕まえたという『愛玩用』の紅蛇(こうだ)を捕まえなければならないとのこと。
紅蛇は妖魔の中でも非常に低位に属する。
ほぼ普通の蛇と能力的には変わらないと言っても良い。
だが、その美しい外見から貴族たちの愛玩用として飼われる事が多いのだ。

横島の所為で不祥事の続いている京の陰陽寮としては、今回の捕り物を是が非でも成功させたいのだろう
森を睨みつける西条を見ながら、横島は小さく苦笑した。

「あー。皆も知っている通り、この森に『紅蛇』が隠れている。 今日(こんにち)の昼に貴族直下の陰陽師達が罠を仕掛けてくれているらしい。まずは、その罠の方へと向かって貰いたい。」

陰陽長の言葉に、皆が小さく頷いた。


「えーっと…俺の持分はっと…こっちか」

手渡された簡易地図を月明かりに照らしながら森を歩いていく。
一つ、二つと罠結界を見つけるが全て破られていた。

それも、『解除』したのではなく『破壊』して。

「ったく、本当に紅蛇か? これなんか中級族用…ありゃ?」

破れた符に描かれた紋を見て、横島は首をかしげた。
確かに『対蛇族』には見えるが細部が違うのだ。

「ギィ…」
「っ!?」

小さな…人とも動物とも違う異質な声を耳にして横島の身が硬直する。
方向は大体判るが、自分の持ち場からは離れている。
何時もの横島であれば他の陰陽師に任せるところだが…

「行くか…」

直感が呼んでいるのだ。
焼かれて機能しなくなった罠結界符を握りしめて歩を進める。
幸運にも、そこの持ち場の陰陽師はまだ着て無いようだ。


「おいおい…」

草を分けたそこに居たのは、紅い髪を生やした蛇
…いや、蛇に足などあるはずがない。

そう…そこに居たのは竜の子供だったのだ。

「ったく、何が紅蛇だよ…紅いのは体じゃなく髪じゃねぇか…」

もう殆ど力が残っていないのか、紅く血に塗れた身体を横たえたまま結界に捕まっている子竜にゆっくり手を伸ばす。

「…っ! …心配すんな、じっとしてろ」

怒りに燃える瞳で横島の手を噛む子竜の頭を反対の手で撫でて、結界を解く。
だが、飛ぶどころか立つ気配すらない。

竜の子とはいえ万物の頂点に立つ存在である。
本来ならば噛み付かれた次点で横島の腕ごと持っていかれるはずなのだが
噛み付くその力は弱々しく、横島の手に一滴の血を流させるだけに留まっていた。

「えっと…治癒符は…ははっ、流石俺だよなぁ」

横島が陰陽師になった理由。
それは、女神とお近づきになれるかも知れないという不純極まりないものだった。
そのため、神族に纏わる術は一通り網羅しており

「待ってろ、今俺の特別製の奴使ってやるから」

神族にしか効かない代わりに神族に対しては高い効果を持つという
普通生きて行くならば全く使わないであろう符を、横島は子竜に当てて紋を引いた。

「おぉ、良いね良いね…俺ってやっぱ天才だな、おい」

見る見るうちに傷が治っていく子竜に、自然と横島の顔にも笑みが浮かんでくる。
敵ではないと感じだのか、子竜の瞳も蒼く澄んだ色になっていた。

「うーん、そう言えば…コイツ男か女か…」

余裕が出てくれば地が出るというもの。
陰陽師になった若かりし頃の理由が横島の頭に浮かんできていた。

「なぁ、お前の知り合いに美人の女神様とか居ない? 居たら紹介して…」

殆ど傷の無くなった子竜に横島は、『にへら』と顔を崩して聞いてしまう。
相手は神族、等という普通ならば考える事は横島の頭には欠片ほども無いのだろう。

さて、子竜の答えは

「あちぃぃぃぃっっっ!!!」

小さな火球だったようだ。



「全く、何を遊んでいるのだお前は」

目を覚ませば森の入り口。
睨む西条の視線が痛い。

今までのは夢か、とも思ったが
軽い火傷にひり付く頬の痛みが現実を物語っている。

「いやー、火魔に会っちまってなー」

小言を言い続ける西条に『へらへら』と何時もの調子を装って嘘をつく。
本来ならば嘘などつく必要は無いのだが、事情が事情なのだ。

「ところで、西条。 『紅蛇』は見つかったのか?」
「いや、結界に掛かっている様子も無かった。恐らくはこの森には居ないのだろう」

『ふむ』と小さくため息をつく西条を見ながら
横島は、子竜との小さな運命を感じていた。


「偶然、偶然…ねぇ…」

我が家への帰り。横島の口から小さく呟きが漏れる。
瞳は数百メートル程先に居る少女を見据えながら。

「これも、偶然か?」

横島が目の前に来るまで深々と頭を下げている少女。
紅い髪と、頭に生える角が印象的である。

「命を助けて頂き、真にありがとうございました」

まるで鈴がなるような美しい声色。
ゆっくりと述べながら頭を上げる少女に、横島はにこりと笑み

「合格っ」
「えっ…あっ…あのっ…きゃぁっ!?」

そのまま少女の腕を取ると、家路へと歩を進めていく。

「あのっ…!」
「『あの』じゃない。横島って呼んでくれるかな?」

あまりに少女が『あのあの』言っているので歩を止め、横島は少女の瞳を見詰めながら優しく言う。
吸い込まれそうな蒼い瞳。
数秒ほど見詰め合っていただろうか、後数ミリで唇が重なる所で『あっ』と少女が思い出したように

「私、小竜姫って言います。 私…」
「さっき俺が助けた子竜だろ?」
「速攻で見破られてるっ!?」

『がびーんっ』という擬音が聞こえそうなほど大げさに驚きながら、小竜姫は目を見開いた。
古今東西、人外の者が人に恩返しをする場合には恩返しをする相手に正体を知られてはいけないという仕来りの様な物があるのだが、恩返しどころかあった瞬間に看破されてしまったのだ。

人間は人為らざる物に恐怖を抱く。だからこその仕来りなのである。

「わ、私竜神ですよっ!…まだ、成竜じゃないから正確には違いますけど…その、怖く…きゃぁ!?」
「一々煩いぞ、全く…」

横島としては、折角生まれて始めて女神に会ったのだ。
しかも、相手は自分が助けており、目の前に現れたという事は恩返しをしてくれるという事。
だから横島は、恩返しに託(かこつ)けて色々どころか余す事無く全てを味わってやろうと思っていた。
逃がして為るものか、といった所か。

横島は小竜姫を抱き上げると、そのまま家の門をくぐった。

「あ、お帰りなさいませ横島…さま?」
「あぁ、帰った。キヌ…客だが気にするな」

『は、はぁ…』と間の抜けた声を上げるキヌの横を通り過ぎて自室へと向かう。
障子を開ければ、既に寝具が敷いてあった。

好都合とばかりに小竜姫を寝具の上に横たえると、そのまま覆いかぶさる。

「まっ…ままっ…んむっ?!」

真っ赤になりながら呂律(ろれつ)の回らない小竜姫の唇を奪い、横島はそのまま唇を割って舌を滑り込ませる。

「んむーっ…んはっ…まっ…んっ…んちゅ…」

竜神が本気を出せば人間の横島など簡単に吹き飛ばせるのだ。
それをしない事に気を良くした横島は、服の隙間から手を忍び込ませていく。

『ぺしぺし』と背中を叩いていた小竜姫の手が『びくり』と震えて止まってしまう。

胸を這う手の感触
今まで感じた事も無い不思議な感覚が小竜姫の身体を、頭を痺れさせてしまう

「ん…ちゅる…んっ…はぁ…はぁ…っはぁ…んっ…うぅっ」

抵抗の無くなった小竜姫の服を緩め、指先で乳首を軽く弾くと『びくり』と腰を浮かせて嬌声を上げ始める。
控えめながらも感度の良い胸は、横島に弄ばれる度に小竜姫に甘い悦楽の波を与えてくれていた。

潤んだ瞳で見詰める小竜姫に横島は笑みを浮かべる。
人ならざる物。だからなんだ。
ここまで愛(いとお)しいと感じたのは、横島にとって生まれて始めてのこと。

だから…

「小竜姫、俺と…夫婦(めおと)にならないか」

だが、小竜姫の口から答えは出ず、ただ涙を流すばかり


「あっ…入って…横島さ…横島さんっ」

小竜姫が流す涙は悲しみなのか、それとも嬉しさを表すのか横島には判らない。
だが今、小竜姫の純潔が横島に捧げられている…その事だけが真実であった。

締め付けに負けぬと言わぬばかりの小竜姫の強い抱擁に応えるように、横島は優しく抱き締め…

「うぁっ…おくっ…ふかっ…深い…ですっ…んぁっ」

…抱き上げた。
座り、抱き合ったまま横島はゆっくりと小竜姫の膣内(なか)を味わっていく。

「…さま…だん…さまぁ…旦那さまぁっ」
「うっく…小竜姫…でっ…うぁぁっ」

まるで泣くような小竜姫の叫び。
それに呼応するかのように横島の物を強く、優しく締め上げてくる。

唐突に来る射精感
それに抗う事無く、膣奥に吐き出していく…

「…今、俺の事を『旦那様』って言ったよな、な?」

横島の問いに小竜姫は応えない。
だが、『ぎゅう』と横島に抱きつくその姿が言葉よりも強く物語っていた…



「ちぃっ!?」

快楽の余韻も冷め止まぬ頃、鼻につく臭いに横島は小さく舌打ちした。
『キヌ!』と叫ぶもキヌの気配が無い。逃げたか、あるいは…

耳に届く木の爆ぜる音。家に火が放たれたのだろう。
恐らくは、小竜姫狙いだろう事は予想がつく。

「小竜姫!」
「ふ…ふぇ…は、はい旦那様っ!」

未だ快楽の余韻に浸かっており、『ほぇぇ』と溶けきった顔をしている小竜姫の肩を掴み強く揺さぶる。

「良いかよく聞け、この地より東方に『妙神山』という霊峰がある。そこにかつて斉天大聖とよばれたハヌマンという神がいるらしい、そこで待っていろ」
「えっ…だ、旦那様は!?」

驚く小竜姫の頭を優しく撫でて『心配するな』と優しく諭す。
もう時間が無い。恐らくは家の周囲には陰陽師達が待ち構えているはずなのだ。

「俺が術を使ったら、真っ直ぐに飛べ! お前なら、半刻もせん内にたどり着けるはずだっ」
「でも…でもっ」

火の手が部屋の天井まで回り始めている。
時間が無い。

「案ずるな、俺は誰だ? 竜神たる小竜姫の夫だぞ。 少し時間は掛かるかもしれないが、必ず向かう。良いか、必ずだっ!」
「は…はいっ!」

近くにある棚から対封符を6枚掴み、寝具を蹴り飛ばして床に並べる。

焦るな、急げ

「吽…急々如律令 奉導誓願可 不成就也…解封!」

『バチッ!』という音と共に、6枚の内5枚の対封符が一気に焼けてしまう。
つまりは、5重にも結界を掛けていたという事。
やはり、相手は小竜姫が竜神だと知っているのだ。

「飛べ!」
「はいっ!」

天井を吹き飛ばしながら天へ…東へと飛ぶ小竜姫を見上げ
ゆっくりと視線を戻した。


「おぉおぉ…大旦那の愛玩具(おもちゃ)逃がしちまってよぉ…」
「この手際…やはりお前か…伊達」

大薙刀をゆっくりと振り翳(かざ)す侍大将…伊達を睨みつける。
戦の鬼神とも呼ばれる男であり、嘗ての盟友であった男。
まさか、貴族の腰巾着になっているとは思いもよらなかったが…

ゆっくりと伊達が近付いてくる


「遺言は? 一応聞いてやるぜ」
「俺を殺した後、家に潰されて死ぬといい」

ゆっくりと目を瞑る。
目の裏に映るのは、やはり小竜姫の事。
小竜姫、俺は必ずお前の元に行くからな。
例え…何十年…何百年かかろうとも…

「ははっ ご忠告、痛み入るぜっ!」


陰陽師 横島
罪状 貴族の宝の窃盗
刑 打ち首

今から数百年前にあった、歴史にも載らぬ小さな出来事である。



「ふーん、本当にこれ…あったんでちか?」
「勿論です。私と横島さんは数百年来の夫婦(めおと)の関係なんですよ」

ここは妙神山の書庫。
朝から延々と聞かされたパピリオはじと目で小竜姫を見詰めていた。

「大体、この書物(かきもの)凄く真新しいでち。…これ、昨日辺りに書いたんではないでちゅか?」
「・・・ぎくっ・・・な、何を言うのよ。確かに最近書いたけど、ちゃんとした私の覚書(おぼえがき)よ?」

『本当でちゅかねぇ…』というパピリオの疑問の声に小竜姫の叫びが重なった。

昔から、人は疚(やま)しい事を言い繕う時…声が大きくなるらしい…



はしがき
というわけで、小竜姫のお話しをお送りしますゆめりあんでござります。

…どの辺りが鶴の恩返しと被ってるんだろう…と自分でも疑問に表しまうほど原型がなくなってしまいました。
昔話だしなぁ…横島君陰陽師だと面白そうだなぁ…なんて考えていたら
設定の膨らむこと膨らむこと…

気付けば文章の半分近くが設定の為の話になってしまいました…
恐らく読まれてて

『おい、何処が小竜姫の話しなんだよっっていうか、恩返ししてるのかよ!?』

って思われた方が沢山出てくるかもしれませんねぇ…

単(ひとえ)に私の技術不足でして、はい。

もっと精進しませんと…

では、お次はメドーサのお話しにて…
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