紫陽花の憂鬱・1



私が、二十歳を過ぎたばかりの頃・・・。

梅雨の合間のある日、何故か紫陽花が見たくなって、鎌倉に足を伸ばしたことがある。
駅に着くと雨が降っていて、傘を持ってるはずなのに、そのまま近くの売店の店先で雨宿りしていた。
それには理由がある。
今、私の隣で雨宿りしている少年が気になったのだ。
自分でも、(そんな理由で?)とばかばかしく思えたが、
事実私はここから離れられないでいる。
雨は激しくもなく、静かにしとしとと降り続ける。 空の色は段々暗くなり、人の声もあまり聞こなくなったせいか、
ここだけがまるで時間の止まった別の空間のように感じられた。

私、ここでなにやってるんだろう・・・。
駅を出たら、そのまま真っ直ぐに目的の紫陽花を見に行く予定だったのに・・・どうしちゃったんだろう・・・。
実は、歩き初めてすぐ誰かに呼ばれたような気がしたのだ。
それも、直接私の心の中に聞こえたような・・・声じゃない声で。
「こっちを向いて」と・・・そんな言葉が。
気のせいかな?と思いながらも気になって振り向くと、そこには雨宿りしている少年が一人静かに立っていた。
しかも、薄水色のシャツ、薄緑のパンツ、紫ががったピンク色の靴という不思議な格好をしている。
もしかして、紫陽花の妖精とか??。
まさかね・・そんなはずないよ・・ね。
その自分の発想のあまりのくだらなさに、少し笑ってしまう。
私はその子が気にはなっていたが、目的地に行こうと歩き始めた。
そのまま通り過ぎる・・・はずだった。
しかし、気がつくといつの間にか傘をたたんで、雨宿りの列に加わっていたのだった。

突然少年が視線をこちらに移し微笑みかけてきた。
私は何も言えずただ、馬鹿みたいに彼の顔を見つめ返すだけ。
すると、突然彼の笑顔が不安な色に変わった。
と同時に、まるで止まっていた時間を動かすかのようにぽつりと呟く。
「・・・誰か・・・待ってるんですか?」


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