新世紀エヴァンゲリオン 外伝 超少女アスカ
第60話
「ねえ、ユキ。今度の土曜日に海にでも行きましょうよ。出来れば泊まりがけで。」
休み時間になって、ユキがうちのクラスにやって来たわ。そこですかさずユキに声をかけ
たのよ。でも、アタシの誘いに、ユキは悲しそうな顔をして首を振ったわ。
「ごめんなさい、惣流さん。うちのお父さんは厳しくて、泊まりがけで出かけることなん
か、絶対に許してくれないんです。それと、海に行くのは碇君なんかも一緒なんですか。」
「ええ、もちろんそうよ。」
「そうですか。男の子が一緒だと、海に行くのも許してくれないかもしれません。」
なっ、なんですって!なんていう親なのかしら。ちょっと厳し過ぎるんじゃない。
「あっ、そうなの。でも、駄目でもいいからお父さんに話しだけでもしてくれないかしら。
それも駄目かしら。」
「いいえ、私は行きたいので、一応頼んでみます。でも、あまり期待しないでくださいね。
返事はいつまでにすればいいですか。」
「そうねえ、明後日までに返事をして欲しいわ。」
「はい、分かりました。でも、期待しないでくださいね。」
ユキは、すまなさそうな顔をして去って行ったわ。そうしたら、シンジが不安そうな顔を
して寄ってきたの。
「ねえ、アスカ。どうだった。」
「う〜ん、ユキは駄目かもしれないわ。お父さんが厳しくて、男の子と一緒に海に行くの
に反対しそうなんですって。でも、ヒカリはOKよ。」
「そうか。それは良かった。でも森川さんが来ないと、男3人に女の子2人になって、ケ
ンスケが浮くなあ。どうしよう。」
「そうねえ、どうしようかしら。でも、まだ断られた訳じゃないから、諦めるのは早いわ
よ。」
「そうだねえ。」
でも、2人ともちょっぴりあきらめムードだったの。
***
「え〜っ、加持さん本当なの?」
テニスが終わって、アタシの携帯電話に加持さんからの連絡が入ったの。その内容を聞い
て、アタシは驚いたちゃったわ。なんと、例のおじさんは、ユキのお父さんだったのよ。
加持さんは、ユキのお父さんの会社の状況も調べてくれたんだけど、もう倒産寸前らしい
のよ。まいったわね。それじゃあ、ユキも海に行くどころじゃないじゃない。
そして、加持さんは嫌な事実も調べてくれたの。ユキのお父さんは多額の生命保険に入っ
ているんだけど、その保険は一定の期間が過ぎたら自殺しても保険料が支払われるんです
って。で、その一定の期間っていうのがもうすぐらしいのよ。
じゃあ、もしかしたらお金に困ったら自殺しちゃうの?そんなの嫌だわ。それに、そうな
らなくても、もし会社が倒産したら、ユキのお父さんはどうなっちゃうの?ユキだって、
今まで通りでいられるの?何か嫌な予感がするわ。しょうがない、シンジにも事情を話し
て、協力してもらうしかなさそうね。
アタシはみんなに別れを告げて、シンジと2人になってからシンジにお願いしたの。
「ねえ、シンジ。今日はネルフに行って欲しいの。」
「えっ、どうしてさ。今日は行かなくても良い日でしょ。」
「それがね…。」
アタシは、かいつまんでシンジに事情を話したわ。例のおじさんの会社が倒産寸前なこと、
おじさんに多額の保険金がかけられていて自殺でも保険金が支払われること、もしこのま
ま何もしなかったら、おじさんは首を吊りかねないこと。
でも、おじさんがユキのお父さんだっていうのは秘密にしておいたわ。シンジったら嘘が
下手そうだし、何より顔に出そうだしね。
「そうか、分かったよ。僕に出来ることなら協力するよ。で、どうすればいいの?」
「とにかく、リツコにお願いして協力してもらうのよ。でも、お願いするだけじゃあ駄目
かもしれないから、交換条件を出すしかないわ。」
「も、もしかして…。」
「そうよ、少なくても週に1回余分にネルフに行くことにするしかないわね。」
「とほほ、やっぱりそうか。」
「嫌ならいいのよ。あのおじさんを見捨てる?」
「そ、それは嫌だ。絶対に嫌だ。」
「じゃあ、決まりね。」
アタシ達は早速ネルフに行って、リツコに協力をお願いしたわ。そうしたら、その場にミ
サトもいて、話はトントン拍子に進んだの。
結局、週に1回ネルフに行くのを増やす代わりに、ユキのお父さんの会社に様々な便宜を
図ることにしたの。作戦部の仕事よりも技術部の仕事の方が金額的には大きいから、リツ
コの協力はありがたかったわね。
こうして、この話は丸く収まりそうになったのよ。でも、最後の仕上げは加持さんにお願
いすることにしたわ。アタシは、シャワーを浴びるって言ってリツコの部屋を出て、シン
ジに内緒で加持さんに連絡を取ったの。
「ねえ、加持さん。お願いがあるの。」
「おお、アスカか。なんだい?」
「さっきはありがとう。おかげで助かったわ。それで、もう一つお願いがあるの。」
「ああいいぞ、何でも言ってくれ。」
「あの森川さんのところに行って、お金を融資して欲しいのよ。もうすぐネルフから仕事
が回るから何とかなるけど、当座は厳しいと思うのよ。だから、つなぎとしてお金が必要
だと思うの。もちろん、必要なお金はアタシが用意するわ。」
「ああ、お安いご用さ。」
「それと、もう一つ。下手な芝居をして欲しいの。」
「ほう、なんだい。」
「融資の話が終わって、森川さんと別れるでしょ。そうしたら、電話をかけるフリをして
ほしいの。そして、その時に森川さんに聞こえるようにして欲しいの。」
「何を言えば良い?」
「そうねえ、『ケンスケ君、ユキさんのお父さんへの融資は完了した。もちろん、君の名
前は絶対に出してないよ。』なんてことを言ってくれればいいわ。」
「おいおい、難しい注文だな。」
「実はねえ、シンジの友達のケンスケっていう子が、森川さんの娘さんのことが好きなの
よ。でね、その2人がくっつくと、アタシにとっても何かと都合が良いのよ。」
「はははっ。事情は分かった。難しそうだが、何とかするさ。」
そう言って、加持さんは快諾してくれたわ。
***
「シンジ、お待たせ!これから買い物よっ!」
問題が一段落したから、アタシは陽気にシンジに言ったの。
「ど、どうしたんだよ。」
「いいから、さっさと水着を買いに行くわよっ!」
アタシは、シンジを引きずるようにして、デパートの水着売り場に行って、水着を2着買
ったの。もちろん、シンジも2着よ。
さあて、加持さん、期待してるわよ。アタシの心は既に海に行っていたわ。
つづく(第61話へ)
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あとがき
さて、アスカの思惑通りに、上手くいくのでしょうか?
2003.2.18 written by red-x