新世紀エヴァンゲリオン 外伝 超少女アスカ

第57話

「おい、にいちゃん!女の前だからって、エエカッコせんこったな。」 「そやそや、ヤクザもんをなめたらアカンで〜。」 二人のヤクザ者は、ニヤニヤしながらシンジに近寄って行ったの。しめしめ、こいつらは シンジのことを舐めてかかっているわね。シンジは、見た目は弱そうだからね。でも、ア タシとの特訓で、少しはマシになっているはず。 「シンジ、思いっきりやっちゃって!」 アタシは、シンジに声援を送ったわ。これで、シンジは勇気百倍よっ! 「わ、分かったよ。」 シンジはそう言いながら戦う構えを見せたの。そして、奴らにゆっくりと近付いていった わ。よし、アタシもシンジの手助けをしないといけないわね。アタシは、いきなりTシャ ツを脱いで、奴らの気を逸らしたの。案の定、奴らはアタシのブラに目が引き寄せられた わ。 「ヤアッ!」 そして、その隙を逃さずシンジが一人の男に掴みかかって、一本背負いを仕掛けたの。特 訓の甲斐あって、シンジの技は見事に決まったの。 「うわあっ!」 やられた男は、背中を押さえて悶絶してるわ。でも、もう一人残っているわ。 「シンジ、油断しないでっ!」 「うんっ!」 シンジは、残る一人にも掴みかかって行ったわ。 「はあっ!」 そして、これまた見事な一本背負いを決めたのよ。やっぱり、アタシの教え方が良かった のね。素人同然のシンジがここまでやるなんて、このアタシでさえも驚いたわ。 「ちきしょう!覚えてやがれっ!」 ふん、無様ね。奴らは、痛む背中を押さえつつ、惨めに逃げて行ったわ。悪党なんて、こ ういうオチになるのが当たり前なのよ。 「ハン!おととい来なさいよっ!」 アタシは、アッカンベーをしながら叫んだわ。でも、御礼参りは嫌だから、奴らは国外追 放して当分日本に帰れないようにしておこうかしら。 「はあっ、はあっ、やったよ、アスカ。」 シンジったら、息があがっているのかしら。それとも、興奮しているのかな。はあはあ言 っていたわ。だからアタシは、ねぎらいの言葉をかけたの。 「良くやったわね、シンジ。特訓の成果ね。」 それも、とびっきりの笑顔でね。 「うん、アスカのおかげだよ。ありがとう。」 シンジも、これまた笑顔で応えたわ。あれっ、でも、何か忘れているような。 「あっ、そうだ、シンジ。あのおじさんは大丈夫かしら。」 「あっ、そうだね。」 アタシ達は、ヤクザ者に殴られて倒れていたおじさんに近寄って、体を揺すってみたの。 「大丈夫ですか?しっかりしてください。」 そうしたら、そのおじさんは弱々しい声で答えたの。 「あっ、ああ、大丈夫だよ。ありがとう、助けてくれて。」 「いえ、いいんですよ。でもどうしたんですか?借金がどうかと言っていたようですが。」 「ああ、情けないことに、大きな借金を抱えてしまってね。見てのとおりさ。」 おじさんは、酷く痛めつけられている様子だったわ。 「ねえ、シンジ。お家まで送ってあげましょうよ。悪いけど、背負ってあげてよ。」 アタシがシンジに言うと、そのおじさんは激しく首を振ったわ。 「い、いや。気持ちは嬉しいが、子供達が心配するからお断りするよ。私はこのまま会社 へ出勤するよ。」 「じゃあ、会社までお送りします。僕も乗り掛かった船ですし。でも、出来れば事情をお 聞かせ願えませんか。」 「ああ、君たちには助けてもらったから、全部話そう。」 こうして、アタシ達は、公園のベンチに座っておじさんの話を聞くことになったの。 *** そのおじさんの話によると、おじさんの会社の経営が苦しくなって、社長が大きな借金を 作ったらしいの。でも、ある日その社長が有り金持って逃げちゃったのよ。そして、残っ た専務のおじさんに、借金取りが取り立てに来たってことだったわ。 「借金はもう返せないし、会社ももうおしまいなんだ。でも、やれるだけのことはやって みるつもりだ。」 「でも、会社を辞めちゃえばいいんじゃないですか。」 もう、シンジったら、逃げることしか考えないのかしら。 「そうはいかないよ。私が逃げたら、残された者が苦労するんだ。こんな苦労を、他の者 に味合わせたくないんだよ。」 うんうん、このおじさん、良いこと言うわね。 「でも、その社長が悪いんじゃないですか。だったら、逃げても良いと思いますけど。」 う〜ん、シンジの言うことも、もっともかも。 「私が逃げたら、残された者はどうする?子供達を連れて一緒に逃げる訳にはいかないし、 さりとて、私だけ逃げる訳にはいかないんだよ。残された子供達が辛い思いをするだけだ からね。親に逃げられた子供ほど、惨めなものはないんだよ。だから、絶対に子供達を捨 てて逃げることだけはしたくないんだ。」 「そうですか。良いお父さんなんですね。」 「はははっ。そんなことはないさ。私は、子供達からは嫌われているんだよ。いつも厳し いことを言うし、仕事を理由にして、ろくに相手もしてあげられないからね。」 「でも、お子さんはきっとわかってくれると思います。」 「そんなことはないさ。私もそうだったが、子供っていうもんは大人の苦労は分からない のさ。君は、ご両親は健在かね?」 「いえ、幼い頃に母が亡くなって、その後理由は分かりませんが、僕は親戚の家に預けら れました。」 「そうか、君も大変だったんだね。でも、君は食べるのに苦労したことはあるかい?」 「いえ、無いと思います。おそらく、父が親戚のおじさんに僕の養育費を送っていたから だと思います。そんな話を聞いたことがありますから。」 「君は、お父さんと一緒に暮らしたいと思っていた、そうだろう?」 「ええ…、そうですね。」 「だがね、君と同じような子供はたくさんいるんだ。セカンドインパクトから日本を立ち 直らせるために、大勢の人が頑張って働いている。私みたいに、子供が好きで一緒に遊び たくても、仕事が忙しくて遊んでやれない大人はたくさんいるんだ。だから、お父さんを 恨んじゃいけないよ。」 「はい…。」 「最近ではあまり聞かないが、この日本でも飢え死にするような子供がいるんだ。そんな 子から見れば、君のお父さんが羨ましいって言うだろうね。子供に嫌われてるって分かっ ていながらも、自分が汗水垂らして稼いだお金を君にくれるんだろう?君のことが嫌いだ ったら、絶対にそんなことはしないさ。」 「そ、そうでしょうか?」 「そうだよ、僕が保証するよ。それに、君のお父さんが仕事でどんな苦労をしているのか、 知っているのかな?」 「そ、それは…。」 「知らないのか、そうだろうね。でもね、仕事で苦労していることを子供に知られること は、大人は誰もが嫌がるんだよ。馬鹿みたいだろ、子供のためにと働いて、子供のために カッコつけて、それで肝心の子供に嫌われるなんて。でもね、子供が大好きだからこそ、 子供に心配をかけさせたくないんだ、それが親ってもんじゃないかと思うよ。」 「そうでしょうか。」 「そうだとも。でもね、僕は親失格かもしれない。近い内に、子供に借金のことを知られ るようになるだろうし、子供達を食べさせていくことが出来なくなるかもしれない。でも ね、僕はこの命に代えても、子供達を守ろうと思っている。なあに、死んだ気になって働 けば、何とかなるさ。」 「そうですか、頑張ってください。」 シンジは、おじさんの手をぎゅっと握ったわ。 「ああ、ありがとう。悪いね、助けてもらったうえに、つまらない話を聞かせちゃって。」 「いえ、そんなことはないです。聞いて良かったです。」 こうして、アタシ達はこのおじさんとお別れしたの。でも、別れた後のシンジは、妙に機 嫌が良かったのよ。 つづく(第58話へ)

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―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― あとがき  アスカの特訓の成果が出て、見事シンジはヤクザを二人やっつけました。この調子なら、 シンジはもっと強くなるかも。 2003.1.28  written by red-x



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