新世紀エヴァンゲリオン 外伝 超少女アスカ

第116話

「よおっ、お熱いねっ!」 「ひゅう、ひゅうっ!」 ふいに、近くで下品な男の声がしたわ。 「「なっ!」」 アタシとシンジは、驚いて離れたの。何よ、こいつら。せっかく良い雰囲気のいところを 邪魔しやがって。許せないわ。 「ア、アスカ、行こうか。」 シンジは、顔を真っ赤にしながら言ったの。まあ、いいわ。頭にくるけど、こんな奴らを 相手にしてもしょうがないしね。そう思ってアタシとシンジはその場から離れようとした んだけど、なんとそいつらがアタシ達の前に立ちはだかったのよ。 「ねえ、君達。どいてくれないか。」 シンジが不快そうに言ったんだけど、そいつらはヘラヘラ笑っているだけ。別方向に行こ うとすると、またもや回り込んでアタシ達の前を遮るのよ。こいつら、まさか…。 「悪いけどよ、そこのガイジンさんに用があるんだ。アンタ、アッコさんを怒らせただろ。 駄目だよ、そんなことしちゃあ。俺ら、アッコさんの仲間でね。ケジメをつけてえんだ。」 ぬあんですってっ!生意気なっ! アタシは、怒り心頭ってとこかしら。頭から湯気が出そうだったわ。 「えっ。アスカが何かやったの?」 シンジが驚いてこっちを見たわ。 「ううん、大したことはしてないわよ。アタシ一人に向こうは5人がかりだったんだけど、 テニスで返り討ちにしただけ。」 「じゃあ、アスカが悪いわけじゃないんだね。」 「当然よ。アタシは常に正しいのよ。」 「という訳なので、どうかお引き取り願えませんか。」 シンジが相手に向かって穏やかに言ったけど、奴らは笑っていたわ。 「駄目だな。その子は、世間の厳しさっていうのを知ってもらう必要があるからな。ちょ いとお仕置きが必要なのさ。」 「そうそう、ちょいとしたお仕置きさね。まあ、初めてじゃなけりゃあそんなに痛くねえ よ。もっとも、1年後に俺らの子供を産むことになるかもしれねえけどな。そんときゃあ、 痛い思いをするかもな。」 そう言いながら、ヘラヘラ笑うのよ。あったまくるわ。でもね、ふと気がつくと、シンジ が俯いているのよ。アタシが心配して声をかけようとしたら、恐ろしく冷たい声がしたわ。 「お前ら、アスカに酷いことをする気か…。」 なんだかいつもと違うシンジの声に、アタシは何事かと思ったけど、奴ら−クズ男ズと命 名したわ−はそのまま続けたわ。 「ぜーん、ぜん。酷くないさ。」 「そうそう。それどころか、気持ちいいことかもしれないぜ。」 「ぎゃははははっ。違いねえっ!」 そう言いながら、奴らは笑ったの。そしたら…。 「お前ら、絶対に許さない!」 いきなりシンジが奴らに向かって走って行ったの。 「おうおう、ナイト気取りかよ。」 「なめやがって。やっちまえっ!」 クズ男ズは、5人全員でシンジに向かって行ったわ。うっ、これってまずいかも。アタシ がどうしようかためらっていると、シンジが大声で狂ったように叫んだの。 「うおおおおおおおおおおおおおおっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっ!」 それを聞いた奴ら、ちょっとびびったらしく、動きが一瞬止まったわ。で、それを見逃す シンジではなかったわ。 「おうりゃああっっっっっっっっ!」 クズ男1号に飛び掛かって、あっと言う間に一本背負い。でも、そいつは受け身が出来な かったのよ。 「ぎゃあああっ!」 ありゃりゃ、何だか腕が変な方向に曲がったわ。いい気味ね。 「とうりゃああっっっっっっっっ!」 今度は、クズ男2号のみぞおちにキックを叩き込んで、腹を抱えたそいつの後頭部に踵落 とし。 「うぎゃあああっ!」 そいつは、狂ったように体をくねらす。あはははっ、こりゃあ死ぬほど痛いわよね。でも、 シンジは止まらなかったわ。 「とおっ!」 今度はジャンプしながら、クズ男3号に顔面キック。 「げえっ!」 あら、吹っ飛んで行ったわ。これは鼻が潰れたかも。でも、まだまだシンジは止まらない。 恐怖を浮かべたクズ男4号の両手を掴んだの。 「うりゃああっっっっっっっっ!」 そいつの両手を引っ張りながら、今度は顔面に膝蹴り。 「ドガッ!」 続けて後頭部を拳で思いっきり殴ったの。そいつは声も出せずに崩れ落ちたわ。 「ひ、ひいっ!悪かった、許してくれっ!」 クズ男5号が恐怖に引きつった顔をして命乞いをしたんだけど、シンジは恐ろしく低い声 で冷たく言い放ったの。 「駄目だ…。アスカに酷いことをする奴は、絶対にコロス…。」 「ヒイーッ!」 クズ男5号は腰を抜かしたんだけど、シンジはそいつに左足で蹴りを入れようとしたの。 「うわっ!」 思わず両手を顔の前で交差して防ごうとした5号だったんだけど、シンジの足は当たらな かったわ。 「へ?」 間抜けな声を出したそいつの後頭部めがけて、シンジの渾身の力を込めた踵落としが振り 降ろされたわ。もちろん、そいつは地面に熱いキスをして動かなくなったわ。 *** 「どう、シンジ。落ち着いた?ジュースでも飲みなさいよ。」 「う、うん。ありがとう。ごめんね、迷惑かけちゃって。」 あれから20分経って、やっとシンジは落ち着きを取り戻したの。その間、アタシは加持 さんに助けを呼んで、シンジを現場から引き離したの。今頃は加持さんが後始末をしてく れているはず。 「ううん、いいのよ。シンジは、アタシのために戦ってくれたんでしょ。とっても嬉しい わ。」 これは本音。あの、弱っちいシンジが戦うなんて嘘みたい。予知夢の中のシンジは、他人 を殺すくらいなら自分が死ぬっていうタイプだったのに、こんな短期間でこうも人間変わ るものかしら。 変わったのは、間違いなくアタシが原因。シンジが激しくアタシのことを愛しているから という理由以外には考えられない。女の子にとって、それほど思われるということは光栄 なこと。嫌いな男なら別だけど、シンジはそうじゃないから。正直、かなり嬉しいわ。 「良かった。アスカに嫌われたらどうしようかと思っちゃった。」 アタシが微笑むのを見たせいか、強張っていたシンジの顔がみるみるうちに緩んでいくわ。 「どうしてそう思うわけ?」 「だって、いきなりキレちゃうような男って嫌かなって思ったんだ。」 ふうん、そういうことか。誤解は正しておかないとね。 「じゃあ、良く考えて。シンジが変な奴に襲われた時、シンジを置いて逃げるような友達 と、必死になって戦う友達と、どっちがいいの?」 「そ、そりゃあ、決まってるよ。」 「でしょ。じゃあ、問題。次にアタシが襲われそうになったら、キレて戦う?それとも逃 げる?或いは穏やかに話し合おうとして倒される?」 「えっと、どれでもない。力の限り戦うよ。」 「キレなくても勝てるの?自信ある?」 「そう言われるとないや。」 「それに、キレたフリをすると相手も動揺するから、さっきのでいいんじゃないかしら。 本当にキレていても、後で演技だって言えばいいじゃない。」 「そ、そうかな。」 「そうよ。少なくともアタシはそうよ。それに、アタシはキレても気にしないわ。キレる ほどアタシのことを大事に思ってくれてるってことじゃない。もっとも、アタシに襲いか かってきたら別だけど。」 「そ、そんなことは絶対にないよっ!」 ふうん、そうかしら。まあ、そうなっても返り討ちだけどね。 「じゃあさ、これからもアタシを守ってね。アタシの王子様。」 「えっ、王子様…。」 「そうよ、これからシンジはアタシの王子様よ。」 にっこり笑ったら、シンジは真っ赤になって何度も頷いたわ。しっかし、シンジがキレる とこんなに強いとは、想像もしなかったわ。この分だと、使徒戦は思ったよりも楽になり そうね。いいことだわ。 アタシは思わず微笑んだわ。そしたら、シンジは更に真っ赤な顔になっちゃったわ。 つづく(第117話へ)

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―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― あとがき 意外や意外。シンジがキレると強いんですね。でも、アスカが危ない時限定のようです けど。   2004.11.10  written by red-x  



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