「行けえっ！悪の帝国を倒すんだっ！」
トルコの陸軍大将が号令するや、スコピエ軍は一斉に進撃を開始した。目指すはイラクの
大統領が立てこもるバグダッドである。
北西からはトルコ軍を主体とする部隊が押し寄せた。無数の戦車、装甲車が砂煙をあげて
向かっていく。
南西からは、パキスタン軍を主体とする部隊が押し寄せた。これまた無数の戦車部隊や装
甲車が連なっている。
近くの空港は既に押さえているため、空はスコピエ軍の戦闘機や爆撃機で埋めつくされて
いた。戦車部隊が到達する前に、バグダッドに雨あられと爆弾を降り注いだり、目ぼしい
施設を攻撃するのだ。
そして、地上部隊がバグダッドに到達する頃には、殆ど廃墟と化していた。このため、地
上部隊は楽々とバグダッドに進入することが出来た。だが、これはイラクの罠だったのだ。
「アッラー、アクバル！」
そう叫びながら戦車に向かっていく人影があった。その者は、両手に何も持っていなかっ
たために特に注意を払われなかった。だが、それは失敗だった。
「ドカーン！」
人影が戦車にたどり着くと、戦車は爆発炎上した。
「まずいっ！サダムフェダーインだっ！人間爆弾だっ！」
兵士達は、直ぐに緊張した面持ちになって銃を構える。すると、バグダッドからわらわら
と女性や子供達がわいてきた。そして、戦車や装甲車に向かって走っていく。
「奴らを戦車に近づけるなっ！」
トルコ軍兵士達は、女子供に向かって銃を乱射した。銃弾を受けた女子供は、バタバタと
倒れていく。だが、爆弾は爆発しない。
「ま、まさか、今のは一般市民なのか？」
一人の兵士が近付くと、血溜まりの中で女子供がうめいていた。みな、着のみ着のままの
一般市民のようだった。
「くそうっ、一杯食わされたか。」
兵士が舌打ちすると、再び女子供が大勢戦車に向かって走っていくのが見えた。止まれと
命令しても、彼らは止まらなかったため、止むなく銃撃を加えるしかなかった。そんなこ
とを繰り返すうちに、バグダッド郊外は多くの死体で埋めつくされそうになった。
だが、郊外の兵士はまだ良かった。市街地に入って行った兵士達は、不意打ちやだまし討
ちによって数多くの死傷者が出ていたのだ。
路地の横からいきなり襲われたり、死体にすがって泣く子がいきなり襲って来たり、死ん
でいると思われた女が急に起き上がってナイフを振り回してきたり、ありとあらゆる手段
を用いてスコピエ軍の進撃を阻んだのだ。
このため、その日のうちにバグダッド全域を占領することがかなわず、夜になってスコピ
エ軍はいったん郊外に引き揚げた。すると、死体が急に起き上がって戦車や装甲車に体当
たりしていったのだ。
こうして、バグダッドの占領は簡単にはいかなかった。
＊＊＊
バグダッド早期攻略失敗という事態は、ゼウスにも伝えられた。ゼウス幹部のランブロは、
部下のアリにエヴァンゲリオンの出撃を命じた。
「このままバグダッド攻略に手こずっていると、ネルフが何らかの手を打ってくるかもし
れん。その前にバグダッドを落とすのだ、アリよ。」
「はっ、分かりました。」
こうして、ゼウスのエヴァが出撃することになったのである。
＊＊＊
翌朝、ゼウスのエヴァ４体がバグダッドに出現した。隊長のニコリーナは、他の３人に向
かって命令した。
「いい、アリ様からの指令よ。良く聞いて。イリスはガンマでバグダッドの北に向かって
ちょうだい。」
「はい。」
「ラビナはデルタで南よ。」
「ええ、任せておいて。」
「ケヴィンはベータで東に行って。」
「おお、よっしゃあ！」
「で、私はアルファで西を攻めるわ。いいわね、この戦いが悪の帝国を倒す最後の戦いに
なるのよ。」
「はい。」
「ええ。」
「おお。」
ニコリーナの合図で、４体は四方に散った。そして、圧倒的なパワーでバグダッド市街を
破壊していく。なにしろ、エヴァが超音速で走り回るだけで、衝撃波で建物が次々と崩れ
ていくのだ。そうして、半日足らずでバグダッドはガレキの山と化した。
また、かねてから潜入させていたスパイによって、イラク大統領やその一派を一網打尽に
捕らえることにも成功していた。そして、捕らえた翌日に公開処刑を行った。無論、裁判
などは行わなかった。
こうして、思ったよりも手こずりはしたが、イラク帝国はあっけなく壊滅したのである。
（第９８話へ）
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あとがき
散々周辺諸国を苦しめたイラクですが、最後まで悪あがきをしました。ですが、世界共
通の敵であるイラクが滅亡した後は、スコピエ対ネルフの対決が本格化するでしょう。
2005.2.9 written by red-x