新世紀エヴァンゲリオン 蒼い瞳のフィアンセ


第5部



第87話 本部襲撃

「…という訳だ、アスカ。どうやら敵はネルフ本部を攻撃目標にしたみたいだ。」 アスカは、リョウジからネルフ本部攻撃計画の情報を聞いた。それによると、近々サダム フェダーインのメンバーが攻め入ってくるという。 「ふん、しゃらくさい!返り討ちにしてやるわ。」 アスカは固く拳を握りしめた。 「ほう、頼もしいな。」 リョウジは、苦笑いしている。アスカ自身が返り討ちするような事態になれば、自分達の 大失態になるからだ。 「でも、加持さん。攻撃目標は分かっているの?」 「それが、そこまでは分からないんだ。すまない。」 リョウジは素直に謝った。だが、アスカにはリョウジを責める気はなかった。 「まあ、いいわ。とりあえず、パイロット達のガードを厚くして。もちろん、サウジアラ ビアに派遣しているパイロットもよ。それから、各傭兵部隊に侵入者への監視を強めるよ うに命令しておいて。」 アスカは、本部への攻撃は陽動だと考えた。それならば、サウジアラビアのパイロットも 狙われる可能性が高い。 「ああ、分かった。だが、敵の目標が分からないと、守りにくいな。」 「しょうがないわ。敵の侵入をいかに防ぐかが鍵ね。それに、シンジ!」 「なっ、なにっ!」 それまで、のほほ〜んと話を聞いていたシンジは、いきなり話を振られて慌てた。 「アンタは、女の子の尻を追っかけない。知らない人に付いていかない。知らない人に呼 ばれても行かない。女の子の持ち物につられない。これだけは守るのよ。」 「ええっ、僕だって小学生じゃないんだから。そこまで言わないでよ。」 シンジは頬を膨らませたが、それは逆効果だった。 「あっそ。佐藤っていう女の子の尻を追っかけて袋叩きにされた間抜けな男はシンジじゃ ないのね。霧島っていう女の子の名前で呼び出されて物置に閉じ込められた馬鹿者はシン ジじゃないのね。スコート姿になって喜んで写真を撮られていたのはシンジじゃないのね。 ふうん、そうなんだ。」 アスカは少しずつ目を吊り上げる。シンジは、最後のは違うんだけどと言いたかったが、 結局反論出来なかった。自業自得である。 「…はい、僕です。ごめんなさい…。」 「ふん、アンタなんか小学生以下じゃないのよっ!」 シンジ、完全なる敗北である。リョウジはそんな二人を見て笑っていた。 *** 「パン!パン!パン!」 「うわあっ!」 「ぎゃっ!」 深夜、ネルフ本部に侵入を試みる者達がいた。むろん、正面から入るわけがない。警備が 手薄な場所を狙い、ネルフ職員を銃撃する。数人しかいなかった見張りの職員は、直ぐに 地面に倒れ伏した。 「よし、いいぞ。手筈はいいなっ!」 20人ほどの黒い影が首を縦に振る。そして、屍を乗り越えてネルフへの侵入を果たす。 だが、5分もしないうちに屍達がむくりと立ち上がった。 「ふうっ、怖かったぜ。」 「助かったっ。」 「寿命が縮まったぜ。」 そこにリョウジが現れた。 「ごくろうだったな。助かるよ。」 そう、3人の屍を演じたのは、リョウジの部下達だった。 「もう、こんなことは勘弁してくださいよ。」 一人の男が愚痴る。 「まあ、そう言うな。ところで、ケンスケ君。上手く撮れたか?」 リョウジと共に現れたケンスケは、にっこりと笑う。 「ばっちりですよ。でも、何に使うんですか?」 「俺にも分からん。まあ、想像はつくがな。」 リョウジは、ニヤリと笑った。 「おい、急げ。時間がないぞ。」 「もっと早く走れ。」 さて、侵入者達は、狭い通路をひた走る。狙いは、2つ。発令所とエヴァンゲリオンだ。 「よし、ここで二手に別れる。お前達は発令所へ。俺達はエヴァンゲリオンの格納庫に向 かう。アッラーの神の御加護あれ。」 リーダーの指示で、侵入者達はそれぞれの目標へと向かう。だが、その声を聞いている者 がいた。アスカルームのアスカ達である。 「ブルー、聞いた?後は任せるわよ。」 アスカは、その音声を傭兵部隊ワイルドウルフの最精鋭、ラブリーエンジェルの隊長にも 回していた。 「ああ、分かった。任せてくれ。」 ブルーは、久々の戦いに心を踊らされていた。 *** 「なっ、何だッ!行き止まりじゃないかっ!」 侵入者達は、仲間が仕入れた情報が誤っていたことを知って愕然とした。だが、驚くのは それだけではなかった。 「ようこそ、ネルフへ。歓迎するわよ。」 そこに、ブルーを始めとするラブリーエンジェルの面々が現れた。ドイツの傭兵部隊、ワ イルドウルフの誇る精鋭中の精鋭の特殊部隊である。 「くそうっ!罠かっ!」 侵入者達は銃を撃とうとしたが、ブルー達の動きの方が早かった。 「散れッ!」 ブルーの声と共に、ブラウン、グリーンが一斉に襲いかかる。 「はっ!はっ!はっ!」 それをナイフを投げつつパープルが援護する。侵入者達の手から次々と銃が弾き落とされ、 運良くナイフから銃を守った者達にブルーらが襲いかかる。 「はあっ!」 敵の足元に身を沈めて一瞬敵の視界から姿を隠したブルーは、掛け声と共に左手を地面に 叩きつけ、その反動を利用して必殺のライトキックを敵の顎に炸裂させる。 「ぐあっ!」 敵は10メートルは吹っ飛んだ。おそらく、一瞬にして首の骨を折って絶命したはずだ。 「あいよっ!」 ブラウンは銃を持った敵の右腕を取り、気合と共にポッキリと折る。 「ぎゃあっ!」 崩れ落ちた敵の首に必殺のエルボーを叩き込む。この敵も一瞬にして絶命したようだ。 「死になさいっ!」 グリーンは敵の両手を掴んで引っ張り、その反動を利用して首に必殺キックを叩き込む。 敵はうめく間もなく絶命する。 こうして、ほんの10秒ほどで10人対4人が7人対4人になったが、次の10秒で4人 対4人になり、1分後には1人対4人となっていた。 「さあ、どうする?あなたも死にたいの?」 ブルーの問いに、残った一人は頭を下げて命乞いをした。だが、僅かな隙を付いてナイフ を投げようとした。 「卑怯者っ!」 それを見逃さずパープルは敵の眉間にナイフを放った。もちろん、一瞬にして絶命した。 「やっぱりこいつらは決死隊のようね。降伏なんかする気は無さそうだわ。」 ブルー達は手分けをして敵の遺体を調べたが、思った通り全員の体から高性能爆薬が発見 された。うち数人は、ボタンを押せば爆発するタイプのものだった。 「ふうっ、危ない、危ない。」 最後の一人は時限式の爆弾を抱えていたため、ブルー達に危険は無かったが、他の者が生 き残った場合は結構危うかったかもしれない。 「さてと、あいつらはどうだったかな。」 ブルーはおもむろに携帯端末を取り出した。 「こちら、ブルー。敵の殲滅に成功した。そっちはどうだ?こっちの敵は全員爆弾を抱え ていたが。」 「こちらイエロー。こちらも殲滅に成功した。こちらの敵も全員爆弾を抱えていた。」 「了解。後は爆弾処理班に引き継ぐ。2人ほど残って、作業を監視しろ。」 「了解した。」 ブルーは、にっこり笑って振り向いた。 「聞いての通りだ。敵は殲滅した。ブラウンとグリーンは爆弾処理が終わるまでここで待 機。いいな。」 「「了解しましたっ!」」 「よし、パープル。行くぞ。」 ブルーは、颯爽とその場を去った。 *** 「…という訳で、敵は全員死亡した。」 「分かったわ、ブルー。ご苦労様。今のところ他の侵入者がいる気配は無いから、交代で 休んでいいわよ。」 「了解した。では…。」 そう言いながら、ブルーは通信を切った。 「ふうっ、やっぱり駄目だったわね。」 アスカが呟くと、横に座っていたマリアが慰めた。なぜシンジではないかというと、傭兵 絡みの血なまぐさい話の時は、何かと理由を付けてシンジを追っ払っているからだ。 「でも、しょうがないわよ。彼らは決して降伏しないでしょ。」 「まあね。分かってはいたけど、やっぱり割り切れないわね。」 アスカとて無駄な殺生は嫌だが、馬鹿でお子ちゃまなシンジと違って大人の分別はある。 殺人鬼の命を助けて仲間の命を失うようなことは考えない。悪人20人の命よりも、仲間 一人の命の方が大切だ。 「でも、いいじゃない。一般の人に被害が出なかったんだから。」 「まあね。それだけが救いだわ。」 そもそも敵をネルフ内に引き入れたのは、一般市民に被害が及ばないようにとの配慮であ る。これについては、成功したと言えよう。だが、本来は一人くらいは生かして捕まえて、 敵の情報を少しでも集めたかったのも事実である。 だが、敵は掴まるよりは自爆する道を選ぶだろう。旧イランでサダムフェダーインと戦っ たことのあるアスカは、それを身に染みて分かっていた。だから中途半端な戦力ではなく、 これまた奴らと戦った経験のあるラブリーエンジェルを送り込んだのだ。 「あっ、そうだ。加持さんにもう一働きしてもらおうっと。」 アスカは、リョウジに連絡を取った。 「あっ、加持さん。ついさっきブルー達が敵を殲滅したんだけど、生存者無し。だから少 しでも情報が欲しいのよ。敵のアジトを探して調査してほしいのよ。」 「ああ、それなら既に手配してある。だが、あんまり期待するなよ。奴らも生きて戻るつ もりは無かっただろうからな。おそらく何も残っていないだろう。」 「ふうん、そんなもんなの。」 いくら天才アスカといえども、どの分野でもとはいかない。テロリストの捜査や諜報の分 野では、リョウジには遠く及ばないのだ。だから素直にリョウジの意見を受け止めた。 「そんなことより、サウジアラビアの連中に警告しておいた方がいいぞ。もしかしたら、 こっちは陽動かもしれない。」 「多分そうでしょ。それも、狙いはパイロットの可能性が高いわ。」 「なぜそう思う?」 「勘よ、勘。それに、陽動ならこっちで狙ったものは向こうでは狙わないでしょ。」 「ああ、俺もそう思う。だが、エントリープラグなんかの設備も狙うんじゃないかな。」 「それもあり得るわね。でも、向こうにはパイロットの保護を最優先にするように伝えて あるけどね。」 「ほう、なんでだ。」 「簡単よ。物は壊れても造ればいいけど、人はそうはいかないでしょ。」 「はははっ、その考えはシンジ君に似てきたかな。」 「ふん、違うわよ。あんなバカと一緒にしないでよ。人道的な見地だけじゃないわ。パイ ロットへの心理的影響を考えたら、一人として失うのは得策じゃないからよ。パイロット が精神的に戦える状態じゃなくなったら、エヴァなんて巨大なカカシに過ぎなくなるもの。」 「そうだな、違いない。」 「じゃあ、アタシはもう寝るから。加持さん、後はお願いね〜っ。」 「ああ、任せておけ。」 アスカは通信を切ると、マリアと一緒に家に帰ることにした。 *** 「…緊急ニュースをお伝えします。さきほど、トルコ各地で爆弾テロが発生し、数千人の 死傷者がでました。『イラク救国戦線』など複数のイラク系過激派組織より犯行声明が出 されています…。」 翌朝、何気なしにテレビを見ていたアスカは、トルコで発生した爆弾テロに驚いた。 「なっ…。まさか、トルコまで攻めるなんて…。一体、どうなっているのよ。」 「トルコに対する威嚇かしら。攻めてきたらただでは済まないっていうこと?」 ミサトも首を傾げた。 「それはおかしいわね。これじゃあまるで、トルコに攻めて来いって言ってるようなもの だもの。良く分からないけど、アタシ達には想像出来ない何かが起こっているのかもしれ ないわ。」 「そんなあ、考えすぎだよアスカは。」 シンジはアスカは心配性だと言って笑ったが、アスカの心の中に何か引っ掛かる。 「でも、アスカ。このままじゃあまずいわよ。イラクに派兵しようっていう国が、テロを 恐れて派兵を取り止めるかもしれないわ。」 「そ、そんなあ。ザナド君やサーシャさん達が命懸けで戦っているのに、見捨てるってい うの?」 シンジは顔をしかめた。 「あったり前でしょ。他国の人間百万の命より、自分一人の命が大切だって思うのが普通 の人間でしょ。それに、戦争反対っていう大義名分があるしね。」 アスカは、何を今更言うのかと、シンジをバカにした。 「そうなんですか、ミサトさん。」 「ええ、シンちゃん。だれしも我が身が可愛いものね。戦争反対って言って、自分の正義 を振りかざすことに満足して、遠くの国でいくら人が死のうが我関せず。それが普通の人 の考え方なのよ。」 「何か悲しいですね。」 「でもね、シンちゃん。その考えが間違っているかどうか、自信はないわ。だって、サウ ジアラビアに何も資源が無かったら、誰も助けに行かないのも事実だもの。あそこに石油 があるから、よそ者がしゃしゃりでて助けるのよ。何かおかしいと思うでしょ。」 「そ、そうなんですか。何か嫌ですね。」 「でも、命懸けでサウジアラビアの人を助けに行こうなんて思わないでしょ、シンちゃん だって。」 「え…。は、はい…。確かにそうです。」 「しょせんは損得勘定でしか人間は動かない、そういうことよ。」 締めくくりのアスカの言葉に、シンジは納得のいかないような顔をした。 (第87.5話へ)

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―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― あとがき  今回はサウジアラビアの話は無しです。どうしてもアスカ中心に話が回っていきます。 サウジアラビアに派遣された人を中心に書こうと思っていたのですが、なかなかうまくい かないものです。 (参考)研修生について イラクへの派兵第一陣  ◎ハウレーン、○アニー、△イライザ、△エカテリーナ  ◎サーシャ、○ザナド、△イリス、△クリスティン イラクへの派兵第二陣予定者  ◎リン・ミンメイ、△フェイ、△ラシッド、△カリシュマ  ◎キャシー、△テリー、△ニール、○アリオス、○アールコート 本部待機  ◎マリア、△ハンス、△ハンナ、△ウィチタ  ◎ミリア、○マックス、△エドナ、△ジュリア 2004.2.3  written by red-x



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