新世紀エヴァンゲリオン 蒼い瞳のフィアンセ


第85.5話 反攻

 ダンマームが制圧されてから1週間経ったある日、バグダットにおいて、軍幹部が集ま って作戦会議を開いていた。膠着した戦局を打開するためのものらしいが…。 「…それで、何か言うことはあるのか?」 長いテーブルを囲んで、10人ほどの幹部が椅子に座っていたが、そのうちの一人がある 男を鋭い目で見つめながら、冷淡に問いかけた。 「ああ、あるさ。あの、エヴァンゲリオンっていうのは、想像を絶するバケモノだ。変な バリアーがあって我々の武器は全く通じないし、武装は強力だし、あんな奴とまともに戦 ったら勝ち目はない。」 応えたのは、ダンマームから命からがら逃げ出した第3軍の司令官、カシムだった。それ に対して、他の幹部の反応は冷やかだった。 「笑わせるぜ。ケーブルを付けた兵器に負けるとはな。」 「それも、たったの2体だ。しかも、子供が乗っているそうじゃないか。」 「子供の乗った、おもちゃみたいな兵器に負けたというのか。」 「敵の兵力は、千人位と言うではないか。5万の軍を預かっていながら、なんという体た らくだ。」 次々とカシムに非難の声が浴びせかけられた。 「お前達は、戦っていないからそう言えるんだ。実際に戦ってから、俺を非難しろ。口で は何とも言えるさ。」 だが、カシムも黙ってはいなかった。カシムにしてみれば、あのバケモノみたいに強い兵 器に対して、簡単に逃げたりせずに粘れるだけ粘って戦ったのだ。自分だけが非難される のは納得がいかない。 「止めろ。今は責任問題を議論する場ではないはずだ。だがな、カシム。それだけ言うか らには、他の者が簡単にエヴァンゲリオンを倒したならば、どうなるか覚悟は出来ている んだろうな。」 要は、死が待っていると言っているのだ。だが、カシムは動じなかった。 「ああ、構わないさ。だが、断言する。この場にいるお前達には、絶対にあいつは倒せな いぞ。」 カシムは、その場の全員を睨み付けた。 その後、作戦会議は数日かけて行われ、一応の結論を得た。作戦の概要は、ダンマームを 包囲して補給を困難にさせ、散発的な攻撃を絶えず行って少しずつ敵の力を削っていくと いうものだった。 口では威勢の良いことを言いながら、結局はエヴァンゲリオンに正面から挑もうという者 がいなかったためである。人のことをけなしておきながら、自分は同じことを決してやら ないという、卑怯を絵に描いたような連中である。 人の描いた絵をけなした者に絵を描かせると、けなした絵よりも下手くそだったり、人の 書いた小説をけなした者に小説を書かせると、読めたものではないことは良くあることで、 けなした小学生レベルの者は馬鹿にされるが、絵を描くだけ、小説を書くだけまだましで ある。 それよりもさらにレベルが低い、けなすだけで自分からは決して同じことをしない、いわ ば人間のクズと呼ばれる者達は、それすらしない。自分が馬鹿にされるだけだと分かって いるからである。けなすだけなら、幼稚園児でも出来ることであり、そんな幼稚園児程度 のレベルの人間が軍幹部に多いこと自体が、軍の根本的な問題であるのだが…。 ともあれ、その作戦にしたがって、旧イランからドバイへと10万人の兵士が増派され、 フフーフ経由でダンマームに攻め入ることになった。 また、旧アフガニスタンからも10万人の兵士が増派され、マスカットを経て、イエメン へと侵攻することになった。狙いは、インド洋から紅海に入ろうとする国連軍を水際で叩 こうというものである。 さらには、バグダッドからも10万人の兵士が増派され、トゥライフを経由して紅海を目 指すことになった。スエズ運河から紅海へ入ろうとする国連軍を叩くためである。 この作戦が成功すれば、ダンマームの平和維持軍への補給は空輸のみとなり、いずれは補 給が尽きるとの計算だった。派手さは無いが、失敗する可能性が少ない作戦でもあった。 *** 「あはははっ、そう来るか。」 暗い部屋の中で、イラク軍幹部の会議の内容を知って、笑っている人物がいた。 「あの、そんなに下手な作戦なんでしょうか。」 その部屋にいた、もう一人の男が尋ねると、男は笑うのをやめて応えた。 「ああ、そうだ。エヴァンゲリオンの力を、使徒の力を知らないバカ者の立てる作戦だか らな。」 そう言うと、男は再び大声で笑った。
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―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 2004.1.16 written by red-x