新世紀エヴァンゲリオン 蒼い瞳のフィアンセ


第4部 ネルフ再生



第79話 シンジの誕生会 中編

「シンジ、誕生日おめでとう!」 「「「「おめでとう!」」」 「「「「おめでとうございますっ!」 アスカの合図で、みんなは一斉に大きな声でシンジの誕生日を祝った。クラッカーがポン、 ポンと良い音を立てながら飛び散り、誕生会の雰囲気をかもし出している。 今日は6月4日の土曜日。シンジの誕生日の2日前になるが、土曜日の方が準備がし易く ていいとのアスカの主張が通り、この日に誕生会を開くことになったのである。 昨日の夜からヒカリやユキが中心となって下準備をして、今日も朝早くからマリアやアー ルコートを加えた4人で料理を作り始めた結果、豪勢な料理が所狭しと並んでいた。 部屋にはテーブルが5つ繋げて並べられ、その上にはジュースや料理が山のように並べら れた。ジュースは、オレンジ、アップル、グレープの3種類に、炭酸飲料も5種類ほど。 それ以外に、アイスコーヒーやアイスティーもあった。 料理に加えて、コアラのマーチやポテトチップ、チョコレート菓子などを中心にして、主 に女の子が喜びそうなお菓子も並んでいた。 ちなみに、料理については時間とお金をかけているため、かなり豪華であった。ヒカリを して、『私の時より遥かに豪華だわ…。』と言わしめたほど。 「リツコは普段あんまりお金を使わないから貯め込んでいるし、シンジはリツコの実験に 協力しているからよ。」 アスカはすかさずフォローした。一応、現在の保護者はリツコになっているため、スポン サーはリツコということになっていた。実際には、アスカがお金を出していたのだが、そ れはシンジにすら秘密である。 なお、さすがのヒカリも寿司やロブスター、カニなどの料理は出来なかったので、これら の料理は特注したのだが、金に糸目をつけなかったので、かなり豪華な料理であった。 「ええっ!今日はリハーサルじゃないの?」 一方、午後からやって来たイライザやアニー達は、今日はリハーサルと聞いていたため、 着いた早々驚いていたが、飛び入り参加者を防ぐためだというアスカの説明に一応納得し ていた。実はテロ対策なのだが、さすがのアスカもみんなに本当のことは言わなかった。 と言う訳で、午後1時を少し回った頃にシンジの誕生会が始まった。 「さあ、みんな。シンジにプレゼントを渡しましょう!」 続いて、シンジにプレゼントを次々に渡していく。 「ありがとう、みんな。」 シンジは、一人一人にお礼を言っていく。そして、最後にアスカが渡した後、トウジが大 声で叫んだ。 「シンジ!お前の一番欲しいプレゼントは何やっ!」 これに対して、シンジは迷わず即答した。 「そ、それは、アスカのキスですっ!」 (ぬあっにーっ!やられたーっ!) アスカは何か言おうとしたのだが、それは、みんなの声でかき消された。 「キ〜ス!キ〜ス!キ〜ス!」 「キ〜ス!キ〜ス!キ〜ス!」 「キ〜ス!キ〜ス!キ〜ス!」 「キ〜ス!キ〜ス!キ〜ス!」 「キ〜ス!キ〜ス!キ〜ス!」 「キ〜ス!キ〜ス!キ〜ス!」 ほぼ全員で、キスコールをしたためである。おそらく、事前に根回しをしていたのだろう。 シンジの返答に対する反応が、あまりにも早い。 「い、いやよ、冗談じゃないわよ。」 アスカは反対したが、トウジはアスカの反論を許さなかった。 「そういう惣流は、ヒカリの誕生日に一体何をしたんや、ええっ。往生際が悪いで。」 「うっ!」 ヒカリの誕生会で、アスカがトウジに対してキスコールを起こしたのは事実。その時の仕 返しを、今しようというらしい。 「さあっ、早くするんや。さあっ!さあっ!さあっ!」 トウジがせっつく。アスカが周りを見回すと、一部浮かない顔をしている者もいるが、大 半は期待のまなざしを向けている。 (シ、シンジは?) シンジはと見ると、どう見ても期待に胸を膨らましている顔に見える。おそらく、今断る と泣いてしまうだろう。アスカは僕のことが嫌いになったんだ、などと言いながら。そう なると、今日の誕生会は台無しである。 (げっ。や、やられた…。) アスカは、トウジにはめられたことに気付いた。いくら天才アスカでも、こういう策略に は引っ掛かり易いらしい。断れば、誕生会を台無しにするうえに、シンジが泣くかもしれ ないため、キスをする以外に選択肢は考えられない。 もっとも、死ぬほど嫌なことならば、シンジが泣こうがわめこうが断るのだが、さすがに そこまで嫌なことではない。朝のキスは欠かさずしているし、気分が良いときだけといえ、 人前でなければ、シンジの求めに応じてキスすることもあるのだ。 (ヒ、ヒカリはどうなの?ユキは?) アスカは、唯一味方になりそうな二人を探した。だが、ヒカリはどう見ても喜んでいるよ うな顔だし、ユキも目を輝かせてこっちを見ている。きっと、トウジに言い含められてい るのだろう。アスカがみんなの前でキスをするのが嫌だとは分からないらしい。 (あっ、そう言えば、ユキは婚約披露パーティーの時にいたわよね。あの時は、調子に乗 ってシンジと一杯キスしたんだっけ。だから、アタシが嫌がっているだなんて、思うわけ ないわよね。) アスカにすれば、あの時は立つのも辛い状態だったから、シンジに体重を預けて楽をする ために、やむを得ずシンジとキスをしたのだが、ユキにはそんなことは教えていなかった のだ。また、その時の話は、ヒカリにも伝わっている可能性が高い。 (ちっ、しょうがないわねえ。もうっ、こうなったら、自棄よ。) アスカは、意を決してシンジの方を向いた。どうせ逃れられないのなら、嫌々キスをして 場を盛り下げるよりも、積極的にキスをして、せめてこの場を盛り上げようと思ったのだ。 「シンジ、誕生日おめでとう。これは、アタシからのプレゼントよ。ありがたく受けなさ いよっ!」 ニコリと笑って、シンジの唇に自分の唇を近づけ、そっと触れるようなキスをする。 (うんっ!なっ、何よっ!) アスカは、少ししたら離れようと思っていたのだが、シンジが左手でアスカの頭を掴み、 残る右手で背中を抱きしめて離さない。アスカの両手もシンジの背中に回っているため、 離れようにも離れられない状況である。 (んんんっ!何よ〜っ!) そのうち、アスカの口の中に侵入してくるものがあった。もちろん、シンジの舌である。 (げっ!気持ち悪いっ!冗談じゃないわよっ!早く離れてよっ!) だが、アスカの気持ちを知ってか知らずか、シンジの口撃は止むどころか、さらに激しさ を増していく。 (いやあっ!シンジの唾液が入ってくるよ〜っ!汚いよ〜っ!息苦しいよ〜っ!早く離れ なさいよ〜っ!ぎゃあっ!) しかし、アスカの願いも虚しく、二人のキスは20分以上も続いたのである。 (うげえっ!げろげろっ!気持ち悪いっ!もうやめなさいよっ!) 気持ち悪くなって、どんどん顔が真っ青になっていったアスカだったが、シンジは全く気 付かなかった。その結果、アスカがシンジの唾液をたっぷりと飲まされたことは言うまで もない。少なくとも、アスカの喉は、コクン、コクンと、10回以上鳴ったのである。 「アスカ、ありがとう。今までの人生の中で、最高のプレゼントだよ。」 長いキスが終わった後、シンジは輝かんばかりの笑顔で言った。もう、嬉しくてたまらな いといったオーラが、体中から発散されているようである。 「どういたしまして。シンジに喜んでもらって嬉しいわ。」 (ひえ〜んっ。苦しかったよ〜っ。汚いよ〜っ。吐きたいよ〜っ。) それに対して、アスカは顔で笑って、心の中では泣いていた。その場を盛り下げないため に必死になって吐き気に耐え、作り笑いをしたのだった。 (それもこれも、あのバカのせいよ。覚えていなさいよ、鈴原の奴めえっ。) そして、トウジに対して、密かに復讐を誓ったのであった。 *** 「ねえ、アスカ。今日は、僕の側にいてほしいんだけど、いいかな?」 「ええ、いいわよ。今日の主役はシンジだもの。」 長いキスが終わり、ようやく席に着いたアスカに、シンジが遠慮がちに頼みごとをしてき た。今日の主役だからと、アスカは二つ返事で応じた。 「じゃあさ、もうちょっとこっちに寄ってよ。」 「ええ、いいわよ。」 アスカがシンジの側に寄ると、シンジはアスカの肩に手をかけた。今日のアスカは、ノー スリーブのポロシャツを着ているため、シンジの手がアスカの素肌に直接触れる。 (もうっ、しょうがないわねえっ。) どうやら、シンジはアスカに対する所有権を主張したいらしい。普段のアスカなら、ふざ けんじゃないわよと、烈火の如く怒るところだが、今日はシンジの誕生会だからと、我慢 することにした。 それからしばらくの間は、各自おしゃべりをしながらのお食事タイムだったのだが、トウ ジとケンスケがしゃしゃりでて、ゲームの開始を宣言した。最初のゲームは、定番のビン ゴゲームである。 「はい、司会の相田ケンスケです。最初に景品の紹介をします。景品は5つあります。5 等の人は、最新の高性能パソコンとプリンタのセットです。」 ケンスケが言い終わると同時に、おおっ、と一部の人間から声があがる。マリア達、ミラ クル5のメンバーは、パソコンには目がないため、特に欲しそうな顔をしている。 「続いて、4等は碇君の写真の入ったアルバムです。」 きゃあっ、と一部の女の子から声があがる。シンジファンの女の子、特にイライザの目つ きが変わる。 「続いて、3等は惣流さんの写真の入ったアルバムです。」 おおっ、と男どもから声があがる。これにはシンジも物欲しそうな顔をしていた。 「続いて2等です。2等はなんと、碇君のお古のTシャツが3枚です。」 きゃああっ、と再び一部の女の子から声があがる。少しだけ、アスカの顔が歪む。 「さて、最後に1等です。1等は、惣流さんのお古のTシャツが2枚ですっ!」 うおおっ!と言って、ザナドやテリー達が立ち上がった。つられてシンジまでも。今度は、 露骨にアスカの顔が歪んだ。 「さて、今1等、2等などとと言いましたが、最初にビンゴになった者から好きな商品を 選んでも構いません。要は、早いもの勝ちですので、皆さん頑張ってください。」 こうして、ビンゴが始まった。 *** 「やったわっ!」 最初にビンゴになったのは、マリアだった。 「おめでとうございます。景品は何を?」 「もち、パソコンよ。」 マリアが言うと、ほっと肩をなでおろす人間が大勢出た。 「おや、ビンゴみたいだね。」 次は、カヲルだ。 「おめでとうございます。景品は何を?」 「そうだねえ。それでは…。 カヲルが言い終わる前に、シンジが叫んだ。 「カヲル君!アスカのTシャツにしてよ。そして、僕にちょうだいよ。」 「ああ、分かったよ、シンジ君。それでは、惣流さんのTシャツを頼む。」 「はい、どうぞ。」 カヲルは、トウジからTシャツを受け取ると、直ぐにシンジに手渡した。 「ありがとう、カヲル君。物凄く嬉しいよ。」 その様子を、アスカは醒めた目で見ていた。 (こいつ、バッカじゃない。) そう、これでは、シンジとアスカの仲がそれほど深くないと宣伝するようなものだと考え たからだ。だが、…。 「どうしてそんなに欲しかったんだい。」 カヲルの問いに、シンジが答えるのを聞いて、考えを改めた。シンジは、こう答えたので ある。 「だって、アスカの着た服を、他の男の手に触れさせたくなかったんだよ。」 それを聞いて、アスカは思った。 (こいつ、ちょっと変だと思われるわよ。まったく、もうっ。) そして、みんなの反応を見たのだが、アスカの想像した通りでは無かった。 「惣流さんて、碇君にそんなに思われているんですね。羨ましいです。」 とユキ。 「まあ、お暑いことで。アツアツねえ。」 とマリア。 「シンちゃんらしいわね。もう、ラブラブね。」 とミサト。 「本当に、羨ましいわあっ。」 とアニーにイライザ。 などと、シンジが変だという声は殆ど無かったようだ。 (何か変ねえ。みんな、何でおかしな奴だって言わないのかしら。そうか、今日は誕生会 だから、遠慮してるのね。そうよ、そうに違いないわ。) 自分達が、いかにアツアツカップルだと思われているのか、アスカは気付いていない。そ れ故の誤解であった。 *** 「はい、では次のゲームです。」 ケンスケとトウジは、その後も手を変え品を変えゲームを続けたのだが、段々お色気のあ るものになっていった。 (第79.5話へ)

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―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― あとがき  シンジの唾液を、たっぷりと飲まされたアスカです。何て可哀相なんでしょう。でも、 まだ中学生だからその程度で済んだのです。高校生になったら、別のものを飲むことにな るかもしれません。 2003.7.31  written by red-x



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