新世紀エヴァンゲリオン 蒼い瞳のフィアンセ


第60話 決戦!第3新東京市その10

 火星から放たれた光は,動かない初号機へ浴びせられた。 「大変ですっ!初号機に正体不明の光がっ!」 「何ですってっ!もっと詳しく報告してっ!」 ミサトは目を剥いた。 「は,はい。第15使徒の攻撃に酷似しています。ですが,エヴァンゲリオンとの連絡が 取れないため,内部で何が起こっているのか,全く分かりません。」 恐々報告するシゲルだった。 「光線の分析は?」 「可視波長のエネルギー波です。ATフィールドに近いものですが,詳細は不明です。第 15使徒の攻撃のパターンと比較しましたが,相違は発見出来ませんでした。」 「最悪ね。こんな時に,使徒の攻撃があるなんて。使徒は滅んだ訳じゃあ無かったのね。 シンジ君の様子はどうなの?」 「駄目です。全くモニター出来ません。」 「ちっ!アスカッ!聞こえてるっ!」 ミサトは,アスカを呼び出したが,返事は返って来なかった。 「ど,どうしたのよ。」 ミサトは,目の前が真っ暗になった。 *** 「アスカッ!直ぐに戻ってよっ!」 エヴァに乗ろうとしていたアスカの携帯電話に,ミサトから連絡があった。 「何よ?」 アスカはぶっきらぼうに答えた。 「一体,今どこにいるのよ。こっちは大変なんだから。初号機が,使徒らしきものから、 攻撃を受けているのよ。」 「どんな攻撃なの?」 「アスカがやられたのと同じやつよ。」 それを聞いて,アスカの頭がフル回転した。以前,シンジから,レイが火星にいるという 話を聞いていたのを思い出したのだ。 (もしかしたら…。) アスカは,レイがやったかもしれないという直感があった。 「分かったわ。直ぐに戻る。シンジは,死んだ振りをしているだけだから,もうじき動く はずよ。」 アスカは,そう言うなり駆け出していた。 *** 「な,何だあれは?」 初号機に降り注ぐ1条の光を見て,ゼーレの兵士達は侵攻を停止した。だが,一部の兵士 は,事前に第3新東京市に潜入していたことがあったため,それが第15使徒の攻撃と似 ていることに気付いてしまった。 「あ,あれは,使徒の攻撃と同じだっ!」 「何だって。使徒はもう来ないんだろう?あの話は嘘だったのか?」 「まずいぞ。今使徒に攻められたら,対抗出来るのはエヴァンゲリオンしかいない。だが, 俺達が倒してしまった。」 ゼーレの兵士達は,恐怖に駆られた。もう二度と使徒は来ないと教え込まれて来たのに, 目の前で使徒らしき攻撃を見たのだから,無理も無かった。 「て,撤退だっ!撤退するぞっ!」 ゼーレの地上軍は,総崩れとなった。ゼーレの一般兵の中には,使徒のことを知らない者 もいたが,中隊長以上は殆どが知っていた。その中隊長らが真っ青な顔をして逃げ出すも のだから,部下達が平気でいられるわけがなかった。 *** 「なっ,一体どうして?」 カール将軍の目にも,その光は見えていた。だが,その驚きも,部下の報告で中断された。 「将軍。わが軍はあの光を見て,使徒の攻撃が近いものと考え,総崩れになりました。」 「ううむ,そうか。だが,あれが使徒の攻撃だとしたら,俺達も危ういな。だが,撤退し たとしても,我々に待っているのは死しかない。」 「ですが,万一使徒が攻めてきたら,ネルフを倒しても我々はお終いです。ここは,一旦 引くべきではないでしょうか。」 「確かにそうだが,しかし…。」 カールは少しだけ考えたが,覚悟を決めた。 「総員に伝えよ。全員,武器を捨てて撤退,又は投降せよ。私の命を差し出して,極力兵 士達の助命を乞うことにしよう。それでいいな。」 「そ,そんな…。」 「指揮官が投降すれば,ネルフも使徒との戦いに専念出来よう。今となっては,他に方法 は無い。いいな。」 「はい。しかし,私もお供させていただきます。」 「ふん,お前も思ったよりも馬鹿な奴だな。」 「そりゃそうですよ。上官に似てしまいましたから。」 その瞬間,2人は大笑いした。 *** 「葛城作戦部長!敵からの通信です。」 シゲルの声と同時に,正面パネルにカールの顔が映った。 「ネルフの諸君,私の名はカール。ゼーレの将軍だ。どうやら,使徒はまだ生き残ってい るらしい。我々の側でも確認したが,初号機を攻撃している光線は,大気圏外から来てい る。おそらく,使徒の攻撃に間違いないだろう。このような状況で,人間同士が争うのは 愚かなことだ。どうだろう,無駄に血を流す必要はない。私の命を差し出すから,降伏を 認めて欲しい。そして,一般兵士達の命の保証をして欲しい。」 「では,そちらの部隊の即時武装解除を要求します。」 「ああ,分かった。戦闘機に対しては,郊外の道路への着陸を命じてある。地上部隊に対 しても,武装解除を命令した。だが,爆撃機と潜水艦には連絡が取れないのだ。」 「分かりました。良いでしょう。そちらの停戦を受け入れましょう。」 ミサトがゲンドウの方をちらりと見たら,ゲンドウは頷いた。 「では,我々がこれから指示する場所に速やかに移動してください。」 「分かった。だが,一つだけ質問がある。あの毒ガスに侵された者は助からないのか?」 「ええ,48時間以内に解毒剤を注射しなければ,助かりません。」 それを聞いたカールの顔が,僅かに明るくなった。 「では,その解毒剤の注射をお願い出来るだろうか。」 「ええ,良いでしょう。そのためには,速やかに武装解除し,我々の捕虜となっていただ くことが条件になります。」 「分かりました。感謝します。」 こうして,ネルフとゼーレの戦いは,予想外の結末を迎えた。 「良かった。これで,戦いは終わりか。」 発令所内に喜びが満たされようとした時,ミサトが叫んだ。 「まだよっ!シンジ君を助けないとっ!」 ミサトは,未だに未知の光線に晒されている初号機を,見つめていた。 *** 「な,何だよっ,これはっ?」 シンジの体の周りは,不思議な光に包まれていた。 「なっ,何が起きているんだよっ。」 シンジは叫んだが,誰からも,何処からも返事は無かった。 「あっ,こ,これは,綾波の感じがする。」 シンジは,光の中に,レイを感じていた。 「あれっ,何か,変な感じがする。」 シンジは,遥か遠くの爆撃機の気配を感じ取った。その爆撃機は,今にもNN爆弾を投下 しようとしていた。 「動け,動け,動け,動け!動いてよっ!」 シンジはエヴァを再起動しようと試みた。すると,今回は今までと勝手が違った。機械的 な反応は無かったが,何故かエヴァを体で感じられるような気がしたのだ。シンジは目を 閉じると,周りの景色が頭の中に浮かんでいた。 「こ,これならいけるかもっ!頼むから,動いてよっ!」 シンジが願うと,エヴァンゲリオンは動きだした。 「アスカは,僕が守るんだっ!」 シンジは,爆撃機の方を睨み付けた。 「落ちろっ!」 叫びと共に,その爆撃機は大爆発を起こした。爆発の後には,十字型の光が輝いていた。 この後,シンジは同様に敵の潜水艦を全て破壊したのだった。そして,なんとか発令所と 連絡をとることに成功した時,シンジは,涙声のミサトに驚くことになる。 *** 「勝ったな,碇。」 「ええ,先生。」 「やったわね,加持っ!」 「ああ,やったな,葛城。」 「先輩,私達,勝ったんですね。」 「ええ,勝ったわ。運良くね。」 「シゲル,やったな。」 「ああ,マコトも良く頑張った。」 「マヤちゃん,やったね。」 「ええ,シゲルさんもご苦労さま。」 「リツコさん,勝ちましたね。」 「ええ,お互い無事で良かったわね。」 発令所は,歓喜に包まれていた。みんな,抱き合って喜びを分かち合った。流石にゲンド ウと冬月は抱き合ったりしていないが,シゲルはマヤと,マコトはリツコと,マヤはリツ コと,どさくさに紛れて抱き合ったりしていた。 発令所の外では,傭兵部隊がゼーレの兵士達を拘束していった。戦闘機についても,最新 鋭のF-22 RAPTORが50機,無傷で手に入った。武器弾薬も,かなりの量が押収された。 エヴァンゲリオンのパイロットやムサシ・ケイタも軽傷であり,直ぐに収容された。シン ジも,マリアがエヴァを起動して回収し,ケイジにてエントリープラグを抜き出した。 エントリープラグを開いたのは,アスカだった。アスカがエヴァに搭乗する寸前に,ミサ トからの連絡が間に合い,危ういところでエヴァに乗らずに済んだのだ。 「い,碇二尉。良く頑張りました。ご苦労さま。」 それを聞いた周りのパイロット達は,苦笑いしたが,マリアが優しく言った。 「良いのよ,アスカ。もう,あなたは指揮官としての役目は終わったのよ。だから,遠慮 しないで良いのよ。」 「そうだよ,惣流さん。もう,戦いは終わったんだ。僕達のことは気にしないで。今から 惣流さんは指揮官じゃない。やりたいようにやって良いんだよ。」 「そうや,そうや。我慢せんでいいんや。」 みな,口々にアスカに声をかけた。 「みんな,有り難う。分かったわ。アタシ素直になる。」 アスカは,シンジに涙を流しながら近付いていった。そして,アスカとシンジの顔が近付 いた時… 「シンジのバカッ!心配したんだからっ!」 「バシッ!」 シンジの顔には,季節外れの紅葉が真っ赤に咲いていた。 「はははっ。やっぱりね。こうなるんじゃないかと思っていたんだ。」 苦笑いするシンジの首に,アスカは思いっきりしがみついた。そして,わあわあ声をあげ て泣いたのだった。シンジは,そんなアスカの頭を,いつまでも撫でていた。 *** 「結婚,おめでとう!」 「ミサトさん,綺麗やで。」 「加持さん,カッコいいわよ。」 ゼーレとの戦いから約1週間後のこと,ミサトと加持の結婚式が盛大に行われた。ミサト は純白のウエディングドレスだった。それは,アスカがプレゼントした高価な品で,普段 のミサトの美しさに,さらに磨きをかけていた。 普段のミサトを知る人でも,まるで天使のように美しかったと感想を述べる者も多かった。 シンジも,ミサトの美しさに目を奪われてしまい,アスカに思いっきり尻をつねられたほ どだ。 2人は,戦火の跡が残る第3新東京市を避けて,第2新東京市郊外にある教会で式を挙げ, 第2新東京市内で最も高級なホテルで披露宴を行った。 ネルフ幹部の殆どが最初から最後まで出席したが,ゼーレとの戦いから間がなかったため, 一部幹部は結婚式又は披露宴の片方に出席することとなった。 ゲンドウ,シゲル,マヤは,結婚式だけに出席した。冬月,マコトは,披露宴のみの出席 である。エヴァのパイロットは,カヲルが居残りで,他のパイロットは全員出席である。 無論,ケンスケとユキは2人でビデオや写真を撮りまくっていた。 その日の披露宴は,昼過ぎに始まったにもかかわらず,終わったのは真夜中になってしま った。最後は,ほぼ全員がへべれけになってしまっていた。 ***  さて,戦後処理についてだが,敵の総司令官のカール将軍は,副官ともども国連が開く 裁判にかけられることになった。一般兵達は,それぞれの母国に強制送還され,母国で裁 判を受けることになったが,一定以上の地位の者は,カールと同様の扱いである。 捕虜の数は,最終的に30万人を超えた。地上部隊でも,連絡が上手く取れずに待機して いた部隊がかなり多く,また,壊滅した艦隊から救助された兵士も20万以上いたからだ。 戦死者だが,あれだけの戦いの割りには少なかったと言える。戦闘機は殆どが無人機であ り,壊滅した艦隊にしても,狙いが正確だったため,ミサイルは動力部に命中していた。 このため,死傷者は僅かだったのである。 地上部隊にしても,毒ガスに倒れた者は解毒剤を注射されて命を取り止めていた。また, 早くから制空権を奪われていたためと,司令官であるカールが無茶な攻撃を命じなかった ため,被害は思ったよりも軽微だった。 ネルフの側も,死傷者は殆ど出なかった。アスカの立てた作戦が上手くいったのと,加持 の指揮が適切だったのが理由と考えられる。このため,アスカは二将に昇進。加持も三佐 に昇進した。ミサトも二佐に昇進である。 それに,初号機を襲った光については,使徒からの攻撃の可能性が濃厚との見解が発表さ れたため,恐れをなした各国は,ネルフへの全面支持を打ち出した。そして,ゼーレは徹 底的に叩かれて,キール・ロレンツ議長を始めとする委員会のメンバーは,全員が逮捕さ れ,裁判にかけられたのである。 こうして,ネルフは対使徒機関として当分の間存続することが決定し,エヴァンゲリオン は,1年後を目処に,各支部へ分散配置されることや,本部においてパイロットの選出及 び訓練を行うことが決定された。 *** 「ねえ,シンジ。夜風に当たろうよ。」 披露宴の最中,アスカはシンジをバルコニーへと誘った。そして,2人きりになると,言 いにくそうに切り出した。 「あのさあ,もうちょっとこのままでも良いかしら。」 「へっ,どういうこと。」 「アタシさあ,世界中で人気者になったから,婚約者がいるっていうのはまずいらしいの よ。だから,しばらくこのままでいようか。」 「そ,そんなあ。」 シンジは涙目になった。 「なあんてね,嘘よ,嘘。」 (うっ,やっぱりまずかったかしら。) 「脅かさないでよ。心臓が止まるかと思っちゃったよ。」 「なっ,なんて小心者なのよ。」 「ちっ,違うよ。それだけアスカのことが好きなんだよ。」 「ふうん,じゃあ証拠を見せてよ。」 (ふん。シンジのくせに,言うじゃない。) アスカは笑いながら目を閉じた。 シンジは,アスカを優しく抱きしめて,キスをした。そのまま,2人の時間は暫くの間, 止まっていた。 第三部完 (第61話へ)

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―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― あとがき  ようやく第3部が終了しました。最後はかなり強引な終わり方にしてしまいましたが, ゼーレの指揮官がまともな人物であること,レイが火星にいることを匂わせていたことか ら,こういう終わり方もありかなと,納得していただけるのではないかと思います。  えっ,何でレイが火星にいるのかって?全ては,この戦いの勝利の伏線なのです。月だ と光が届かないかもしれませんし,金星だと厚い雲があります。消去法で火星になった訳 です。地球外からの光というのは,ネルフの存続に一役買いますしね。まあ,他にも理由 はありますが,ネタバレになるので,伏せておきます。  最後はレイに美味しい所を全部持って行かれましたが,シンジやアスカもそれなりに活 躍したので,アスカファンやシンジファンの方,お許し下さい。  で,第4部ですが,ゼーレとの戦いは終止符を打ったため,学園ものになるかもしれま せん。 2002.10.20  written by red-x



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