新世紀エヴァンゲリオン 蒼い瞳のフィアンセ
アタシの考えた通りのシナリオになりそうね。全く、みんなちょろいわね。これで、ア
タシは文化祭の人気者よっ!
第18話 シナリオ
リツコの家に向かったメンバーは、リツコが身の回りの品を持ち出す手伝いをしていた。
記憶喪失のため、リツコは物の置場所が分からず、結構時間がかかってしまったが、それ
でも昼前には家の着くことが出来た。
「みなさ〜ん、お帰りなさい。」
家に着くと、ユキが料理を用意して待っていた。
「惣流さん達は、夜までかかるそうよ。だから、ここにいる皆で食べましょう。」
リビングのテーブルの上には、人数分のドリア、3種類のスパゲッティー、大きな2つの
皿に分けられたサラダ、人数分のコーンスープ、などが並んでいた。アスカ達が来ないこ
とが分かったので、この前と殆ど同じメニューにしたのだ。ユキは料理は出来ても、レパ
ートリーはそんなに多くはない。だから、結構、同じような料理が続くことが多かった。
そのため、アスカ達がいないことは、好都合だったのだ。
「洞木さん、後はお願いね。すぐ戻るから。」
ユキはそう言うと、2人分の食事を持って、自分の家に向かった。妹達の分である。最近
のユキは、アスカの家で料理を作って、それを自宅に持っていくことが多かった。その方
が、2度作らなくて済むからだ。何故か、ユキは、妹達をアスカ達に会わせることを避け
ていた。『居ると凄くうるさくて、私が気を遣うから。』というのが理由だった。
「ええ、任せて。言ってらっしゃい。」
ヒカリは笑顔でユキを送る。
「へえ、結構な量があるやんけ。これなら、腹一杯食べられそうや。」
スパゲッティーとサラダは、量が充分すぎる程あるので、トウジは喜んでいる。
「やっぱり、人数が多いといいですよね、リツコさん、ミサトさん。」
ケンスケもニコニコ顔だ。これは、料理のせいというよりも、左右にミサトとリツコが座
って居るせいだろう。
「じゃあ、皆さん、食べましょう。」
「いっただきま〜す。」
ヒカリの合図で、皆が食事を始める。ドリアとコーンスープは、人数分あるが、それ以外
は早い者勝ちである。全体的に量はたっぷりあるが、好みにバラツキがあると、減るスピ
ードに差が出てしまうのだ。料理を作ったユキは、皆の好みなど知るはずもなかったから、
自分の好きなものが早くなくなる可能性があるのだ。と言っても、たくさん食べるのは、
トウジ、ケンスケ、ミサトの3人であるが。
「おい、トウジ。あんまりがっつくなよ。」
「ケンスケも、ワイのカルボナーラを取るんやないで。」
幸い、ケンスケがミートソース、トウジがカルボナーラ、ミサトがナポリタン、その他の
3人がサラダを主に食べていったので、争いになることは無かった。こうして、遅れて来
たユキも含めて、6人共お腹一杯食べたのだった。
食後には、コーヒーか紅茶である。ここで、朝の映画の話題が出た。
「おい、ケンスケ。どんな映画にするんや。」
「おいおい、惣流のことを分かってないな。あの惣流が、俺に全部任せる訳無いだろう。
映画のあらすじは、もう大体固まっているのさ。」
ケンスケは、そう言いながら、ポケットからDISKを取り出した。
「この中に、3通りのストーリーが入っている。もちろん、作ったのは惣流さ。」
「どんな内容なの。知りたいわ。」
ヒカリも興味があるのか、身を乗り出す。
「じゃあ、これから見てみようぜ。」
ケンスケは、シンジの部屋にあったパソコンを持ってきて、DISKの内容を見ることに
した。その内容とは…。
***
ストーリー1
スーパー美少女のアスカとスーパー美男子のXがエヴァに乗り込み、二人で使徒を倒し
まくる。使徒をほぼ倒し終わった時に、悪の組織ゼーレの攻撃を受けて、二人は傷付き、
倒れる。アスカが最後の力を振り絞って、敵を殲滅するが、敵はサードインパクトを起こ
してしまう。絶望的な状況の元、アスカの愛の力によって奇跡の力を得たXは、その力を
利用し、世界を平和へと導き、悪の手先を滅ぼす。そして、悪の組織と戦い続けることを
誓う。
(注)
・Xは、18歳位の超美男子とする。ラブシーン有り。
・シンジとトウジは、単なるクラスメート。レイは登場しない。
・総司令と副司令は登場しない。ミサトとリツコのみ登場。
ストーリー2
スーパー美少女のアスカとレイは、エヴァに乗り込み、使徒を倒しまくる。シンジとト
ウジは足を引っ張る。使徒をほぼ倒し終わった時に、悪の組織ゼーレの攻撃を受けて、4
人は傷付き、倒れる。アスカが最後の力を振り絞って、敵を殲滅するが、敵はサードイン
パクトを起こしてしまう。絶望的な状況の元、レイは死と引き換えにアスカへエヴァの力
を渡す。アスカのエヴァは、その力で世界を平和へと導き、悪の手先を滅ぼす。そして、
アスカは、悪の組織と戦い続けることを誓う。
(注)
・総司令と副司令は登場しない。ミサトとリツコのみ登場。
・エースパイロットはアスカとレイ。
ストーリー3
スーパー美少女のアスカは、ネルフの作戦部長で名参謀だ。親友のレイは、エヴァに乗
り込み、使徒を倒しまくる。シンジとトウジも共に戦う。使徒をほぼ倒し終わった時に、
悪の組織ゼーレの攻撃を受けて、3人は傷付き、倒れる。そこへ秘蔵のパイロットを投入
し、敵を殲滅するが、敵はサードインパクトを起こしてしまう。絶望的な状況の元、アス
カの好判断により、最後の力を得たエヴァは、その力で世界を平和へと導き、悪の手先を
滅ぼす。そして、アスカは、悪の組織と戦い続けることを誓う。
(注)
・総司令は、ミサト。副司令は登場しない。リツコは登場。
・エースパイロットはレイ。
***
「う〜ん。」
皆頭を抱えた。
「おい、ケンスケ。1だと、シンジが黙ってやせーへんで。今朝、シンジはケンスケのこ
とを睨んでいたさかいな。惣流と他の奴がくっつく展開は、血を見るで。」
「トウジもそう思うか。俺も、シンジの視線は感じていたんだ。やっぱり、1は止めよう。
友達を無くすもんな。」
「でも、碇君は、2にも反対するんじゃないかしら。綾波さんのことをあまり出して欲し
くないだろうし。」
とヒカリ。
「じゃあ、3しかないか。」
肩をすぼめるケンスケだった。
その後、皆でワイワイ言いながら、3を元に、ストーリーを組み立てていった。それが次
のストーリーである。
***
ストーリー3改
スーパー美少女のアスカは、ネルフの作戦部長で名参謀だ。エースパイロットのシンジ
は、レイやトウジと共にエヴァに乗り込み、使徒を倒しまくる。使徒をほぼ倒し終わった
時に、悪の組織ゼーレの攻撃を受けて、パイロット3人は傷付き、倒れる。そこへ秘蔵の
パイロットを投入し、敵を殲滅するが、敵はサードインパクトを起こしてしまう。絶望的
な状況の元、傷付いたシンジを見て、アスカは愛を告白する。アスカの愛の告白に力を得
たシンジは、最後の力を振り絞る。その力で世界を平和へと導き、悪の手先を滅ぼす。そ
して、アスカとシンジは、悪の組織と戦い続けることを誓う。
(注)
・総司令は、ミサト。副司令は登場しない。リツコは登場。
・エースパイロットはシンジ。
***
「よし、これならシンジも喜ぶよ。」
ケンスケは得意満面である。
「うん、これなら、シンジも文句は言わないはずや。」
トウジも胸をなでおろしている。
「後は、アスカがウンって言うかどうかね。」
ヒカリはやや不安げである。
「惣流さんなら、大丈夫だと思いますけど。」
とユキ。
「そうや。惣流かて、シンジの手前、反対しないやろ。」
トウジは二人が恋人になったから大丈夫と踏んだのだ。
「よし、それじゃあ、これで行こう。」
ケンスケが最終判断を下す。
「でも、私が司令なんかでいいのかしら。」
ミサトはちょっと不安らしい。
「私だって、技術部長なのよ。不安だわ。でも、あんなおじさんよりも、ミサトが司令だ
った方が、客受けはいいと思うわ。」
リツコは、どうも全くゲンドウのことが記憶に無いらしい。
そんなことを話しているうちに、いつの間にか夕方になってしまっていた。結局、アスカ
が帰ってきてから決定しようということになったが、ケンスケは皆で言おうと主張したた
め、大人数での夕食が決定した。
***
アスカ達が帰って来たのは、7時頃だった。
「あら、今日も凄い料理なのね。」
テーブルの上には、子牛のステーキをメインに、フルコースとも言うべき料理が並んでい
た。ちゃんとしたお店ならば、次々と運ばれてくる筈だが、そこは一般家庭、全部一度に
並んでいる。家に入った時には、少し機嫌の悪そうだったアスカだが、料理を見るなり、
ニンマリとしていた。料理が良ければアスカの機嫌が良くなるだろうというユキの発案だ
ったが、ズバリ当たったようだ。
「でも、どうやって食べようかしら。」
ふとアスカが呟く。
それを聞いたユキは、青ざめる。アスカの右手が本調子でないことを忘れていたのだ。
「ご、ごめんなさい…。」
ユキは俯いてしまう。
「いいよ。僕がアスカの手伝いをするから、気にしないで。」
シンジが慰めの言葉をかけた。
「しょうがないわね。シンジに頼むことにするわ。ユキも気にしないで。」
アスカが笑ってユキを慰めたため、ユキはホッとした。
こうして、アスカはシンジに食べさせてもらうことになった。そのためか、二人の周りは
物凄く暑かったという。
夕食の後、皆でコーヒーやら紅茶を飲みながら、ケンスケが映画のストーリーを説明し
た。そして、ケンスケは、最初にシンジに感想を聞いた。
「アスカが主人公だし、活躍するし、良いと思うよ。」
シンジはにこやかだった。自分とアスカが恋人になるという展開なのだから、不満があろ
う訳がない。
アスカはそんなシンジを見ていたが、肩をすくめて言った。
「まあ、気に入らないけど、相田の腕じゃあ、その程度が限界みたいね。シンジが良いな
ら、まあ良いわ。」
その言葉に、その場に居た全員がホッとした。こうして、映画のシナリオは、ほぼ固まり
後は、ケンスケの腕次第となったのである。だが、ケンスケは、アスカを少し甘く見てい
たことに後悔する破目となる運命だった。
今回決まったシナリオは、元々アスカが考えていたものと大差が無かった。だが、アスカ
は、自分からシンジと恋人になるというストーリーは提案出来なかったため、皆がそうい
うストーリーを提案するように誘導したのだ。アスカの作戦勝ちである。
(まあ、後でシナリオを修正すればいいか。愛の告白は、シンジからに変えればいいし。
でも、やっぱりストーリー3をベースにしたようね。全く、みんな、ちょろいわね。)
人知れず、アスカはニンマリとしていた。
映画の話が一段落した後、客は次々と帰って行った。アスカは、ユキに頼んで、ヒカリ
を泊めてもらうことにした。ケンスケは、トウジの部屋に泊まることになり、連れ立って
帰って行った。
問題は、ミサトとリツコであったが、アスカは正直に事情を話した。使徒に精神攻撃を受
けて以来、精神的に不安定であること、体調を崩して最近まで入院していたこと、一人で
寝ると悪夢にうなされるため、シンジと一緒に寝ていること。そして、証拠として、今日
ネルフから持ってきた使徒の映像とアスカの入院時の映像を二人に見せたのである。
記憶を失って以来、一般人と同じ感覚を持つようになった二人にとっては、その映像はか
なりインパクトがあったらしく、簡単に信じてくれた。このため、二人は堂々と一緒に眠
ることが出来たのである。
二人が横になって直ぐにアスカが口を開いた。
「ねえ、シンジ。アタシはドイツに行った方が良いのかな。」
「そんなことないよ。アスカは、こっちで頑張って欲しいな。ミサトさんが帰って来たこ
とだし、アスカが居た方が、ミサトさんの記憶が戻り易いと思うし。僕も、アスカのこと
が好きだからというのもあるけど、それ以外にも居て欲しい理由がたくさんあるんだ。」
「でも、どうやって断るの。何か、良い断り文句があるの。」
「う〜ん、それは…。」
シンジは黙ってしまう。
「そうよね。元々、アタシはドイツの人間だから、戻って来いって言われたら、戻るのが
筋なのよね。義理とは言え、両親も居るし。ここに居る理由は無いのよね…。」
その日はそれ以上、会話は進まず、二人はいつしか眠りに付いた。
(第18.5話へ)
(第19話へ)
(目次へ)
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あとがき
映画の中でもシンジと恋人同士になろうとするアスカですが、自分からはそんなことは
言い出せません。そんなひねくれた所は変わっていませんね。しかし、他の皆が到底受け
入れられない案を作って、自分の思うシナリオに誘導していきます。
2001.12.30 written by red-x