新世紀エヴァンゲリオン 蒼い瞳のフィアンセ第7話

新世紀エヴァンゲリオン 蒼い瞳のフィアンセ



第7話 マヤのお手伝い



 アスカとシンジが朝食を終えた頃には、8時を過ぎようとしていた。アスカは、マヤの

仕事の手伝いをする約束になっていたことを思い出し、シンジに尋ねた。


「ねえ、シンジ。昨日マヤからお仕事頼まれたでしょう。出してみて。」


「うん、ちょっと待ってて。」

そう言うとシンジは昨日マヤから預かった書類やらDISKやらを持ってきた。それを見

たアスカは目をぱちくりさせた。


「え〜っ、そんなにあるの。で、一体いつまでにやればいいの。」


「えっ、え〜っと。」

シンジは昨日のマヤとの会話を思い出していた。



***



「シンジ君、これお願いね。悪いけど、急いでやるように、アスカちゃんに伝えて欲しい

の。今人手不足だから、病人に頼むのは気がひけるんだけど。」


「ええ、大丈夫ですよ。僕も手伝いますし。アスカなら、僕より優秀だから、そんなに時

間はかからないと思います。で、いつまでに終わらせればいいんですか。」


「ええ、実は明日…。」

そこまでマヤが言った所で、電話がかかってきた。マヤは、真剣な表情で相手と喋ってい

たが、急に電話を切ると、シンジに向かって言った。


「ごめんなさい。急なトラブルがあって、今すぐ行かなくてはいけないの。じゃあ、明日

またね。」

そう言うと、マヤは足早に去って行った。


「明日か。大丈夫かな。」

ちょっと心配になるシンジであった。



***



「マヤさんは、昨日の時点で、明日にって言っていたから、今日中になるかな。」


「え〜っ、シンジ、ホント!嘘でしょう!」

アスカの目が点になった。書類の分量も多く、とてもじゃないが、普通にやっていたら、

到底今日中に間に合わないように感じたのだ。


「う、うん。ごめん、僕も、アスカなら大丈夫って言っちゃったんだ。」


「んも〜、シンジったら、勝手な事言わないでよ。」

アスカは憤慨してみせた。だが、実はそれほど怒っていない。


「しょうがない、シンジも手伝うのよ。」

アスカは、シンジをこき使える名目が出来たことに、喜びを感じていた。


「うん、分かった。手伝うよ。何をやればいいの。」


「そうね〜。体を使う仕事は、全部シンジね。」


そう言って、アスカはシンジに次々と指示を下した。最初はパソコンの準備である。1台

では足りないので、アスカはシンジやミサトのパソコンも用意するように言った。3台の

パソコンとドライブを接続するのもシンジである。


アスカはというと、シンジがパソコンの準備をしている間は、書類を物凄いスピ−ドで読

んでいた。だが、次第にこめかみの辺りに青筋が立っていた。

(なあに、これ!こんな難しいのを1日でやれって言うの。無茶だわ。マヤの奴、こんな

のを1日でやれなんて、一体、何考えているのかしら。)


アスカは頭に血が昇っていた。それを見ていたシンジは、珍しくアスカの気持ちが分かっ

たらしく、こう言って来た。


「アスカ。マヤさんに頼んで、締切を伸ばしてもらおうか。」


だが、素直じゃないアスカは、これに反発した。


「こんなの、普通の人は1週間はかかるけど、アタシは天才少女なのよ。こんなのお茶の

子サイサイよ!アンタ、まさか、アタシには無理だなんて思っていない?」


「い、いや、そうは思わないけど…。」


「じゃあ、さっさと動く!アンタが手伝わないと、出来るものも出来なくなっちゃうわ。」


「う、うん、そうだよね。アスカなら出来るよね。ごめんね、変なこと言って。」

シンジはそう言ってにっこりする。


「あ、当たり前でしょ。まあ、分かればいいわ。」

そう言った後、アスカは心の中ではひどく落ち込んだ。


(あちゃあ、また心にも無いこと、言っちゃった。ああは言ったけど、本当は自信無いの

よね。仕方無い。嫌だけど、超裏技を使うしかないわね。)


アスカはそんな事を思いつつ、やっと準備が整ったパソコンに向かって、物凄い勢いで入

力を開始した。


「こんちくしょおおおおおおおおおおおおおおおっ!」


「だああああああああああああああああああああっ!」


「おうりゃあああああああああああああああああっ!」


「ふんぬううううううううううううううううううっ!」


アスカはなりふり構わず、3台のパソコンを駆使していった。こうなると、シンジの出番

は全く無いように思ったが、さすがにアスカである。『疲れた!』『お腹空いた!』『肩

が凝る!』『指が痛い!』『腕が痛い!』『水飲みたい!』『トイレ行きたい!』などと

言っては、シンジに肩や腕を揉ませたり、足を揉ませたり、トイレに連れて行かせたりと

散々こき使った。食事や水は、シンジに口まで運ばせ、アスカは殆ど休む間も無く、パソ

コンを駆使したのである。


シンジはお蔭でかなり疲れてしまったが、悪いことばかりでは無かった。アスカが間違え

『胸』と言ったので、シンジが反射的に胸を揉んでしまったのだが、アスカは何故か気

が付かなかったようで、何事も無かったのだ。おかげでシンジは、ほっとしたと同時に、

何か得したような良い気分になった。



***



「おうりゃあああああああああああああああああっ!これで最後よ!」


アスカが叫んだ時には、時計は夜の6時を示していた。


「シンジ、終わったわよ!」


「やったね!さすが、アスカだ。」

シンジはそう言ってにっこりする。


「まあね、アタシにかかれば、こんなの楽勝よ。」

(ひいっ、きつかった。ホントにこんな時間に終わるとは信じられないわ。でも、シンジ

にああ言った手前、今日中に終わって良かったわ。)


「シンジ、早速マヤの所へ行きなさいよ。」


「え、でも、食事はどうするの。」


「シンジが帰ってきてからでいいわ。どうせ、シンジがいないと何も出来ないし。」


「うん、わかったよ。じゃあ、なるべく早く帰って来るよ。」


「運ぶモノがモノだから、諜報部の人に送ってもらいなさいよ。」


「うん、分かったよ。」


シンジはそう言うと、シンジ達の護衛役の諜報部員に連絡した。実は、その方が早く帰っ

て来れるからなのだが、アスカは機転を利かし、機密を運ぶから止むなしという理由で、

諜報部をアッシ−に使うことにしたのだ。


「…じゃあ、そういうことで、よろしくお願いします。」


諜報部と連絡が取れたシンジは、急いで出て行った。後には、静寂が残った。アスカはと

言うと、疲れ果てて動けない状態だった。だから、シンジがいなくても、特に問題は無か

ったのである。


(しばらく休めば疲れも取れるだろうし、アイツが帰って来た頃に食事するのが丁度いい

わね。今食事が目の前にあっても、とてもじゃないけど、食べられないものね。食べたら

風呂に入って、すぐ寝よう。でも、今日は凄く疲れたわね。マヤも病み上がりのアタシに

こんなに労働させるなんて、酷いわね。まあ、アタシみたいな天才少女は他にいないから

しょうがないんでしょうけどね。)


などと思いつつ、アスカは一休みしたが、はっと思いついたことがあって、再びパソコン

を動かした。そして、かなり難儀した末に、求める情報に辿り着いた。


(こ、これは…。ま、まさか…。信じられない…。)

アスカは求める情報を得た後、呆然としていた。



***



 一方、シンジは30分ほどで、マヤの所に辿り着いていた。普通に来れば1時間はかか

るので、大幅な時間の短縮である。マヤは自分のデスクでパソコンを叩いていた。


「マヤさん。お約束のものを届けに来ました。」


マヤを見つけたシンジは声をかけたが、何故かマヤは怪訝そうな顔をしていた。


「どうしたの、シンジ君。アスカちゃんの面倒を見るんじゃなかったの。」


「えっ、マヤさんが今日来るように言ったから来たんですよ。」


「アスカちゃんに頼んだ仕事のこと?今日は進捗状況だけでも良かったのに。」


「はあ?」

シンジは訳が分からなかった。何か、話がかみ合っていない。


「マヤさん、一応頼まれた物は仕上がったんで、持ってきたんですが。」


「シンジ君。アスカちゃんに頼んだ作業は、私がやっても1週間やそこらじゃ終わらない

のよ。だから今日持ってきたのは、おそらく1日分のものだと思うわ。アスカちゃんは、

何か勘違いしたのかしら。全部終わらないと、受け取ってもあまり意味はないの。だから

全部終わってから持ってきて欲しいのよ。シンジ君は、どこまで作業が終わったのか分か

るかしら。」


「え、僕は全部終わったって聞きましたから、てっきりこれが全部だと思ってました。」


「ごめんなさいね。私がちゃんと言わなかったのが悪いのよね。後でアスカちゃんに電話

で進捗状況を聞くわ。だから、悪いけど、それは一旦持って帰って。」


「でも,アスカは終わったって言ってました。だから、これは置いていきたいんです。」

シンジは、このまま持って帰るとアスカの怒りが炸裂することが分かりきっていたので、

珍しく強硬だった。さすがにマヤもシンジが強硬な理由に気付いたようだった。


「う〜ん、そうね。シンジ君も無駄足になっては悪いものね。分かったわ。DISKを貸

して。」


シンジがDISKを渡すと、マヤはそれをドライブに入れた。


「今、MAGIにチェックさせているわ。それで、どこまで終わったか、大体分かると思

うから、ちょっと待っててね。コ−ヒ−でもどう。」


「は、はい。いただきます。」


シンジは勧められるまま、コ−ヒ−を飲んだ。しばらくすると、ドライブからDISKが

出てきた。チェックは終わったらしい。マヤは、パソコンを操作すると顔色が険しくなっ

た。


「う、うそ…。」


マヤの顔は真っ青だった。


「マヤさん、何か問題でもありましたか。」

シンジが声をかけたが、マヤは首を振った。


「シンジ君。ちょっと聞きたいことがあるんだけど、あなたはどれ位手伝ったの。」


「と、いいますと?」


「具体的に、入力作業はどれ位やったのか聞きたいの。」


「僕は、入力は一切やってません。パソコンをセットした後は触っていません。僕が手伝

ったのは、主に食事を作ったり、物を動かしたりといった事位です。」

そう言った後、シンジはマヤの質問の意図を誤解し、こう答えた。


「マヤさん。アスカはまだ、右手が思うように動かないんです。だから、入力の時も左手

だけしか使っていませんでした。ですから、間違いが多いかもしれませんが…。」


だが、それを聞いたマヤはさらに顔を強張らせた。


「マヤさん、一体どうしたんですか。」


シンジはちょっと語気を強めて聞いた。


「う、ううん、何でもないの。アスカちゃんには、私が物凄く感謝していたって言ってお

いて欲しいの。シンジ君、お願いね。」


「ええ、わかりました。じゃあ、アスカには、残りの作業も急いでやるように言っておき

ますよ。」


「ううん、いいの。私、渡す物を間違えたみたい。だから、アスカちゃんは全部仕上げ終

わっているの。また、連絡するから、その後でもっとたくさん仕事をあげるわね。」


「はい、わかりました。」

シンジは一礼すると、去って行った。



しばらくして、青葉がマヤの側に寄って来た。青葉は、一部始終を聞いていて、気になっ

てやって来たのだ。


「マヤちゃん、怖い顔して、どうしたんだい。」


「私、アスカちゃんがどうしても技術部に欲しいの。青葉さんも協力して。」


「おいおい、どうしたんだい。話が見えないけど。」


「私、アスカちゃんにお仕事を頼んだの。それが、私で1か月、先輩でも1週間はかかる

程の分量だったの。」


「へ〜っ、そりゃあ、アスカちゃんも大変だろう。今頃、ひいひい言っているんじゃない

かい。」


「それが、昨日頼んだのに、もう出来上がっているの。彼女、本当に天才だわ。」


「え〜っ、嘘だろう。」


「しかも、アスカちゃんは、利き腕がうまく動かないのよ。しかも、MAGIにチェック

させたら、結果は完璧。ミス無しなのよ。信じられます?」


「そりゃあ、驚いた。」


「こうしちゃいられないわ。アスカちゃんのことを広報部が欲しがっていたの。司令に直

訴しないと。」


言うが早いか、マヤは走り出していた。


「あの、アスカちゃんがね〜。」


青葉は、マヤの後ろ姿を呆然と見送った。



***



「…というわけで、アスカちゃんを技術部にください。お願いします。」

マヤはゲンドウに頭を下げた。


「アスカ君は、そんなに能力があるのかね。」

横から冬月が口を出した。


「はい、驚異的な能力です。彼女を技術部に頂ければ、NR計画は少なくとも1月、ER

計画は3月予定が繰り上げられます。正直言って、彼女無しでは、私の体が持ちません。

スケジュ−ル的にも、99%不可能です。ですから、広報部ではなく、技術部にください。

お願いします。」


そう言ってマヤは再び頭を下げた。


「碇よ、どうする。話を聞くと、アスカ君は技術部に渡した方が良さそうだな。」


「…結論は後ほど連絡する。以上だ。」


ゲンドウは結論を出さずに、マヤが帰るよう促した。マヤは一礼すると、司令室を出て行

った。


マヤが退出した後、冬月は、ゲンドウに問い質した。


「碇よ、どうしてマヤ君に良い返事をしなかったんだ。どう考えても、アスカ君は、マヤ

君の言う通り、技術部に回すべきだろう。」


「本人の意向を聞いてからだ。」


「お前がそんなことを言うとは、意外だな。」


「それより、おかしいとは思わないか。」


「何がだ。」


「ふっ。まあいい。」

こうして、アスカの扱いは、保留となった。



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2001.10.14  written by red-x

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