新世紀エヴァンゲリオン 蒼い瞳のフィアンセ



(やっぱり、シンジと一緒だと安心する。アタシ、弱い女になっちゃったのかな。嫌だけ
どなぜか嫌じゃない。不思議な気持ち。シンジって、弱そうでいて頼もしい。一体なぜ。
何でシンジと一緒だと安心するの。)


第5話 悪夢


(あれ、ここはどこ。) アスカは、暗闇の中で、一人立ちすくんでいた。 (何故、アタシはこんなところにいるの。) しかし、誰も答えない。 (ここはどこ、アタシは何でこんな所にいるの。) やはり、誰も答えない。 (ここはどこ、誰かいないの。ねえ、誰かいるなら出てきてよ〜。) しかし、誰も答える者はいない。 「カツン、カツン。」 遠くから、誰かが歩いて来る音がした。 「あなたは誰?ここはどこなの。」 近づいてくる者は、頭からフ−ドを被っていて、顔は見えない。 「あなたは誰?ここはどこなの。ねえ、答えてよ。」 しかし、答えは返って来ない。 「ねえ、いじわるしないで。誰なの。お願いだから、答えて。」 しかし、一向に答えは返って来ない。 足音は段々と近づいてくる。アスカは何故か恐怖を覚えた。 「ねえ、あなたは誰?いじわるしないで、答えてよ。」 すると、足音はやっと止まった。そして、その者はフ−ドを取った。それは、白い顔をし た量産型のEvaだった。彼はニヤッと不気味に笑った。 「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああ!」 アスカは逃げた。必死に逃げた。すると、後ろからアスカを追いかける足音が聞こえる。 「来ないで!来ないで!来ないで!来ないで!来ないで!」 アスカは半狂乱になって叫んだ。先の戦闘のトラウマが残っているのか、アスカの戦意は 失われている。 「いやあああああああああああああああああああああああああああ!」 アスカは逃げた。必死に逃げた。しかし、奴は追ってくる。 「誰か助けて!」 必死に叫ぶが、助けは来ない。しかも、足音はどんどん近づいてくる。 「助けて!誰かあああああああああああああああああああああああ!」 アスカは必死に叫ぶが、誰も助けに来ない。 「加持さん、助けて!」 アスカは必死に叫ぶが、助けに来ない。 「ミサト、助けて!」 アスカは必死に叫ぶが、助けに来ない。 「リツコ、助けて!」 アスカは必死に叫ぶが、助けに来ない。 アスカは次第に奴が近づいてくるのを感じていた。 (あれ、アタシ、誰か大事な人を忘れている。誰だろう。アタシのことをいつも助けてく れた人。アタシのことをいつも心配してくれた人、あれは、一体誰。) 足音はさらに近づいてくる。 「来ないで!」 アスカは必死になって叫ぶが、足音はどんどん近づいてくる。 (アタシったら、大事な人を忘れている。あれは…あれは…) とうとう、アスカは奴に追いつかれ、引きずり倒された。彼は、不気味に笑う。 「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああ!」 アスカは半狂乱になって叫ぶが、腰が抜けたのか、動けない。 奴は、手にロンギヌスの槍を持っていた。そして、槍を掲げて、今にもアスカを貫こうと する。 (誰か助けて!誰か!誰か!誰か!) その時、急にアスカの脳裏に気弱そうな少年の顔が浮かぶ。 (アタシったら、何で気付かなかったんだろう。何で、何で…。) アスカの目から涙がこぼれ落ちる。だが、ロンギヌスの槍は、構わずアスカめがけて振り 下ろされる。しかし、間一髪、アスカの心からの叫びが間に合った。 「シンジ!」 アスカが叫ぶと同時に、白いEvaは動きを止め、ゆっくりと崩れ落ちる。その後ろから 現れたのは…。 「シンジ!」 アスカはシンジに抱きつく。 「シンジ!シンジ!シンジ!シンジ!シンジ!」 アスカは、シンジを強く抱きしめた。 *** そこで、アスカの目が覚めた。目が覚めても、アスカはシンジに抱きついていた。目から は大粒の涙を流していた。 「アスカ、どうしたんだよ。落ち着いて。大丈夫だから。」 シンジは優しく言う。 「うわぁ〜ん。シンジ〜、怖かったよ〜。うわぁ〜ん。」 アスカは泣きじゃくる。 「アスカ、怖い夢を見たんだね。でも、もう大丈夫だよ。安心して。いいよ。」 「シンジのバカ!何でもっと早く来ないのよ!怖かったんだから、本当に怖かったんだか ら、もっと早く来なさいよ!」 アスカは気が動転して、無茶苦茶なことを言う。シンジが早く来れるはずがないのに。だ が、シンジは優しく応える。 「アスカ、ごめんね。怖い夢を見たんだね。でも、もう大丈夫だよ。」 シンジの優しい声にアスカは徐々に落ち着きを取り戻した。 「あのね、白い奴が襲ってきたの。アタシ逃げたんだけど、追いつかれたの。怖かった、 本当に怖かったの。アタシ本当に、死ぬかと思ったの。」 「そうか、でも大丈夫だよ。奴らはもういない。心配しなくていいよ。」 シンジはそう言って微笑む。だが、アスカはまだ震えている。 (どうしよう、怖い、怖いよ。どうしたらいいの、どうしたら…。そうだ、恥ずかしいけ ど、お願いしてみよう。恥ずかしいなんて言っていられる場合じゃ無いわ。) 「ねえシンジ、お願いがあるの。」 アスカは少し震える声で言う。 「どうしたの、アスカ。」 シンジもアスカの様子が変なのに気付き、優しく聞く。 「怖いから、一緒に寝て欲しいの。」 (シンジお願い。アタシ凄く怖いの。) 「ええっ!」 シンジは固まってしまった。 「ねえ、お願い。本当に怖いの。何でも言うこと聞くから、お願い。」 アスカも必死である。あんな怖い夢を見た後なので、不安でたまらないのだ。 だが、シンジは考え込んでしまった。実は、シンジはつい先程まで、アスカの裸を思い 出してニヤニヤしていたのだから無理はない。今一緒に寝ると、シンジの理性が保たれる かどうか、自信が無かったのだ。 ここでアスカは大きな勘違いをした。ためらうシンジを見て、シンジが自分のことを嫌 がっていると思ってしまったのだ。 (アタシ、シンジにいつも嫌なことばかりしているから、嫌われちゃったんだわ。) 普段のアスカなら、決してそんな勘違いはしないのだが、使徒に精神攻撃をされ、白いE vaに襲われ、精神的に不安定になっていたアスカは、大きな勘違いをし、本能的に女の 武器を使うことを決断したのだ。  アスカはシンジを布団の中に引きずり込むと、ためらわずにタンクトップを脱ぎ捨て、 下着1枚の姿になり、シンジに抱きついた。 「シンジ、お願い、見捨てないで。」 アスカは涙を流して懇願した。こうなると、シンジは断れない。アスカの頼みに従い、シ ンジは、アスカを抱きしめた。シンジは上半身に何も身に付けていなかったため、心地よ い温もりが感じられ、それがより一層アスカの心を和ませた。いつの間にか、アスカの目 が閉じられていて、シンジの顔の近くにあった。シンジは、アスカを優しく抱き、そっと キスをした。シンジの背中に回されたアスカの腕にも力がこもった。  5分にもなろうかという長いキスの後、名残惜しそうに二人の口は糸を引いて離れた。 二人とも舌を絡めるキスは、初めてだった。既にシンジの頭は真っ白である。アスカの頭 もとろけそうになっていた。 「シンジ、お願いだから、後ろから抱きしめて。」 アスカの求めに応じて、シンジはアスカの後ろから抱きしめる形をとる。 (やっぱり、シンジと一緒だと安心する。アタシ、弱い女になっちゃったのかな。嫌だけ どなぜか嫌じゃない。不思議な気持ち。シンジって、弱そうでいて頼もしい。一体なぜ。 何でシンジと一緒だと安心するの。) 「シンジって、あったかい。いつまでもこうしていたいな。」 アスカはそう呟いた。そして何気なくシンジの右手を取り、自分の左胸に当てる。シンジ の手の温もりに安心するアスカ。だが、納まらないのはシンジである。シンジの股間は、 今にも爆発しそうになっていたのだ。 「でも、アスカ。僕も男だから、アスカに襲いかかるかもしれないよ。それでもいいの。」 シンジが尋ねたが、アスカは嬉しそうにこう答えた。 「アタシ、シンジのこと信じているわ。だから、大丈夫よ!」 (シンジは優しいから、こんな時に変なことはしないわよ。分かっているわよ。) 「でも、僕だって男なんだよ。どうなるか、わからないじゃないか。」 「大丈夫よ。シンジは優しいもの。そんなことしないわ。アタシ、信じてるから。」 そう言うと、安心したようにアスカはすやすやと眠ってしまった。そして、直ぐに寝息を 立てて眠り始めた。 (一体、なんなんだよ〜!) シンジは叫びたかった。いきなりいい雰囲気になったかと思えば、同じくいきなりアスカ は寝てしまったのだ。かといって、先程のアスカの悲鳴を聞いたシンジには、アスカに襲 いかかることは出来やしない。ましてや、アスカはシンジのことを信じてると言ったのだ。 その期待を裏切りたくはなかった。せっかく、今日はいい雰囲気になったのだから、今後 もこの雰囲気を大切にしたかった。 (はああっ、僕は一体どうすりゃいいの。) シンジの体の一部は熱を帯びていたが、シンジにはどうすることもできなかった。自棄に なってアスカの右胸を、空いている左手で揉もうかとも思ったが、虚しくなってやめた。 自分が苦しくなるだけである。今、左手はアスカの首の下を通しているため、動かしにく い。右手もアスカに掴まれたまま、アスカの左胸に添えられている。はっきり言って、両 手がふさがって、何も出来ない状態である。アスカを起こす気ならともかく、せっかく、 すやすや寝ているアスカを起こすような真似は、ためらわれたのだ。 (僕は、どうすりゃあ、いいんだよ〜。) シンジの悲しい叫びが、心の中を木霊した。ふと『無様ね。』と誰かが言ったような気が した。 (第5.5話へ) (第6話へ) (目次へ)

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― あとがき 「女の武器」とは、涙のことです。念のため。 2001.10.7 written by red-x



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