新世紀エヴァンゲリオン 蒼い瞳のフィアンセ



 カメラのフラッシュが眩しい。何でアタシはこんなところにいるんだろう。レイの遺影
を胸に抱いて…。碇司令や冬月副司令がいる。シンジや鈴原もいる。シンジは、アタシの
知らない少年の遺影を抱えている。一体あれは誰?


第1話 記者会見


「こりゃ〜、バカシンジ!だましたな〜!」 「ち、違うよ。本当に知らなかったんだよ。信じてよ。」 「うるさ〜い!バカシンジ!」  言うが早いか、シンジの頬に真っ赤な紅葉が出来ていた。  シンジとアスカは、我が家に戻ってきたが、冬月副司令から呼び出しがあり、ネルフ本 部に行くことになったのだ。しかも、アスカは、いったん病院に行くようにとの指示だっ たため、アスカの怒りが爆発した。朝9時に退院し、10時に我が家に戻ったのに、12 時までには病院に行かなくてはならないのだ。病院から苦労してようやく帰ってきたのだ から、アスカが怒るもの無理からぬことであった。ただ、怒りの矛先には問題があったの だが。  苦労して病院へ行くと、待ち構えていた看護婦の手によって、アスカの顔左半分に包帯 が巻かれた。未だにアスカの左目には視力が戻らず、眼帯をしていたのだが、その上から 包帯をぐるぐる巻きにされたのだ。後で聞いた話では、アスカの顔が公になるのはまずい と碇ゲンドウが判断したためだという。頭全体にも包帯が巻かれ髪の毛が見えないほどに なったアスカは、車椅子に座らされた。そして、シンジに車椅子を押してもらって、発令 所に向かった。  発令所では、碇ゲンドウと冬月副司令、それに鈴原トウジが待っていた。そして、冬月 から、記者会見を行う旨説明があった。冬月によると、ゼ−レを叩き、ネルフを再建する ためにはどうしても必要な事だという。冬月は、『嘘を言う必要はない。思ったことを正 直に言ってみなさい』と言ってくれた。アスカとトウジは首を縦に振ったが、シンジは少 しためらった後、カヲルの遺影と一緒ならという条件付で最終的に折れた。  記者会見の場は、異様な雰囲気に包まれていた。最初にエヴァンゲリオンと使徒との戦 いの記録が上映され、記者達は戦慄を覚えた。異形の者達とロボットとの戦いに、恐怖を 感じる者も多かった。  次にパイロットの紹介が行われ、次の内容の文書が配布された。 『パイロットリ−ダ−: 中学3年生/女/エヴァンゲリオンパイロット 戦略自衛隊及びゼ−レのエヴァンゲリオンに襲撃され重傷を負う。 ファ−ストパイロット: 中学2年生/女/エヴァンゲリオン零号機専属パイロット 戦略自衛隊の襲撃を受け戦死。  セカンドパイロット: 中学2年生/女/エヴァンゲリオン弐号機専属パイロット 使徒との戦闘の際重傷を負い入院中。  サ−ドパイロット: 中学2年生/男/初号機専属パイロット ゼ−レのエヴァンゲリオンに襲撃され軽傷を負うが完治。  フォ−スパイロット: 中学2年生/男/参号機専属パイロット 使徒との戦闘の際重傷を負うがほぼ完治。  フィフスパイロット: 中学2年生/男/パイロット 使徒との戦闘の際戦死』  パイロットの紹介が行われると、記者達は驚いた。あのような化物相手に子供達が立ち 向かっていたとは、信じられない思いだった。  その時、一人の記者がどんな気持ちで戦ったのかを質問した。車椅子の少女は、『人類 の存亡をかけて戦った』と胸を張った。これを聞いた記者達は感動した。しかし、気弱そ うな少年は、『戦いたくなかった、命を奪うのは嫌だった、何度も何度も逃げ出した』と 涙を流した。少年は、『遺影の少年少女が自分を助けるために犠牲になった』と、声を殺 して泣いた。これを見て、記者の多くは胸を詰まらせた。  そして、戦略自衛隊がネルフの職員をむごたらしく虐殺していった記録が上映された。 投降する者や逃げる者に容赦なく浴びせられる銃弾。命乞いをする者を笑って撃ち殺す兵 士。阿鼻叫喚の地獄絵だった。最後に、うずくまっている少年に兵士が銃を突きつける場 面が映った。  この時、記者からどうして助かったのかと質問があった。気弱そうな少年は、『家族が 助けてくれたんです』、と小さな声で答えた。その人の話を聞きたいと、記者が尋ねた。 少年は、またもや小さな声で、『殺されました』と答えた。そして、声を殺して泣き始め た。さらに、『この遺影の少女もきっと殺されたんです』、と車椅子の少女が呟き、涙を 流した。記者達は、少年少女達の過酷な運命を知って、言葉を失った。  最後に、ゼ−レのエヴァシリ−ズと弐号機の戦いが上映された。食い散らかされた弐号 機を見て、何人もの記者が嘔吐感を覚えた。サ−ドインパクトの瞬間の映像には、誰もが 見入った。  上映が終わると、冬月が概略を説明した。少年少女達が、使徒と呼ばれる化物達相手に 命懸けで戦ったこと、同じ人間に命を狙われ大きなショックを受けていること、ゼ−レの 狙いがサ−ドインパクトを起こすことであったこと、少年少女達の活躍でサ−ドインパク トによる人類滅亡が阻止されたがその原因まではわからないこと、などである。  冬月の説明の後、記者から質問があった。ネルフの説明だと、ゼ−レが一方的に悪いよ うに聞こえるが、それは真実なのかと。これには、シンジの怒りが爆発した。シンジは質 問した記者に飛び掛かり、襟首をつかんで絶叫した。 「彼が何をした!あの子が何をした!二人とも僕の為に命を捨てたんだ!それのどこが悪 い!なぜ殺された!教えろ!彼らのどこが悪いんだ!教えてくれよ!」 記者は反論出来なかった。  するとそれまで黙っていた少年がすっくと立ち上がった。 「ワイは馬鹿だからわからへん。教えてくれや。あの女の子は、戦って戦って戦い抜いて、 死んでしもうた。あの子は戦った後はいつも傷だらけやった。怖かったろうに、使命だか らと言って決して逃げへんかった。そんなにしてまで化物達と戦こうたのに、最後には人 間に殺されてしもうた。一体あの子は何のために生まれてきたんや。誰か教えてくれや。 あの子が何をしたんや。何か悪いことをしたんか。頼むから教えてくれや。」 そう言って少年は頭を垂れて泣いた。  暫く、静寂が会場を支配していたが、それまで二人の様子を見ていた車椅子の少女が、 マイクを握り静かに語り始めた。 「私は、幼い頃から厳しい訓練に耐えてきました。心も体もぼろぼろになりながらも歯を 食いしばって頑張りました。この世に地獄をもたらすと言われる使徒達と戦うためです。 私は幼い頃から生き地獄の中で育ってきました。ですから他の人に同じ思いをさせたくな かったのです。私は人類の未来を切り開くため命懸けで戦いました。どんなに苦しいこと があっても耐え抜いてきました。ところが本当の地獄をもたらそうとしたのは、あろうこ とか同じ人間だったのです。」 そこまで言うと、少女の声は涙声になり、その瞳には大粒の涙が浮かんだ。 「同じ人間に裏切られ多くの仲間が殺されました。私達は仲間を守るために人の姿をした 悪魔どもと戦いました。そんな私達に非があるというのですか。仲間の命を守るために戦 うことは悪いことですか。」 少女は自らの体を次々に指しながら語った。 「私は、目をつぶされる痛みに耐えました。腕を砕かれる痛みにも耐えました。はらわた を食いちぎられる痛みにも耐えました。私はどんな痛みにも耐えられる自信があります。 でも…、死んでいった仲間を侮辱されるのだけは耐えられないのです!」 少女の頬には涙が止めどなく流れていた。少女は遺影の少女を指しながら語った。 「使徒と戦うために私は鬼になりました。ですから私は何を言われても構いません。地獄 に行くのも当然だと思います。ですがこの子は違います。何度も何度も仲間の楯になって くれた本当に心の優しい子だったのです。せめてこの子だけは気持ちよく天国に行かせて ください。せめてこの子のことだけは信じてやってください。お願いします。」 少女はそう言って頭を下げた。会場は水を打ったように静かになっていた。記者達は少女 の手が震え、涙が床を濡らしているのに気が付いた。静かな口調だが、少女の言葉には胸 を打つものがあった。記者達は少年少女達がくぐり抜けてきた修羅場を想像し涙した。も う、少年少女達の言葉を疑う者は誰一人としていなかった。 (第2話へ)

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―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 2001.9.16  written by red-x 2001.9.20  パイロットの紹介文を一部修正



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