「ゃぁんんんっっぁあっんっっ駄目よぅぅっっはぅんんっっ」
穏やかな午後の昼下がり。似つかわしくない淫らな声が部屋に響く。
彼女は真っ赤なリボンで視界を遮られ、ベッドの背にすがりつくように身体を支えたまま後ろから攻め立てられていた。
その手には鈍く光る手錠…
何故こんな事になったのだろう?そんな疑問が頭を過ぎった次の瞬間には、もう何を考えていたのかもわからない。ただ、声をあげるだけ。
その日はとても暑い夏真っ盛りな日で、宏久の誕生日だった。
やっぱりプレゼントはあげるべきだろうかと悩んだ末、ペットへのプレゼントだしーと冗談半分で選んで買った。すごく似合うだろうと思ったのも事実。
もちろんプレゼントだからと思って大きなリボンもつけてもらった。中身と同じ色のリボン。
宏久は誕生日に私の家に来た。まさか私からプレゼントをもらえるとも思ってなかったらしく、すごく喜んでくれた。袋を開けると、少し驚いたようだったケド、すぐににっこりと笑って言った。
「亜矢子ってこーゆーのもオッケーなんだ。一安心♪」
え?一安心?
「ね、亜矢子が着けてよ。」
そう言って差し出された首に、私は渡されたものを着けた。金属の触れ合う音、素材の感触にゾクッとした。あぁ…やっぱり似合う。
「どう?似合う?」
うん。とだけ答えた。似合い過ぎて何を口走ってしまうかわからないから。
「もっとなんか言ってよ、ご主人様?」
覗き込むようにして賛辞をねだる『コウ』に、噛み付くようにくちづける。
ジャラ
音のした金属を引き、深くくちづける。ねっとりと絡み逃げを許さない。
「おすわり。」
短い命令に従い、足下に座る宏久。じぃっと見上げ、見つめ返してくる。
首には革製の赤い首輪。前についている短い鎖がすごくイイ。
「すごく似合ってるわ。ほんとにイイ。」
かがんで鎖を握り、少し力を込める。引かれて近付いた顔が、鎖の長さよりも近付いてくちびるが重なった。
ガチャッ
「僕からのお礼だよ。」
目を開けると、鎖を持つ手にどこがで見たような金属…
ガチャッ
「なっ…」
目の前の光景に思考を奪われたすきに両手にかけられた金属…手錠?
「ちょっと、何よコレ?外してよ。」
ガチャガチャとうるさい手錠。何がどうなってこんな事に?
「何って、手錠。似合ってるよ?」
仕返しとばかりに荒くくちづけられる。なんでこんなに上手いんだろ…
うっすらと目を開けると眼下でちらつく赤い束縛。私の所有物。ゾクッとする。
「そんなにうっとりと見られるとゾクゾクするな…」
指摘されて頬に朱がはしる。深くくちづけたまま赤い首輪に見とれていたなんて…
恥ずかしくて背を向けた。赤くなった顔を見られるのも恥ずかしい。
「亜矢子…」
後ろから抱きすくめられ、耳朶を噛まれる。
「アッ…」
私が耳が弱いのを知ってるくせに、彼は卑怯だ。あらがう気がそがれる。
抱きすくめていた手は曲線をなぞり、唇は耳から首筋をなぞる。
柔らかに官能をくすぐられ、短い溜め息のような吐息を漏らす事しか出来ない。
「行こうか?」
耳元で囁かれる頃にはもうすがりついて立っているのがやっとだった。
頷いたのを確認すると、手慣れた様子で抱き上げられる。さっきまでの仕返しとばかりに、離れられない両手で襟を掴み、引き寄せて耳を噛む。
ガブ
「痛ッ(泣)」
ベッドに下ろされ、見上げるとにっこりと笑った顔が…ヤな予感…
恐る恐る後ろを向き敵前逃亡を図る。
「悪いコにはそれなりの対応しなくちゃね?結構痛かったし…」
…ものすごくイヤな予感が……
ウエストを抱き寄せられ、手が離れたかと思うと私の視界は赤から黒へ…はい?赤から黒?って何も見えないしっ
「ちょっと、何よコレっ!?外してよっ」
ぷっと吹き出す宏久。なんなのよぅ?
「さっきと同じ事言ってるよ?外さないのも一緒だけど♪」
すごく楽しそうなのが声の雰囲気で伝わってくる。くそ〜自分では外せないのがくやしいっ。手錠につながれた両手は上半身を支えるのに精一杯なのよぅ。
「さて、なんでしょうねぇ?」
はい?視界が赤から黒に変わったから…
「赤い何か?えーっと…ま、まさか…」
「まさか?」
「…赤いリボン?」
ふわっと頭に手が乗せられ、さわさわと撫でられる。
「正解。でも外してあげない〜」
くそぅ…
「心配しなくてもちゃんとご褒美はアゲルよ?」
ほら…と言いながら首筋にキツくくちづけられる。前触れのない刺激をダイレクトに受けてしまう。
「アッんんっっ…」
他はどこにも触れず、ただ唇が首筋から耳元を動く。
突然唇が離れ、宏久との接点がなくなる。気配が遠のき、彼がどこにいるのかわからない。
「ねぇ、どこにいるの?」
答える気配がない。
衣擦れの音さえしない。どこ?
その場に座り込みあたりの気配を探るが、まるで動きが感じられない。視界が遮られた状態というのは、普段得られる情報の大半が得られないという事で、ひどく心細く感じられた。
「ひぁあんんっっ」
不意に胸に刺激が走る。背後に気配を感じたかと思うと背中にぴったりと寄り添う感触。ほっと安堵を浮かべてしまう。
そんな安堵もつかの間。気付けばどうも上半身の風通しがやたら良い気が…
「この服便利だね。カップ付の横ファスナーのベアトップ♪」
いいながら何に邪魔される事なく上半身を撫でまわす大きな手。あーもう何も考えたくないかも。
一見(一見でなくとも)とんでもない状況に置かれながら、それすらどうでも良くなってくる。
「ぁあんん〜っっ」
手の動きに合わせて、甘い声が絶え間なく響く。異常な状態であろうが、彼の趣味としては普通であろうが、そんな事はどうでもいい事で、ただ馴染んだ身体に甘い感触が染み込んでいくだけ。
背中のあちこちにくちづけ、所々に赤い花を咲かせながら、片手は降下を始める。片手で器用にボタンを外す。無駄に器用でそつがない。(無駄なのにそつがないって日本語おかしい…そつがない=無駄がない つまり『無駄に器用で無駄がない』だから)
「ねぇ、亜矢子?ココすごいよ?」
耳元で囁きながら手は水音を立てるのをやめない。もう何を言われても言い返せない。このくちびるが紡ぎだすのは艶やかな旋律。
執拗に弄られる身体。静まらない炎。内に今にも暴れだしそうな獣を飼っているかのよう。
背後から宏久の気配が消えたかと思うと、するっという衣擦れの音がした。露わになった白い肌に頬擦りする宏久。
「ひぁっっ!!」
ふぅっと息を吹きかけられ、足元ががくがくしてくるのがわかる。もうダメ…
「ねぇ…オネガイッ…っっっくぅっっ…」
ゆっくりと、不必要なほどに時間をかけて満たされていく。足ががくがくでもう利かない…崩れていきそうな私を背後から優しく抱き締めてくれる。
手錠よりも、首輪よりも、きつく離れないように束縛する抱擁。
縛られてる。心も身体も…
「くっ…はぅんんっっ!!」
いきなり抱き寄せられるのと同時に思いっきり最奥を突かれる。崩れ落ちる上半身、極度に反り返った背中。不要なほど時間をかけたのはこのためだったのか…一気に意識は30億光年彼方へ飛んで即座に蜻蛉帰ってくる。
背後に嫌でも視線を感じる。熱く、鋭い眼差し。恥ずかしくて、シーツに埋れたいけれど、弛緩した身体はどうにも動きそうもない。
「亜矢子、綺麗だよ。すごくいやらしいけどねvv」
喜々としてそんな事を言ってやがる。身体は言う事を聞かないし、両手の自由もない。ましてや視界は真っ黒。
目からの情報がなくなると心細くなるとは前述したが、それ以上に、他の事に敏感になる。聴覚もそう、嗅覚、味覚、触覚…
宏久の触れる部分が熱い。触れられた部分はどこでも性感帯になってしまったかのようで、彼の手が動くたびに身体を震わせる。
「ねぇ亜矢子?ココがぎゅぅぅっって放してくれないんだけど?」
そんな事耳元で言うなーっっ
耳元にかかる吐息にゾクゾクする。両手が這いまわり無意識のうちに腰が揺れる。もう気が狂いそう…
「そんなに誘わないでよ。亜矢子のいやらしい姿見てるだけでもうダメ…」
ダメなのは私でーすっ…もうっオネガイだからっっ
「ほら、潰れてないで、ここ持って、そう。」
背後から抱き上げられて何かに手をつかされる。
「ゃんっ……」
少し身じろいだだけでもダメなのに、身体を大きく動かされると、身体の中の熱を一層感じてしまう。
「くっ…そんなにしなくても離れないって…大丈夫?ちゃんと持った?」
言われるままに手に触れたものを掴む。ベッドの背かな?ぎゅっと握り締めてコクンと頷いた。
それを合図に、背中にひとつくちづけを落とし、嵐は訪れる。
絶え間ない嬌声と水音、肌のぶつかり合う音。様々な音がその場を支配する。
「ぁんんっっぁあんっっ…んっっだめぇっっ…」
抱き締められると角度が変わってまた声色が変わる。掴んだベッドの背にしなだれかかる。背中に当たる鎖の冷たさにゾクッと身体を振るわせる。
「ゃぁんんんっっぁあっんっっ駄目よぅぅっっはぅんんっっ」
穏やかな午後の昼下がり。似つかわしくない淫らな声が部屋に響く。
彼女は真っ赤なリボンで視界を遮られ、ベッドの背にすがりつくように身体を支えたまま後ろから攻め立てられていた。
その手には鈍く光る手錠…
冒頭に戻るわけである。
最後に… HAPPY BIRTHDAY !!
♪あとがき♪
皆様今晩和。黒晶御剣です。またまた宏久&亜矢子です。お題です。複数個使ってもオッケーって事だったので『プレゼント』『目隠し』『束縛』『眼差し』『気配』の5本立てです。いやぁ〜がんばった。うん。
では、また次の作品でお会いしましょう。
200300808 黒晶御剣 拝
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