1章6話
熱い…。体が、熱いっ! 体が煮えたぎるような感覚がする。
すべての毛穴か開き、そこから何かがあふれ出ている。
私はどこか遠くから自分を見るように、自分の手を見た。
そこにはガラスで出来たような、透明で鋭い剣が握られている。
ふと、魔獣の方を見やる。何事か叫んでいるが、もはやその言葉も私にとって意味をなすものではない。
手に持っている剣を軽く振る。
ピシリ
わめいていた魔物が小さく「ぁ…?」とつぶやいたきりしゃべらなくなった。
その数秒後、いや一瞬のことだったのかもしれない。徐々に目の前の魔獣の顔がずれ、ドシャリと地面に落ちる。
そのリアルな音で、どこかぼんやりとした私の意識は覚醒する。
「ぁ…、嘘…」
汗の滲む手を強く握り締める。
魔獣だったものは地面にどす黒い染みを作りながらそこに在った。
私が殺したのだ。
「わた…し…殺し…た?」
呆然としている私の手には確かに剣が握られていて、目の前の現実を私に知らしめてくる。
血を吸っても美しく妖しく光る剣に、恐くなって剣を落とした。
私の手から離れたそれは徐々に薄くなり、空気に溶けるように消えていった。
その剣は消えてしまったけれど、手に残る感触は依然として私の手に存在している。
いつのまにか細い細い雨が降っていて私の頬を濡らした。
だけど空を見上げたまま立ち尽くす私の心は何も写してはいなかった。
「おいっ、しっかりしろ!!」
「カイト…さん?」
「大丈夫か?」
「…大丈夫です。でも、どうしてここにいるんですか?」
私の問い掛けに対してカイトさんは沈黙し、言いにくそうに事実を話してくれた。
「はぐれたのに気づいて、急いで引き返したんだが…。戻った時には…」
「そう…だったんですか…」
「生きものを自分の手で殺すのは初めてだったんだろう?本当に…すまなかった!」
そういって頭を下げて謝るカイトさん。
カイトさんが悪いんじゃないのに…。はぐれてしまった私が悪いのだ。
「謝らないでください。カイトさん。ほら、こうして無事だったんですし!」
「だが…」
「いいんです」
「……」
心配そうなカイトさんを見ないふりをして歩く。
ついて来ないカイトさんを、笑顔を作って振り返る。
「いかないんですかー?置いていっちゃいますよー」
「あ、あぁ。そうだな。」
私はカイトさんの返事に満足してまた歩きだした。
「…方向間違ってるぞ?」
「そういうのは先に言ってくださいよ!カイトさんのいじわるぅぅぅっ!!」
私が成そうとしていることの為には、こんなことで動転してはいけないのに…
私の心はどうしようもなく揺れ動いていた。