1章4話
ハンター語も無事マスターし終わって、私たちは出発することになった。
本当に、話す言葉が同じでよかったと思う。
意思の疎通が出来なければこの世界での私は生まれたばかりの赤子のようなものである。
こうして読み書きをマスターすることも出来なかっただろう。なんで言葉が通じるのか、不思議だけど。
都合の良いことにはツッコミを入れてはいけないのだ。鉄則だ。
それにしても…
「カイトさんっ…はやい!」
「運動不足じゃないか?」
一般人を万国びっくり超人人間なハンターのモノサシで測らないで欲しい。
ほんと切実に。
私が黙り込んでいるとカイトさんは少し、ほんの少しだけスピードを落として口を開いた。
「念を覚えたいなら体と心を鍛えてからだぞ。度を超した力は主を潰すからな。念を覚える気があるなら…だがな。」
「……私は、どれくらい足りていない?」
私の問いに、カイトさんは走る速度を元に戻しながら答えてくれた。
「お前が死ぬ気でやれば一ヵ月、本気でやれば三ヵ月、だらだらやれば一年だな。体力のみに限定すれば、だが。」
死ぬ気…どの程度なのか想像するのも恐ろしい。
「体術は念を覚えながらでもいいだろう。」
「念、教えてくれるの?」
カイトさんの、念を教えることを前提にしているような言い方が気になって尋ねた。
私の問い掛けにちらりと振り替えって、また前を向く。
「ここまで関わったんだ。お前がなぜ念を覚えたがるのかわからんが、何かをなすために必要としているんだろう?」
「うん。」
「なら、教えるさ。明確な意思があって、目標があるのならな。」
「ありがとう…」
私は足を止めて、どんどん離れていくカイトさんの背中に頭を下げた。
「よろしくお願いします。カイトさん。」
頭をあげてカイトさんに追い付くように思いっきり走りだす。
カイトさんはさり気なくスピードを落として私が追い付くのを待ってくれる。
私が追い付くと、帽子を深くかぶり直しながら小さな小さな声で何かつぶやいた。
「 」
かすかだけど、聞こえてきた言葉が、何よりも嬉しく感じた。
弟子の面倒を見るのは、師匠の仕事だからな
この言葉が、都合の良い空耳でありませんように…。
その後、あまりに嬉しくてスピードをあげすぎた私は、目的地直前でバテてカイトさんに怒られた。
私もまだまだだなぁ…。
目的地はまたジャングル。
カイトさんが探しているジンさんがいるかもしれないということで、ここに来たのだ。
カイトさんは、たぶんいないだろうと言っていたけど。
「……で。だ。何でまたこうなってるのかなぁ。」
なんで、はぐれたんだろう
見失わないように必死でついて行ってたのに
私が不思議に思う暇など、なかったのだ