ふぁっきん×ウサギ=?
今日も疲れた。
私は。去年大学を卒業し、社会人として働き始めて6か月。ちなみに23歳。
だいぶ慣れてきたとはいえ、キツイものはキツイ。
「早く帰ってメイク落として風呂入ってご飯食べて漫画読んで寝よう…」
疲れきった顔で駅から家までの道を急ぐ。
この時間帯、この周辺は結構変質者とかが出没するのだ。
襲われるような美人じゃないけれども。怖いモノは怖い。
それに、今日は通勤前に買ったH×Hの新刊がカバンの中にあるのだ。
一刻も早く帰って読みたい。
と、その時。うつむき加減で歩く私の視界の隅に何かド派手なものがよぎった気がした。
なんだろう。そう思ってそのド派手なモノを目で追った私は、歩くことすら忘れて硬直した。
ショッキングピンクのふぁっきんなウサギ。
「………つかれてるのかな。」
目をこすってもう一度ソレに目をやる。出来れば目の錯覚であることを祈りながら。
腰をくねらせながら歩くショッキングピンクのふぁっきんなウサギ。
どう見ても、派手なウサギである。思わず頬をつねった私はその確かな痛みに顔をしかめる。
「夢…じゃないんですか。」
新手の変質者だろうか。いや…それにしては大きさがおかしい。もう少し大きくないと中には入れないだろう。
どう見ても1メートルないだろう。いや、ウサギにしては十分に大きいのだが…。
くねくねと歩くウサギは、私の変態を見るような視線を感じ取ったのか、ピタリと止まってこちらを見た。
視線と視線が絡み合う。その瞬間、ウサギはビクリと身を震わせて私から目をそらした。
そいつはわたわたと短い手を振りまわし、方向転換するとまさに脱兎のごとく駆け出し始めた。
逃げられると追いたくなるのが捕食者(違う)の心理。
気づけば私もそのふぁっきんウサギの後を追いかけていた。
「くそぅ!元陸上部(万年補欠)をなめるなよ!!」
運動靴で通勤していて良かった。と、今日ほど思ったことはないだろう。
ウサギとつかず離れずの距離を保ちながら走る。
どれだけ走るかわからない以上、オーバーペースは禁物だ。
ウサギはチラチラと私を確認しながら走っている。ヒラヒラと動くショッキングピンクが目に沁みる。
「ふふふ。私がそんなに怖いか。怖いだろうっ!さぁ!逃げてみなっ」
もはやのほうが変質者じみているのは気のせいではない。
私が少しスピードを上げると、ウサギは焦ったように左右をキョロキョロし、左の道に急カーブして消えていった。
私も後を追うようにして左に曲がると、そこにはウサギの姿はなくて、ぽっかりと口をあけたトンネルがあった。
「っはぁ。やるわねウサギ…。でも…こんなところにトンネルなんてあったっけ…?」
私がトンネルを見ていぶかしんでいると、トンネルの奥にあのショッキングピンクがちらつくのが見えた。
その瞬間、そんな疑問など消え去り、ふぁっきんウサギを目指してトンネルへと走り出した。
「くっ…見失った…。やるわねウサギ!」
トンネルを抜けた先の景色の中にふぁっきんウサギの姿を見つけられず、私はがっくりとうなだれた。
疲れた体に鞭打って走ったというのに、収獲がないなんて骨折り損ではないか。
などとぐちぐち言いながら周りの風景を改めて見回す。
緑、ミドリ、翠。どこを見てもその色に覆い尽くされている。林?森?
「むしろ…ジャングル…?」
ぐげぇー。などと変な声が聞こえる。
日本にこのような場所があるのだろうか。しかも、日本の首都に、だ。
答えは否。
こんなところ見たこともなければ、たかがトンネルひとつくぐっただけでここまで奥深いジャングルまで到達できるはずもない。
ではここはどこなのか。
日本ではない、どこかなのだろうか。
「これはいわゆる…神隠し…?」
ちょっとまて。神隠しって子供だけではないのだろうか。
私は良い加減にいい大人である。
私の脳みそが、認めたくない、認めてはいけないと警告を発している。
だけどこんな…。
認めざるを得ないだろう。
私の体長の3倍程度の、見たこともない生物がよだれを垂らしながら私を見つめているのだから。
「ぎ、ぎぃやあああぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!」
消えたウサギ、見知らぬ土地。追われる私。
新しい物語が、今、始まった。
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後書き
ハイ。始めちゃいましたー。H×H連載!
100話ぐらいまで行っちゃうかもー。な連載ですが、
楽しみながらお付き合いいただけると幸いです!
キャラの影すら出てませんが序章なのでお許しを!
2007.9/17 管理人@紅牡丹