未来を変えることが出来ないならせめて、今私に出来ることをしようと思う。
役割
あの試合が終わって、河村くんの招待でお寿司をいただいた。
皆笑顔ではしゃいで、優勝した喜びを分かち合った。
でも私は…。未来を知っていたのに部員が怪我をするのを止められなかった歯痒さと、申し訳なさでいっぱいだった。
もちろん皆の前では笑っていたし、同じようにはしゃいでいたが。
「各自、気を付けて帰るように。」
すっかり夜も更けて、手塚くんの呼び掛けで祝勝会はお開きとなった。
皆がばらばらと帰っていく様子をぼんやりと見つめていると、後ろから声がかかった。
「、もう暗いし家まで送っていくよ。」
「え?周助、私の家と逆方向じゃない。いいよ。一人でも帰れるし♪」
「……僕に送られるのが嫌なんてこと…あるはず無いよね(開眼)」
(………っ!ブラック不二降臨っ!!!)
「ま、まさかそんなことあるはずないじゃないデスカッ!是非このワタクシめを送ってくださいませ!!」
開眼した不二の笑顔…もとい脅しにあっさりと白旗を振った私は周助に促され、歩き始めた。
「今日はどうだった?初めての試合で疲れたでしょ。お疲れさま。」
周助は自分も疲れているだろうに、にねぎらいの言葉をかけてくる。
「私は…何もしてないよ。」
いざというときに震えてなにも出来なかったことを思い出し、は苦笑する。
「今日起ることも知っていたんだよね?知ってるって…つらいね。ひょっとして、こちらにきた事後悔してる?」
周助が少し悲しそうにほほ笑みながらこちらを見てくる。
「そんなんじゃない…っ!私が皆を知らなきゃ…こうして出会うことすらなかったかもしれないもの!」
「じゃあ、それでいいんじゃない?」
「え?」
周助の言葉の意味がわからなくて、私は思わず周助に顔を向ける。
「が僕らを知っていて、今僕らと一緒にいる。それでいいじゃない。」
「でも…悪いことが起きるって知っていても、止めることができない!!」
そういうと周助は困ったように首をかしげる。
「は未来を知っていても…。起こる事実は僕達が生きて、選択したことなんだ。知っていて変えられないのはつらいだろうけど、その選択を見守ってくれないかな?」
冷水を浴びせられた思いだった。
私が知っている未来は、『今』を生きる彼らにとってはその時に彼らが彼らの意思で選択して出来上がる未来なのだ。
それを変えたい、変えることが出来ないと、『いないはず』の私が言うなんて、おこがましいにもほどがある。
周助に言われるまで気づかず、何とかできると思いあがっていた自分が恥ずかしい。
「でもね?がここに来て、マネージャーになってくれて…。僕達の心は確実に変わっているんだよ?
がいることで助けられているんだ。…だから、何が起こってもそばで応援してほしい。」
そう言って周助はうつむいていた私の顔を覗き込んでにこりと笑う。
認めてくれるのだ。未来を知っているのに、悪い未来を変えることができなくても、彼らとともに歩むことを、私の存在を…認めてくれているのだ。
「周助…」
(泣きそうだ…)
くしゃりと顔をゆがめて我慢する。
「ダメかな?」
私の頬に手を当てて首をかしげてそう言ってくる。
「…っ。ダメなわけ…ない!」
「うん。」
「一緒にいるなって言われても…一緒にいるから!」
「うん。一緒に…いてね?」
「ぅ…。うわぁぁぁぁんっ!!」
ぽんぽんと優しく頭をなでられて、こらえていた涙が一粒零れ落ち、また新しい涙がどんどん溢れ出す。
一度決壊した涙のダムはなかなか元に戻らない。
でも涙と同時に不安や自己嫌悪の気持がどんどん流されて…
皆が大好きで大切で…一緒にいたいという思いがあふれてくる。
「あはは。…、ひどい顔」
「うるさいっ。周助が泣かしたんだーーー!」
周助の胸を借りて思いっきり泣いてスッキリした顔の私を見て、からかってくる。
大丈夫。私はこの世界で、自分の役割を見つけていける…
存在することを許してくれる居場所があるのだから。
(出来ることを、精一杯しよう。私が与える影響が少しでもプラスになるように…)
新しい決意を胸に秘めたが、文字通り皆の支えとなる日はそう遠くないかもしれない。
第一部 Fin.