いやいや!あんた達ダブルス向いてないら!!!!
地区予選!!(前編)
昨日のことはなかったことにして…。私は今、地区予選の会場に来ています。って言うかあれは夢だと思いたい…。
(玉林…って確かリョーマと桃城君がダブルスする相手だったわよね。)
私は対戦表を見て思い出し笑いしそうになるのを必死に抑えながら精一杯まじめな顔をしていた。オーダーを見て手塚部長が出ないことに驚いている声があちこちから上がっているが、私の視線はダブルス2の欄にのみ注がれていた。
(………早く見たいし!!!!!!でも絶対爆笑は避けないと…!!これは非常に難しい任務だわ。)
私は難しい顔をしながらリョーマと桃城君のほうを見た。二人はすでにベンチで準備をしている。桃城君がカバンをゴソゴソいじりながらリョーマに話しかけた。
「越前ー。それ取ってくれ。」
「……?それって何?」
「お前の尻の下にあるそのタオルだ!!!!」
(やっ、ヤバっ!!!すでに爆笑しそう…っ!!!)
受けを狙って漫才をしているのかと思うほど息の合っていない二人を見ながら私は必死にぴくぴく震える大角膜を腹筋の力で抑えていた。こみ上げてくる笑いを抑えるのに必死な私は背後の気配にまったく気付いていなかった。
「。ずいぶん楽しそうだな。」
「むぎゃはっ!!!!!いきなり後ろから話しかけないでよ!!」
心臓が飛び出るかと思うほど驚いた私は、声を掛けたきた人物に向き直り猛烈に抗議した……が、抗議された張本人は涼しい顔をして眼鏡を指でくいっと上げる。
「それは悪いことをしたね。」
(……絶対悪いと思ってないわコイツ。)
「それより、始まるよ。……君はなぜあの二人がダブルスをしたいと言ったのか知っているのか?」
「さ、さぁ?あの二人、仲いいからたまにはダブルスがしたいと思ったんじゃない?み、皆頑張れ〜!!!!」
私はなおもデータを取ろうとしてくる乾をごまかすために大きな声でコートの中にいる皆に声援を送る。乾はまだ何やらぶつぶつ言っていたが、これ以上突っ込まれると困るから聞こえない振りをした。それに、おいしい場面を無逃すわけにはいかないのだ。
(こんな笑える試合はほかには無いしね!!見逃したら腐女子失格よね!!!!)
そんなこんなで試合は始まった。
「よし越前!阿吽戦法行くぞ!!!」
変に気合の入った二人を不安そうに見つめるレギュラー陣。菊丸が不思議そうに乾のほうを見て尋ねた。
「………阿吽戦法?何だそれ。乾知ってる?」
「いーや…。」
(阿ー!!と吽ー!!!なのよ…)
私は心のかなで二人に答えながらも始まった試合を食い入るように見つめた。玉林コンビはストリートテニスでの二人を知っているだけに真ん中にボールを返してきた。
(来る!!!!!!)
「阿ーーーーーーーっ!!!!」
「吽ーーーーーーーーっ!!」
「ぷっ…」
(笑っちゃ駄目だ…!!笑っちゃ駄目だ!!!!!)
まんまと相手の意表をついた二人は得意そうにラケットを合わせあっている。
「息合ってるけど…恥ずかしいね。」
誰かの冷静な突っ込みは静かにコートの中に消えて行った……。序盤調子の良かった二人はすぐに弱点を見破られ、後揺さぶりをかけてきた玉林ペアにペースを奪わてサービスゲームを取られた。ベンチに戻ってきた二人は擦り付け合いを始めている。
「どうもしっくりいかないっす。頭で分かってても体が反応して…」
「外の敵より内の敵っす。タイミング狂わされて…」
「なんだと!?いってくれんじゃないか。お前こそ出しゃばりすぎだっつーの!!」
「あー。もう!!!二人して自分の至らなさを相手におしつけてどうするのよ!!お互いを補ってこそのダブルスでしょ!?」
この後の展開を分かっていてもちょっとムカついた私は思わず二人の間に入っていた。二人のポカンとした表情を見て激しく後悔した。
(や。ヤバ〜…。やっちゃったYO!!!!ここで玉林が挑発するはずだったのにぃ!!!)
「クックックッ。マネに言われてちゃザマぁねえなー。」
私の心配をよそに玉林の選手はバッチリ二人を挑発してくださった。竜崎先生は二人が挑発に乗るとでも?といいたそうな余裕の表情で二人を見送っていたけど、二人はそうじゃなかった。バッチリしっかり挑発に乗った後、リョーマは私のほうを見てニヤリと笑い、声を掛けてきた。
「先輩。絶対勝つからそこで見ててくださいっス。」
「えっ?あ、うん。頑張ってね!!!」
リョーマの笑顔に思わず頷きながら私は引きつった笑顔で二人を見送った。コートの中では大きな声援の中で桃城君が弾丸サーブしている。が、そのサーブはリョーマの頭にクリーンヒットした。…………どこからどう見ても痛そうである。
(どう見ても二人はダブルスに向いてないって…。)
その後リョーマがクロスに打った球も桃城君の頭にクリーンヒットして、二人のイライラは頂点に達した。コートのど真ん中でラインを引いた二人はお互いの顔を見て不敵に笑いあった。それだけ考えてることがダブるならダブルスも出来そうなものなのだが…。
「なんだ。桃先輩も同じこと考えてたんだ。」
「そうみたいだな」
「こっちのコートには入ってこないよーに!!」
「…………くっ!!!」
(笑いたい時に笑えないって半端なくつらいのね!?し……死にそうっ!!)
笑いを必死にこらえる私をよそにその後は自分のペースを取り戻した二人がどんどんポイントをとり、最後は例の戦法が輝いた。
「阿ーーーーーっ!!!」
「吽ーーーーーーーっ!!!!」
二人はお互いにニヤリと笑うと、声をそろえて誇らしげに言う。
「「やっぱ男はダブルスでしょ!!」」
(((((いや。あれはダブルスとはいわないんじゃ…))))))
思わず皆の心が一つになった瞬間だった。
その後は当然のことながら全勝で勝利し、青学は一つ駒を進めた。
「リョーマ、勝ててよかったね。おめでとう。」
私は正座させられてむくれているリョーマの横に座り、笑いながらいった。リョーマはチラッと私のほうを見てすぐにむこうを向き、ボソリと洩らす。
「こんなカッコ悪いとこ見せたくなかったし…」
「いいじゃないたまには♪完璧な人間なんていないんだからさ。自分の適性が分かってよかったんじゃない?」
慰めるわけではないがなんだか落ち込んだ様子のリョーマに微笑みながらそういうと、リョーマは驚いたように私のほうを見てすぐにいつものような自信に満ちた表情で私に答えた。
「でも、好きな人の前では完璧でいたいじゃん。先輩の前ではもうこんな失敗しないッス。」
(…………は?それは…どう受け止めろと?なんだか聞きようによっては告白に聞こえるんですが!?いや!それはありえないでしょ!!つーか顔を覗き込んでくるんじゃありません!!!!!!)
「リョ、リョーマ!?ちちちちち近いから離れて!!!」
「いやっス。」
私の腰に腕を絡ませながら私の顔を覗き込んでくるリョーマに、顔を真っ赤にしながらいったけどリョーマはまったく離れず逆に私に顔を近づけてくる。あまりにも顔が近くて思わず私が目をつぶると、後ろから思いっきり引っ張られた。思わず目を開くと、不機嫌そうな表情をしているリョーマとどす黒いオーラを身に纏っている周助の背中が見えた。
「に何してるのかな…越前?」
「…ちっ。別に。不二先輩には関係ないっス。」
「関係ない…?いい根性してるよね越前は。」
(お、恐ろしい…。今のうちに逃げよう…!!!)
その場にいるだけで命の危険を感じた私はソロソロとその場を逃げ出した。世の中には首を突っ込まないほうがいいことだってたくさんあるのである…――――――――。
続く。