よーしっ…。張り切って作りますか!
第14話 お袋の味(後編)
私は侑士に台所まで案内されて材料を物色していた。
「んー。さっさと作れる物じゃないと、流石にみんなお腹すいて死んじゃいそうだからなあ…。」
そこには、ごぼう、人参、にら、ナス、サンマ、卵とあとは味噌汁が作れるくらいの材料があった。
(キンピラごぼうに、焼きなす、あとはサンマの蒲焼に、にら玉炒め…と味噌汁かなぁ。色合い悪いけど…。)
私はちょっと考えて作るものを決めると、すばやく用意し始めた。ごぼうを千切りにし、あくを抜いている間にほかのものの下ごしらえをした。ナスはすでにグリルの中だ。
「一番最初は…にら玉ね。」
そういってすばやくにら玉を作った後、ほかの料理もどんどん仕上げていった。ふと、私は視線を感じて振り返ると、みんなの所に行ったと思っていた侑士が壁にもたれてこっちを見ていた。
「あれ?みんなの所に行ったんじゃなかったの?」
私は料理を作る手を止めずに侑士に声をかけた。侑士は私のほうに近づいてきて、
「いや、行くには行ったんやけど、家の主が手伝わんっちゅーのもどうかと思て…。しっかし、ちゃんは料理うまいなぁ。なんか手伝えることあるか?」
といってきた。私は律儀だなぁ。と思いながらも侑士に手伝ってもらうことにした。
「うまいって言っても、味はどうかわからないよ?…じゃあお言葉に甘えて。グリルの中に入ってるなナスビ、そろそろ焼けてると思うから中から出して皮をむいてくれない?あっ、熱いから気をつけてね。」
「りょーかい。お安い御用や。」
侑士はそういってグリルからナスを取り出すと、近くにあったいすに座ってナスの皮をむき始めた。
「……よーし。焼きなす以外は完成!侑士、私も手伝うよ。」
「おー。頼むわ。熱うてなかなか剥けんのや…。」
「あはは。ちょっと待ってね。」
私は出来た料理を大皿に盛り付けながら、侑士がなすと格闘している姿を見て笑った。
(でも、こうしてるとなんだか新婚…)
「なんやこうしてるとあれやな。…新婚夫婦みたいやな。」
私は今まさに心の中で思っていたことを侑士に言われ、プッと噴き出すと、侑士に不思議そうな顔で見られたので、あわてて理由を話した。
「私も新婚夫婦みたいだなって思ってたから、おかしくって。」
「そうなん?俺ら気が合うなあ。いっそのこと付き合うか?」
「あはは、これからもよろしく?ダーリン?って…ほんと、おっかしっ…ふふふっ。」
私がそういって笑っていると、侑士はしばらく私を見つめて少し寂しそうに微笑むと、また手を動かしてなすの皮を剥き始めた。
(あれ?てっきり突っ込みが入ってくるかと思ってたんだけど。……地雷踏んだかな?話題変えよう。)
私は急に静かになった侑士に話題をそらそうと話しかけた。
「み、みんなは何してるのかなっ!?静かだよねぇー。」
私がかなりどもりながら話題を変えると、侑士は我慢できないといった感じで噴き出し、笑いながらも質問に答えてくれた。
「あははっ。ちゃん、俺が怒ったと思うて焦ったやろ?ちょっとからかってみたんや。すまんすまん。ああ、ちなみにここは各部屋も完全防音や。ちょっと騒いだぐらいじゃ聞こえへんで。さっき俺が行ったときはゲームしてたで?……っと、これで全部剥けたな。」
「からかっ!?……怒っちゃったのかと思って焦ったじゃん!!!びっくりさせないでよ!!……今度やったら本気で怒るからね?…ああ、仕上げするからそこに置いといて?ありがと。助かったよ。」
「せやからスマンって…。ちゃんの本気は勘弁して欲しいわ。めっさ怖かったし…。」
侑士はそういうとさきほどのことを思い出したのか、小さく身震いした。それを見た私は、あの時はやりすぎたかなぁ。などと思いながら焼きなすにしょうが醤油をかけた。これで一応料理は全部出来た。
「あの時は…。まあ確かにやりすぎたかなー。でも私、本人を無視してああいうこと言われるの嫌いなのよ。………さ、ご飯も出来たし、かえろっかなー。」
そういってエプロンを取り、帰りじたくをはじめた私をみて侑士は焦ったように引き止めてきた。
「…ちょっ!作ったんちゃんなんやから一緒に食べようや!!俺まだちゃんと話したいねん!」
(……「俺まだちゃんと話したいねん」、「俺まだちゃんと話したいねん」…「俺まだ…話したいねん」……ぬおおおおぉっ!!!ゆ、侑士くんっ!?それは聞きようによっては告白に聞こえてしまいますよーーーーーーっ!!!!私のような腐女子にそんな言葉を投げかけちゃだめですYO〜〜〜〜!!!)
私は頭の中で悶絶しながら、帰り支度をやめ、侑士の家に居座る覚悟を決めた。
「じゃ、お言葉に甘えて、私も一緒に食べて帰るよ。」
「よかったわー。みんなも喜ぶで。んじゃ、いこか?」
侑士はそういうと大量の皿を器用に持って皆がいる部屋へと入っていった。私は「皿を持つ」って言ったけど「ちゃんは作ってくれたんやから、ええねん。」といって持たせてくれなかった。
(くうぅっ!いい男だ!!さりげない優しさが目にしみますなぁ…)
そんなことを思いながら侑士と一緒に入っていくと、物凄い歓迎を受けた。……みんなお腹すいてたんだねぇ…。みんなそれぞれ私にお礼を言うと、箸を持って手を合わせると一斉に
「「「「「いただきますっ!!!!」」」」」
といった。あの跡部までもが…。
(すっごい貴重なシーンを見てしまったわ……。今日のびっくりドッキリ大賞は跡部君に決定!!!!)
などと思いながらみんなが私の料理を食べているのをみていると、料理が物凄い勢いで平らげられていった。
「うまいっ!!!!お袋の味や…。おおきにな、ちゃん。」
「おいC〜〜〜!!!ちゃんって料理上手だねーvv」
「ほんと、生き返るぜ!!サンキューな。」
「、あんま食べてないじゃん?もっとたべろよ!」
「ほら、俺様が取っといたやつ分けてやるよ。」
みんな口々に私にコメントしながらも、私がそれに答えるまもなく料理はほとんどなくなっていた…。呆然としていた私に差し出されたのは跡部の皿だった。
(いや、分けてやるって言われましても…。みんな見てるんで非常に取りにくいといいますかなんと言いますか…。)
私が困っていると何を思ったのか跡部が箸でサンマの蒲焼をつまみ、私の口元まで持ってきた。
「ったく。世話の焼けるやつだな。ほら、遠慮せずに食え。」
(そ、そんな事いわれてもっ!!!だってそれ、間接キスですよっ!?…あーっ!!!誰か助けて!!)
私がパニック状態になっていると、跡部が少しイラついたように、
「アァン?俺様がせっかく食べさせてやってるのに食べないのかよ?(怒)」
といってきたので、怒らせるのはマズイっ!と思った私は覚悟を決めて目をつぶりながらパクッと食べた。
(((((か、可愛い……)))))
そして私が目を開けると、そこには何故かみんな(宍戸除く)が箸で料理を挟み、私にそれを食べろといわんばかりに口元まで持ってきた。
わたしはそのあまりに恐ろしい状況に逆らえず、みんなの箸で交互に料理を食べさせてもらった。こうなったらもう開き直るしかないのだ。
「激ダサだぜ…。」
私は目の前の状況に必死だったため、宍戸が悔しそうにつぶやいたのに気付かなかった…。
(今日はなんなんですか。なんかのサービスデイ……?サービス多すぎて一生分疲れました………。食べさせてもらうなんて恥ずかしすぎるC〜〜〜〜!!!!!)
みんなを餌付けしようと思っていたのに、逆に私が餌付けされてしまいましたとさ。
めでたし、めでたし…?
「お袋の味」終・わ・り。