手をつながれて辿りついた先は…
6th day
(後編)
「こ、ここって…」
「そ。遊園地じゃ。」
この男は…何を考えているんだ。
付き合ってもいない男女が遊園地に来て、何をするのだ。しかも夕方の遊園地に。だ。
視界に入るのはカップル、カップルゥ、カッポゥーー!どこを見てもカップルばかりだ。
もはやバカップル達のウフフ、アハハンは相当な殺傷力を持って私の視界に入ってくる。
「ほな、どっかはいるか。」
「え。チケットないけど。」
「ふ。俺をなめたらいかんぜよ。」
ニヤリ。磯谷はポケットの中をゴソゴソと探し、ちゃららちゃっちゃら〜♪などと、どこかで聞いたことのあるメロディーをつぶやきながら紙切れを二枚取り出した。
「無料チケットぉー」
ネコ型●ボットか。そうか。そうなのか。
「未来へ帰れ。」
「……冗談じゃ。」
ノリの悪い奴じゃ。などと言いながら手をつないだまま外の公園を通り過ぎ遊園地のゲートをくぐる。
しかし…何か嫌な予感がする。
進む先にあるのは…いわゆるアレではないだろうか。
「ね、ねぇ…」
「なんじゃ?」
「あれ。何?」
私は恐る恐るその建物を指さす。
ひきつった私とは対照的に、仁王は至極楽しそうに私をその建物のほうに引っ張っていく。
あたりはすっかり日が落ち、ほかに建物のないそこは雰囲気を十分に醸し出している。
「ホラーハウスじゃ♪」
「いってらっしゃい。」
「だめじゃ」
「嫌だ…嫌だぁぁぁぁぁっ!!」
私はズルズルと引きずられながらおどろおどろしいその建物の中に吸い込まれていった。
ぎぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああっ!!!!!!!!!
静かで恐ろしい空間に、霊や化け物より恐ろしい悲鳴が木霊し、ホラーハウスに並んでいたカップルたちの顔を引きつらせることになったのは、また別のお話。
数十分後
ぐったりとしてゼエゼエと浅い息を繰り返す私と耳を塞いで青い顔の仁王。
「お前さん…叫びすぎじゃ…」
「し…仕方ないでしょ…。ホラー…系だけは…だめなの…よ」
「お前さんとは二度と、ホラーハウスは行かん…まだ鼓膜がうゎんうわん言うとるわ…」
「自業…自得って言葉の意味がっ…わかってよかったじゃない」
アレはそんなレベルじゃなか。などと言いながら近くの自販機でジュースを二本買い、一本を私に投げてくる。
かろうじて受け止めた私は、ありがとう。と言いながらベンチに腰かける。
叫びすぎて干からびたようになっている喉を一刻も早くうるおすためにプルタブを開けて一気に飲み干す。
隣に腰をおろした仁王も同じように飲み干している。
「ぁー…生き返る…」
「よかったな。…元気になったみたいじゃし」
「疲れきってるけど…ね。」
「練習見てるとき落ち込んでたじゃろ。」
「はは…バレバレですかー」
仁王はいつの間にやらこちらに顔を向けて、私を見ていた。
何となく仁王から視線を外す。仁王はあり得ないぐらいに鋭い。
嘘をついてもすぐにばれるから、否定はしない。
「何があった。とは聞かん。言いとうないやろうしな。」
「うん。ありがと。」
ライトアップされたメルヘンちっくなお城に視線を向けたまま、足をぶらぶらさせる。
散々な一日だったけど、泣きたいぐらい悲しい日だったけど、いつの間にか胸を抉られたような虚脱感はなくなっていて。
心地よい疲れと、幾分落ち着いた魂が体を満たしている。
「言いとうなったらいつでも言えばえぇ。」
「はは。明日でお別れだけどねー」
こっちを見ていた仁王の顔が一瞬曇ったのを、見ないふりをした。
反動をつけて勢い良く立ち上がり、後ろを振り返る。
「さ、帰ろっか。」
「そうじゃな」
私は、ズルイのかもしれない。
見なければいけないモノに蓋をして、何も聞きたくないと耳をふさいで。
誰も必要としてくれない、何も与えてくれないと、世界を拒絶する。
でも今更、自分の生き方を否定し、変わることが出来る人間には。
私には、なれそうもない。
残された時間は、あまりにも少ない
彼と彼女はどのような結末を迎えるのか
それを知る者は誰もいない。
後編 Fin.
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後書き
前半暗かったのでなんとなく明るく。
ヒロインの心も複雑そうです。
次で最終話。最後までお付き合いいただけると幸いです。
2007.9/16 管理人@紅牡丹