著者 : 630 氏

その6 - >>656
開始:07/05/31
最終:07/05/31
その6 - >>676

【 乱馬×あかね 】


・・・

「まさかこんなに呆気なく男に戻れてしまうなんてね」

これはあかねのセリフだ。

とうとう念願叶って乱馬は水をかぶっても女にならない完全な男の体を取り戻した。
乱馬は雨が降る中、傘も差さずに庭に出ている。
これは雨に濡れても女にならないという喜びを噛み締めるためにわざとしていることだった。

雨の中、大はしゃぎで、女にならない体をこれでもかと堪能していた乱馬であったが、
あかねの言ったこのセリフが聞こえたらしく、振り返って縁側に立っているあかねを見た。

「何だよ、その言い方。まるでおれが完全な男に戻るのが悪い、みたいな」
「ちがうわよ。そのう、なんていうか乱馬って元の体に戻るのをずうっと夢見てきたじゃない? 
それが、こんなにも簡単に叶っちゃったもんだからなんだか実感がわかないというか……」
「あら、私は残念だわ」

二人のやりとりを聞いていたなびきが横から口をはさむ。

「だーって、かわいいらんまちゃんの写真、結構良い商売になってたのに」
「なびき、おまえなあっ」
「あーあ。ムースがあんなもん見つけてこなかったらねえ」  

そう言ってなびきは盛大にためいきをついた。


乱馬が元の完全なカラダを取り戻した理由。
そう、あれはほんの数時間前のことである。



・・・

「即席男溺泉、改良版?」
「これがそうじゃ」

ムースによって猫飯店に集められた乱馬、シャンプー、そして奇跡的にたどりつくことができた良牙の三人はムースにあるものを見せられた。
それは一見して温泉浴用剤のようである。
乱馬はこれと同じものを前にも見たことがあるので言った。

「これって一回しか効かねえんだろ?」

この即席男溺泉を使ってシャンプーに良いように一日弄ばれた記憶のまだ新しい乱馬は気の無さそうに言った。
興味を持ったようで、身を乗り出してムースの話を聞いていた良牙もそれを聞いて落胆したようで
身を引いて椅子に座りなおす。

ムースがフッと嘲るように鼻で笑った。

「だから改良版だと言ったじゃろうが!」

シャンプーが即席男溺泉が入った袋の表面に書かれた中国語に目を通す。

「ほんとうあるね、改良版とある。改良した結果、効果は一回だけならず、永続するとあるね」
「なにいっ」

乱馬と良牙がほぼ同時に立ち上がった。

「ふっふっふ。そのとおり! 改良前は1回しか効き目は無かったが今度の『改良版・即席男溺泉』を使えば……」

ムースのセリフを乱馬が引き継いだ。

「これを使えば今度こそ、完全な男に戻れる!」
「ちょっと待つだっ!」

浮き足たった乱馬たちの前にムースが立ちはだかった。



「誰もタダでやるとは言ってないぞ。条件がある」
「条件? ムース。てめえ、水臭いぞ」
「そうだそうだっ」
「なんでお前らにおらがタダでやる義理がある」

乱馬、良牙の抗議など聞く耳持たず、ムースはしれっとして言った。

「まずは良牙。……ほれ」

ムースは良牙に即席男溺泉を手渡した。
良牙はきょとんとしてそれを受け取る。

「……何だ? タダでくれるのか?」
「そうじゃ」
「お前、さっき条件がなんとかって言ってなかったっけ?」
「3袋買うとセットでお得なんじゃ。要はついでじゃ」
「……」
「乱馬。お前には条件がある」
「ムース! てめえ良牙にだけ汚ねえぞ!」

乱馬がムースに抗議した。しかし、
「嫌ならいいんじゃぞ? 男に戻りたくなければな」
とムースに意地悪く言われ、黙ってしまう。
ムースはツカツカと乱馬の前まで歩いてきた。

「誓ってもらおう。今後シャンプーには一切手出しはせぬと! これが条件――ガッ」

バシャッ。



ムースのセリフは途中からアヒルの鳴き声に変わって最後まで聞き取れなかった。
シャンプーがムースにバケツの水をぶっかけたからだ。
水をかけるまえにムースの手から素早く抜きとっておいた即席男溺泉をシャンプーは乱馬に手渡す。

「はい、乱馬。何も条件いらない。これタダであげるね」
「サンキュ」

ガーガーと不満そうに鳴き続けるアヒルの鳴き声は無視された。
こうした経緯があって乱馬は元の完全な男の体を取り戻したのであった。


(でもこんなにあっさり男に戻れるなんて……なんだか嫌な予感がする)

即席男溺泉を使った乱馬は水をかぶっても女になることなく、ずっと男のままで雨に打たれている。
乱馬の言うところにはこれまでにも一応何度か水をかぶってみたそうだ。
それでも女にならなかったらしい。
まるで子どものようにはしゃぐ乱馬を見ながらあかねは何故か不安を感じた。
なんだろう、この胸に渦巻く不安の渦は。何か、良くないことが起こりそうな気がする。
まずいことにあかねのこうした勘は結構当たることが多いのだ。

「気のせいだといいけど」

ポツリと呟いたあかねのセリフは今度は乱馬の耳には届かなかった。



それから数日経っても乱馬はいくら水をかぶっても女にならなかった。
あかねが「あの嫌な予感は外れていたのかも」とホッと胸を撫で下ろしていた頃、
乱馬はある異変を感じ取り始めていた。なんだか……、

最近変にムラムラすることが多いような気がする。

そりゃあ、年頃の青少年ならこれは至極当たり前の現象かも知れないが、
それにしてもこの変化は急だった。

まず四六時中、そっち方面のことが頭から離れない。
彼の命とも言うべき格闘の稽古をしているときでさえ。今日なんか親父に
「最近稽古に身が入っていないぞ、乱馬! たるんどる!」と一喝されたくらいだ。
あのすちゃらか親父にそう言われてしまう始末としたら相当なものである。

信じられない話だが、今のおれにとっては格闘の稽古なんかよりも、
今朝うっかり見てしまったかすみさんの白いブラウスに透けて見えたブラジャーの線の方が何よりも重要な事柄であった。
かすみさんのイメージに合った清楚な白。かすみさんって意外と着やせしてみえるタイプなのかも。
あの服の下には実は豊満なナイスバディが……などと妄想は尽きない。
 
なんていったっておれの環境はよく考えたらだいぶ異常だ。
赤の他人の若い女と一つ屋根の下に住んでるなんて。
しかもその中の一人が許婚。
健全な青少年にとってはだいぶ刺激的な環境だ。
今まで考えたことなかったけれど。

なびきなんかはホットパンツ姿で家の中うろうろするし。
今までは何も気にしたことなかったんだけどあいつの足、長くて綺麗だよな。
あんな格好でうろうろされたらもしかして遠まわしにおれのこと誘ってるのか、なんて考えてしまう。



かすみさんやなびきにまでそんな風に感じてしまうのだから他の面々に対してはもっとひどかった。

一番困るのがシャンプーだった。会うとところ構わず抱きついてくる。
シャンプーに抱きつかれたとき、なかなか体を離すことができなかった。
おれの本能に比例して腕が鉛になったように重くなる。
もう暫くこのボリュームのある柔らかい胸の感触を楽しんでいたい。
突き刺さる周りの視線に気づいてかろうじて引き離したほどだった。
もしも今シャンプーが耳元で「乱馬。わたしの体好きにしてよろしぞ」なんて囁いたら……たぶん断れない。

ウッちゃんも……ウッちゃん、かわいいよなあ。
今日体育があったのでその時に見たブルマー姿の彼女が頭に浮かぶ。
いつもはさらし巻いてて分かんないけど、ウッちゃんも結構ソソる体をしている。
「乱ちゃーん」って言って、体育だから運動してちょっと上気した赤い顔で近寄って来て、
呼吸もちょっと乱れてて……色々とやばかった。

ったく、レオタード姿で出てくんなよ、小太刀。ちゃんとした服を身にまとって出て来い!


……始終こんな調子で四六時中、常にむらむらしている状態だ。性欲が昂ぶって夜、中々眠りにもつけない。
おかげで寝不足で更に辛くなる。
いくら思春期とはいえ、何かがおかしい。


そう、何かが……――。



――ねえ。……ねえ、乱馬ってば!」

あかねの声で乱馬はハッとわれに返った。



「な、なに?」
「話聞いてなかったでしょ」

あかねが乱馬の顔を覗きこんだ。乱馬は慌てて顔を反らす。
おい、あかね。あんま近くによんなって! 色々、そのう“障り”があるからな。

「あんた最近変にぼーっとしてること多いわよ。で、さっきの話だけど、
最近Pちゃんがいないって言ってたじゃない?」

ああ、だってPちゃんは良牙だしな。乱馬は声には出さず心の中でそう答える。

「でもね、昨日ひょっこり帰って来たの。ほら!」
「へ!?」

乱馬があかねの方を向くと、黒い子豚が気まずそうにしてあかねの胸に抱かれていた。


「良牙! おめー、またブタに……」
「見たとおりだ。また水をかぶるとブタになる」

良牙は虚ろな眼をしている。乱馬はPちゃんをあかねの腕からもぎとり、湯の張った風呂桶に投げ込んだのだった。
案の定、湯に浸けられた黒豚は人間、響良牙へと変化を遂げた。

「どういうことだよ。お前も即席男溺泉を使って男に戻ったんじゃ……」
「そんなことおれが聞きたい! ああ、確かに何日かは水をかぶっても豚にならなかったよ。
でも昨日水をかぶったらブタになったんだ!」

ムースのやろう、騙しやがってと良牙は口惜しそうにギリギリと歯ぎしりをした。




良牙の話を聞いた乱馬はとりあえずムースに会いに猫飯店へ向かった。

「ムース。いるか?」

猫飯店ののれんをくぐった瞬間乱馬の目に飛び込んできたのは無残に水に濡れたアヒルの姿であった。
「あいやー、ムースすまなかたな」
シャンプーが謝っているところをみると、どうやらシャンプーがテーブル台の上にある水の入ったコップを倒し、
それがムースにかかったらしかった。

「ムース……」

乱馬が話しかけるとムースは力無くガッと鳴いた。


「騙されたということじゃろう。昨日水をかぶったらまたアヒルになった」
湯をかぶって人間に戻ったムースのいうところは良牙から聞いた話と全く同じだった。

「これもインチキ商品だったということじゃろう」
「そんな」
落胆の声を上げた乱馬をムースはギロッと睨みつけた。

「お前は良いではないか。タダでもらったんじゃから。おらはちゃんと金を払って……くっ、無念じゃ」
ムースはそう言って口惜しそうにギリギリと歯ぎしりをした。
「あれはおらの給料何ヶ月分かと思っとるんじゃ!!」
ムースが悲痛な声で叫ぶ。
このままいると延々と愚痴を聞かされるどころか、下手したら八つ当たりされかねないように感じたので
乱馬は早々にムースと別れることにした。



バシャッ。

猫飯店からの帰り道。乱馬が歩いていると、おばあさんが道に水を撒いていた。
おばあさんは年を取って目を悪くしているらしく、乱馬はそれをまともに浴びせかけられた。
すっかり水に濡れてしまったが、それでも乱馬は女にならない。

(でも、どういうことだ? おれは水をかぶっても女にならない……)

良牙やムースは水をかぶると変身する元の変身体質に戻ってしまっているというのに、
乱馬は水をかぶっても変身しない。
乱馬はうーむ、と腕組みをしてこれらのことを考えてみた。そして、出た結論は、

(まあ、いっか)

乱馬は考えるのを放棄した。半分は父親譲りの適当な性格によるものであったが、
あと半分は性欲が強くなりすぎて考えが上手くまとまらないせいであった。
自分は運が良かったのかもしれない、乱馬は都合の良いように勝手な憶測を立ててしまうと、
何気なくズボンのポケットに手をやった。
ポケットの中で指先に何か触れるものがあった。

「なんだ?」

それは即席男溺泉が入っていた袋であった。――いや、これは違う。よく見るとこれは男溺泉の素ではなく、
男という文字の上にいくつか文字が書いてあった。
袋には『好色的男溺泉の素』と書いてあった。こうしょくてき? 
どういう意味だろう。乱馬は首をひねった。

顔を上げると、目の前にちょうど公衆電話があった。

「……あ、そうだ」

乱馬は十円を取り出し、考えのまとまらない頭でとある番号を必死になって記憶の底から掘り起こした。



「あいやー、お客さん。ひさしぶりあるな」

受話器からすっかり親しんだガイドの声がした。
乱馬は「ちょっと訊きたいことがある」と前置きしてからこれまでの経緯、
『改良版・即席男溺泉』を使って完全な男に戻ったが、同じものを使った良牙、ムースは数日して元の変身体質に戻ってしまったこと。
しかし、自分はまだ水をかぶっても男のままだということを説明した。

そこまで訊いてガイドは受話器越しに嘆息した。

「あいやー、お客さん。それ、有名なインチキ商品ね。その商品、三日経てば、効果は無くなる。
そんな粗悪品に頼るよりやっぱりここ、本家本元中国呪泉卿まで足を運ぶのが一番ね。
しかし、同じものを使たのにお客さんだけが水をかぶても女にならない。これ不思議なことね」
「――いや、さっきまで同じものを使ったんだと思ってたんだけど、
どうもおれだけ男溺泉の素じゃなくってこうしょくてき男溺泉の素ってのを使ったみたいなんだ――って、もしもし? 聞いてるか?」

ヒュッと息を呑む音がして急にガイドが黙り込んだ。

「それは好色的男溺泉のことあるか? お客さん」
次に発せられたガイドの声からは幾分緊張した響きが感じられた。

「うん、たぶんそれだと思う」
「……つかぬこと聞くが、お客さん。最近なにか変わったことないか? 
具体的に言えば最近異様に性欲が高まったとか」
「……実はそうなんだ」
「それならすべての謎が解けたね。しかし、あいやあ! これは大変困たことになったあるぞ」
「どういうことだよ」
「好色的男溺泉は呪泉卿数ある泉の中でも至上最悪の部類に入る呪い的泉。
300年前、とあるスケベな男が泉に落ちたという悲劇的伝説あるのたよ。
以来その泉に落ちたものはみなスケベな男になてしまうという……」



「げえっ」

乱馬は思わずうめいた。ガイドは続ける。

「しかしここからが重要よ。この泉、他の泉とは少し違て不思議なことがあってな。
つまり本懐を遂げれば、忽ち呪いが治ってしまうという……」
「本懐を遂げる?」
「好色的男がやりたいこと、決まてるあるね。セックスある」
「……他に方法はねえのか?」
「ないある」
ガイドはきっぱりと否定した。
「とにかく〜〜! おれ今からそっち、中国に行くから」
「え? お客さん。来ても無駄あるよ。この呪い、他の泉で溺れても治らないあるね」
「でも……とにかく行く!」
「その体で外出るの危ないあるよ――お客さんじゃなくて周りの人が」
「うるせえっ」
「お客さん。中国遠い。道中何があるか分からないね。考え直すよろし。
聞いてるあるか? お客さ……」ガチャッ。
乱馬は受話器を置いた。

「〜〜〜ふざけやがってえっ!!」

怒りが込み上げる。なーにが本懐を遂げるだ。まったくふざけやがってっ。



ヤリたい……ヤリたい……女なら誰でもいいから……誰か……。

しかしその数十分後。乱馬は頭の中いっぱいそんな考えに捕らわれていた。かなり危険な状態だった。
道で若い女が歩いているのを見つければ、ついフラフラと付いて行ってしまいそうになる。

乱馬はブンブンと頭を振って考えを引き戻した。


――おれは中国に行く!
治る当てはないけど、呪泉卿に行って呪いを解く方法を探すんだ!!


親子で暮らす居候部屋に玄馬やのどかの姿はなかった。
乱馬が部屋の中で一人で中国に行くための荷造りをしていると、
部屋の襖が開いた。あかねが姿を見せた。

「あれ、乱馬。どうしたの? 荷造りなんかして」
「ああ、ちょっと中国に行こうと――」
「え? いきなりどうしたの?」

あかねは乱馬のすぐ側に腰を下ろした。
あかねが動いて、着ていたワンピースの裾がフワリと翻り、
その時に生まれた風に乗って乱馬の鼻腔にかすかにあかねの甘い匂いがした。

「……」



乱馬はリュックサックに荷物をつめていく手を止めた。
あかねは乱馬の内面の変化に気づいた様子はなく、なおも尋ねる。

「ねえ、一体どうしたの? 急に中国に行くだなんて」
「あかね」

乱馬はあかねに向き直った。
ヤバい。おれ、今何しようとしてる? 
ドッドッドッと心臓は速いペースで鳴っていたがなるべく平静を装って乱馬が切り出す。

「あのさ、ちょっと話したいことがあるんだけど」
「え?」

あかねがきょとんとして乱馬を見た。

「なに?」
「いや、さ。ちょっと付いて来てくれないか?」
「え? ここじゃだめなの?」
「うん、ここじゃちょっと……」

――来るな、来るなよ。乱馬は心の中で祈った。
しかし意識の上で主導権を握りつつあるもう一人の自分はこの機会逃してなるものかと、
必死にあかねを説得する。

「大事な話なんだ」

この一言に心動かされたのか、あかねは肯いた。



「わかったわ」
「じゃあこっち……」

乱馬はあかねに付いて来るよう目でうながすと先導に立って歩き出した。

(おまえな〜〜。簡単に騙されんなよ!)

騙そうとしているのは自分なのに、乱馬は心の中であかねの人を疑うことを知らない鈍さを叱責した。
あかねは乱馬に言われたとおりにちゃんと付いて来る。あかねにまったく怪しんだ様子は見られない。

二人は、普段は誰も使っていない空き部屋の前に来た。
広い天道家にはこうした空き部屋がここを含めていくつかある。
誰も使わないので普段はあまり人が来ないところだ。時折、かすみが掃除をしに入るくらいである。

乱馬は無言で部屋の襖を開け、あかねに入るよう促すと、ピタリと襖を閉めた。

「乱馬、話って――」

乱馬は振り向きざまあかねに抱きついた。体に感じる若い女の、あかねの体。
鼻先に香るあかねの甘い匂い。背筋がジーンと痺れ、クラクラした。
(もう駄目だ)
乱馬は急速に理性が後退していくのを感じた。

「きゃ! ……ら、乱馬?」

突然抱きすくめられたことに驚き、あかねは身を捩って逃げようとする。
しかし力で乱馬に適うはずもなく、結果的にはされるがままになっている。

乱馬はあかねの顎を掴んで上を向かせると唇に貪るようにして吸い付いた。

「んーっ!」



今まで抑えていた衝動を一気に吐き出すようにして乱馬は、あかねの口腔を蹂躙する。
あかねが苦しげに乱馬の胸板を叩いた。
やっと唇が離れたときは息も絶え絶えであかねは涙目で苦しそうに息を吐いた。

「やっ、やぁっ。何、いきなり――」

息つかせる間もなく、乱馬はあかねを畳の上に押し倒した。
乱馬にとってはまるで赤子の腕を捻るがごとく、それは容易なことであった。

自分に覆いかぶさる乱馬の顔を見て、あかねはゾッとした。
顔に表情がない。
目だけが爛々と輝き、肩で獣のような荒い息をしている。
まるでなにかに操られているみたいに、腕だけが絶え間なく動いている。

乱馬はあかねの着ているワンピースをビリビリと引きちぎった。

「きゃあっ! やだっ、何すんのよ!」

乱馬は元はワンピースだった服の残骸をあかねの体から払いのけ、
あかねの背に手を回すと、ブラジャーのホックを外しにかかった。
しかし、興奮しているせいか上手く外れずにもたつく。
思わず「ちっ」と乱馬は小さく舌打ちした。

業を煮やした乱馬は最終的にはこれも引きちぎって外した。
ブチッと布の千切れる音がしてブラジャーは無残に床に落ちた。
何も覆うものがなくなり、ふるんと露わになったあかねの乳房を乱馬は握りしめた。

「ひっ」
胸を掴まれ、あかねは声も出せずに息をのんだ。



「ら、乱馬……やめ」

乱馬は掌に緩急をつけ、あかねの乳房を愛撫し続ける。
荒い息遣いだけが聞こえる室内で、あかねがもう何度言っただろうか、同じ言葉を繰り返した。
しかし訴えは全く聞き入れられることはなく、体をまさぐる手は止まらない。

ビリリと微弱な電流にも似た刺激が時折あかねの脳髄に伝う。
知らぬ間にだんだんと呼吸が荒くなってきて、ふわふわした足のつかないような感覚に襲われた。
これ以上何かされると自分が自分でなくなってしまうような恐怖にあかねは駆られた。
――怖い。

今止めなきゃ。止めるなら今しかない。あかねは大きく息を吸い込んだ。


「らんまあっ!」


精一杯怒りを声に含ませてあかねが乱馬の名を呼んだ。
乳房を弄んでいた乱馬と目が合う。
あかねはドキリとした。
今のあたしどんな顔してるんだろう。
きっとひどく情けない顔をしているに違いない。

まるでなにかに操られたかのような乱馬は口の端をかすかにあげると、

ツッとあかねから眼を逸らした。



「乱……いっ」

乱馬は頭を下げ、あかねの乳房を口に含んだ。
すっかり敏感になっている穂先をわざと音を立てるようにして吸った。

「いやっ……」

乳房にあった手は躯に絡みつくような艶かしい手つきで下降を始め、
脇腹を滑り、臀部に撫で回し、太腿まで落ちていった。
内腿辺りを執拗に触れられ、あかねは身を捩った。

「んーっ! 何す……」

上体を起こしかけたあかねだが、乱馬に阻まれて思うように体を動かすことができない。

「何するって決まってんじゃねえか」

口についた唾液を腕で拭いながら、小馬鹿にしたように乱馬が笑った。

「ここまで来て引き下がれるわけねえだろ」

弾む息を整えながら、乱馬はあかねの両脚に手をかけ、左右にこじ開けた。

「きゃっ」

あかねに抵抗されつつも、太腿の間に隠れたあかねの秘部は乱馬の眼前に徐々にその姿を明らかにしつつあった。



「すげー、濡れてる」

あかねの顔が羞恥でカッと赤くなった。
乱馬は手を伸ばすと、濡れている箇所を親指でぐっと押さえつけた。

「はっう……」

あかねの口から聞いたこともないような甘ったるい声が出た。
あかねは何かを堪えるように眉を寄せ、乱馬を見つめた。
頬は紅潮し、目は潤んでいる。

「ら、乱馬。そこは……ゃ」

消え入りそうなか細い声であかねが哀願した。

「何がや、だよ。おめー、今自分がどんな顔してんのか分かってんのか?」

乱馬はあかねのショーツを剥ぐ。しかし、剥ぐその時間さえ、堪え切れないという調子で乱暴に片足だけ引き抜き、もう片方の足にぶら下がったままショーツは残った。
乱馬はあかねの秘部に言葉のとおりむしゃぶりついた。

「ああっ」

あかねの体がビクビクッと震えた。



「や……はぁ……あん……あん」

部屋にあかねの喘ぎ声が断続的に響き渡る。

もう充分だ。
乱馬は服を脱ぎ捨て、陰茎をあかねの秘部に突き立てた。

やっと――。やっと、本懐が遂げられる……!

淫猥な水音が微かにはじけ、陰茎はあかねの胎内に入り込んだ。

ズッ、ズズッ。


「いっ……いたっ」

あかねが顔を顰めた。どうやら相当痛いらしい。
充分に濡れているとはいえ、あかねのそこは非常に狭く、押し進める度に強い抵抗感を持って侵入を阻まれた。
しかし乱馬はあかねの両脚を抱え込んで体をより密着させるようにして、陰茎をググッと奥へ挿し込んでいく。

「うっ……くっ……」

陰茎が膣いっぱいにまで挿入されると引き戻され、律動が開始された。
中で動かされる度、あかねに引き裂かれるような鋭い痛みが体全体に走る。
結合部からは血が滲み出た。

「いっ……痛……いっ」

あかねの声が泣き声に変わった。
ガシガシと腰を動かしていくうちに乱馬が正気に戻り始めた。




・・・


(あ……あれ? おれどうしたんだ……?)


乱馬の失われていた意識が唐突に目覚め始める。
記憶が居候部屋で荷物をまとめていたときから曖昧だ。確かあかねがやって来て……それからどうしたっけ。
眼を落とすとあかねが自分の体の下で喘いでいる。

「は……あ……あん……」

「あっ、あかね!?」

慌てて動きを止めようとしたが、止められない。腰は乱馬の統制下を離れ、本能のまま、あかねを荒々しく突き上げる。

(とっ、とまんねえ……くっ)

乱馬は夢中で腰を動かす。突き上げられる度にあかねが喘いだ。

「あん……あっ……あん……」

色づいたあかねの声に更に刺激され、急速に射精感が高まっていった。
乱馬は一層激しくあかねに腰を打ち付ける。

「あ……んっ……あっ……ああっ」

あかねが一際大きな声で啼いたかと思うと、膣内が更に圧迫された。

「はあはあはあ……くっ。で、出る」

乱馬は最後の力を振り絞り、陰茎をあかねの膣から引き抜いた。
間一髪、引き抜いた瞬間白濁した液は噴出し、乱馬はあかねの腹に液をぶち撒けた。
達したばかりで脱力したあかねはぼんやりとした眼差しで自分の腹に降りかかるそれを眺めている。

乱馬の中で徐々に失われていた記憶の断片が戻りつつあった。

「あっ……あかね、おれ、とんでもないことを――」

乱馬はそう言って凍りついた。



そんなこんなで呪いが解けた乱馬は元通り水をかぶると女になる変身体質へと無事(?)戻っていた。

あの行為の後、乱馬から全ての事情を聞いたあかねは乱馬を許し、二人は元のつかずはなれずな関係に戻った。

でも、日常に戻った後も、時折乱馬はあの蜜月なひとときを思い出し、顔から火が出てぐあーっとなったりするのだった。
それはあかねだって同じである。

もしかしたら二人の間に再び蜜月なひとときが訪れるのはそう遠い日のことではないのかもしれない。


fin











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