著者 : 名無しさん ID:YwwCHJBp 氏

その6 - >>202
開始:07/01/24
最終:07/01/28
その6 - >>249

【 乱馬×あかね 1〜24 】





「いいかげんあの下着ドロボーをなんとかしてください!これじゃあおちおち外に下着を干すことなんてできないわ!!」
「まあまあそう熱くならんでください」
早雲は顔に無理に笑顔をつくり、目の前に立つ顔を真っ赤にして怒る女性たちをどうやってなだめたらいいのか思案に暮れていた。

天道家の玄関ではこんな光景が見られることがしばしばあった。
この女性たちは町内会の有志で結成された婦人会のメンバーでこのところ町内で頻繁に出没している「下着ドロボー」の退治を
武道家である早雲、そして玄馬に依頼をしにたびたび天道家にやって来るのだった――しかし早雲の傍らにいつもひかえているこの
大きなパンダがいつも不在だと思っている玄馬であるとは皆いまだに気づいていないのだが――しかし依頼をしてもどこか煮え切
らない態度を取り続ける早雲に婦人会の不信感は少しずつ高まりつつあった。
われわれも警戒してはいるんですけどいつもすんでのところで逃げられてしまってといつもの言い訳を始めた早雲に女性たちは
あきらかな不審の眼を向けた。
「何だかはぐらかそうとしてません?」
「え?いやいやそんなことは」
突然1人の婦人が眼鏡のブリッジを指で押し上げながら、
「下着泥棒がこの家に入っていくのを見たという人がいるのですが」
と言い出した。
早雲と玄馬はギクリとして少し肩を揺らせた。
しかし今日は不幸中の幸いなことに「下着ドロボー」こと、もちろん自分たちの師匠でもある
極悪非道のエロ妖怪、八宝斎は丁度外出していて家にはいなかった。
早雲は八宝斎の不在というほんのわずかな幸運に後押しされながら、崩れてしまっていた笑顔を再び取りつくろった。
「まさか。それはいわれもないデマですよ」とぎこちない笑顔をつくり応対していた丁度その時、
「ただいまー」
という明るい声がしてまるでタイミングを見計らいでもしたかのように唐草文様の大きな風呂敷包みを背中に抱えた頭の禿げあがった
小さな老人が玄関に集まる人だかりの間をすり抜け家の中へと入っていった。
早雲と玄馬は今度こそ本当に笑顔のまま凍りついた。
「今の……この下着ドロボーの人相書きに似てる……」
女性たちはたった今家の中へと入っていった人物と下着ドロボーの人相書きがかかれた紙とを見比べながらひそひそとささやきあう。
すでに人相書きまでできていたのか。早雲は人相書きのかかれた紙を素早く女性たちの手から奪い取ると、適当な方向を指差して叫んだ。
「あーっ!あんなところにまさに人相書きそっくりの下着ドロボーがーッ!!」
「「えっ」」



女性たちは一斉に早雲が指差した方に振り向いた。しかし指差された先には当然のことながらそれらしい人影はない。
「どこです!?」
「今あの角を右に…」
早雲は適当なことを言ってごまかしたが、それを信じた女性達はいきり立った。
「今日という今日はぜったいに許さないわよ!」
「捕まえて二度と悪さできないようにしてやる!」
早雲の苦し紛れの嘘を信じて、ホウキやら傘やらコンクリートのブロックやら、手当たり次第武器に使えそうなものは持ち去って
女性たちは早雲の指差した方へと駆けて行った。
まるで嵐が過ぎ去るかのように女性たちが去って、早雲と玄馬は一気に脱力してその場にヘナヘナと座りこんだ。
どうにか危機は免れた。
巷を騒がす卑劣な下着泥が自分たちの師匠だなんて知れたら無差別格闘流末代までの恥!……というかあの女性たちの気迫では万が一
そんなことが知れ渡った暁には自分たちの命でさえも無事であるという保障は無い。
今日はこれでなんとか急場を凌げたが、次も大丈夫とは限らない。
そう思うと2人の心に八宝斎に対する怒りが改めてふつふつとこみあげてくるのであった。



どうにかうまく言いくるめ、婦人会の人たちを追い返して家の中に戻ると当の八宝斎は茶の間で寝転んでアイドルの写真集を広げ、
のんきに鼻歌なんかを歌っていた。
早雲と玄馬がやってきたのに気づいて八宝斎はアイドルの水着のグラビアから顔をあげた。
「おう、どうした?ふたりしてそんな暗い顔をして」
自分たちの苦労などつゆしらず、あっけらかんと言い放った言葉に途端2人の怒りが沸点へと達した。
「お師匠さま!いいかげんにしてください!お師匠さまの尻拭いをさせられるのはいつも私たちなのですよ!!」
早雲は怒りに任せてちゃぶ台をバンバンと叩きながら言った。
玄馬もウンウンと大きくうなずきを繰り返して早雲に同意する。
八宝斎は身を起こすと珍しく真面目な顔になって腕を組み、しみじみとうなずいた。
「うむ。おまえたちには大変世話になっておる。ひとつこれからも頼むぞ」
「イヤです!!」
早雲と玄馬はブルンブルンとちぎれんばかりに首を思い切り横に振り精一杯の拒否を示したが、
八宝斎はそれをサラリと受け流すと側に置いてあった風呂敷包みを手元にぐいっと引っ張った。
「いつも世話になっとるおまえたちにこれはわしからのささやかなお礼じゃ」
ファサ、と風呂敷の結び目が取り払われ、中身が露わになった。
いつもは盗んだ下着が入っているのだか今日は違うものが入っていた。
「うぐっ……こっ、これは――!」
風呂敷包みいっぱいに詰められた「それ」に早雲と玄馬は驚愕した。



その日の夕食の時間、乱馬はとあるものに気づいた。
「おっ、松茸ご飯じゃねーか」
「まだまだたくさんあるのよ」とかすみがざるに入れたたくさんの松茸を見せた。
かすみにご飯をついでもらい、乱馬はそのかぐわしい香りを鼻いっぱいに吸いこんだ。
乱馬の隣に座るあかねがかすみに訊いた。
「どうしたの?こんなに松茸たくさん?」
かすみはいつもの優しい女神のような微笑みを顔に浮かべて、
「八宝斎のおじいさんがおみやげだっていって持ってきてくれたのよ」と言った。
乱馬は今まさに松茸ご飯に箸をつけようとしていたのだが、後数センチのところでピタリと箸を止めた。
眉をひそめて「じじいが…?」と呟いた後、乱馬は怪訝な顔をして松茸ご飯を見つめた。
天変地異の前触れだろうか。それともなにか裏があっての悪の陰謀か。
とりあえず八宝斎が人のためになにか良いことをするなんてまったくもって考えられないので乱馬は迷うことなく茶碗を置いた。
視線を感じて周りを見るとみんなまだ松茸ご飯には手を触れず、乱馬の様子をじっとうかがっている。
つまりは実験体にされそうになったってわけだ。
ふう、危機一髪。危なかったぜ、と心の中で呟いて乱馬は手の甲で額に流れた冷や汗を拭った。
乱馬を見つめるみんなの心の舌打ちが聞こえたような気がした。
皆の思惑を敏感に感じ取って八宝斎はテーブルをドンッと叩くと、声を荒げた。
「失礼な!」
八宝斎は自分の分の松茸ご飯を口いっぱい頬張ってみせると、フガフガと言った。
「ほら、見てみい!」
食べながら話すので口からご飯粒が飛び散る。
八宝斎はゴクリと咽喉を鳴らして口の中のものを飲みこんだ。そして言った。
「なんともないじゃろーが!」
固唾を呑んでじっと様子を見ていた早雲と玄馬は、松茸ご飯をその後もガツガツと食べ続ける八宝斎に異変が現れないのを見て
おそるおそるひとくち食べてみた。
「あっ、おいしいですね〜」そう言って早雲と玄馬はそのまま箸をすすめる。
誰にも異変が無いのを見て、腹が減っていたのもあって乱馬も飯をひとくち食べてみた。
――美味い。かすみの味付けが良いのか、元が良いのか。松茸ご飯は素晴らしくおいしかった。
乱馬は早くも空になった茶碗をかすみに差し出した。
「かすみさん、おかわり」
「わしも」
「パフォ」
早雲と玄馬も続いてかすみに茶碗を差し出した。
その様子を見てあかねもひとくちご飯を口に入れてみた。とてもおいしい。
そのままあかねももうひとくち箸をすすめようとしたところで、当然のことながら異変は起きた。
「うっ!」
順調に食べ進めていた乱馬の腹に突如雷のような激痛が走った。苦しそうにうめいた後、乱馬はそのまま腹を抱えてうずくまり、
動かなくなってしまった。
あかねは驚いて持っていた箸を取り落とした。
「乱馬!?」
「乱馬くん!?…うっ!」
続いて早雲も、そして玄馬もまた腹を抱えて倒れこんだ。
「みんなどうしたんじゃ?…うっ!」
八宝斎もまた前のめりになってバタリと夕食に向かって倒れこんだ。



「これはキノコの中毒症状ですね」

小乃東風はひととおり乱馬と早雲と玄馬とそして八宝斎を診察し終わった後であっさりと答えた。
本来東風は接骨医であるのだが、何故か内科一般の知識も心得ている。
そして今は夜中ということもあって日ごろから天道家と交流が深いこの人物を頼ることは自然な流れだった。
聴診器を外しながら東風はいった。

「一見松茸に似ていますが、実はこれは毒キノコなんです。食べると一般に一時的なショック状態に陥り、
とんでもない腹痛とか凄まじい吐き気、手足のしびれ。発汗、発熱。時には幻覚、幻聴といったあらゆる諸症状を引き起こし、
たくさん食べると死に至ることもあります。それにしてもいやあ〜皆さん超人的に丈夫な方ばかりで良かった!」
必要な治療は施したので明日には完治しているでしょう、といって東風は医療道具を鞄にしまい、鞄の留め金をパチンと留めた。
「こんの妖怪がーっ!わしらを殺す気かっ!」
早雲は八宝斎の首をぎりぎりとしめあげようとした。が、キノコの毒の後遺症で手が震えて普段の半分の力も出せなかった。
余り苦しくない息の下八宝斎は、
「よかれと思ってしたことなのに…みんなの喜ぶ顔が見たくて」
と、じわりと涙で目を潤ませるとシクシクと泣き始めた。
ハッとして早雲は師匠の首から手を離した。
毒キノコを食べさせられてあわやあの世逝きという結果としては最悪な結果になってしまったが、
八宝斎にしてはありえないことに珍しく好意からしたことである。
八宝斎の想いを踏みにじり責めてしまったことで部屋に気まずい空気が流れた。
「せっかく…せっかく山に入ってわしが自ら取ってきたのに!」
「素人がキノコを取るなっ」
乱馬がこれまた震える拳で八宝斎の頭をぽかりと殴った。

「先生、あたしも少し食べちゃったんですけど」
あかねがおずおずと前に進み出た。
なびきは最後まで警戒して松茸ご飯には箸をつけないままだったし、
かすみはおかわりのご飯をついだりしていたのでまだ夕飯を食べ始めてはいなかった。
のどかは他のおかずを先に食べていて結局松茸ごはんには手をつけずじまいだったのである。
東風はあかねも診察した後、うーんと唸り首を捻った。
「別に変な症状も出てないし、たぶん大丈夫だと思うけど…一応あの中には本物の松茸も少しは入っていたみたいだったからね。
あかねちゃんは本物だけを食べたのかも知れないな。でも何か変わった症状が出るようだったら、すぐに連絡して欲しい」
「わかりました」

丁度全ての診察が終わったところでかすみが台所から東風の分の夕食を盆に載せて運んできた。
かすみの姿を見た途端、東風の挙動が目に見えておかしくなった。
「や、やあ、かすみさん」と上擦った妙な声柄でかすみに片手を上げてみせる。
かすみは東風の側に膝をつき、盆に載っていた松茸ご飯は当然除いた夕食を卓の上に並べた。
「東風先生夜遅くにお呼びだてしてすみませんでした。お夕飯まだなのでしたらぜひうちで食べていってくださいね」
「はい、いただきます。ああ、この松茸ご飯がまた美味ですね」
恋焦がれるかすみの前ですっかり正気を失ってしまった東風はかすみが今運んできた料理ではなく、
テーブルの上に元々置いてあった毒キノコ入りの松茸ご飯を手にとってむしゃむしゃ食べ始めた。

「あぁー、かすみさんの手料理は最高ですね」

「せんせい!それ毒キノコ入りよっ」と、あかねが止めたが東風の耳には全く届いていないようだった。
東風は毒キノコ入りの松茸ご飯を食べて恍惚の表情を浮かべた。
そうしてこの日はそれ以上何事もなく終わったのだが―――。



ピピッ。計測が終わったことを知らせるアラームが鳴って、あかねは脇に挟んでいた体温計を取り出した。
37.4分。少しだけれども熱があった。
朝起きたときからいつもより少し体がだるい。
普段ならばただの風邪で少し寝ていればすぐに良くなるのだが、昨日にはあの毒キノコ事件があった。
ただの風邪だろうが念のため東風先生に見てもらったほうが良いだろうという家族の勧めもあって、
乱馬を付き添いにあかねは小乃接骨院へと向かった。
丁度お昼時で客足は途絶えていたのですぐに診察してもらえることとなった。

「風邪だと思うんですけど」
「天地がひっくり返るようなとんでもない腹痛とか幻覚症状とかは無いんだね?体がだるいかぁ…あっ!もしかしたら」
東風はどんな意味があるのだろうか、あかねに片手をあげるよう指示したりあかねの頭を2、3度軽く叩いてみたり、
片足で立つよう指示したりして、どこをどう見ているのか分からない不思議な診察をしばらく続けていたが自分の膝をポンっと叩くと、

「うん、そうだね。あかねちゃんは「ニセ松茸」を食べたらしい」
「なんですかそれは」と当然のことながらあかねが訊き返した。
「乱馬くんたちが食べたのとはまた違う松茸に似てるんだけど毒キノコっていうのが他にも実はあるんだよね」

あかねが不安げに東風の顔を見つめた。毒キノコと聞いて乱馬もまた緊張した。
東風は2人の不安を感じ取ってか努めて明るい声でいった。
「でも心配しないでいいよ。このキノコの場合、食べてからそんなに時間が経ってないから大事には至らないと思う。
えーっとこれの解毒方法はどうだったかな…」
東風は医学書のたくさん入った戸棚を開け、目当ての本を探し当てた。
本の表紙には『世界の毒キノコ図鑑』とある。
どうしてこんなものが一介の接骨院にあるのかは分からないが、東風は本を手に取るとページを繰り始めた。
大事ないと聞いて乱馬とあかねはほっと胸をなで下ろした。

「よかった。たいしたことなくて」
「ったくじじいのやろー。ろくなことしやがらねえ」
ちなみに。八宝斎は昨日の騒動の後、行方を眩ましていた。
翌朝すっかり健康を取り戻した乱馬たちからの報復から逃れるためだろう。
皆の怒りも消え、ほとぼりの冷めた頃に帰ってくる作戦なのだ。
「あったあったこれだ」
目当てのページを探し出し東風は本に目を走らせていたが、
急にぎくりと顔を強張らせると唐突にバンっと大きな音を立てて本を閉じた。
乱馬とあかねは驚いて目を丸くした。
「先生?」



「……ごめん。この本に載っていると思ってたんだけどどうやらぼくの勘違いだったようだ」
「え?」
「でも大丈夫だよ、あかねちゃん。きっと治してみせるから。他に方法があるかどうか確かめてみるよ……っていやー、
これはこっちの話だ。と、とにかく!少し時間をくれるかい?」
誰の目から見ても東風が動揺していることは明らかだった。
乱馬とあかねはきょとんとして顔を見合わせた。
東風は2人をまるで追い返したいかのように「玄関まで送るよ」といって立ち上がった。
半ば背中を押される形で乱馬とあかねは玄関へと向かった。

玄関の前であかねが東風に別れの挨拶を述べた。
「…じゃあ私たちはこれで」
「……えっ!?…あっ、ああ。じゃあ調べておくよ」
一応答えはしたが、東風はなにか他のことに気を取られているようで返事はうわの空だった。
東風は顎に手を当て、乱馬とあかねを交互に見比べながらなにか思案にふけっている。
乱馬とあかねは再び顔を見合わせ、立ち去ろうとしたが、

「乱馬くん!」

立ち去りかけた2人を東風が呼び止めた。「ちょっと」と東風は乱馬に手招きした。
あかねも乱馬の後について戻ろうとしたが、
「あ!あかねちゃんはいいから。乱馬くんちょっと」と言って東風はあかねが来るのを制した。
「なんだよ、せんせい」
乱馬が側に寄ると東風はチラリとあかねの方に目を遣り、あかねに聞かれないくらいに声のトーンを落とした。
「乱馬くん。不躾で悪いんだけどきみはそのう…あかねちゃんとはどこまで――?」
「へ?」
言われていることの意味がつかめずに乱馬は首をかしげた。
「なんの話だ?」
「いっ、いやいいんだ、ごめん。引きとめて悪かった」
東風は急に気が変わったらしく話を打ち切った。
「じゃ、じゃあ解毒方法を調べておくよ。心配しないで。大丈夫だから」
「じゃあね」と東風は乱馬とあかねにぎこちないつくり笑顔で手を振った。



「東風先生なんだったのかな。なんか言いたげだったけど…」
家に帰ってからも乱馬はうーんと首を捻って考えこんだ。


――乱馬くん。きみはそのう…あかねちゃんとはどこまで――?

先生はいったい何を聞こうとしていたんだろう。しかし考えても分かるはずもなく、らちが明かないので乱馬は忘れることにした。
居候部屋に戻ろうとして廊下に出たところで丁度廊下に設置してある電話のコール音が鳴った。
周りに誰もいないので乱馬は受話器をとった。
「もしもし。天道ですが」
「あ!乱馬くん?丁度良かった。東風だけど…今から出てこられないかい?」
電話の相手は東風だった。きっと解毒方法がわかったんだなと乱馬は推測した。
「うん、わかった。あかねと一緒に今からそっちに行くよ」
途端に電話の相手の声が曇った。
「いや、あかねちゃんは置いて1人で来てほしい」
思いがけない返答に乱馬は戸惑った。
「へ?おれだけで?」
「うん」
「なんで?」
「理由は来てから話す。じゃ、待ってるよ」
「せんせ…」
プツッと音がして電話が一方的に切られた。後には無機質な機械音が虚しくツーツーと鳴り響くだけである。
自分1人でというのは解せなかったが、乱馬はとりあえず言われたとおりにしようと玄関に向かい靴を履いた。



「あら、電話かしら」
茶の間ではかすみが洗濯物をたたんでいた。かすみは電話をとろうと立ちあがりかけたが、不意に電話のコール音が途切れた。
切れたのではない。誰かが電話をとったらしく話をしている。
会話の内容は茶の間からは聞き取れず、低いボソボソした声が聞こえていた。かすみはまた座り直した。

「乱馬が出たんじゃないかしら」
乱馬が茶の間から出て行ったところだったのであかねはそう推測した。
やがてボソボソと会話する声が終わると、今度はガラガラと玄関の戸を開けて出て行く音がした。
道場で稽古でもするのかな、とあかねは思った。
かすみは洗濯物を全てたたみ終えるとあかねに言った。

「じゃあ、私は自分の部屋で本を読んでくるわね。でも具合が悪くなったらすぐに呼ぶのよ」
自分の熱がキノコの毒から来ているということをあかねはその場にいた乱馬を除いては家族の誰にも話していなかった。
東風先生もたいしたことはないと言っていたし、余計な心配をかけたくなかったからだ。
かすみはずっしりとした辞典のように分厚い本を脇に抱え、よいしょと立ち上がった。
何の本を読んでるのかなと興味からあかねは本のタイトルを探った。
本の表紙には『世界の毒キノコ図鑑』とどこかで見たような文字が躍っている。
あかねは驚いて立ち上がった。

「おねえちゃん、その本…!」
「ああ、これ?前に東風先生からいただいたの。自分は二冊持っているからって」
あかねはまじまじと本を観察した。間違いない。昼間東風がキノコの解毒方法を調べるために用いた本だ。
「その本…ちょっと貸してくれない?」
「いいわよ」
「はい」とかすみは快くあかねに本を手渡した。


あかねはかすみに借りた本を自分の部屋に持ち帰ると早速ページを繰った。
「えーっと“ニセ松茸”…。あ!あったこれだわ」
ページの隅に添えられた写真に写るキノコは素人のあかねでは本物の松茸と判別出来ないほどよく似ていた。
あかねの脳裏にページを開いた時に見せた東風の困惑した表情が思い返された。
先生は何をあんなに戸惑っていたのだろう。
「えーっとこのキノコの解毒方法は…」
あかねはキノコの解毒方法を指した箇所を読み進めていったがその表情は次第に蒼ざめていった。

―――え。

「嘘」
いつの間にか手から本がするりと滑り落ち、床に落ちたのも気づかないほどあかねは動転していた。
震える唇であかねはひとり呟いた。
「なんなのよ、これは」



ほぼ同時刻。小乃接骨院の診察室では乱馬と東風が向かい合って座っていた。
東風が心底申し訳無さそうに乱馬に告げる。
「ごめん。他に方法を探したんだけど見つからなくて…」
乱馬は東風の言葉に引っかかりをおぼえた。
「他に?なんの話だ?」
「解毒方法はやっぱりこの方法しかないらしい」
東風は乱馬に昼間見た『世界の毒キノコ図鑑』を手渡した。
「本にしおりが挟んであるから、そのページを開いてみてくれないか」
乱馬は言われたとおりにしおりが挟んであるページを開く。
そこは「ニセ松茸」の説明がなされたページだった。
東風が言っていたあかねの食べた毒キノコだ。
「…解毒方法のところを読みながらぼくの話を聞いてほしい」
乱馬は解毒方法と書かれた箇所に目を落とした。

キノコの解毒方法を読み進めるにつれ、乱馬の目は点になった。
世にも不可思議な解毒方法、それは――。東風は本の内容をかいつまんで説明した。

「その本に書いてあることつまりだね。乱馬くん。このキノコの毒は女性の場合、膣分泌液…つまり俗称でいうと愛液とかいうね。
そこからしか排出できないんだ。
だから性感帯に刺激を与えて、膣分泌液が出るように促してほしい。
あかねちゃんが食べた量だと1回のオーガズム、つまりは性的絶頂に至るくらいで毒は充分に排出できると思うよ」
そしてあかねの熱はやはりキノコの毒から来るだろうこと。
今は食べてから時間が経っていないので大丈夫だが、とはいえ毒が体内にあるのだからこのまま放置しておくのは危険なこと。
ちなみに毒は体内から出た途端無害化することなどを東風は淡々と機械的に話した。

乱馬は唖然としてその話を聞いていた。話が終わり、一瞬間があってハッと我にかえったようにおそるおそる口を開く。
「せ…せんせえ」
咽喉から絞り出すようにして発した乱馬の声は上擦っていた。



「ん?なにかな。乱馬くん」
「まさか…おれにその…」
「うん。性感帯を刺激して膣分泌液を排出させて欲しい」
東風はさらりといってのけた。乱馬はクラッと軽く眩暈をおぼえた。
東風はさも当然と言わんばかりの口調で、
「君しかいないじゃないか」
「…ッ!んなことおれにできるわけが…!!」
「実はね乱馬くん」
東風は心持ち椅子から身を乗り出して話した。
「さっきも言ったがこの毒は進行がとても遅くまだ大丈夫なんだけど、このままの状態が長く続くのは危険なことなんだ。
だからできたらそれは早い方がいいと思う。例えば…今日」
「今日!?」
乱馬は口をあんぐりと開けた。
「できないかい?」
「できるわけねーだろ!!」
乱馬は耳まで真っ赤にさせて言う。乱馬は再び本に素早く目を走らせると、
「でも…これってそのう……ひとりでもできるんじゃ――」といいかけた。
「乱馬くん!きみはあかねちゃんに自慰行為をしろというんだね!」
「せ、先生!声が大きいっ」
玄関が開け放しにされた接骨院にはいつ誰が入ってくるかわからない。
乱馬は東風の口を押さえかけた。しかし東風は口に伸びてきた手を軽く払うと、
「しかしね、乱馬くん。熱が出て体力も落ちているし、それにあかねちゃんの場合…そんな経験もあるかどうかわからない。
だから上手くできるかどうか…。
できたら他の人の手を借りたほうがいいとぼくは思うがね…どうしても無理かい?」
乱馬はうつむいて答えなかった。



東風は大袈裟に溜め息をついてみせた。
「……しかたない。乱馬くんがやらないのならぼくがあかねちゃんに治療を施すしかないか」
「えっ!?」
乱馬が驚いて顔を上げると、東風は意味ありげに手の指をこきこきと鳴らしてみせる。
「ぼくは接骨医だからね。腕には自信があるんだ」
「で、でも」
「だって他に誰がいるんだい?まー、きみがやるんならそれでいいけど、できないんならしようがない。わかった。
ぼくがあかねちゃんの性感帯を刺激して――」
「わー!待て待て!!」
それはもっと困る。乱馬は渋々うなずいた。
「…わかった。おれがやるよ」
「そう?じゃよろしく頼むね」
東風はその言葉、待ってましたといわんばかりににんまりと笑った。
まさに思惑通り、してやったりといった風の東風の笑顔を見て、はめられたんだと乱馬は悟った。
最初から乱馬に止めさせることを見越して自分がやると言い出したのだ。
乱馬は東風を睨みつけた。
「…だましたな」
東風はすっとぼけて答えた。
「だますって何を?くれぐれも優しくしてね。あかねちゃんを頼んだよ、乱馬くん」
ポンポンと2回激励の意味で乱馬の肩を叩いた後、東風は急に真顔になって付け加えた。
「周りのことはぼくに任せてくれ。考えがある」



まるで魂が抜けたようにフラフラと夕闇の中帰って行く乱馬の背中を見送って、東風はやはり胸が痛んだ。
(やっぱりまだそんな関係じゃなかったか)
しかし、他の人には頼めない。
これも2人の運命だと東風は自分を納得させるために電話の受話器を持ち上げ、とある番号を押し始めた。



乱馬が天道家に戻ると門のところで早雲と玄馬が待っていた。
玄馬は帰って来た乱馬に気づいて「おう」と声をかけた。
「乱馬。今までどこに行っとったんじゃ。探したんだぞ」
まるで今からどこかに出かけようとする様子なので乱馬は尋ねた。
「おやじ、おじさんもみんなどっか出かけるのか?」
早雲がうなずいて答えた。
「うん、東風先生から今しがた電話があってね。
高いいい肉を買ったから皆を今晩すき焼きに招待してくれるって」
周りのことは任せてくれ、と言っていた東風の言葉がよみがえった。
邪魔者の排除。
周りイコール乱馬とあかね以外の天道家の人々である。
なるほどうまい手を考えたな、と乱馬は感心したが、同時に昨日毒キノコを食べて三途の川をみたというのに次の日誘われたから
といってすき焼きだなんてこれまた胃に負担のかかりそうなものを食べようとする早雲と玄馬にもある種、舌を巻いた。
(さて後は)と乱馬は考えた。
(どうやってあかねを引きとめようか)
周りに人が居なくなってもあかねまでついて行ってしまっては元も粉もないのだ。
あかねが家に残らざるを得ないなにか上手い手を考えないと……。

しかしそんな心配は無用のこととなった。なびきが家からよそ行きの服を着て出てきた。
続いてのどかとかすみが家から出てくる。そこにあかねの姿は無かった。
「あかねは行かないって。熱があって食欲ないからって」となびきが乱馬に告げた。
「大丈夫かしら」
のどかが不安そうにひとつだけ明かりの点いたあかねの部屋を見上げた。
「私もじゃあやめとくわって言ったんだけどあかねが1人で大丈夫だからって」
かすみが心配そうに乱馬に言った。「さっき見たら顔色が悪かったの」
「おれも残るよ」
乱馬は言い訳した。



「昨日のことでまだちょっと腹の具合が…」
「あら、大丈夫なの?」
かすみが不安げに乱馬を見つめた。
「やっぱり私も残ろうかしら」
「東風先生、おねえちゃんが来なかったらすごくがっかりするわよ。それに乱馬くんも残るって言ってんだから大丈夫でしょ」
「ね、乱馬くん」となびきは乱馬を振り返って同意を求めた。
「お、おう」
結局なびきに促されかすみは渋々ながらも行くことを承知した。
「何かあったら接骨院に電話してね」
 しかし最後まで心配した様子でかすみはそう言い残した。
乱馬とあかねを除いた天道家の面々は小乃接骨院へと向かって歩いて行った。
これで天道家には乱馬とあかねと2人きりだ。


乱馬は2階に向かう階段を昇りながら考えた。問題はここからだ。
どうやってあかねにこのことを話そう。
本当は今にもダッシュでここから逃げ出したかったが、
別れ際に東風が笑顔で言った一言が乱馬の胸に突き刺さってかろうじてそれを留めていた。
乱馬の脳裏に帰りぎわ、東風に言われた言葉がよみがえる。

(あ、そうそう乱馬くん。さっきぼくが代わりに…っていったのは嘘ではないよ。
きみが本当に放り出すのならぼくは本当にきみの代わりにするからね。
あかねちゃんを助けるために。医者として危険な状態をこのまま放置することなんてできないよ。
例えあかねちゃんが嫌がってでも。あかねちゃんが大事だからね)

東風は笑顔だったが、メガネの奥の目は笑ってはいなかった。



くそう。なんでこんなことに、と乱馬は頭をかきむしりながら思った。
まー、そりゃあ…なんといっても一応は許婚だし?
ゆくゆくはこんなことやあんなことやそんなことやあまつさえ…なことまでしたりする関係になったり
するんだろうなーとは考えてはいたけれどそれはあくまでゆくゆくはという未来のことで今日いきなり、
こんな形で訪れるなんて夢にも思わなかった。おれにも心の準備ってものが…。
しかしどうやってあかねに説明しようか乱馬は頭を悩ませた。いきなりそんなこと言われてちゃんとわかってもらえるだろうか…
いや普通に考えてそれは無理だろう。
いっそのこと…みぞおちにでも1発くらわせて気絶させてその間に…ってそんなことできるのか?いくらなんでもそれは無理か。
でももしできたとしてもそれって犯罪だよな。
しかも途中で目覚められたらもうどうしようもない。ったく、なんでこんなことになったんだ!
(あ〜〜〜〜〜〜〜っ!!もうっ!!)
乱馬は心の中で絶叫した。
そもそも、八宝斎のじじいが変なキノコを取ってくるから悪いんじゃねーか!
ほんっとろくなことしやがらねーあんのジジイはっ!!帰ってきたらマジでぶっ飛ばす。

悶々としてあかねの部屋の前に立つと、いつもは忘れてしまうノックをした。
コンコン。
扉を2回叩く。が、返事はなかった。しかし部屋の明かりが点いていたので起きているのはわかっている。
「開けるぞ」
ガチャ、とノブを回して扉を開けるとあかねは机に突っ伏していた。
「…あかね」
声を掛けるとあかねは机から顔を上げて振り返った。なんだか今にも泣きそうな顔をしている。
かすみのいったとおり顔色は昼間見たときよりも悪かった。
「具合…悪いのか?」
あかねは無言で首を横に振った。かろうじで聞き取れる程の小さな声で答えた。
「大丈夫」
「でも…おめー顔色悪いぞ」
乱馬は部屋に足を踏み入れた。
あかねはビクリとして肩を震わせる。
あかねの反応を見て、おかしな反応をするな、と乱馬は思った。ふと、無造作に床に放り出された本が乱馬の目に留まる。
本のタイトルを見て乱馬は目を見張った。



「これ……!」
あかねがぽつりと言った。
「かすみおねえちゃんが同じ本持ってたの」
「読んだのか?」
あかねはうなずいた。
「家族全員を夕食に招待した東風先生の意図…いくらにぶいあたしだって分かるわ。
あんたと私を2人きりにするためにしたことなんでしょう?」
「じゃ、じゃあ」
そこまでわかってんならじゃあ、話は早いじゃねえか。
みんなが帰ってくる前にとっとと済ませちまおーぜというわけには当然行かなかった。
あかねはキッと鋭い目で乱馬を睨みつけた。
「じゃあ、ってなによ」
「べ…別に深い意味は」
「別に協力してもらわなくても大丈夫よ」
あかねはぷいと横を向いた。
「じゃどうすんだよ。早くしねーと毒が体に回って取り返しのつかないことになるぞ」
あかねは少し思案するように黙って眉を寄せていたが、さっきよりも数段小さな声で何かを言った。
しかしそれは乱馬の耳には届かなかった。
「え?」と聞き返す。あかねは唇を噛み締め、羞恥に耐えるような表情をした後、
今度は乱馬にも聞こえるくらいの声で先程の言葉を繰り返した。
「ひとりでするわよ」
あかねの発言に乱馬は口をあんぐりさせ、絶句した。
思わずその光景を――あかねが自分の股間に手を伸ばし、
頬を紅潮させて時折喘ぎ声を唇の隙間から漏らしながら自分を慰めている様を想像しそうになって乱馬はブンブンと
頭を振って想像をかき消そうとした。
中々消えないこの想像に動揺した乱馬の口を突いて出たのはこんな言葉だった。
「でも…おめー不器用そうだから」
「失礼ねっ、それくらいできるわよ!」
「…したことあるのか?」
あかねの顔がかっと一気に紅潮した。あかねはいきなり立ち上がった。
「知らないっ!もうほっといてよっ」
乱馬の横をすり抜けて部屋を出て行こうとするので乱馬はあかねの腕をつかんで引きとめた。
「はなしてっ」
「じゃあなんで家に残ったんだよ」
「…ッ!」



あかねは腕をつかむ乱馬の手を振り払おうと躍起になっていたのだが、抵抗を止め、おとなしく腕を下ろした。
「きっと他に方法がないんだろうと思ったから…ごめんなさいね。あんただって本当はこんなことしたくないでしょうに」
あかねはうつむいた。声はか細く、先程までの威勢の良さはすっかり消え失せてしまっている。
唇がわずかに動いてあかねが言った。
「でも…こんなのって――ひどいわ」
あかねの瞳がみるみる涙で潤んでいくのがわかった。今まで精一杯強がっていたが、芯がぽきんと折れてしまったようだった。
泣かれては敵わないので乱馬は話を逸らそうと試みた。

「あかね」
乱馬はあかねの肩に手を置くと、親指でぐいっと自分を指差した。
「せっかくおれがいるじゃねえか」
「……」
あかねは無言のまま顔を上げて乱馬を見つめた。

「しかもだ」
と乱馬はコホンとひとつ咳をして付け加えた。
「なんたっておれはおめーと違って器用だからな。だからそんなにべたべた触らなくても短時間で、かつ最小限で済むかも…」
乱馬は頬を赤らめた。自分で言って自分で照れていた。
あかねは乱馬に冷ややかな視線を浴びせた。もう泣いてはいない。
「それは…自分は上手だって言いたいわけ?」
「あたりめえじゃねえか」
さも当然と言わんばかりに乱馬はふんぞりかえった。あかねは乱馬の自信満々な態度にフッと
ある疑念が湧いた。
「乱馬は…前にもこんなこと誰かにしたことあるの?」
「……ない。けど、おれは上手い」
乱馬はばきばきと指を鳴らした。
乱馬は今までの修行の日々で身につけた数々の技を思い出していた。あのとき身につけた技の
数々が今の自分にとって大きな自信となっている。
特に火中天津甘栗拳など応用してみればおおいに活用できそうだ。もしもコロンがこの時の乱馬の思惑を知ったなら
「そんなことのために教えたのではないぞ、婿どの」と言って嘆くだろうが。




水を被ると女になるという変態体質も自信におおいにプラスに貢献していた。
女になれることで普通の男よりも女の体のことを少しはよりわかっていると自負している。
この呪われた体質を乱馬は少しだけ、ほんの少しだけ感謝した。
決して猛虎落地勢など使わずに済むように祈りたい。
今なら間違いなく猛虎高飛車が余裕で打てるに違いない高飛車な乱馬の態度にあかねは精一杯の虚勢を張った。

「ふ…ふんっ。自分の腕を過信しないことね!」
「おー、言ってくれるじゃねえか。その言葉、必ず後悔することになるぜ」
「後悔させてごらんなさいよ」
「…ほんっとーにいいんだな」
「いいわよ」

粗野な言葉とは裏腹に、乱馬はあかねを壊れ物でも扱うかのようにそっとベッドに横たえた。
しかし2人の間にはロマンチックなムードもへったくれもなく、
まるでこれから武道の試合でもするかのような殺伐とした空気が流れていた。
乱馬が自分の下にいるあかねを睨みつけて言った。
「や…やるぞ!」
あかねも自分の上にいる乱馬を睨んでうなずいた。



乱馬の手がそろそろとあかねに伸ばされ、服の上からそっと胸の上に置かれた。
ブラジャー越しにあかねの柔らかい胸の感触を掌に感じた。乱馬はとりあえず両手でもみもみと胸を揉んでみた。
そのまましばらく揉み続けていたが、
あかねはかたく目を瞑り、ぎゅっと唇を噛み締めてただ黙っているだけでなんだかこのままじゃらちが明かない気がして、
乱馬はあかねに提案した。
「うーん……やっぱりさ。服脱いだほうが」
「…そっ、そうよね」
あかねは上体だけ起こすと、顔を赤らめて乱馬に言った。
「電気消してくれる?」
乱馬は立ち上がって部屋の電気のスイッチを消しに歩いた。そしてあかねの方に振り返ろうとしたが、
「待って。まだ振り向かないで」
言われたとおり乱馬はあかねに背を向けたまま待った。
カサカサとかすかな衣擦れの音がした後、部屋にはまた静寂が戻った。
「…いいわよ」



振り返るとあかねは上半身裸で下にスカートを履いただけといういでたちでベッドの上に座っていた。
窓から差し込む月の光に照らされてあかねの白い裸体が暗闇にぼんやりと浮かんで見える。
その光景は何だか幻想的で非現実的なものに思えた。
暗いとはいえ恥ずかしいんだろう。あかねは胸の前で露わになった胸を隠すように腕を胸の前で組んでいた。
「手、どけないと」
「ご、ごめん」
あかねは恥ずかしそうに胸を隠していた手をゆっくりと下に下ろした。
らんま程大きくはないが、形の良い豊かな乳房が取り去られた手の下から現れた。
乱馬はあかねの胸に触れようとしたが、
「あ、待って」
あかねが乱馬の手を制した。「乱馬も脱いでよ」
「は?」
あかねは暗闇の中でもわかるくらいに頬を染めた。
「あたしだけじゃなんだか恥ずかしくて」
「はあ」
その考えもどうだろうと思ったが乱馬は素直に応じることにした。
乱馬も服を脱いで上半身裸になった。電気の消された暗い部屋に上半身裸の男女がベッドの上で向かい合う。
さっきは服を着ていなかったので分からなかったが、
あかねの露わになったふくらみの先端の突起は既に勃ちあがりかけていた。
(もしかして…感じてた?)
乱馬はパッと顔を上げあかねの顔を見た。目が合って、気まずそうにあかねは目を逸らす。



乱馬は胸の薄桃色した突起をぎゅっと指で摘んでみた。
「ふあっ」
あかねの口から甘い吐息がかすかに漏れた。今まで唇を噛み締めて耐えていたが、
いきなりの強い刺激に思わず出てしまったらしい。
この小さな喘ぎをしっかりと耳にした乱馬はぐりぐりとあかねの乳首を指の先でしつこく刺激する。
擦られたそこだけがジンジンと熱を持ってまるで自分の体ではないようにあかねには感じられた。
「やっ…やぁっ」
 かすかに喘いで、あかねはいやいやをするように首を横に振った。思わず乱馬の指の動きを止めさせようと、
乱馬の腕に手を添え、潤んだ瞳で懇願するように乱馬を見上げる。
なにかを堪えるようにひそめられた眉、潤んだ瞳、上気した頬、濡れた唇…。
その貌にたまらなく「女」を感じて乱馬の理性の糸がプツッと切れた。
「あかねっ!」
本能のままに乱馬はあかねを押し倒すと、噛みつくように首筋に口づけた。
「ひゃんっ」
いきなり首筋を吸われ、あかねは驚いて身を捩る。

舌はゆっくりと乳房にまで下りていき、乱馬はふくらみの先端の突起を口に含んだ。
先端を軽く歯噛みしたり、舌で転がしてみたりする。
もう片方の乳房は荒々しく手で揉んだ。
あかねの乳首はいまやもう痛い程勃ってしまっている。
すっかり尖りきってしまった先端の突起を見つめて乱馬がいった。
「……感じてきた?」
恥ずかしくてあかねは悪態をついた。
「ばかっ」
「なんだよ」
「あんたデリカシーってのがないの?」
あかねの反応があまり面白くなかったのか乱馬は何か企んだ様子で
今までずっとあかねの体に這わせていた手を下半身の方に下ろしていった。
「あっ」とあかねが気づいた時には既に遅く、
スカートを捲り上げ、中に手を入れるとショーツの上からではあるが、
あかねの秘部の縦の割れ目に沿って中指ですっと撫で上げた。
「んんっ!」
その瞬間、あかねの背筋にゾワッと電流のような刺激が一気に駆け抜ける。
「感じてるみたいだな」
「別にそんなこと…はぁんっ!」
再び同じ動きを繰り返すと、あかねはビクンと弓なりに体を反らせ、
つづいて出そうになる声を唇を噛んで必死に押し殺す。



ふと乱馬の頭に疑念がよぎった。体は反応してるみたいだけど、ちゃんと
濡れてはいるんだろうか。
やっぱり確認してみないと。
乱馬の気配になにか察するところがあったのか、あかねは上体を起こしかけると止めに入った。
「ちょっと待って…そこはっ…あんっ!」
あかねの制止よりも乱馬の指がショーツの隙間から中へと侵入する方が早かった。
クチュリ…とかすかな水音がして、大量の粘液がまるでまとわりつくかのように指に絡みついてくる。
良かった。あかねのそこはきちんと充分過ぎるほどに濡れていた。
乱馬は心の中で密かにホッと安堵した。

「ああっ…ら、乱馬待ってっ…はぁっ」
直に秘部に侵入してきた指は留まることなく更に奥へと侵入を続ける。あかねの中は熱く蕩けていた。
乱馬は蕩けた中に固いものを見つけ、指の腹で思い切り擦った。
「あぁんっ!」
触れた途端、あかねが一際大きく喘いだ。
今こそおれの火中天津甘栗拳の力を見せつけるときだ、
とかなんとか乱馬が思ったのかどうかは定かではないが乱馬は一心不乱にあかねの肉芽を擦り続けた。
膣口からはとめどなく愛液が溢れ出てくる。
乱馬は愛液と共にあかねの中を中心の肉芽と一緒にかきまぜる。
かきまぜる指に合わせてジュプジュプという愛液の淫らな水音が部屋に響いた。
「あぁっ、待って、そ、そんなことしたらあたしっ…あぁんっ、らんまぁ!!」
あかねが乱馬の名前を呼んで大きく喘いだ。名前を呼ばれて乱馬の心臓がドキンと大きく脈打った。
声に弾かれたように乱馬はあかねのスカート脇のファスナーを開けて
ショーツと一緒に引きおろし、剥ぎ取る。
そうして一糸纏わぬ姿になったあかねの両足を大きく広げ抱え上げると、乱馬はあかねの秘部に顔を近づけた。
「ら…乱馬…やんっ!」



指とは違うぞろりという感触がして舌が中に入ってくる。
乱馬は充血し、ぷっくりと膨らんだ肉芽を強く吸い上げた。
「あんっ!」
条件反射で咄嗟にあかねは足を閉じようとしたが、
両太腿をがっちりと乱馬に押さえつけられて開脚状態にされているので全く動かすことが出来ない。
「やぁっ…や……やめ……ああっ」
さっきはあんなこといってごめんなさい乱馬、といえたなら止めてもらえただろうかと、
かすかに残る冷静な自分であかねは考えていた。
しかし目の前の快感を前にしてあかねはいえなかった。
羞恥と快感では今この瞬間では明らかに快感の方が勝っている。
あかねはただただ素直に目の前の快楽を貪っていた。
「あぁんっ!」
とうの昔に理性は吹き飛び、もう隠すことさえしない喘ぎ声があかねの口から漏れていた。
吸いついてみたり舌先で捏ねたり、かき回したりと舌はあかねの中でまるで生き物のように自由自在に好き勝手に動き回る。
今まで感じたことのない感覚にあかねの頭は次第に真っ白になっていった。
呼吸がどんどん荒くなる。
「はぁはぁはぁ…ああっ!」
ある瞬間、あかねは四肢を強張らせると、
大きく背中を仰け反ってから脱力してぐったりとベッドに崩れ落ちた。
乱馬はあかねの秘部から顔を上げた。
「イッた…のか?」
あかねは頬を紅く上気させ、荒い息をしながら焦点の定まらない虚ろな瞳で天井を見つめていたが、
気だるそうに瞳だけを動かし乱馬を見た。
上気した肢体は薄い桜色に染まり、目のふちは涙で濡れて潤んでいる。
ぜいぜいと荒い呼吸を繰り返すたびに形の良い白い胸がたぷたぷと誘うように揺れている様は普段のあかねからは考
えられないくらいの凄まじい色気があった。乱馬はごくんと生唾を飲み込んだ。

―――やばい。もう限界かも。




今まで考えないことで自分をごまかし続けていたが、もう限界だった。
乱馬のズボンの下の己が自身は既に痛くなる程に勃起している。しかし自分の役目はここまでなのだ。
あかねは無事にキノコの毒を排出できたし、おれの仕事はここで終わったんだ、めでたし、めでたし……。
さあ、これをどうしようか。ちゃんとおさまるかな…と不安になるほど乱馬のズボンの前部分は傍目から見ても分かるほど、
不自然な盛り上がりをみせていた。
乱馬はあかねにそれを悟られぬよう背中を向けた。
「じゃ…じゃあ」
立ち去ろうとする乱馬の腕をあかねがつかんで引きとめた。
「どこ行くの?」
「……おれの仕事は終わったから」
「仕事?…ちょっと待って」
あかねの顔が凍りついた。「仕事だって思ってやってたの?」
「へ?」
乱馬は首だけ動かしてあかねの方を見遣ると、みるみるうちにあかねの瞳から涙が溢れ出てきていた。
あかねの涙に乱馬は慌てた。
「な…なんで泣くんだよ!」
「乱馬が変なこと言うからじゃない!」
あかねは手の甲でごしごしと涙を拭いながら怒った。
「あたしは解毒しなきゃいけないからとか仕方なしに乱馬とこんなことしたんじゃない。
あたしはっ…乱馬としたかったから…乱馬とじゃなきゃ死んでもこんなことしない…あたしは――」
あかねの言葉を遮って、乱馬はあかねの肩をつかむとあかねの唇に自分の唇を押し付けた。
あかねは目を見開き、最初は驚いた様子だったがすぐに強張っていた肩の力を抜き、乱馬にされるがままになっていた。
少し長い口づけが終わった後、乱馬は言った。
「…ごめん。そんなつもりじゃなかったんだ。おれ、不器用だから、うまく言えねーけどほんとはずっと不安だったんだ。
あかね無理しておれと…ってずっと考えてて…だからこのまま終わりにしようかと…」

あかねはずっと呆けたような顔をして乱馬の話を聞いていたが、突然表情を崩しフフッと口元を押さえて笑った。
笑われたことに乱馬は眉を寄せる。
「なんで笑うんだよ…」
「なんだかおかしくって」
あかねは思った。

(あたしたちってほんとに不器用ね。気持ちはいつも同じところに向いているのに)

あかねはしばらくクスクスと笑い続けていたが、再びベッドに仰臥すると、
「乱馬…来て」
あかねは乱馬に向かって手を伸ばした。拒む理由などどこにもなかった。



乱馬は下着ごとズボンをずらして、勃起してビクンビクンと脈打つ陰茎を取り出した。
膝の間に体を割り入れ、先端をあかねの膣口に宛がう。

「行くぞ」
「うん」
あかねは乱馬に縋るようにしがみつきながらうなずいた。
返事を聞くと、乱馬はぐっと腰を突き出し、怒張したモノをあかねの中にゆっくりと埋めていった。
あかねのそこから溢れ出ている潤滑油のおかげで先端だけは難無くするりと入る。が、
すぐに突っかかりをおぼえて前に進まなくなった。
乱馬は腰を据え、あかねの奥に向かってぐいぐいと捻じ込んでいく。
あかねはぎゅっと唇を噛み締めて未知の恐怖とその痛みとに耐えた。

ズブズブ…と乱馬は一歩一歩、だが着実に、未だ誰も到達したことのないあかねの未知なる領域へと侵入していく。
膣壁はまるで生き物であるかのようにその粘膜の肌で侵入者にからみつき、ギュッと締めつけた。
乱馬は体が蕩けそうなほどの快感を味わった。「うっ…」思わず呻く。
視覚だけでも――あかねのそこがぱっくり開き、
自分の怒張したものをしっかりと咥えこんでいるという刺激的な視覚だけでも今にもイキそうだ。
しかしそれを何とか堪え、根元までぎちぎちに入れきった後、乱馬があかねに訊いた。

「大丈夫…か?」
あかねは目を固く瞑り苦痛に表情を歪ませていたが、コクリとうなずいた。
苦しそうなあかねの様子が乱馬は気にかかったが、あかねは「大丈夫だから」と繰り返し乱馬に言う。
「動くぞ」
そう耳元で囁くと、乱馬はあかねを気にかけながらもゆっくりと腰を動かし、抽送を開始した。
抽送を何度か繰り返す度に膣内は徐々に潤みを増し、その動きはだんだんと円滑になっていく。
体を揺らす度に2人の接合部分からは薄く血の混じった愛液がポタポタと床に滴り落ちていった。
あかねの顔に苦悶とも快楽ともつかない表情が浮かぶ。
「は……ぐ……ら、乱馬ぁ!」
切ない声で名前を呼ばれて、乱馬はあかねの中の怒張した自身がまた更に熱くなったのを感じた。
乱馬はあかねの奥に向かってずんっ、ずんっと繰り返し突いた。
「あっ、あっ、あっ」
その度に咽喉から喘ぎ声を出し、反応を返してくれるあかねが可愛くって
乱馬はあかねの唇を貪るように口づけた。唇の隙間から舌を差し入れるとあかねも舌をからめて応えてくる。
律動が激しくなるに連れて、膣の内壁もヒクヒクと大きく轟き、締め上げる力も増していった。

あっという間に高みが近づいてきた。狭い部屋に響き渡るパンパンッと肌と肌とがぶつかる音と
二人の接合部分から漏れ出るグチュグチュといった淫猥な水音も一層激しさを増す。
思考は途切れ、真っ白になった頭で乱馬は一心不乱にあかねを突き続けた。
陰茎はまるで燃えているかのように熱い。もう限界だった。
「あっ、あかね…おれ…もうっ」
「ら、乱馬ぁっ」
あかねはほとんど泣き声だった。乱馬の背中に回した手に更にぎゅっと力をこめる。
「……ああっ」
最後は切り裂くような悲鳴をあげ、あかねが背を大きく仰け反らせると同時に膣内がギュウウッと収縮した。
拍子にビクンと乱馬の腰が大きく跳ねる。次の瞬間、乱馬はあかねの内にドクドクッと熱いものを注ぎこんでいた――。



「ただいまー。あーやっぱり久しぶりの我が家はいいのう」
ほとぼりはすでに冷めたと思い、数日経ってから八宝斎が天道家に戻ってきた。
すると玄関先にはらんまがいて八宝斎を出迎えた。
「おかえり」
「おー、乱馬じゃないか。女になってどーしたんじゃ?」
「いや、ジジイにプレゼントがあるんだ」
女の姿のらんまは口元に妖艶な笑みを浮かべると、
「ほれ」
と言ってらんまは胸をはだけて見せた。
ブラジャーのつけていない剥き出しの豊かな胸がチャイナ服の間からポロンとこぼれ落ちる。
「おーう!スイートっ!!」
毎度毎度罠だというのに、懲りずにらんまに飛びかかってきたのをお決まりのごとくらんまはかわすと
思い切り背中から蹴り上げた。
「もっぺん旅に出ろ!」
帰ってきたらぶっ飛ばすという目的を果たし、八宝斎が遠くの方で豆粒大の大きさになって散っていくのを
らんまが満足げに見届けていると、家の奥からあかねが玄関に出てきてらんまに訊いた。
「あれ、今誰かいなかった?」
「気のせいだろ」
「そう」
あかねがらんまのはだけた胸に気づいた。「どしたの。これ」

「げっ」
胸をしまうのを忘れていた。慌てて服をかきあわせるのを見てあかねが、
「やっぱり大きいわね」
とポツリといった。
「へっ?」
「あ」とあかねは口元を押さえた。どうやら口に出す気はなかったらしい。
「まーな。誰かさんのとは違っておれのは大きいが」
らんまは得意気に両手で下からくいくいっと自分の胸をもちあげて見せたが、
あかねの表情が妙に沈んでいるのに気づいて、ふざけた手の動きを止めた。
「もしかして…自分の胸と比べて気にしてる?」
図星、と言わんばかりにあかねの顔が真っ赤になった。らんまはあかねの肩をポンポンとたたいた。
「んなしょうもねえこと気にしてんなよ。おめーの胸だっておれより小さいがそのう…きれいだったし」
あかねが頬を紅く染めてらんまの顔を見つめた。
「それになにより」
らんまはここが重要だと言わんばかりに人差し指を立てた。
「感度が良い」
あかねの肩がワナワナと震えていた。あ、あれ?誉めたつもりだったんだけど、
と当ての外れたらんまは身の危険を感じて1歩後ろへ退いたが遅かった。
耳まで真っ赤に染めたあかねはキッと一瞥鋭くらんまを睨みつけると、
「いっぺん死んでこいっ」
と叫ぶなりあかねはらんまを蹴り飛ばした。
らんまは八宝斎と同じ軌道を描いて遠くの方でキラッと光って消えた。(完)


















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