著者 : ◆sPCXcn/BpE 氏
その6 ー >>011
開始:06/12/21
最終:06/12/21
その6 − >>013
【 無 題
】
お好み焼きうっちゃんのカウンター。
久遠寺右京はお好み焼きを焼きながらある少女と話している。
正確には少年。元・同級生の紅つばさだ。
「なあ、つばさ…」
「なあに?」
「おまえ、うちが女やて見抜いてたんやろ?なんでわかった?」
今でこそ右京はいい女であるが、風林館高校に来る前は男子校に通っていたのだ。
女を捨てて乱馬への復讐に燃えていた頃…
(こんな腫れ物…)とサラシで胸を隠し、男として生活していた。
ところがつばさは右京が女であると知ったうえで右京に惚れていたのである。
「みんなうちのこと男やと思っとったのに」
「…誰にも気付かれてないとでも思ってたの?」
「だから、つばさだけは気付いてたんやろ?」
「私だけじゃないわ。みんな気付いてたのよ」
つばさの一言に愕然とする右京。
思わず手が止まる。
誰も自分が女であるということには気付いていない、
そう思っていたのは自分だけだったのだ。
考えてみれば周りは皆、男子高校生。
異性への関心が最も強い人種である。
異質なものの存在に気付かぬはずがない。
「だって右京さまが着替えてるところ、誰も見たことないし、
それに肌もきれいで、ヒゲも生えないし、いい匂いがして、それから…」
「言うなっ!」
つばさの言葉を遮断する。
これ以上聞きたくはない。
「…とにかく右京さまは学校中の噂で、みんなに狙われてたのよ」
「何が?」
「右京さまのカラダ」
右京は今になってやっと自分の愚かさに気付いた。
女を捨てて男子校に入学したというのに女として男たちに身体を狙われていたとは。
下手すれば強姦されていてもおかしくはなかったのだ。
「でもその割には襲われたことなんて一遍もないで?せいぜいつばさにつきまとわれたくらいや」
「右京さまは知らないでしょうけど、クラスの半分は右京さまでえっちな想像してたのよ」
級友たちとは“男同士”の関係だと思っていた。
それが彼らにとっては“女友達”どころか性欲のはけ口にされていたのだ。
裏切られたような気分だ。
まるで馬鹿みたいではないか。
「みんな、いつもなんとかして脱がせたり触ったり抱きついたりしようとしてたのよ。
だから私はいつでも右京さまのそばにいて徹底的に邪魔してあげたの」
知らなかった。
ただしつこく自分につきまとっているだけと思っていた紅つばさが
男たちの魔の手から自分を守っていたなんて。
もしつばさがいなければ右京は今頃どうなっていたのだろう。
考えただけでぞっとする。
「つばさ…ごめんな。
うちはつばさのお陰で男子校でやっていけてたんや。
それなのにうち、今まで何にも知らんでつばさのこと…」
「右京さま…」
このつばさの話が事実であったかどうかは定かではない。
しかしこの日以来、右京のつばさを見る目は変わったのであった。
「…コゲてるわよ」
「あーーっ!!」