著者 : ◆Tnwcd.GUfg 氏

その5 ー >>591
開始:06/11/15
最終:06/11/15
その5 − >>611

【 天道家の受難


「乱馬く〜ん。夕ごはんですよ〜」
「あ、はーい」

天道家から漏れ聞こえるのは乱馬とかすみの声。
いつも賑やかなこの家屋には今日、2人しか存在していない。

あかねとなびきは、友達の家でそれぞれ外泊中。
早雲と玄馬、そして八宝斎は温泉地へ妖怪退治のために出掛けている。

天道家の家事を一手に仕切るかすみ。
今夜は2名分の食事だが、決して手抜きなどはしていない。
普段通り、栄養を考慮した手の込んだ料理が食卓に並んでいた。

乱馬が二階から軽快に降りてきて居間に入ると、かすみは茶碗にご飯をよそっている。
乱馬に気づくとそれを両手で笑顔で差し出す。

「はい。どうぞ」
「あ、ありがとー」

コタツに足を入れてその茶碗を両手で受け取る。
箸を持った乱馬は元気良く笑顔で食事開始の挨拶をした。

「いっただっきま〜…」

――フッ。
突然、視界が暗闇に包まれる。

「きゃっ!」
「な、なんだぁ?」

一瞬事態が理解出来ずに闇を見つめるふたり。

「…停電…?」
「まあ…困ったわね」

乱馬は箸を置いてキョロキョロしている。かすみの不安げなか細い声が、闇に尾をひいた。


「悪いわね乱馬くん。」
「いやいや、いーって」

数分後。脚立の上で、乱馬が懐中電灯を片手にブレーカーのスイッチを調べている。
スイッチをオン・オフとしてみるが、電力は全く復旧しなかった。

「あれ〜…つかねーや。ブレーカーが落ちたって訳じゃなさそうだ」
乱馬が作業をしている脚立の下でその様子を見守っているかすみは言った。

「さっき少し外を覗いてみたんだけど、ご近所も真っ暗なのよ」
「そっか…」
付近一帯が停電しているとなると、一般家庭としては手の施しようがない。

「じゃー、復旧すんの待つしかねっかな?」
「そうね…。懐中電灯と、ロウソクを用意しなくちゃ」
乱馬が脚立から降りようとすると。部屋の明が突然ぱっと復旧した。

「なんだあ?」
「あら。よかった、戻ったわ」
僅かながらの停電だったようだ。かすみは蛍光灯を眩しそうに見上げて手を胸の前で合わせている。

「なんでー。ったく…っでえ?!」
足場をずりっと踏み外し、脚立の上でバランスを崩してしまう乱馬。
「どわわわっ!!!」
「きゃああっ!」

どったんがっしゃーーん…―


「う〜ん…」

乱馬はかすみの胸の上で目を醒ます。ふかふかの感触に一瞬赤面し、目を白黒させる。
どうやらかすみを下敷きにして落ちてしまったようだ。

「わああっ!ごごごめんっ!かすみさんっっ」
慌てて身体を揺さぶってみるが、反応がない。
「どっ…どーしよっ…!」
パニックになる乱馬、更に揺する。
「かすみさんっ!?かすみさんっ!?しっかりしてくれっ!!」

「……うぅん…」

良かった。気絶していたようだ。後頭部に触れてみても出血は見られない。

「ごめん…。痛かったよな…」
半失神状態のかすみを抱きかかえると、乱馬はかすみの部屋までゆっくりと運んだ。


10分後―
かすみはベッドの中でパッチリ目を醒ます。

「……」
「あっ…気がついた?」
乱馬はベッドの横に座ってかすみの額にタオルを乗せようとしている所だった。
気弱に陳謝を始める乱馬。

「かすみさん、ごめん。おれの下敷きにしちゃって…。頭痛くねえか?気分はどうだ?」
ベッドに身を乗り出して心配そうに尋ねる。

「……ええ…なんともないわ」
「ほんと?」
「ええ…」
「頭打っちゃったみたいだから一応病院に行った方が…」
かすみの頭にそっと触れる乱馬。

「なんだか頭がやけにスッキリしてるのよ…どうしてかしらね」
かすみは宙を見つめて自分の頬に手を添えている。
「……」

顔を傾けると柔らかく微笑んで囁いた。
「気にしないでね。乱馬くんありがとう」
「いや…。ほんとごめん」

大丈夫と言われても何となくかすみを放っておけなかった乱馬は、かすみを安静にさせてその部屋で看病し、一晩を過ごした。


翌朝。

「乱馬くーん。朝ごはんですよ〜。起きていらっしゃ〜い」

ベッドでうつ伏せに寝ていた乱馬、気づくと肩に毛布がかけられている。
看病をしていてそのまま寝てしまっていたようだ。
かすみは既に起床して平常に家事に勤しんでいた。

「かすみさん、おはよ…」
乱馬が向かうと台所にはいつもの後姿。振り返り優しく微笑んでいる。

「おはよう乱馬くん。風邪、ひいてない?」
「あ、うん…。それよりもう、だいじょぶ?身体…」
「ええもう何ともないわ。心配かけてごめんなさいね」
「いや、おれのせいでかすみさんに痛い目合わせちゃったんだし」
「もう平気よ。気にしないでね。さあ早く、支度をしなくちゃいけないわ」
「…うん」
「今日の夕方にはあかね達も戻ってくるわね」
「そか」

乱馬は頭をぽりぽり掻きながらトイレに向かった。
(とりあえず一安心、か…)


その夜。

天道家の家族全員が揃い、賑やかな食卓の風景がある。
わいわいと声が飛び交い、いそいそと着席する家人達。
実に和やかな雰囲気で夕飯の時を迎えようとしていた。

次第にぴたー…と空気が静止し、ひとりを除く全員がただ一点を見つめている。
沈黙のあと、なびきが満を持して口を開く。

「どうして乱馬くんのごはんだけ…そんなにてんこ盛りなワケ?」

そう、乱馬の茶碗だけが異様な程にこんもり高く盛られているのだ。
軽く50センチはありそうだ。

「あら?おかしいわね、みんな同じようについだつもりなんだけど…」

当のかすみは不思議そうに首を傾げて、何事もなかったかのように皆の湯のみにお茶を注いでいる。

「乱馬、なんかいいことあったの?」
不審そうにあかねが聞いてくる。
なびきも妖しげな目つきで追撃する。
「なーんかあったんじゃないの?…かすみおねーちゃんと」

乱馬は冷や汗をかきながら反論する。
「なっ…なんでもねーよっ!お、おれは白米が好きなんだよっ。文句あっか?!」
「へーそーなの」
「そ、そうでいっ」

(かすみさん…なんでこんなことを)
何とかやり過ごした乱馬。かすみを横目で見ながら心の中で問うしかなかった。


翌日、学校にて。

「昼メシだ昼メシーっ」
ざわつく教室内。

持ってきた弁当をカバンから取り出し、食べようと蓋を開けた乱馬は愕然とする。

(なんじゃ…こりゃあ?!)

おそろしいまでの、献立全品ハート尽くし。

ハート型のおにぎり。ハート型のハンバーグ。ハート型の卵焼きにハート型の野菜達etc.
しかも全体的に、近年珍しい「桜でんぷん」が散りばめられている。
お陰で弁当はピンク一色だ。

(かすみさん、なんでこんな…っ!)

クラスメイトの大介が話しかける。

「おー乱馬。べんとーのおかず何か1個くれよ」

「なっ…!!!……いっ…いやだああぁぁぁあああ!!!!」
弁当を抱き、全速力で教室から乱馬は逃走した。

「……すげー食い意地だな。」
「だな。」

残された友人達は静かに頷いていた。


授業が終わり、乱馬は一目散に帰宅をする。

「かすみさんっ?!どこだ?!」

かすみを探して家中を駆け巡る。
何処だ。何故だ。何処にもいない。
台所にも、居間にも、洗面所にもベランダにも物干し場にも何処にもいない。
いつも天道家のどこかしらにその姿があって、家族全員の安堵感に繋がっていたかすみの笑顔。

「かすみさん…?」
かすみの部屋をノックするも、返事なし。少し開けて覗いてみてもその姿はなかった。

「……買い物にでも行ってんのかな…はあ」

肩を落として乱馬は自分の部屋に上がっていった。
がらっと扉を開けるとそこには。
「あら乱馬くん、おかえりなさい」
かすみが座って繕い物をしている。乱馬は膝から崩れて前のめりに倒れた。

「かすみさんっ、なんでおれの部屋で…」
「乱馬くんの下着、ゴムの部分が少しほつれていたから縫って直していたの。
乱馬くん、まだ繕い物して欲しいものがあったら遠慮なく言ってね。私が直してあげるから」
乱馬はいきり立ってかすみの前に正座する。

「かすみさん!んなこと今いーからっ…。あの、きょ、今日の弁当なんだけどっ」
「あら、お弁当なにかおかしかった?今日はうんと張り切って作ったんだけど」
「いやあの、おかしいっていうかあの…。はあとまみれの中身はいったい…」
語尾がおのずと弱くなっていく。

「あら…やっぱりいけなかったかしら。今日はなんだか朝から乱馬くんのことばかり考えていて、気がついたらああなってたの」
「…え」


「今日は乱馬くんの分だけ、気づかない間にひとつだけ違うデザインになってしまっていたの…。
そうよね、明日からはあかねのもなびきのも同じように作らなきゃいけないわ。乱馬くん本当にごめんなさいね。あかね達にも後で謝っておかなくちゃ」

「いやいーってっ!そじゃなくて…あの」
「え?いいの?」
「…いい。あかね達には言わなくていい。」
「そう…。じゃあ明日また、乱馬くんだけ違ってもいいのかしら?」
「………う、…うん」
(そうするしかねー…)

「まあ。乱馬くんも気に入ってくれたのね。実は私も作っててとってもかわいいって思ってたのよ。
乱馬くんにリクエストされてしまったら、私も喜んで作るしかないわ…」
かすみは嬉しそうに笑うと、頬を染めてその長い睫を伏せた。

乱馬は目の前で起こり続ける突然変異的な事態に慄き、あの先日の事件をよぎらせる他なかった。

「かすみさん、も…もしかしてこないだ頭打って…」
「えっ?」
「……」
「私、なにかヘンかしら?」
「い…いつもと違う」
「まあ、大変」
「……」

「でもね、私…前よりもずっと気分が晴れやかで、家のお仕事もひとつひとつが楽しいのよ。
こうやって乱馬くんのお洗濯物をたたんだり、お部屋を掃除したり…」

「(かすみさん、なんか目がキラキラしてるぞ…)」

「乱馬くんのためにひとつでも多く何かをしてあげたくなるの」
「……」

「だから乱馬くん。遠慮しないで私に何でも言って頂戴ね」

乱馬の手を握って自分の胸元に引き寄せるかすみ。
エプロン越しにふわっと伝わる感触に、乱馬はぎしっと固まったのだった。


それからも、かすみの怒涛の世話焼き行為は続いた。

「乱馬くん、耳掃除してあげる」
「えええっ」
乱馬の部屋に笑顔で押し入るかすみ。正座をして「いらっしゃい」と言っている。

「照れなくてもいいのよ。乱馬くん、私にもっと甘えてちょうだい」
「は…はあ…」

縋るような眼差しで訴えられ、押し切られる乱馬。
おそるおそるかすみの太腿に頭をちょこんと乗せた。
かすみは膝の上の乱馬の頭を優しく撫で、髪をすきながら微笑みを零す。

(あったかい…かすみさんの太腿…。んで柔らけえ…。ううう)

「乱馬くん、なんだか頭が熱いんだけど、大丈夫?」
「は、はい…」
かすみの天女のような囁きが降ってきて、乱馬は夢見心地になる。
甘い懐かしい香りに安らぎを覚え、かすみの下半身に密着している興奮に鼓動を早めた。


その後風呂にて。

「あー…うれしーんだけど、正直どうしたもんか…」

乱馬は先程の膝まくらを思い返しながら身体をのろのろ洗っていた。
すぐそこにかすみの大事な部分があった事実。恥ずかしながら股間が反応せずにいられない。

「うーん…しかしなんか…前にも似たような件があったような…確かウっちゃ…」

―カララ
「乱馬くん、お背中流してあげる。お邪魔するわね」
(ひいいいい!!やっぱりっ!!!)
かすみがスポンジを持って風呂場に入ってきたのだ。
乱馬は全身の毛を逆立てて前を隠して縮こまる。

「かっかすみさん…!そんないきなり…っ」
「いいのよ、そのままで、乱馬くんは気にせず洗ってもらって」
洗面器でお湯をすくい、スポンジを泡立てると躊躇なく乱馬の丸まった背中を洗い出した。

「…まあ。乱馬くんの背中って広いのね。まるでお父さんみたいよ」
楽しそうにかすみは笑い、ゴシゴシと洗い続ける。
(うう…かすみさん…大胆すぎる…)
最後に後ろからザ…と湯をかけ、「じゃあこれで…。乱馬くんのお布団の用意、してくるわね」と風呂場からしずしずと出て行った。


乱馬は悩みながら風呂からあがり、重い足取りで部屋へと向かう。

(まさかな…かすみさんがそんな)

がら。
「乱馬くん」
(や、やっぱりいた…っ)

乱馬の布団の傍できちんと正座をして待っていたかすみ。
じっと見上げている真剣な眼差しに、乱馬はごく、とひとつ唾を飲んでから後ろ手で静かに戸を閉めた。

「乱馬くん…。少し、私の話を聞いてもらえるかしら」
「う…うん」

乱馬が膝をつき合わせて正座をすると、かすみは少し間を置いてから言葉を紡ぎ始めた。

「私ね…。ここのところ、乱馬くんの事ばかり考えていて…自分でも可笑しいの」
最後の部分でふと寂しげに微笑む。それは今まで見た事のない表情だった。

「……」
「ここで乱馬君とお布団で一緒に寝たいと思ってるのよ。おかしいわよね」
「!!!」
乱馬はすざっと後退りをする。

「そんな顔しないで…。大丈夫。それは無理だとわかっているもの…。寂しいけれど、我慢するわ」
「そ…そか…」
乱馬は微妙に胸を撫で下ろした。
自分の胸の前で両手を握り、俯いているかすみ。顔を上げると目を潤ませて乱馬を見つめる。

「乱馬くん。あなたの事を考えただけで、胸がとっても苦しくなるのよ。今も、とても切ないの…。どうしてかしらね…」
かすみのこんな情感に満ち溢れた表情は初めてだ。まるで恋する乙女ではないか。
確認の意を込めて震える声で聞いてみる乱馬。

「もしかして、ほ…惚れちゃった、とか…?」
「…まあ」
ほうっと惚けるかすみ。次の瞬間ほろっと綻んだ。

「じゃあこれからは…元気の出るお料理をたくさん作って、乱馬君にいっぱい食べてもらわなくちゃ」
「…え」
(どっ…どーいう意味だあ??!!)

まさかと思いつつ、「は、はは…」と乱馬は乾いた笑いを浮かべた。
しりもちをついたような格好で足を開いて固まっている乱馬に、かすみは正面から近づくと、顔を寄せて頬に(ちゅ…)と唇を押し当てて囁いた。

「おやすみなさい。乱馬くん」

かすみが部屋から出ていった後も、暫く乱馬は凝固していた。


かすみの「愛妻弁当」を超越した恥ずかしい弁当を、隠れて屋上で食べる毎日。
有難いのだが、やはり人前で堂々とは広げる事は出来ない。
かすみに内容を変えてくれとも言いにくい。

檻に追いやられる様な、水中でもがく様な息苦しさ。
かすみだけは困らせたくない。かすみだけは泣かせたくない、という明確な気持ちだけ自覚していた。
そのような人物からの求愛は非常に対応に困るのだ。何よりハッキリと断れない自分が一番もどかしかった。

(おれ、どうしたらいーんだろ…)
弁当を食べ終わると空を見上げ、乱馬はその雲にかすみを重ねながら物思いに耽るのだった。


そしてそれは一週間後の事。
乱馬の体調に、妙な異変が表れる。

何故?一体何が原因か?
勃起がどうにも止まらない。

毎日学校で昼食をとると2時間後にはとてつもない衝動が乱馬を襲い、陰茎の自由を支配していく。
いくら抜こうが陰茎は衰えを見せず、たちどころに真っ直ぐに反り返ってしまうのだ。
尋常ではない勃起力は、まさに天を突く勢い。
衣服の上からでも一目瞭然の盛り上がりようだった。

お陰であかねには赤面されて口を利いてもらえず。
なびきには会う度に笑われる。

「いや〜元気があってよろしいっ」
「さすが無差別格闘早乙女流二代目っ」

早雲達にもからかわれる始末。

放出してはまたそれ以上に蓄積される感覚に苛まれ、度重なる自慰に疲労困憊になりつつ、治まらない性欲に頭を抱えた。
何故だ。やりたい。ヤリたくて仕方ないのだ。
乱馬の眼光は日を追うごとに獣の如くギラギラと鋭くなる。
常にぜいぜいと息を吐き、汗水を垂らして湧き上がる欲求と動悸を抑え、やり過ごしている姿はまるで変質者だった。

(な、なんで治まらねーんだよおおっ!!)


三日後…

今日も乱馬は奇異の目に晒されながら学校から帰宅した。

学校内でも、乱馬は事有るごとに女子という女子に興奮し欲情しては、自分にムチ打ち激しく自制していた。
本当に犯罪一歩手前の状態、すんでのところで自我を保ち、精神を落ち着かせ、耐えに耐えて毎日岐路についているのだ。
乱馬の背中をぽんと押せば、コップに溜まった欲という名の水は溢れ出るだろう。

(帰ってまたするしかねえ…。なんでこんな事になっちまったんだ…おれ)

ため息をついて乱馬は玄関の扉を開ける。
丁度、かすみが電話をしている所だった。

「はい、わかりました。では、失礼します…。」

かすみの横顔を見入る乱馬。

「かすみ、さん…」

「乱馬くん、おかえりなさい。今お夕食を作ってる途中なの。もうすぐ出来るから待っててね」
にっこり笑うとゆっくりと廊下を歩いて去っていくかすみ。

どっくん…
乱馬を今までにない動悸が襲う。かすみの後姿を眺めていると頭が急騰してきた。

どっくん…どっくん…


無意識の内にフラフラとその後を追う乱馬。
夢遊病のように彷徨いつつ、台所へ入った女を追いかけ…その後姿を見て唾を飲み込んだ。

「…乱馬くん?」
「……」

「お腹、すいてるの?なんだか息が荒いみたいだけど…」
「……」

「このサラダを切って、あとは和えたら終わりなの。もう少し、待っててね」
笑顔で振り返っていたかすみがクル、と前を向いた瞬間。

「もうダメだーーーー!!!!」
乱馬は狼の如く背後から飛び掛ってしまった。

「きゃあっ!!」

乱馬は欲望の赴くままかすみの背後から抱きつき、エプロンの上から豊満な胸を両手で鷲掴みにして好き勝手揉みしだく。

「やっあ…っ!な、何をするの?!乱馬くん…っ」
急な災難に驚愕して身を強張らせるかすみ。思わず座り込みそうな身体を強引に引き寄せられて震えている。

「ごめん…かすみさん…もう止められねえ」
耳を舐めながら胸を触り、片手を下ろしてかすみの股間をまさぐる。

「んっやあっ…!あっ…や、やめて…!」
赤面しながら脚を閉じて抵抗するも、がっちり抱き竦められて首元に熱い息を吐かれながら愛撫されてしまう。
「…っ!…ああっ!」
その全身をぞくぞくと奔る快感にかすみは震えが止まらない。キッチンシンクの縁を掴んでしゃがみ込みそうになりながら堪えている。
「あっ…っん…っ…乱馬、くん…」

乱馬はうなじに唇を落としながらかすみの長いスカートを捲り上げると、ショーツの中にするっと手を滑り込ませた。
「きゃああっ!」
顔を真っ赤にしてかすみは逃げようとする。
いきなり直に陰部を弄られて今にも泣き出しそうな表情になっていた。
ショーツの中で天女の陰毛を感じる乱馬の手。
興奮しながらその割れ目に沿って指を這わせてクリクリとやってみると、かすみはビクリと身を揺らして一段と切なげな喘ぎを漏らした。

「あぁっ…!ダメぇ…っ!」
「かすみさん…」
はち切れんばかりの股間をぐっぐっとかすみの尻に押し付けながら、乱馬は硬い指で刺激を与え続ける。

「あんっ…!あ…あ…っ…。乱、馬くん…。」

次第に濡れ始めるかすみの秘所。頃合いを見て肉襞にぬぷっと指を忍ばせてみる。
「…っ!い…ぁ…」

かすみの様子を見ながらゆっくりと出し入れをしてみる。
異常に熱い膣内で、ギリギリ指が収まる程度の余裕しかなく滑りはあまりよくない。
それでも乱馬は指を色々動かして、かすみの膣を悪戯に犯す。かすみは息をはあはあと荒げ、じっと瞼を閉じて乱馬に身を委ね出した。


後頭部を乱馬の肩に乗せて悩ましく吐息を漏らすその白い首元に口付けをする。
「うぅ…ん…っ…。あ、あ…」

いつの間にかかすみは乱馬に全身を預けて胸で息をついていた。
頬を紅潮させながら辛そうに眉をひそめている。その美しく淫らな表情は、あの穏やかで菩薩のような女「かすみ」のものとは思えなかった。

我慢がきかなくなってきた乱馬は凭れかかっているかすみの身体を支えてシンクから離し、向かいのテーブルに上身を伏せて寝かせた。
「かすみさん…。痛いかも知れねえけど、我慢してくれよ…」
そう呟きながらスカートを腰まで捲り上げ、ショーツをずらすと、かすみの脚を少し開かせた。
尻の割れ目で濡れ光る女の陰部を確認する。
どくどくと脈打つ、憧れの場所を求めて痛々しいまでに勃起しているペニス。
乱馬はかすみの中に恍惚の表情でめりめりと埋め込ませていった。

「っ………!…っ!うぅ…っ!」
キッチンクロスを握り締めて、体内を蝕む激痛を堪えるかすみ。
押し寄せる波動に声を抑える事が出来ずに呻き始める。
「んっ!…ん!…んっ!ぁ!」
「かすみさんっ…!」

かすみの膣内は柔軟なようで狭い。いきるペニスを絶妙に締め付けて、腰を進める乱馬を射精へとじりじりと追い詰めていく。

「か、すみ、さん…」
「あっ…あっ…ら、んま…くぅんっ…!」

スピードアップする乱馬の腰遣い。かすみは身をよじらせると伏せていた顔を上げて嬌声で喘いだ。

「乱、馬くん…っああっ!ああ!」
かすみの喘ぎに次第に泣き声が混じり出す。震えながら涙を零し、やっとの事で言葉を紡いだ。

「…痛い、けど、…気持ち…いい…の……。どう、して……」

泣きながら大人しくなっていくかすみ。乱馬はその肉体を後ろから一気に攻め立てると、大量の欲をその中にぶちまけた。
「うう…っ!!」


ぐったりとテーブルの上でかすみは横たわっている。
その胎内から化身を引き抜くと、ねばついた糸をひいて体液が漏れ出た。
かすみの美しく締まった内腿には、どちらのものとも判別し難い白い液体が垂れていた。

「はあ…はあ…はあ…はあ……」
肩で息をしている乱馬。自身の体調の変化の無さに愕然とする。
(……お…っ……治まらねえ!!??)


ぜいぜいと呼吸しながら瞳に炎を燃え上がらせる乱馬。
内なる性欲は鎮火するどころか、更に業火となりその身を襲った。

(まだダメだ…、もっと…。もっとヤらなきゃ治まらねえ…!)

眼を血走らせた乱馬は、かすみの捲くれ上がったスカートを下ろすと一目散に台所を飛び出す。


「やらせろ!やらせろ!やらせろおおお!!」
イカれた雄叫びを上げながら疾走する乱馬。
向かうは二階。なびきの部屋。
バンッ!

「なびき!!」
いきなりドアをけたたましく開けられてなびきは驚いている。
「な、…なんなのよアンタ。ビックリするじゃない」

乱馬はずかずかと入室すると、机で帳簿をつけているなびきに詰め寄り低い声で言った。
「おれの写真何枚でも撮らせてやるから、ヤらせろ。」

「はあ?」
「こないだみたいな恥ずかしい写真撮影会だってなんだってやってやる。だからヤらせろ。」
目前まで迫って来られて自然と怯むなびき。

「な、なによ…いきなり。我慢出来ないワケ?」

「おお。ヤりたくてヤりたくて、しかたねーんだよ。」
両手の指をわらわらと動かしながら更に迫る。

「…イヤよ。」
「なんでっっ」
拒否されてなびきの肩をがっしり掴む乱馬。声色は上擦り、表情は切羽詰っている。

「だって…今みたいな状態の乱馬くんが、私を気持ちよくしてくれるとは思えないもの」
「なにぃ?」
「そんな怖い顔で迫られて、女の子がOKすると思って?」
なびきの言葉に乱馬はふと気を持ち直すと深呼吸をゆっくりひとつついた。

「…わるかった。なびき。落ち着いた。ヤラせてくれ。」
「…あのね。」
呆れ顔でなびきはため息をついた。

「でも、そういうストレートな口説き方…キライじゃないわ」
「えっ」
「手でいいならしてあげる」
「ええっ」
「なによ」
「どうせなら口で…」
「贅沢よっ」
「なびき、頼むって…!」

あまりに切迫した様子の乱馬に、なびきは拒みきれない心境に追いやられた。

「ったくしょーがないわね…。まあこないだ逃げたし。これでチャラよ。いーわね」
「…おう。」


椅子から降りて乱馬の前に跪くなびき。
ズボンとトランクスを同時に下げると、びょんと飛び出してきた隆起したペニスに少し驚きの表情を見せる。
そして初めて目にする乱馬のそれに暫く見入ると、「ふーん…」と納得しているのかどうなのかわかりにくい微妙な声を出した。

「一体どうしちゃったのよ…。若いにも程があるわよ?」
手で扱きながら、苦しそうな乱馬の顔を見上げている。

「お、おれにもわかんねーんだよ…っ、ヤッてもヤッても…っ全然治まんなくて…」
「ビョーキじゃない?」
なびきはそう言うとパクっと先を銜え、少しずつ口内に呑み込んでゆく。
半分以上銜え終えたところで、軽く喉を鳴らしながら吸引を開始した。

「んん…っく…んっん…」
ピリピリとした快感が下部に広がる。なびきの舌遣いはどう見ても初めてではない節がある。

「う、あ、あ…なびき…」
「ふぁ?」
銜えたまま返事をするなびき。

「なんでおめー、…こんなに上手いんだよっ」
「…なに、知りたいの?乱馬くん」
口を離して微笑んでいる。

「……う」
「貴方のために、練習してるのよ」

「てめーというやつは…。はぐらかすのもいーかげんに」
「本当よ」

舌を出して亀頭をちろちろやっている。そこからなびきは先端を中心とした口撃に徹した。

絶頂が近くなった乱馬はなびきの頭を掴んで揺すり始めた。
「んんっ!!」

苦悶の表情のなびきの口の端から、暴発した白濁の欲がつらつらと滴り落ちる。

「んー!んん〜…っ!!」
いつまでも頭を掴んで離さない乱馬の下腹部や胴を、所構わず叩くなびき。
「っぷはあ!」
漸く解放されるとその場にペタンとへたり込んでしまった。

「………」

乱馬はものすごい形相で睨みあげているなびきを尻目に、自らの欲望の変容の無さに頭を抱えて喚き、部屋を飛び出す。
なびきの怒号も耳に届かない。

「ぬわああああ!!まぁだまだあああ!!!」
「乱馬くん!アンタ、ただじゃおかないわよっ!!」


次にぶち破るはあかねの部屋。乱馬にとって少々勇気のいる相手だ。
だが抑制を失った今の状態では怖いモノなしだった。

バンッ!

「あかね!!」
「な、なに?きゃーーー!!!!」
下半身丸出しの乱馬が部屋の入り口で仁王立ちしているのを見たあかねは、ひっくり返る勢いで悲鳴をあげた。

「いやああ!?なっ、ななにしてんのよ??!!こっ来ないでっ!!!あっち行ってっ!!」
「あかね!!」
竹刀を持って顔を背けながら後退りするあかねに、乱馬は瞬時に間合いをつめ懐に辿り着く。
もがく身体を抱き締めてベッドに押し倒した。

「いやああっ!!なにすんのよ!!バカ!!はなしなさいっ!!!」
顔を真っ赤にして怒るあかねは、竹刀でボコボコに殴りつけて反撃する。
バシィ!バシィ!と鋭く小気味の良い音が炸裂した。

「いでででで!!!」
「ヘンターイ!!」
「いでででででで!!!」
「ちかーん!!」
「いでえええ!!!」
「乱馬のバカ!バカ!!バカーーー!!!」
「ぎゃああ!!!」
「くぉんの、くされ外道があ!!!」
気絶しかけている所にしめとしてバケツの水を思いっきり浴びせられ、乱馬は女体化する。

やっと獣を仕留める事に成功したと感じたあかねは、ぜいぜいと息をしながらすとんと震える腰を抜かした。


「ううう…」
うつ伏せで倒れているらんまが呻き声を漏らし出した。
泣いているのか?あかねは唖然としてしまう。

「ら…」
赤髪の女はいきなり起き上がったかと思うと頭を抱えてぶんぶん振りながら雄叫んだ。
「だああああもっとやりたくなってきたああああ!!!!」
すざっと怯むあかね。

「なっ…なんてコト言ってんのよこの恥知らずっ!!」
あかねは竹刀を振りかざす。

「しょーがねーだろーがよ…。身体が疼いてしかたねーんだよ…っ」
虚ろな目でらんまはへたっているあかねを見据えた。

なんという、妖しい目つきだろうか。
一時的でもこの恐怖から逃れるために女にしたのに、やりてえ…やりてえと口走りながらはあはあ言っているらんま。
その痴態には、この女は雌犬にでも成り下がったのかと錯覚してしまう。
別の寒気がぞわぞわとあかねの背筋を襲った。

「あんた…どうしてそんな…」
あかねの問いかけを聞かずにらんまは窓を開けるとそこから出て行こうとする。
「ちょ…ちょっとどこいくのよっ!!そんなカッコで!」
らんまのチャイナ服をむんずと掴み制止するあかね。

「あー…?だっておめーヤらしてくんねーんだろ…?」
とろんとした顔でらんまは振り返る。
「な…。だ、だからって今どこに行こうとしてんのよ?!アンタまさか…」
「なんだよ…」
シャンプーか、右京か。はたまた今は女だから良牙の所にでも行くのか。
あかねの思考回路に色んな知人の顔が浮かび駆け巡った。

「や、やめて!お願い…いかないで。他の人とするぐらいだったら…あたし…」

「ふふん…なんでーおめー。いきなり素直になりやがって」
ニヤーと笑いながららんまが顔を寄せてきた。そのおちょくり顔にあかねはビンタをかます。
「いてえ!!」
「バカっ!!」


「で…どうしたらいいの?そんなっ…ひ、開かれても困るわよ」
「イカしてくれりゃいーんだよ、早く…してくれ」

あかねの前で大開脚をして、チャイナ服のボタンを全部外して胸をはだけさせているらんま。
両手でパンパンに張った乳房を弄りながら立てた膝をゆらゆらと揺らしている。

「あ、あ…触って…っあ…」
あかねはおずおずと指を差し出して、腫れ物でも触るかのようにらんまの濡れた陰部をつっつく。

「んっ…もっと…強くしていいから」
「こ、こうかしら」
襞にあたがったまま指の腹で撫でるあかね。ちゅっちゅっという水音が響き出す。
「んあ!ああっ!」
らんまは背を反らして身悶える。片手の指を噛みながら、拙い愛撫に敏感に反応しているようだ。

(なんかココが…反応いいみたい)
あかねはらんまが弄ると最も嬌声を漏らす肉片を強めに摘んでみた。

「いてえっ!」
「あっご、ごめんね乱馬」

らんまは身を起こして不満気な面で文句を言う。

「…そこが一番敏感って事ぐらい知ってんだろ?ひとりでやった事ねーのかよ」
いきなりセクハラめいた質問をぶつけられてあかねは大赤面しながら憤怒した。

「ないわよー!」
「なんだねーのかよっ!」
「ないわよバカー!!」
半泣きになりながらまた竹刀で殴るあかね。

「いででででっ!!わ、わかった…わるかったあかね。も、その竹刀でいいから、い…挿れてくれ」
「こんなモノ挿れるの?!」
「奥でイきてーんだ…だから」
「そ…そう。じゃあ…」


言われるがまま竹刀の柄の部分をらんまの秘所に挿入する。
傍から見ればまるで陵辱だが、全ては本人が望んだ事。
他でもないらんまの懇願、あかねは使命感のみで出し入れを続けた。

「あかね…あかねえ!ああっ!ああ!」

あかねの手に自らの手も添え、名前を呼びながら快楽に没頭するらんまの姿。
思わずあかねの身体の芯も、焦げるように熱くなっていく。

「あっあっあああーーー…!」


天を仰ぎ頬を朱に染め脱力するらんま。
暫くうつらうつらとしていたが、急に身を跳ねさせた。

「お…治まってる?!」
「…え…?」
何の話かあかねは理解出来ない。

「そっか、女の方が快感が強いから早く性欲を消耗出来たのか!」
「な…なに言ってるのよ」
いきいきとした表情でひとり納得しているらんまに呆気に取られる。

「なんでー。そうとわかってりゃ、こんな色気のねープレイなんぞ…」
らんまはそこまで言ってハッと言葉を呑んだ。
「………」
「じょ、冗談だよ、冗談っ」
その言葉を最後に、らんまは夜空の星となり消えた。



その後。

かすみの部屋で乱馬とかすみがまた正座して膝を突き合わせている。


「乱馬くんがあんまり奥手だからつい…本当に、ごめんなさいね」
「…いやおれが暴走しなきゃこんな事には…。かすみさんに無理矢理あんなこと…。他にも…(ごにょごにょ)」

「乱馬くん。あのね…私ちっともイヤじゃなかったのよ」
「ほ、ほんと?」
「とても痛かったけど、胸がいっぱいになってしまって…泣いてしまったわ」
「……」

「本当はもっと…。乱馬くんにはもっと、元気をつけてもらいたいぐらいなのよ」
「…え」
「明日もあのお弁当でいいかしら」
「いやっそれはいーですっ!」
「じゃあ、これからはもっと積極的に、…ね?」
「は、…い…」


翌日縁側にて。
早雲と玄馬が将棋を指している。

「なんでも乱馬が常に勃起していたのは、かすみさんの超強力スタミナ弁当のせいらしいよ、天道くん。」
「あらーそうなの?じゃあ私もひとつ作ってもらうよう、かすみにこっそり頼んじゃおっかな?」
「あーっ天道くんやらし―」
「わっはらはっはっは―!」

「勘弁してよね…おとーさん達」

その横で頬杖をついているなびきの呟き。
これをもって天道家の受難は幕を閉じた。


おわり




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