著者 : ◆Tnwcd.GUfg 氏
その5 ー >>527
開始:06/11/12
最終:06/11/12
その5 − >>538
【 ムース×シャンプー +α
】
その夜、早乙女乱馬はいびきをかきながら心地良く寝入っていた。
無差別格闘流天道道場。その住居部分にあたる二階の一室。
乱馬とその父親、玄馬の居候部屋に、パンダと少年の明け透けな寝姿はあった。
丑の上刻―
窓に黒影が映り込む。
取付けられた障子がゆっくり開けられて侵入してくる人影があった。
乱馬の足元に立っていたそれは静かに屈み込むと、布団をめくりその中に身を潜らせる。
「………ん〜…」
乱馬は下半身に生暖かいものが這いずる感触に、夢から少し引き戻された。
だがその現実の触感が徐々に夢へと反映されていき、目を覚ますのを自ら阻止する。
(…………なんか…触られてるぞ…)
妙にリアルな淫夢が始まり、頬の筋肉が緩んだ。
(…なんだあ…?今日はツイてるな…。誰かは知らねーが気持ちいいじゃねえか…)
トランクスの上から股間を撫でられて、舌で舐め上げられる。
「…………」
手の平で内腿を擦られ、股下から忍び込む指先。
取り出された陰茎に襲うザラついた温もり。ぱくりと包み込まれ、舌を使いながら吸引されている。
(うわっ…すげリアルな…かん…かく…)
「……んっ…ん…ふぅん、……っん…」
眉をピクつかせながら乱馬は下部に走る快感に浸っている。
微かに聞こえる息遣いに耳を傾けた。
(…なんか…聞いた事あるような声だ…。んでやけに…髪も長くて…)
股間にふらふらと手を伸ばすと、長いツヤツヤした髪と、おだんごがあった。
(あれ…なんかシャンプー…みたいだな…。そっか…オレ…シャンプーに口でされてんのか…。なんつー夢だ…)
しかしながら夢は夢、有難く御奉仕を戴くしかないだろう。
篭った熱い息とじゅぷじゅぷという粘着質な音が性感を誘い、裏筋を丁寧に舐めたかと思えば深く咥え、
吸いながら扱かれる動きがプラスされて一気に高ぶりを呼んだ。
(う…やべぇ…出る…)
腰がヒクつきだした乱馬は寝たまま下半身を揺らし出した。
「……んんっ…?!」
苦しそうな呻きが布団に広がる。
瞬間勢い良く射精をして、どっと身体の緊張を解いた。
「んっ…んぐ…んん…っ…。…はあっ、はぁ…はぁ…はぁ…」
(…やっちまった…。)
「…でえっ?!」
朧気な意識の中目を覚まし、パンツを脱ごうと布団をめくると。
そこには確かに、見慣れた女の姿があった。
紛うことなく本物のシャンプーである。
(ゆ…夢じゃねえ〜…っ!)
乱馬は声を押し殺しながら叫ぶ。
「なにしてんだよシャンプーっっ…!」
「晩上好、乱馬…♪」
竿を握ったままニッコリ笑顔で挨拶するシャンプー。その唇は濡れて艶めいている。
「私、とても幸せ…。乱馬の精液、とても熱かた。乱馬も私の口の中で出して気持ちよかたか…?」
小首を傾げながらその竿をぴとっと頬につけて、うっとりと微笑む。
「おめーなっ…、夜這いかけんのもいーかげんにしとけよっ!」
「ココ、こんなに元気にして、こんなに私の口に出して。ホントに迷惑してるのか?乱馬。ウソつく良くない。正直に言うよろし」
「あんのな〜…」
「乱馬ァ…♪」
股間に顔をつけていたシャンプーは体を起こすと、手をついて這い上がって、乱馬の身体の上に完全に乗った。
いつものチャイナ服の胸元のボタンは外れてはだけていて、豊満な谷間を覗かせる。
どうやら下は履いていなく素足のようだ。
すべすべとした生脚を乱馬の足に絡めてくる。
「次は乱馬が私を満足させる番ね…」
パンティ越しの自らの陰部を陰茎に擦りつけ始めた。
「こらっ、ややめんかっ!」
柔肉の割れ目を上手に亀頭にあてがい、腰を使って摩擦してくる。
「ぁあっ…ぁ…ん…乱、馬ァ…」
シャンプーは恍惚の表情で喘いで深く瞼を閉じる。
「私、もう…さきから限界ね…。はやく…ココに…」
「ばっ…こ、こんなところで出来るワケねーだろっ!」
乱馬はわたわたと慌てて、横で寝ているパンダに視線をやって訴えかけた。
するとシャンプーはなすり付ける動きをぴたっと止める。
「…じゃあ…どこなら良いか?」
「……え」
「私は何処だって構わない。乱馬となら、風呂でもトイレでも玄関でも道路でも全然イヤじゃないね」
(どーしよ…)
乱馬は困り半分嬉しさ半分のような微妙な顔で頬を掻く。
「えー…と、どこが…いい、かな?」
目を泳がせながら悩んでいると、シャンプーが口を塞いできた。
「…っ……シャン…っ…」
唇と唇の隙間から吐息が零れ…次第にふたりの舌が絡み出す。
「…ふ……、んん…ぅ」
熱の篭った口付けはじわじわと濃厚さを増していく。
シャンプーの艶めかしい舌遣いに翻弄され呑み込まれていく乱馬。
一旦唇を離して銀糸がひいているのを舐めとり、愛しそうに啄んでくる。
そしてまた頭を抱え込んで髪をまさぐりながら口内を貪られる。
そんな事をされている内に乱馬の股間もまたむくむくと硬さが漲る。
(うう…やべえ…っ!このままじゃここでやっちまいそうだ…)
太腿に掠める勃起を確認したシャンプーは、片手で自分の下着をずり、と下げて辛抱たまらない様子で乱馬の股間に跨った。
「はぁ…はぁっ………あ……」
片手で自らの秘部に誘導していく。場所が定まったところで。
「ぱ、ふぉ…」
パンダがこちら向きに寝返りをうった。
(ぎひぃいいっっ…〜)
乱馬は心臓を爆発させて固まっている。
シャンプーは咄嗟に布団をかぶって乱馬の胸の上で伏せている。
暫くしてパンダのいびきが再び聞こえだした頃、ふたりはひそひそ声で相談を始めた。
「(しゃ…シャンプー…やっぱここじゃ無理だ。心臓に悪過ぎる。どっか、違う所で…)」
布団の中から顔を出しているシャンプーはこく、と頷いた。
次の瞬間に悪戯っぽく笑ったのに乱馬は気づかない。
手を取り合って部屋から抜け出した乱馬とシャンプー。
天道家の廊下を忍び足で歩を進めている間に、シャンプーが嬉しそうな含み笑いをして胴に抱き付いてきたので自然とその肩を抱く形となる。
「…乱馬と私、世を忍んで愛し合う、誰よりも深ぁい仲。こんな夜中に隠れて逢引しているなんて…燃えちゃうあるな♪」
歩きにくいぐらいに抱きついてくすくすと笑っている。
一方的だったがな…と乱馬は思ったが、口には出さずに黙って探索を続けた。
普段気にも留めない廊下の軋みに背筋を凍らせ、鼓動を高鳴らせながらふたりは模索する。
何処がいいか…声が響かない所…
シャンプーは絶対大きめの声で喘ぐと踏んでいる乱馬。
家の中は気が引ける。
トイレは誰か来る可能性高し、逃げ場無し。
風呂は反響度最も高し。台所は、誰かが水を飲みにくる危険性あり。
玄関の広間は十字路的な役目を負っているので落ち着きゼロ。
居間は…玄関と同じく四方からの奇襲の可能性あり。
却下、却下、却下…
う〜んう〜んと唸りながら乱馬は徘徊する。ここに来て優柔不断が芽吹いているようだ。
「そうだ、道場…っ」
住居から離れて別の建物になる道場に向かってはみたが、いざその扉を開くともっと気が引けてしまった。
神聖な武道の稽古場でセックスとは…。早雲のどんどろ顔が頭によぎる。
何より第一、薄い暗闇にぼんやりとあかねが柔道着で瓦割りをしている姿が浮かぶのだ。
「乱馬、一体いつまで探し回たら気が済むのか?私もう待てない」
「いや…あのー…。どーもその…最適の場所が見つからなくてな…」
乱馬も、一応シャンプーと初めて本番をするとなると、適当にその辺で手早く済ませるという気にはなれなかった。
それは一体どういう感情なのかは乱馬自身も説明出来ない。
「乱馬…私ココで構わない。乱馬が望むコトなら何だってするね…」
シャンプーは道場に入ると真ん中付近まで歩いていって座り、その場におもむろに横たわった。
「きて…」
膝をつけて脚を広げ、股に両手を突っ込んで短いチャイナ服の裾を引っ張っている。
その隠そうとしても隠しきれない腿の間に覗く部分は、女性器特有の柔肉の膨らみが生まれてた。
一気に欲情した乱馬はじりじりと見えないバリアを突破していく。
「しゃ、シャンプー…」
一歩、二歩、三歩と踏みしめる。
次に出した足が「がんっ」と何かを蹴っ飛ばした。
それが水の入ったバケツと気付いた時には、もうそこに淫らなシャンプーの姿はなく。
足元にずぶぬれの一匹の猫が縮こまって座っているだけだった。
「…っっっ…〜〜!!ね〜〜〜こ〜〜〜〜〜!!!!!」
道場を飛び出しあらぬ方向へ泣きながら乱馬は猛ダッシュしていく。
「ねこいやあああねこきらいいいい〜〜っっ」
「何事だ!騒々しい!」
「今何時だと思ってんのよ…あんた罰金モンよー?」
「乱馬…あんたいーかげんにしなさいよね」
「あらあら乱馬君、こんなところで寝てたら風邪ひいちゃうわ」
遠くでそんな声がガヤガヤと響き出した。
道場にポツンと取り残された一匹の猫は、微かに震えながら寂しそうに「ニャア〜…」とだけ鳴いていた。
夜風が身に堪える丑三つ刻。
晩秋の月明りは漆黒の闇に澄み渡って美しく映えている。
ムースは猫飯店の一室で眠れぬ夜を過ごしていた。
下宿人として与えられたこの部屋。半分は物置として使用されているのか、木箱が山積みになっている。
窓から差し込む月の光しか存在しない空間で、じっと瞑想しているムース。
分厚い眼鏡の奥には端正な顔立ちがあった。
「……」
背後に気配を感じて振り返ると、そこには女らしき人物が立っていた。
「シャンプー、か…?」
「………」
女は答えずにゆっくりと窓際まで向かい、その窓辺に腰をかける。
逆光となって顔の判別は出来ないが、シルエットでシャンプーだと認識した。
ムースは落ち着いた口調で問う。
「こんな夜中に…何処行ってただ」
「………」
「……心配してただぞ」
「お前は私の何ね」
急に問い返されて言葉を失う。
「…おら、は…」
いつもならその後に続くフレーズも、今の状況では物悲しく響いてしまいそうだった。
部屋は再び静まり返る。
漂う沈黙を破ったのはシャンプーだった。
「私…この身体が憎いね…」
耳を疑ってしまうムース。
「……なんじゃと…?」
「この身体のままじゃ、…一生幸せになれない」
「………」
「私…どうしたらいいのか?私がそんなにイヤなのか?私、そんなに魅力がないのか…?私もう、…どうしたらいいかわからない」
独り言のようにシャンプーは呟いている。
ムースは嫌でも、乱馬と何かあったんじゃな。と悟るしかなかった。
こうもシャンプーが重々しく、切なげに自分に吐露してくる機会などそうそうなかった。
ムースは心を込めて言ってやる。
「お前は最高の女じゃ、シャンプー」
「………お前なんかに言われてもこれぽちも」
わかっている。知っている。でも遮ってでも言うしかなかった。
「お前はおらの女じゃ」
「……」
「そしておらは、お前だけのものじゃ」
シャンプーの前で跪き、手を取りながら見つめる。
暗くて何も見えない。見えない筈なのに、ムースはどこか眩しそうな眼差しだった。
シャンプーはムースの頬に手を添えると眼鏡を静かに外す。
ムースの視界に靄がかかった。
「……」
「私が見えるか…?」
「……見えぬ」
「私はお前の女ではない」
その眼鏡を窓枠にそっと置くとこう告げる。
そうだ。こんな夜は初めてではない。
「……わかているのか。お前が今から抱くのは私ではないぞ」
ムースは見上げたまま変わらぬ表情で答えた。
「……わかっておる」
「―…お前が抱くのは私ではない…。見知らぬただの女ね。
前回と同じ、私の名前も呼ばない。わかたな…?」
「…わかっただ」
「火照った身体を慰める。それだけの事…。よろしな?」
「…ああ」
横たわるムースに馬乗りになっているシャンプーは訥々と問いかけている。
ふたりは何も身に着けず、生まれたままの姿だ。
筋骨隆々の裸体の上に、妖艶に聳え立つ女体。男女の交わりが始まろうとしていた。
シャンプーはムースの胸に手をつき、ムースはシャンプーの腰に手を添えている。
そそり立つ陰茎を握ると、先走りをゆっくりと扱きながら全体に塗って伸ばす。
充分に濡らした先端の上に腰を浮かせると、苦しそうな息を漏らしながらシャンプーは自らの体内にずず…と沈み込ませた。
「…ぁあ…っ……。はぁ…ぁ…」
まもなくして腰を落とす運動に入る。
「あっ、…ぁっ…ん…んっ…、ん…」
少し違和感を覚えて、チラ、と視線を落とすとムースの視線とぶつかった。
身動きせず真っ直ぐ見つめている。
シャンプーは不審に思い動きを止めて尋ねた。
「…どして…動かないのか…?」
「少しでも長くお前とこうしていたいだ」
「な…なに馬鹿言てるか。何のためにお前とこなコトしてると思てるね。私がイッたらそれでおしまい。ささと終わらせるある」
言い終えると運動を再開する。しっかり目を閉じて行為に集中しているようだ。
「んっ…ん…っ…ん…」
体重をずんずんとかけてくる腰を両手で撫でながらムースは囁く。
「…おらの名を呼んでくれんか」
「どう、してか?…私お前の、名前なんかっ…知らないね」
息を短く吐きながら素っ気無く言う。
「知っとるじゃろう」
「知ら、ないね」
下からぐっぐとシャンプーを突き上げてみる。
「あっあっ!…っっ……!」
思わず手で口を押えるシャンプー。
「どうしただ」
「あ…あまり声を出したらひいばあちゃんに…聞かれてしまう」
「ん?ひいばあちゃんとは誰じゃ。あれはシャンプーのばばあの筈じゃが」
「……」
悔しそうに下唇を噛むと、シャンプーはムースの胸に置いている手の爪をたてた。
繋がったままでふたりはじっと視線を交わしている。
「シャンプー」
「…誰あるか、それ」
見据えたまま冷めた調子で聞く。
「おらが抱いてるのはシャンプーに似とるのう」
「違うね」
「シャンプーじゃろう」
「お前には何も見えてないある」
「見えとるぞ」
シャンプーは驚く。
「お前…ウソついたのかっ?」
「おらにはよっく見えとるだ。」
ムースはハッキリと答えた。
「……」
「綺麗じゃ、…お前は」
「夢ね」
「そうか。これは夢じゃったか」
シャンプーの腰のラインに手を添えて眺めながら言っている。
「ただのお前の夢ね」
「そうか。おらは一生忘れんぞ」
いたたまれなくなったシャンプーは声を荒げる。
「早く…動くよろし!」
ムースは自分の胸の上に置かれている手を握る。
「ええ夢じゃのう」
「…馬鹿ッ!」
その手を振り払おうとするとムースは吸い寄せられるように上身を起こしてシャンプーを腕に抱いた。
「…っ…」
「おらは今…誰よりも愛しとる女を抱いとるんじゃ」
「……」
目の前にある絹のような髪をいとおしそうに撫で、その小さな顔に触れ、手の平で覆う。
シャンプーの頬は温かい雫で濡れていた。
「……」
ムースは唇を奪ってその濡れた頬に強く頬を寄せると、込み上げてくるものを堪えながら腕の中の女を愛し続けた。
この想いが伝わるように。
懸命に愛を込めて、優しく慈しんだ。
狭い部屋の窓には外気と室内の気温差による結露が浮いている。
ふたりの発する熱気が充満している証だ。
「…あぁっ…あぁあっ…」
シャンプーが顎をあげて背を反らせると、その艶やかな長い長い髪は律動に合わせてサラサラと波打ち、床を磨る。
「あぁっ…ああっ…あっ!…んっんっ、ん!」
両脚を交差させてムースの胴体を挟み込み、首元に腕を回してきつくしがみ付くシャンプー。
その可憐な唇から発される甘い喘ぎに、切迫の色が見え始める。
ムースはそのまま抱き締めているシャンプーを押し倒して床に寝かせる。
絨毯一面に紫色の髪がバラッと美しく散らばった。
汗ばんだ肉体同士を寸分の隙間もない程に重ね合わせてお互いを感じあう。
「はぁ…!あぁ!ぁあ…っ…ムー…っ」
「……」
「…ス」
耳元で消え入る自分の名前。
沸騰する感動と快感に任せて素早く腰を打ち付けると、シャンプーの熱い膣内がぎゅうと収縮したのがわかった。
つられて思い切りその中で欲を迸らせる。
「あはぁっ!!あぁ!!…ムースぅ!…――」
――…
「いつまで寝とるんじゃこの馬鹿者!さっさと起きんか!」
頭をぼかっ!と殴られてムースは目を醒ます。
しょぼしょぼと瞬きをしてからむくりと起きると声の主を確かめる。
「鯵の開き…」
ぱかん!と再び木杖が頭上に振り下ろされて「うぐぐ…」と蹲る。
「早よう着替えて降りてこいっ」
とっとっとっ…
コロンが階段を降りる音を聞きながら窓を見上げると、外は既に太陽は高く昇っており、差し込む日射にムースは思わず顔をしかめた。
胸の上で寝ていた女はもういなかった。
服を着て、眼鏡をかけると階段をそろそろ降りていく。
「居候の分際で寝坊とは何事か。ささと仕事に取り掛かるよろし」
階段の途中で足を止めているムースに、チャイナ服にエプロン姿のシャンプーがテーブルを拭きながら冷めた口調で話しかける。
いつもの光景。昨日と同じ日常が今日も始まっていた。
「お…おう。すまねえだ」
(本当に夢のようじゃのう…)
ムースは洗面をしてから袖を捲くり髪を後ろで結ぶと、心に虚無感で満たしながら倉庫から材料が入った木箱を抱えて厨房に持ち運ぶ作業に取り掛かった。
木箱を床に置こうとした時、重みで腰がぎくっと痛んでその場にしゃがみ込んでしまう。
「いたたたたっ!」
「……」
無言でシャンプーはその様子を横目で見ている。
視線を感じたムースは、不器用に笑いながら後頭部をかき、
「いやぁ…ちとハリキリ過ぎたかのう?」
と言った。
いきなり叉焼麺が飛んで来て「わたたっ」と慌てて受け取る。
「つまらぬ事を言てる暇があるならささと出前に行くよろし」
怒った顔でシャンプーは呟くと、すぐにぷい、と長い髪を翻して背を向けた。
その行動がどこか照れ隠しに思えたムース。
嬉しさのあまり厨房から飛び出しシャンプーに背後から抱きつこうとした。
「シャンプ〜〜〜っ!!」
「なにするかこのケダモノッ!!」
げしぃっ!!と力いっぱい顎を蹴り上げられ、KOされてその場にバタンと伸びるムース。
すぐさま顎を押えながらむくっと起き上がると泣きながら訴えた。
「昨日のお前はどこに行っただぁっ!」
「一体何の事ね。悪い夢でも見たのか?」
「いやっ…悪くはないっ!良かっただ!お前はおらと…うがっ」
傍にあった花瓶をムースの頭に叩きつけると、シャンプーは手をぱんぱんと払って倒れている男を見下した。
「お前に任せていたら商売があがたりね。ひぃばあちゃん、私出前に行てくる」
喋りながら手早くおかもちの中に出前の品を入れると、床で気絶しているムースに向かって舌をべーっと出して店から颯爽と出て行った。
「待つだシャンプー…っおらも行くだぁっ!」
厨房からコロンの檄が飛ぶ。
「出前は一人でええわい!お前はさっさとこっちに来てこの青梗菜を洗え!」
シャンプーはどうやら身も心も猫のようだ。
誠に気高く、美しく…捕えようの無い猫娘。
数日もすれば、また布団に潜り込んで来るのだろうか?
「おらは一体、いつになったらちゃんとした飼い主になれるんかのう…」
「何をぐずぐずしておる!早ようせい!」
ムースの夢の様な日常。
『猫飯店』の一日が、今日も変わらず過ぎてゆく。
終わり