著者 : 名無しさん@ピンキー ID:Q362hCFA 氏

その5 ー >>361
開始:06/10/30
最終:06/11/04
その5 − >>419

【 良牙×右京

「さ、掃除終わりっと…。」

お好み焼き屋『うっちゃん』店主・久遠寺右京は店前の道路を掃き終えると、
ちりとりと箒を片付けた。
夜も既にとっぷりと暮れていて、頭上にはひんやりと澄み渡る秋の星空がある。
ひとつ深呼吸をしてから「よっこらせ」と暖簾をしまうと、あぁ今日も疲れたと
肩に手をやる。
カラカラと引き戸を閉めて、戸締まりをしようしたその時。

「(ぐわら)いったいここは何処なんだ!!」

ボロボロになった良牙が戸を豪快に開けて入って来た。

「あ…お、お前は右京…?何故こんなところにっっ…」めしっ
右京のフライ返しが炸裂する。

「アホ!ウチの店やっ!!」
 ・
 ・
 ・


「―ん〜、イカ玉やったら出来るわ」

冷蔵庫の前に屈んでいる右京。材料をテーブルの上に置くと、流しで手を洗いながら
話しかける。

「え?」
「どうせそんな様子じゃ、当分なにも食べとらんのやろ?すぐ出来るから座っとりぃ」
「あ、ああ…。いつもすまん」

手際よく準備に取り掛かっている。
そのペースに押されながら、良牙は好意に有難く甘える事にした。
この数日は例の如く彷徨い歩き、ろくな物を口にしていなかった。
何も言わずとも察してくれたのか。
(ここに迷って来て良かった)
目の前の鉄板に熱が伝わり出したのと同時に、良牙の心にもじんわりと灯が燈った。


包装紙がヨレヨレの菓子折りをリュックから取り出すと、カウンターの上にそっと置く。

「なんやそれ?」
「…あかねさんに渡すはずだった土産だ」
「ぼろぼろやないの」

良牙の表情が曇る。

「…賞味期限、昨日までだったんだ」


どんなに、どんなに想いを募らせようとも微塵も伝わる事のなかった初恋の人、
あかねへ渡そうと必死に守ってきた手土産。
あかねに会う為の口実、あかねへの想いの化身…

幾度となく迷子になりながらも、いつもあかねの元に辿りついていた。
だが今回はついに無理だった。
それが何を意味するのか。目を背け、頭を振って払い除けていた「現実」を突き付けられた気分だった。
箱の片隅に刻まれた日付が、遠い過去のように感じた。


「そうかぁ」
右京はイカ玉をペイッと返す。

「……」

「そんなになってまで、食べへんかったんか」
「……土産だからな」
「律儀なやっちゃなー」

じゅうじゅうとお好み焼きが焼ける音。
ヘラが鉄板を滑るカシャカシャという音。
換気扇の音。
ふたりの男女の声。
営業時間を過ぎた「うっちゃん」に響く。


暫しの沈黙が続き、良牙が顔をあげる。

「あの…非常に言いにくいのだが」
「ん?」
「……実は今、金を切らしていて」

右京はその言葉を聞くと手をヒラヒラと振る。

「はー。ええんよそんなん、ツケといたるから。いつか払ろてや。」
「いや、もちろんこの礼はさせてもらう。お前にはこうやって何度も世話になった。」
「ホンマになー。何回目やろうなぁこんな夜。…ハイ、お待ちどうさん。イカ玉いっちょ」
良牙の手元にイカ玉がスライドしてきた。
「あ、ああ…。うまそうだ!何日振りだろうかこんなまともな飯は…くっ。…いただきまーす!!」

右京がフフッと笑う。
「熱いから気ぃつけやぁ」
「ところでこのもうひとつの一回り小さいのは何だ?」
「これは、うちの遅い夕食。」――


「え〜?頼み事〜?そんなんいきなり言われてもなぁ…」
「何でも言ってくれ。皿洗い、店の番から掃除、品入れ、買い出しまで…」

良牙は椅子から立ち上がって握り拳を作り、身を乗り出している。
散々飯を恵んでもらった恩を、何とか返したい。その一心で申し出た事だった。

「買い出しはええわ、迷子になるだけやし。そうやなあ…うーん…」

この頼りになりそうでならない男に何を頼むべきか。ここまで真剣に迫られると
返答に詰まるものだ。

右京は首を傾げて宙を見つめた。その間も良牙は固唾を飲んで見守っている。
ふぅとため息をつくと、あ。と思い付いた表情をした。

「そや。肩、揉んでくれへん?」
「……へっ」
「もー今日は凝って凝ってしゃあないの。こないだまで3連休やったやん?
屋台であちこち周って繁盛したんはええけど、その分こうやって連休明けに地味〜に
疲れが出るんやなぁ」

「え…いやその」

拳を作ったまま呆気に取られる。ひとつ間隔をあけて座っていた右京が隣の丸椅子に移動してきた。
「ほな、よろしゅう。」とくるりと背を向けると、ここやと言うように右肩を反対の手でとんとんと叩いた。
そしてそのまま動かない。


3分ほどその状態が続いただろうか。良牙は意を決してその後姿に震える手を伸ばした。

世話になった女の頼みだ。いや、右京だ。乱馬の許婚の…
ガチガチに固まったまま無造作に両手を突き出すと、差し出された肩にポトンと置き、
指をぎこちなく開いたり閉じたりし始めた。
ぎっしゃんぎっしゃんと今にも音がしそうだ。


(何か…ロボットに揉んで貰ってるみたいやなぁ)
そんな事を考えながら瞼を閉じて右京は身を預けていた。


壁掛け時計の秒針が何周か、いや何十周かしたかも知れない。
良牙は真っ直ぐ、限りなく真っ直ぐ前を見たまま、変わらず指の伸縮作業を進めている。

ふたりっきりで静まり返った店内。右京の身体に触れている。
右京の後頭部が視線を落とすとすぐそこに存在する、という事実と光景から意識を飛ばそうと、
指を動かす事だけに懸命に専念した。


…専念はしたのだが、意外と華奢な肩の握り心地に、そこはかとない右京の「女」を
感じずにはいられなかった。当然それに伴い、己の分身もむくむくと成長しつつあった。

知らなかった。女の肩とは、何と薄い、小さいものだろう。なんと、柔らかく…温かい――

「…どわぁっ!!」
突然指に何か触れた。右京の手だ。

「もうちょっとこっちの方…お願い」

驚いた拍子に、思わず視線を向けないように気をつけていた右京の姿を見てしまった。

女のうなじがそこにあった。
初めて目にする、右京の細いうなじ。
白くなだらかな首から肩のラインに釘付けになる。
焦茶色の長い髪がしっとりと背に這い、時折右京が振り返ると手をサラサラとくすぐる。

瞬間的に頭のてっぺんと股間に血液が集まった気がした。
とてつもない衝動に突き動かされる。

そこに唇を落としたい。這わせたい。貪りたいという衝動。

(い、いかん…う、うう右京にそのような事を……)


このうなじに顔を埋めたら、この女はどんな反応を見せるのだろうか…?
このきかん気の強そうな、それでいて奥ゆかしく古風な女―

このまま両手を前方にゆっくり滑らせて、ピチリと重ねられた群青色の着衣の隙間から、
ふたつの谷間を望む、その膨らみに…
すぐそこにあるその膨らみに…―

「――……ょうが…!―良牙!痛いやんか!」

「…はっ!すっすまん!!」

甲高い声に我に返る。そこにあったのは右京の困惑した顔だった。

「ホンマにあんたはもう〜…」
妄想するあまり、無意識の内に肩を揉む手に力を込めていたようだ。

「顔赤ぁして、何考えてたん?」

脳内を見透かされたような言葉を投げ掛けられ、しどろもどろに答えるしかなかった。

「…な、慣れてないもので、加減がよくわからんのだっ」

…右京が何故か視線を外してくれない。

「…鼻血出てんで。」
「なっ…!うわっほんとだ!」
慌ててわたわた鼻を押さえる。


「アホ。」と呆れ気味の笑顔を浮かべてから、右京は少しはにかんだ。
そして再びくるりと背を向ける。


この状況、どこからどう見ても、良牙が自分を触りながら変な考えを起こしていると
気付かずにはいられなかった。

ティッシュを鼻に詰めている良牙を尻目に、肩をグッと縮めてから覚悟を決めたように
ゆっくり息を吐くと、右京は静かに呟いた。

「…あんまり強うしたら壊れてまう。うちかて女やねんから」

「………」

「優しいにしてくれるんやったらええよ。良牙。」
「え……」

右京は振り返ると、照れくさそうに微笑んだ。
「うち、あんたの事好きかもしれんわ。」

良牙の鼻のティッシュが勢いよく飛び出した。


青天の霹靂とはこの事か。

目前に佇むは、化粧っ気がなくとも美しく凛とした少女、久遠寺右京。
固く結ばれた唇に決意の強さを垣間見る。
じっ、と訴えかける眼差し。
体感温度が10℃ほど上昇したように思えた。

先程からリフレインされてぐるぐる駆け巡っている、右京の言葉。

あんたが好き。
優しくしてくれるんやったら、いい。
あんたが好き―
優しく、して―

どっ…どっ…どっ…どっ…


精神肉体ともに完璧に健全な高校生世代の良牙である。
この流れ、この台詞、あの顔の赤らめよう。
脳内のみで進行していたストーリーは、今まさに自らの腕で具現化されようと
しているのだ。
良牙は、人生過去最大のイベントを始めるのだ。

耳鳴りが止まなかった。



鼻から垂れそうになる一筋の血をズズッと吸い込むと、続けてごくりと唾を飲み、
恐る恐る、一歩ずつ右京に近付き始める。

眼球も鼻も血走った良牙に、右京は苦笑いしてからそっと立ち上がると、
カウンターの中に入って新しく綺麗な濡れ布巾を持ってきた。
そして走り寄り、距離を詰め片手を良牙の肩に置いて、優しい手つきで鼻血をぬぐった。

「ほら、ちゃんと拭いて…」

「ほわっ」

間抜けな声をあげ、されるがままになる。
既に腰が砕けそうだ。

「ふふ、あんた今すっごい顔してんで?」

頬を朱に染めながらも、右京は僅かに余裕のある様子で囁く。

「ど、どんな?」
視線を泳がせながら問い返す良牙。

右京が近い。
吐息がかかり、堪らず硬直した。

目尻が少し吊上がり気味で、一本気な性格まで汲み取れそうな右京の
キリリとした眼。よく見るとその中にも暖みが湛えられている。
その瞳がふと緩んだ。

「男らしい、…かわいい顔や。ふふふっ」
拭い取る手を止めると更に身を寄せてきた。


「―!」

ふたりはこれ以上にないぐらい、密着している。

ばっくんばっくんと全身が心臓と化している現在の良牙の下腹部の張り詰めようは、
もう尋常のものではなかった。
狭い空間で膨張するあまり、痛くて腰がちょっとだけ引けている。
それが右京に勘付かれるのではないかと、熱に浮かされているようなのに、
ただ一点肝を冷やした。


そうとも知らずに右京はというと。

「良牙って…こぉんなおっきかったんやなぁ…」

うっとりと瞼を閉じて、厚い胸板の中で独り呟いている。

良牙の広い背中に回された細身の両腕がゆるゆると肩甲骨の辺りに向かって這い、
暫くするとキュッと抱き締めてくる。


ハッキリと胃の辺りに伝わる、「むにゅ」という柔らかい感触。
いつであったか…乱馬に晒されて目撃した右京のサラシ姿がフラッシュバックする。
初めて出会った時は学ラン姿だったのだ。

あれから行く年季節が流れた気はするが、あの右京が自分の胸の中に居るなんて、
誰が想像し得ただろうか。

かわいい。とは感じていた。
世話を焼くのが好きな奴なんだと思っていた。

「う…きょ、う…」


わなわなと震える良牙の2本の筋走った腕。
つい先程知り得た右京の意外に細かった身体を、今、しっかと抱き返した。

「ぅん…」
抱き締めた身体から切なく甘い声が漏れる。

黙ったまま、何かを確かめ合うように良牙と右京はいつまでも抱き合った。


チッチッチッチッチッチッ――

秒針の音が、やたらと大きく店内に響き渡っている。

首筋に感じる焦茶色の髪がもぞもぞと動き出して、くすぐったい良牙は
不思議に思い、右京から上体を少しだけ離した。
視線がぶつかって一瞬止まる。

右京は半開きだった唇を閉じると、顔を傾けてうやうやしく押し当ててきた。
微かに震えているのが伝わった。

右京の浮いたカカト。
良牙の見開いたままの眼。
午後10時30分を過ぎた頃の事だった。




「……」

唇を離し、良牙の反応を見る。

「……。」
たまらずもう一度口づけた。

更にもう一度。

(やわらかいんやなぁ…)
チュッと音を立てて口付ける。

チュッ。

チュッ。
チュッチュッ。


幸福に浸り過ぎた良牙は完全に惚けている。


「〜〜〜っ、もぉ!」

胸元に置いていた拳でそのままコツンと叩くと、赤い顔で恨めしそうに右京はついに弱音を吐いた。

「ちょっとぉ…。うちばっかりにリードさせる気なん?」

良牙の頭の片隅で、何かが切れた。
「(ぷっつん)」

'小心'の緒が切れたのだ。

生気に満ちた眼光を放ち出した良牙、右京を軽くひょいっと抱きかかえると
高らかに雄叫んだ。
「…よ、よぉおしっ右京っ…!今度は俺の番だ!!!!」

「…ひぃー!?」

店内から住居部分と繋がる和室へと、物凄い勢いで足を進める。まさに猪突猛進の勢い。 
そのまま階段をけたたましく駆け上がると、手当たり次第フスマを張り開けていく。
「右京の部屋は何処だあぁー!!」

「うっ、うちの部屋はここっっ!!」



「ここかっ!!!?」

――がっっ
「?!」

指を差された部屋へ入ろうとして、良牙は敷居で思いっきりつまづく。
「どわぁあぁぁぁああ!!!!!」
右京を抱えたままその両手を真っ直ぐ伸ばし、前方へスライディングする形でずしゃっと倒れ込んだ。
ぴーんと伸ばした両腕の上で座っている状態で、右京は助かっている。
「大丈夫かっ?!」腕から慌てて降りると、右京は気絶している良牙を揺さぶった。
「はは、は…」と乾いた笑いを浮かべている。
額と鼻のてっぺんを擦りむいているだけだ。無事だった。


「気ぃつけやぁ?もう。ブラウン管に突っ込むとこやったんやで?」
「…わるかった。」
絆創膏を貼ってもらいながら良牙は反省していた。
―ふっ我ながら情けないぜ響良牙。一生に一度の、記念すべき日になるであろう千載一遇のチャンスだというのに・・
平常心でこの優しい右京を上回って優しくリードしろ。
初めてだから緊張するんだよ。なんてことはない。平常心だっ。
精神をいま一度統一させよう…―
「じゃあ、…お布団。敷こか」

  平 常  し ん   だ  ・・・

右京は押し入れから布団を出すと、畳の上に敷き始めている。
ひざまずきながらシーツを丁寧にきちんと伸ばし終えると、その上にそっと正座をした。


ふたりは向き合って静かに鎮座している。
沈黙の後、おずおずと伏し目がちに、
「ほな、改めまして…お…お願いいたします。」
右京が言うと、きちんと三つ指ついて頭をさげた。
「こっ、…こちらこそっ!!」
良牙も慌てて頭を下げる。
「……」
顔を上げるとくすっと笑った。
「はずかしい…ね」
「…〜〜〜〜〜、右京ぉ!!!」

良牙は辛抱たまらず膝をついたまま前のめり気味に右京をがばっと抱きしめた。
「あっ!」
きつく抱きすくめ、頬やら首筋に吸い付き始める。
「うぅんっ…、っ…りょう、が・・・」
突然降り注ぐ愛撫に驚いて身をのけ反らせる。その背中を片手で支えながら布団へ押し倒すと更に口を塞いだ。
半ば馬乗り状態で身体を衣服の上からとにかくまさぐる。
「あぁんっ…あっ!…やっ、…っ!」
右京が艶めいた声をあげて身悶えしながらしがみついてくる。

耳元で響くあられもないあの『右京』の嬌声に良牙の脳が強烈に痺れた。
這わせる指に力がこもり、息を荒げながら着衣の隙間に手を侵入させる。
サラシに隠された膨らみを直接揉みしだこうとすると―
「…待って…!」
肩を押し返し制止された。
しかし良牙は止まらない。


「いやっ!待ってっば!…先に電気消して…」
サラシを撫でていた手が止まる。

「消すのか?!」
「…え」
お互い予想していなかった反応らしい。黙ったまま顔を見合わせる。
良牙は堰を切ったように叫んだ。
「見たいんだっ!」
「……。」
「…お前のすべてを!しっかりとこの目に焼付けておきたいっ!!だから…」
その力説ぶりに右京は怯む。だが段々と眉をひそめだした。
「なに…焼付けておくってあんたまさか、またこないだみたいに何ヵ月も帰って来おへんのんちゃうやろなぁ?!」
跳ね上がって起きてきてのいきなりの剣幕。良牙も後退りをしておののく。

「あんたっちゅう奴は、昔っからなんっにも言わんとしれっとどっか行って、知らん間にまたしれっと帰って来る…っ!
あんた、毎回神隠しみたいに消えてしまうから、ずっと心配してるんよっ!知ってた?!」
金切り声で詰め寄り、捲し立てる。心なしか震えていた。
「ち、違うんだ!待ってくれ!!おっ、おお覚えておきたいというのはっ…、いつでもお前の事を思い出せるように…
その…、いつでもお前を…その…」
「……」
思い出してまた後でひとりであんな事こんな事したいから、なんて事は言えない……。

そんな男心なんぞはいざ知らず。右京はその言葉にまた赤面しているのだった。
(う、うち、そんなに想われてんのんか…)
「…うちもっ!」
「のわっ!」
がばっと抱き付き良牙の胸板に顔をうずめ、そこからくぐもった声を洩らした。
「…うちも、あんたの事をいつも…思い出したい」


良牙の頭の中で幸福の鐘が鳴り響く頃、右京はそっと立ち上がり、背を向けて衣服を脱ぎ始めていた。
上着の羽織りをはらりと落とし、両脚を包む黒いタイツを脱ぐとスラリと伸びた生脚が出て来る。
サラシとショーツ姿の右京はまた静かに座り込み、胸元のサラシを解き始める。
「……………」

良牙は女体を目前にし、ごくりと生唾を嚥下した。
ウエストの曲線とその下に続くお尻。桃のような丸み具合は豊かで、ショーツと腰の境目の部分で
縦の窪みが覗きそうになっている。…が、ぎりぎり隠れていて見えない。

全部取り終えたらしい右京は胸元を両手で隠しつつ少し振り返った。
「あんたも脱いでよ…」

良牙は「あっ…そうか」とこぼすと同じく脱衣した。
頭のバンダナまでも取ったのだが、やはりトランクスは履いたままだ。
最大限にまでギンギンに勃起した股間は見事なテントを張っている。
それを発見した右京は紅潮してさっと視線を逸らした。

良牙の方も相も変わらず真っ赤だったが、俺がリードせねばという使命感で突き動いている為
もうほとんど照れのような躊躇はしなかった。
その証拠に、右京の頭をそっと優しく撫でると腕を回して引き寄せている。
裸の身体を丸ごと包んでみると、右京は身を竦めた。

…女の素肌の心地良さに感動してしまう。
裸の肌と肌の密着。言い得ぬ安堵感を覚えると同時に、酷く欲情した。


一緒になって横たわると良牙はまだ胸をガードしている右京の手を握る。
「…見せてくれ」
「……」
無言で声の主をチラと見上げると、右京は頼まれたまま大人しくゆっくりと腕を解いた。
決して大きいとはいえないが、形の整ったお椀型のキレイな乳房があらわになる。
乳首もぷっくりしていて可愛らしい。

「きれいだっ」
「お…おぉきに」
その白い山の肌を不器用に手で覆い、クッと指に力を込めた。
「ひゃっ…っ…」
乳房はふにゅっと形を変える。

――なんという感触―!
弾力がありつつも餅のように柔らかく、しかも温かい。これが女の胸なのか…!
良牙は夢中になってむにむにと揉みしだいた。乳首も一緒に指でつまんで転がしてみる。
「んんっ…あっ!」
右京が首を振った。急激な悶えように目を見張る。
「っあ、ぁ…、っはあっ…、そんなに…っ触ったらぁ!」
「えっなに?」
良牙は素で聞き返す。
「な…、あほっ」
「イイ、…のか?」
つまんだ乳首をくりくりとしながら問う。
「うっ、…ん…」
良牙の表情がパッと明るくなる。
「そうかっ。じゃあ…」
と、今度はつんと立っている乳首に口を付けて吸ってみた。
「…っんぅ!」
固さを帯びている先端を舌で転がす。
「あっ…、ん…っく…」
右京は顔を横に逸らして、ぐっと目を閉じ刺激に耐えているようだ。
きつく吸うとビクリと肩を揺らし、舌でれろれろと舐めてみると「はあっ」と息を吐いて切なそうな表情に変わる。
今度は理性の緒が切れそうになった。


「あぁ、はあ…はぁ、…っ!」

胸をたっぷりいじくられて、身体の芯が疼いて堪らない右京は太腿をもぞもぞと擦り合わせている。
下半身をくねらす女が求めるもの。それは。
良牙は本能的に察知すると、指を脇腹に進め、更にその下の布地に覆われた三角地帯に滑り込ませた。
「っ!!!」
思わず股をきつく閉じる右京。構わず良牙はそのまま指をぐりぐりと動かす。

「…っ!…っ…!」
乱暴な指遣いに一瞬声が出なくなった。

性感帯の源泉とはいえ、ただ漠然と摩擦をすれば良いというものでもない。
だが完全興奮状態の良牙にテクニックの注文など無理難問。
ワンパターンに人差し指と中指をぐりぐりと動かし続けている。
「いやぁっ!…い、たい…!」
ぴっちりと閉じられているお陰で、割れ目の感触も伝わる。それだけでもう良牙はイッてしまいそうだった。


強い摩擦に身を丸める右京は自分の股に挟まった腕を掴んで辛そうに呻く。
その腕は鉄の塊のように硬直していて、いくら押してもびくともしない。尚も内へとめり込ませてくる。
「も…やめ、て…」
一向に緩めようとしない良牙に堪らず視線を送った。

…血走った眼がそこにある。いつの間にか膝をついていて、足元から見下ろす体勢だった。
食い入るように三角地帯を見つめ、息がぜいぜいと荒い。
不安を覚えて自らも上体を起こす。
「りょう、が、あの…」
今度は鼻で息をすぅ…すぅ…と吸って吐いたかと思うと、股にあった手を引き抜いた。
次の瞬間、不意打ちにばかっ!と右京の股を割ると突如顔をうずめたのだ。
「ぎゃああ!!!?」

両太腿をがっしり掴んで強引に吸い付く良牙。
「いやっ!なにしてんのっっ!」
右京は羞恥と恐怖でパニックになる。そこにある穴に入ろうかと言わんばかりの勢いで、獣のように貪りついてくるのだ。
逃げようにも、下半身を完全に押さえ付けられ敵わない。
「くぅっ…!んん…っっ!!……ぁああ!」

既に濡れきっているショーツの布越しに伝わる、唇と舌のうごめき。
篭る良牙の熱い吐息に全身に快感が駆け巡った。
良牙の頭部をプレスする形だった太腿がぐぐぐと開かれ、腰が僅かに宙に浮いた。
股に埋まっている頭を掴み、ビクビクと身体を揺らしながら右京は良牙の舌の愛撫を受け入れていた。
「はあっ、はあ…っ…っっ…!…ぁぁ…」


ショーツは愛液と唾液でぐっしょりと濡れて、もう下着の機能を果たしていない。
こんもりとした土手の若い茂みも薄く浮きだってしまっていた。
良牙は埋めていた顔を離すと無言でショーツを脱がす。
「……ッ」
右京は反射的にショーツを押さえたが、そんな抵抗も虚しくずりっと下ろされるとついに一糸纏わぬ姿となる。
ずらしたショーツから愛液が糸をひいていて、それを見てしまった右京は耐え切れず両手で顔を覆った。

「……こんなに濡れるもんなんだな」
感心しているのか良牙がポツリと正直に呟いている。
「あ、あんたがヘンなことするからっ!」
上擦り声で反論する。
「…そうか」
ふいに陰部に指があてがわれ、ビクついて思わず腰を引いた。速攻さっきよりも数倍の力で腿を押えつけられる。
「じゃあ……もっと、ここを…触ってやる…」
右京の半泣きの顔が強張った。いきなり何かにとり憑かれたかのような恐ろしい口調で唸り声をあげると、
濡れ光るそこに当てた指をぬるぬると動かし始めたのだ。


「ふぁあああっ!」
電気が走る。自らの下半身からくちゅり、くちゅりといやらしい音がするのを耳にして、
視界が一瞬にして眩んだ。
「…ぁぁあっ…!!…っんああぁ!…あぁあああ!」

一番敏感な箇所を責めたてられ、上体を大きく反らして天を仰ぐ右京。
蛍光灯がこうこうと照っているのに息を呑み、ぎゅうっと瞼を閉じた。
紛れもなく見慣れた自室の天井がある。いつも寝て見ている光景だ。
己の性器がぴちゃぴちゃと卑猥な音を立て、それを奏でるは荒れて節くれ立った男の指。
この強烈な快楽は他人から与えられているものなのだと痛感すると
右京はもうどうしようもなく感じてしまった。
足がピンと突っ張ったかと思うと、ずるずると伸ばしては立てを繰り返す。シーツに大きな皺を作っている。
中指だけをクククと高速に動かされると「ひゃああぁっ!!!」と大声を上げ、腰を軽く痙攣をさせてから
くたっと全身の力を解いた。
「はぁ、はぁ…うっ!」
一拍おいてからびちゃっと熱いものが飛んできた。
内股にかかったのだが快感に打ちひしがれている右京には何の事かわからなかった。
「――っ…、しまっったあああっ!うううぅぅぅ…」


ぼうっとした頭を傾けると、良牙がガックリとうなだれていてどんよりと泣いているのが見えた。
眼前で展開される右京の嬌態と感触に、良牙の溜めに溜め込んだ欲望はパンクしたのだ。
トランクスを下ろした反動でイッてしまっていた。

(なにがしまったんや…)
ふと自分の腿に付着した白濁を見て、右京は遅ればせながら理解する。
(ああ…。そんな、泣かんかてええのに…)

「……」
のっそりと起き上がると、虚ろな顔つきで萎えた竿にそろそろと手を伸ばした。
「ぬおっ?!!」
にわか信じがたい行動に身動きを忘れる良牙。
ぎこちない手つきで、さすったり握ったりしている。すりすり、すりすり…―
たまにレバー調に左右に倒してみたり。先刻の良牙の不器用な愛撫に負けていない。

「右京なにを……っ」
「うちとちゃんと最後までするまで終わらさんっ」
口をへの字に曲げ怒ったような口調で答える。なんとなく扱く度に(このっ…このっ…)と言ってる気がしないでもなかった。
「うっ…くっ…」
健気な右京の奉仕に、瞬く間に劇的な回復力を見せた良牙のペニスは、再びぐぐ、と熱を帯び勃ちあがった。


(こんなおっきいもん、うちの中に入るやろか…?)

掴んだ時は萎縮していたものが、扱くごとに手の内で膨らんでいく様子に右京は内心不安になり、
手の動きを緩めてためらいを感じていた。
ぺちゃんと座って片膝を立てている格好で陰茎を握って上下にスライドさせている。
そのクロスさせ気味の太腿の隙間から見え隠れする陰部に、これ以上になく勃起した良牙は鼻息を荒くして
「い、挿れたい。駄目だ挿れさせてくれ」
下半身を寄せて迫った。

「…う、うん…ええけど…、あの……」
まさか慣らしもせずにこんな太いものを挿れるのか、と右京は動揺する。
だが今更拒む事は出来ない。場所を確認しつつその柔らかい肉襞に亀頭をあてがう良牙に身を任せる。
潤滑して熱を持っている中心部を探っているが、ぬるっと滑って巧くいかない。
その感触があまりに気持ちが良く身震いする良牙。
「うっ…」
ぬちゅ、ぬちゅと暫くその行為に没頭してしまう。
「やっ…なに、してっ…」
右京も敏感なクリトリスの辺りを肉の棒で擦られて思わずよがった。
欲望そのままに、良牙はぐんっと腰に力を入れてみる。
「――!」
快感の後の突然の激痛に、右京は背筋を凍らせた。


「ぃたいいっ!…っ、…!…うぅう!」
異物を拒絶し、反発して押し出そうとする力が膣に働くが、良牙は体重をかけて埋め込もうとする。
半身ほど隠れたところで腰を前後させ始めた。
「うっ!んっ!…んんっ…んん!」
苦悶の表情で身悶えシーツを強く掴み、鼻で鳴くような声を出す右京。
その異常なまでの身体の強張り具合に良牙はふと一瞬躊躇して
「そ、そんなに痛いのか?」と聞いた。
すると右京は薄目を開いて視線をやり、息も絶え絶えに答えた。
「…我慢、するから…」

好きな男に、好きにさせようと耐えてくれるというのか。
胸を熱くした良牙は前のめりになると肌に唇を落としていった。
頬に寄せたり首元につけたり、唇を吸ったり。色々と顔を愛撫した。

狭い膣内は侵入を許しているペニスを充分過ぎるほどに刺激し、性感を導く。
汗ばみ赤みを差した肌。その上にあるふたつの乳房は揺する度にふるんふるんとグラインドしている。
その動きに良牙は見惚れながら、無心に右京の身体を貪っていった。


(リリリリリーン…―)

ハッとして瞼を開き、右京は部屋の入り口に顔を傾ける。良牙も身をぴくりと揺らし反応する。
電話の音がする。下の階からだ。
急激に「日常」に引き戻された。

「……で、電話や」
夜分遅めの呼び出しに何事かと疑問に思うも、商売関係の電話だといけないので情事の最中だが右京は出ようと思った。
ちょっと待ってて、と言おうとした途端に、止めていた動きを再開される。
「っうわ…、…良、牙…っ!」
行くなと言わんばかりの表情で見つめられ、両脚を揃えて肩へ乗せられるとその脚を抱きしめ更にピストンしてきた。
「っ!…ぁあ!っあ!!あぁあっ!」

(リリリリリーン…―)

「…も…っ、あかんってばあ!」
脚をばたつかせ上半身を起こそうとする身体を良牙は押さえつけ、尚もその腰を揺らす。
「離してぇなっ良牙!!」
「いやだ!!!」
問答無用で怒鳴られる。
「〜〜っ!」
「もう、すぐなんだ!!」

女の肉体の中で絶頂を求めて律動中の男の腰などいきなり止めれる筈がない。
ましてや直情型の良牙、一秒でも早く右京の胎内にぶちまけたくて仕方ないのだ。
理性を保っている場合ではなかった。
引き寄せているために掴んでいる太腿にはその手が強く食い込み、くっきりと赤い痣が浮かんでいた。


(リリリリリーン…―)
「〜〜〜っ、〜〜!…っ!」
右京は尚も身体を反転させて何とか逃げようとする。
逃がすまいと腰やら肩を掴み良牙も応戦する。
布団の上のふたりは徐々にその場から移動し、一瞬つるっと竿が抜けて反転に成功した右京は畳に這いつくばる姿勢となった。
良牙はすかさずその尻を掴むと、ためらう様子もなく後ろからグンッと挿入した。
「――!!」
身をえぐる衝撃がはしる。
尻を高く持ち上げられ、あられもない体勢でバックから突きたてられている。
「ぅっ!…や…、いた…ぁ…、あ!あっ!」
顔を畳につけた状態で喘ぐしかなくなった右京は身体が芯から異常に熱くなった。
同じく畳についた指をガリッと立てると、歯を食いしばって痛みに耐えた。
(嘘や…こんな格好…!)

交尾する雄と化した良牙は、ひたすら右京をバックから突き、その内壁を堪能している。
きゅうきゅうに締め上げながらも滑るその胎内にもう限界は来ていた。
結合部の辺りはびしょびしょに濡れていて、腰を叩きつける度にひどく音を立てる。

(リリリリリーン…―)
「ぅっ!んんっ…!ん…!…んん…っ!」
沸き立つ羞恥心と屈辱めいた感情。全身に響く衝撃波に、右京はもう這って逃げる気力を手離して呻く。
次第に動きが小刻みになり激しさを増していき、堪らず悲鳴を上げた。
「あぁ!も、っやめ…!っ!やめてぇええ…!」
「もう、終わりだからな…っ!いくぞっ!…っ」
(リ…ン――)
切れた。
右京の張り詰めていた琴線もぷつりと弾け、泣き声で恨み節を叫ぶ。
「良牙の、アホぉ…!もっ、しらっ…んん〜…!っ……―――」


…―――

その晩はふたりは一緒に風呂に入り、身体を洗い合った。
なんとなく少しの間でも離れているのがもったいなかった。
良牙の背中には爪痕が。右京の腕や腿には赤い手の痕がついていた。
次の日の朝、起きると右京は信じられない程に身体が軋んでおり、情事の後遺症を体感する。
とてもじゃないが営業出来る気分ではなかったので仕方なく『うっちゃん』を一日休む事にした。


「大丈夫か?具合が悪ければ、病院まで連れて行ってやるぞ?」
夕刻まで身体を休め、翌日の為の仕込みだけはしておこうと着物姿でずんどうに入った生地を陰鬱な面持ちで捏ねる右京。
心配そうに良牙が話しかけている。
黙々と捏ねながらこぼす。
「…うちが心配してんのはあんたの事や」
「…?」
右京は続ける。
「あんた…ほんまにうちが好きなんか」
「……え」
「聞きたいのに、まだ何も言ってもらってへん」

そう、あれから疲れて寝入るまであれやこれやと愛し合ったが、右京の一番聞きたい言葉はなかった。
純情で至って単純な良牙の性格ゆえに、誰でもない「女」に言い寄られてフラフラと自分に手を出してのではないか、
と内心どこかに引っ掛かって消えない。
物事をハッキリさせないと気がすまない性分の右京は生地を見つめて返事を待った。

「……」
何も言ってくれないのでかき回す手が段々とスローになっていく。
「馬鹿野郎、好きに決まってるじゃねえかっ」
「……」
「す、すきだ。…昨日、もっと好きになった」
右京はじわじわと赤面した。身を竦めて俯いている。


「俺が迷子になってもこの町に帰って来られるのはお前のお陰なんだ」
「……へ??」
右京は顔をあげる。
「お前のこのお好み焼きの匂い。これを頼りに辿りついている。このソースの香りがすると俺はこの町に帰って来たと実感出来るんだ」
「…し、らんかった」
「誰にも言ってないからな」
初めて知った事実に少し惚けた。
「もし俺が迷子になるのを心配しているのなら、安心してくれ。俺の嗅覚に迷いはねえ。嗅覚にだけは自信があるんだ。
これからは真っ先にお前の元に辿りついてやる」
「………」
「だからお前も、これからは俺のために、…このお好み焼きを焼いてくれ」
「(ぼんっ)」
「頼むぞ」
「……り、良牙…」
「……なんだ」
「うち、うれしぃ〜っ!」
「のわっ!」
思ってもみなかった熱烈な告白に感激し、右京は感情の赴くまま飛びつく。
良牙はよろめいて腰を抜かし、床にぺしゃんと座った。
「ありがと…」
「……」
「うちの事…捨てんといて」
「す、捨てるもんか」
カウンターの下、抱き合ったまま互いの心と鼓動を感じ合う。
ふたりは固く目を閉じ、初めて掴んだ幸せにじっと身を浸らせていた。


「(ぐわら)ウっちゃんいるかー?」
「(びくぅっっ!!!!)」
店内にこだまする乱馬の声。
まさかの乱馬の登場に心臓を思いっきり飛び出させ、あたふたと慌てふためると右京だけぴょんっと飛び上がる。

「なにっ?!…どど、どないしたん乱ちゃん?」
「あ、いたいた。いやなー、実は今日かすみさんが病気しちゃって…当分飯があかねのになりそうなんだよ。
腹壊すのはやだし、夕飯はウっちゃんとこにしようと思って来たんだけど、準備中って出てるから留守なのかなーって入ってみたんだよなってなにしてんだ良牙そんなとこで」
四つん這いで店の奥へ逃げようとしていた良牙が「ひっ」と小さく声をあげる。
「そんなところでこそこそと…怪しい奴だな。さてはお前、掃除のバイト始めただろ。」
よかったバレてない。
「…ま、まあそんなとこやっ、な?」
右京は良牙に振る。
「ああ。そんなとこだ」
すっくと立ち上がる。
妙な沈黙が流れた。


「…よっしゃ、ちょうど仕込みしてたところやし…食べさしたるで。なにがいい?」
右京は追い返すのは得策ではないと感じ、乱馬をもてなす事にした。努めて明るく振舞ってみせる。
「わりーなうっちゃん。じゃあ〜…ミックス頼む!」
「よっしゃ、まかしときぃっ」
両者の阿吽の呼吸に、良牙はチクリと心を痛ませた。


「乱馬!お前それを食ったらさっさと帰るんだぞっ。いいなっ」
「なぁんだよ。おめーにそんなとやかく言われる筋合いねーだろがっ」
「あるわっ」
「ねーよっ」
「ある!」
「ねぇーっつの!」
「いっつも仲ええなーあんたら」
生地を鉄板に流し込みながら右京が言う。

「大体お前はだな、あかねさんが飯を作ってくれるっていうんなら、有難く食わせてもらえばいいじゃねえか。
お前それでもあかねさんの許婚か?許婚ならあかねさんをもっと大切にしろ。」
「なんだよ急に…。おめーまで親父達みてえなこと言ってんじゃねえよ。どっかおかしいんじゃねえのか?」
「…おかしくないっ!」
「ヘンだよなあ、ウっちゃん」
右京に振ってくる。
「ん〜?そおかあ?」
右京は内心ドキッとしたが、声色だけは平静を保った。
「う、ぅうるさいっ!」良牙は乱馬の頭をドカッと殴る。
「―ッて〜なにしやがるっ!」
「俺は生まれ変わったんだよ乱馬。今までと同じだと思ったら大間違いだ」
「なんでえ、やるかっ?!」
「望むところ…」
椅子からゆっくり立ち上がるとお互い指をパキパキ鳴らし始める。
若干意味の取り違えがあったものの、ふたりの意見は一致して拳を撃ち合いながら店から出ていった。

……。店内にひゅうと風がふいている。
「―――…ちょ…っ、ちょ、ちょと待ちぃなあんたらっ!!」
右京は状況を呑み込むと慌てて追いかけたが、既にふたりの姿は忽然と消えていた。
「嘘やん…」

行ってしまった。
あいつはいつもああやって行方をくらますのだ。


お前の店の匂いを頼りに帰るとは言ってくれたものの、過去の通例からして良牙にはその異常なまでの「行動力」にも問題があった。
振り返ってそこにいないと思ったら、翌日には東北地方まで彷徨っているのだ。
また当分帰って来ないのは察しがついた。

また…ひとりぼっち。
がらんとしたテーブル。閑散とした店内。
開いた戸から秋風と一緒に落ち葉が舞い込んだ。


(良牙……)
夕暮れに眼をほそめる。
カラスがカァ、カァと鳴いていて、夕日に照らされ曇が切なげに輝いている秋の空。
オレンジとピンクが溶けて混ざり合い、刻々とその色を深め変容する。
見つめていると急に心が締付けられた。
―良牙の、アホ。
次はいつ再会出来るかなんて検討もつかない。
せめて今日だけでも、まだ側にいて欲しかった。
あんなに愛し合ったのに。あんなに近かったのに。今はもう影も形も存在しない。
侘し過ぎて、鼻がツンとしてきた。


じゅーー…

乱馬が注文したミックス焼が香ばしい匂いを放ち、蒸気を立ち上ぼらせている。
目尻に浮かんだ涙を拭くと無言で店に入り、ヘラでお好み焼きをひっくり返した。
じゅわっと良い音をあげる。

右京は俯いている。
少々焦げ付いたミックス焼に
「職人、失格やなぁ…」
弱々しく呟いた。
覇気のない表情に、いつもの天真爛漫な女店主の面影は見られない。
ヘラをぐっと強く握り直すと、唇を強く結んで顔を上げた。


――…うち、耐えてみせるわ。
こうやってお好み焼きを焼いて、黙ってあんたの帰りを待つ。
あんたの頼み、ちゃんと守ったる。
良牙。あんたはうちに最高の思い出を作ってくれたんやもんな。
あんな幸せな夜は生まれて初めてやった。
あんたの事を考えるだけで、こんなに胸が熱いんやもん。
あんたの為に生きるって決めたんやから…
いつも思い出してる。
あんたも、うちの事思い出しててや?
な、良牙…。――


がっしゃーーん!!
「ぷききききーっ!!」
「まてピー公っ!くそっ!こんにゃろっ!」
「ぷききっ!ぷききききーっ!」
背後で突然つんざいたガラスの割れる音に怯み、右京はたまげて振り返ると、
黒い小ブタと女姿のらんまがそこら中を飛び回り、大暴れしてまた店を飛び出していった。
「……・・・。」
ずるぅっと腰を抜かして茫然と入口を眺める。
しかしすぐに立ち上がって外に駆け出すと急いで周囲を見回した。
「待ちやがれー!!……――」
建ち並ぶ商店街の屋根をひとっ跳びしていく女らんま。そしてその声が遠ざかっていく。
豆粒ほどに小さくなって、夕日と共に沈んだ。


心配して損したと呆れて肩を落とす。良牙の言葉はもしや本当だったのか?
胸をえぐり取られる程の大きな損失感のあと。僅かながらの再会。
どうやら過大な心配は無用のようだ。
右京はクスッと笑うと呟いた。
「こりゃ、信じててもええかもなぁ…」
くるっと身体を回転させて店に入る。

どどどどどど…――

道路の向こうから、頭にタオルを乗せ洗面器を小脇に抱えた人物が物凄い勢いで突進してきて店の前を駆け抜けた。

「右京の店はどぉこなんだああーー!!!」
「…うっ……うちはここやでーーーっ!!!」

終わり




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