著者 : 名無しさん@ピンキー ID:DZDnPaJy 氏

その5 ー >>166
開始:06/10/16
最終:06/10/16
その5 − >>191

【 ムース×あかね


 …どうして、こんな事になっているのだろう?
 あかねは、霞む頭でぼんやりとそう考える。
 元凶はシャンプーだ。
 それは確かなのだけれど。
 その過程が、よく思い出せない。

 「んっ…」
 少しカサついた感触が、唇へと降りてくる。
 それでもそれはこの上無く優しく触れて。
 つぅ、と湿った温かいものが唇をなぞり上げる。
 「ぁ…」
 柔らかく食まれ、吐息と共に声が漏れた。
 意味を持たずに零れた己のそれに、虚ろに漂っていた意識が動く。
 (…何、してるんだろう…?)
 ふわふわする。
 夢の中にいる様な、現実味の無い世界の感覚。
 しかし、時折甘い痺れをもたらす熱が、確かに在る。
 瞳に映るそれは、端正な顔。
 …知っている。
 毎日見ている訳じゃないし、飽きる程見た訳でも無いけれど、見慣れた顔だ。
 その眼はひどく真摯に自分を見ていて、不思議に思う。
 この人は、私にこんな顔をした事なんてないのに。
 と、唇が動くのが見えた。
 誰かの名前を愛おしそうに、呼ぶ。
 頬に、濡れた感触。
 「…?」
 涙が流れたのはどうしてなのだろうかと。
 まだ上手く動かない頭で、そう思った。



 「なんて事しやがんだシャンプー!!」
 「…あれはムースが悪いね!!」
 乱馬とシャンプーは怒鳴り合いながら、町中を疾走していた。
 「大体あんな怪しげな薬、俺が簡単に飲むと思ってたのか!?」
 「だから不意打ちで飲ませようとしたね!!だけどムースがっ…!!」
 ぎり、とシャンプーが歯軋りをして言葉を切る。
 実の所、怪しげな行商人からの買い物だ。
 さほど効果は期待していなかったものの、もしかしたら今度こそは、という希望と、うまくいけば儲けもの、というダメ元の精神で決行した今回。
 わざわざ行けば怪しまれるとの考えで乱馬が猫飯店に来るのを待って、やっと巡ってきたチャンス。
 最早挨拶と化している抱きつきの際に、ドサクサ紛れに飲ませようとした丸薬。
 しかしそこに奥で皿洗いをしていた筈のムースが乱入し、バタバタ騒いでいる内に丸薬はムースの口の中へ。
 吐き出させる間も無く、いきなりムースが「愛しとるだー!!」などと叫び出し、乱馬と一緒に来ていたあかねをひっ攫って、あれよあれよという間に走り去ったのだ。
 乱馬とシャンプーがそれを呆然と見送って、再起動したのが先程の事。
 どうせいつものド近眼だろうと溜息を吐いた所で狙った様に行商人が慌てた様子でやってきて、ただの惚れ薬だったそれは、実は見た相手が想い人に見える薬なのだと説明した。
 そんな用途のよく解らない(説明によると本来ならば地位等の関係で叶わぬ恋をした場合に、商売女を想い人に変換して楽しむといった使い方が主流だったと思われる、らしいが)薬だと知り、憤慨するシャンプーを制して詳しく話を聞いた乱馬は、恐ろしい話を耳にした。
 その時は相手もその想いに引き摺られ、さしたる抵抗無く受け入れ、応えてしまうのだと──。
 多分に、前述した使い方の際に、相手にも楽しんでもらう為、なのだそうだ。因みに効果が切れれば、双方共に幸福感のみが残り、記憶には残らない、と。つまり後腐れは無い。
 …発案者や制作者が何を思ってこの薬を世に生み出したのかは知らないが、外道な薬であるのは間違い無いだろう。


 無論、こんな犯罪行為に直結する様な危険極まり無い薬は禁じられており、手違いで商品の中に混ざったそれを、うっかりとシャンプーに売ってしまったという事らしかった。
 「あの野郎…戻ったらボコボコにぶちのめしてやるっ!!」
 「…もう十分ボコってたね。それにしてもムースの奴、何処行ったね?…そーゆーコトするにしても、あの馬鹿は金なぞ持ってないあるぞ」
 「不吉な事言うんじゃねぇシャンプー!!」
 日が落ちかけ、これから闇の時間がやってくる。
 乱馬の焦りは増し、何故か感じているシャンプーの苛立ちもまた、増していった。



 ベンチで向かい合いながら。
 その眼に射抜かれて。
 動かなくなった身体と、自由にならない意識に混乱して。
 そんな自分を安心させる様に、そっと頬を撫でられて。
 「…愛しとるだ…シャンプー…」
 優しく、愛おしそうに囁かれた。


 この公園のベンチでは、よく話をしていた。
 想い人の関係か、恋敵の関係か、協力はしても敵対はしない位置にいた為だろうか。
 二人は、友人とも言える形での付き合いをしていたのだ。
 たわいもない話で笑って、愚痴を言い合って、聞き合って、そして別れて家路に就く。
 そんな関係だった二人は。
 今、そのベンチの上で。
 「…シャンプー…」
 切なそうな、熱っぽい声が耳に届く。
 その声は、どこか遠い。
 (…私は…)
 結構、楽しかったのだ。
 いつもドタバタ騒がしいし、シャンプーが乱馬に抱きつく度に嫉妬して、面白くなくて。
 ムースだって同じだ。その度に嫉妬して、面白くなくて。
 正直そんな日々に疲れてもいた。
 ある意味同類で、それ故の仲間意識みたいなものも少なからずあった。


 だから、二人でたわいもない話をしている時は、それなりに平和で、それなりに心安らぐ時間で。それなりに。
 …なのに。
 身体に触れる手つきは優しい。
 本当に大事にしているのだと、大切にしたいのだと、愛しいのだと。
 そう解る触れ方。
 けれど、それは自分をシャンプーだと認識している為で。
 それが何故か、無性に悲しかった。
 首筋に寄せられた唇が、そのまま滑らかな肌を辿って降りてくる。
 はだけられ、外気に晒された胸元に、そのまま熱を運んできた。
 「…んっ」
 ちゅ、という音と共に、感じる微かな痛み。
 紅い華がそこに咲く。
 (あ…)
 所有印。
 誰のものという印なのか。誰に付けたつもりのものなのか。
 (…やだ)
 この時、あかねの想いは確かに引き摺られていたものだったのだろう。
 しかし──
 「…ムース…!!」
 ここで、そういう行動を起こしたという事は。
 そこには、己の意思が少なからず存在していたのだろうと。



 公園で二人を見付けた時。
 シャンプーは怒鳴り込んでいこうとした乱馬に一発入れ、繁みの中に連れ込んだ。
 騒ぐ乱馬をどこから取り出したのか縄でふんじばり、ご丁寧に猿轡までかまして静観を決め込んだ。
 「…大人しく見てるね、乱馬。ムースがあかねを抱く、記憶を失っても、男の責任は取らせるある。心配いらないね、ムースにもあかねにも、文句は言わせないね!!晴れて乱馬は私の婿あるぞ!!」
 その台詞に冗談じゃねぇ、と猿轡をかまされつつも勢いよくシャンプーに突っかかろうとする乱馬だが、シャンプーの表情を目にして固まる。
 顔は笑みの形になってはいるが、眼が絶対零度だ。
 いつぞやの反転宝珠の時を思い出す。


 実の所、シャンプーにとって、目の前の光景は面白くなかった。
 これは断じて嫉妬などではないが、あかねを自分に見立てて抱く、というのが気に食わない。
 苛立ちは募る一方で、握り締めた手にも益々力が入る。
 それは、何故なのか。
 その根幹は解らない。解ろうともせずに。
 目の前──
 「なっ!?」
 シャンプーが声を上げ、乱馬も何事かとそちらを向いた。
 「ムガ!!」
 目の先には、キスシーン。
 しかも、それは。



 「…ふ…」
 「…ん…」
 ゆっくりと、離れていく。
 両頬を包んで、自分からキスをしてくれた愛しい女を、最初はきょとん、と見返して。
 そしてじわじわと喜びが湧いてきて、感極まって抱きつこうとした所で。
 「ムース…」
 どこか切ない、知っている、しかし欲していた筈のものとは違う声が、鼓膜を打った。
 動きが止まる。
 (…これは…何じゃろうか?)
 この女は、愛しい女だ。その筈だ。
 その女と添い遂げようとしているのに、何かが自分を押し止める。
 「…私のこと、本当に解らない?…ムース…」
 悲しい響きを含むそれに、完全にムースの動きは止まった。

 何故この公園に来たのだろう。
 しかも、このベンチに。
 このベンチにいつも座っている女に、何だか悪い気がする。
 …こんな時に何を考えているのか。
 やっと、手に入るのに。
 手に入る筈なのに。夢だった筈なのに。
 手が止まるのは、何故なのか。


 (…あぁ、そうか)
 安堵と共に納得する。
 「…あかね…」
 自分は多分、馬鹿なのだ。



 「「ッ!!???」」
 目の前で展開される光景に。
 乱馬とシャンプーは、声無き悲鳴を上げていた。



 ぱちっ、と。
 目が覚めた様な感覚が二人に起こる。
 随分と近い。顔も、身体も。
 その距離を認識する前に、二人の目が合い。
 一瞬の間の後。
 「うどわわわっ!?」
 「きゃああああっ!?」
 声を上げ、共に頬を染め、慌てて離れた。
 「こっ、これは何がどうっ!?」
 「えっ、えええっ!?何これっ!?…ええー!?」
 慌てふためき大混乱。
 わたわたと辺りを見回してみたり、偶然目が合って赤い顔を更に染め、慌てて顔ごと逸らしてみたり。
 しかし、落ち着いてみれば何がどうなっていたのかなど明白で。
 ムースは頭を掻きながら、あかねははだけられていた胸元を隠しながら、気まずい時間を過ごす。
 「「…あの…」」
 お約束の様に同時に話し掛け、タイミングを失って双方俯く。
 そんな時間が過ぎる中。
 「すまんっ!!」
 「え?え?」
 突然勢いよく頭を下げながら謝るムースに、オロオロするあかね。
 「…すまんかった…」
 悲痛に歪む顔で、ムースが再度謝る。
 それは明らかな悔恨で。


 「あ…えっと、その…ムースのせいじゃ、ないし…」
 その様子に胸が痛むのを感じたが、あかねはそう慰めの言葉を口にする。
 だが、その語尾が弱くなるのは仕方無いのだろう。二重の意味で。
 「…あかね…」
 顔を上げ、目に入るのは隠し切れていない、己の付けたとされる紅い華。
 所有の印。
 どくり、と一つ鼓動が鳴った。



 「「〜〜〜〜〜ッッ!!!???」」
 硬直していた二人は、元に戻ったらしいムースとあかねの姿に安心しかけていた。
 それぞれに複雑ではあったのだが、こうなれば機を見て出て行って、誤魔化してウヤムヤにしてしまえと。
 しかしそんな二人が繁みの中で轟き叫ぶ。
 衝撃と混乱の為、言葉にも声にもならない、魂の叫びであったが。
 それ故、ムースとあかねは気付かない。
 止める者は、此処にはいない。



 顔を近付けられ、す、と自然な動きで唇を寄せられて。
 胸に先程与えられたものと同じ痛みが走るまで、あかねは動けなかった。
 「って!!!ななな何してんのよムース!?」
 「…改めて刻んだんじゃが…痛かったか?」
 肩を押してもビクともせず、抗議に対して上目遣いにあかねの様子を窺いながら、その場所を舐め上げた。
 「ひゃんっ…って!!違うぅ!!何してんのよいきなりーっ!!」
 「…所有の印を刻んだ」
 「え…」
 見上げる眼は真摯。
 どこかの記憶と合致するそれに、心臓が跳ねた。
 「…あ、いや、その…ちょっ…待ってよ」
 「…待たん。…あかね」
 視線を合わせ、逃げられない様に両頬をそっと押さえ、緩やかに拘束して。
 「…好きじゃ」
 ゆっくりと近付いてくる顔に、あかねは思わず目を閉じた。


 「…シャンプー達遅いのぅ…」
 猫飯店にて。
 「オイお主、それを解くには…」
 「一晩経てば元に戻るよ。あ、あと…」
 「あと?」
 「その最中に他の誰かに想いを寄せてしまえば、その時の効果は失われるね」
 「…随分と確率の低い話じゃのぅ」
 「そうとも言えないね。あの薬は想いを確かめるという側面もあるよ。人の想いは、いつどう変わるか解らないものね。実際、あれは成功した薬とも言えないあるよ。想いを寄せる者以外に少しでも気に掛けてる相手いたら、途中で解かれてしまうね」
 「ふむ…」
 コロンはその説明に押し黙り、考え込む。
 「…それでもあやつが他に目を移すとは思えんが…ま、なるよーになるじゃろ」
 茶など飲みつつ、そんな結論を出すおばばであった。



 「…あ、あの、ムース…?」
 「ん?」
 「…こ、ここでするの…?」
 ベンチの上で、押し倒されて。
 流石に早すぎるのでは、と思いつつも拒めはせずに。
 それでもやはり、こんな場所でそういう行為をするのは躊躇われる。
 そう訴えられ、暫く考えるムース。
 と、唐突にばさ、と上着を脱いで。
 「…これでいーじゃろ?」
 「えっ、えっ?」
 視界が夜の闇とは違う暗さに覆われた。
 ムースが脱いだ上着を被せたのだ。
 勿論ムースごとなので、目に映るのはムースの姿のみ。
 これはこれで恥ずかしい事に変わりないのだが。
 「…えっと…」
 自分の顔が赤いのが解る。
 しかし、名案じゃろ?とばかりににっこり笑ってこちらを見ているムースに、それ以上は何も言えずに。


 「…ムースって、強引よね…」
 「そうかのぅ?」
 「そうよぅ…」
 緊張感も艶っぽさも無い、そんなじゃれあいの様な会話を交わしつつ、口付けた。
 「ん…」
 吐息交じりの声が漏れる。
 何度も角度を変えながら優しく口付けられる度に、熱さと甘さが増す気がした。
 とろりと潤む瞳と力の抜けた身体に、唇を撫でていた舌が、薄く開いたそこから口腔へと侵入する。
 歯列を丁寧になぞり、歯茎を舐め上げ、奥に縮こまったあかねの舌を絡め取った。
 ちゅく、と唾液の絡む音が耳に響く。
 決して大きい音ではないのに、どうしてだか鮮明で、経験の少ない、知識も豊富ではないあかねの羞恥心を煽る。
 一旦離れ、間に銀色の橋がかかるのを見て更に羞恥が増すが、
 「…大丈夫か?」
 さら、と頬を撫でられ、戸惑いつつも頷く。
 あれよあれよとこんな事になってしまったが、これは自分の意思なのだから、と気合いを入れる。
 何やらムースは苦笑しているが、あかねには理由がよく解らない。
 男としては、今の言葉に頷かれたならば、もう止める事など出来ないのだ。
 一応最後通告のつもりだったのだが、解り辛かっただろうか、との苦笑であり。
 最早止めようの無い己への苦笑でもあった。



 「…………」
 ムースの上着に隠された二人の姿。
 …何が中で起こっているのか、想像に難くない。
 「ムゴー!!」
 隣が煩い。
 縄でふんじばられて身動き出来ない状態なのに、じたばたともがき、何とか阻止しようと必死である。
 (…何であかねばっかり…!!)
 どいつもこいつも、この現状も、気に食わない。


 シャンプーは唐突に乱馬を突き飛ばす。
 「むぐがっ!?…シャ、シャンプー!!何しやがっ…って何を!?」
 地面に倒れた衝撃で猿轡が外れ、文句を言おうとした乱馬が狼狽する。
 シャンプーは乱馬の上にのしかかり、ベルト代わりの腰布を外していた。
 目を据わらせながら。
 「ちょっ、オイ!?何してんだシャンプー!?」
 「…何?何って、ナニあるよ?あの二人も楽しんでるあるし、私達もするね」
 「おまっ…何考えてんだよ!?」
 「乱馬の事しか考えてないね」
 その声に熱は無い。
 目もやはり据わったままだ。
 (キ、キレてやがるっ!?)
 乱馬は一気に蒼褪めた。
 縄が緩む様子は全く無く、逃げる事も出来なければ抵抗もままならない。
 (ど、どーする!?どーすりゃいーんだ!?)
 考えてもどうにもならず。
 その内に乱馬のそれが取り出された。
 「や、やめろシャンプー!!」
 「うるさいね。大声出すとあの二人にも聞こえるあるぞ」
 「ぬあっ!?」
 ぎゅ、とそれが握られる。
 走る痛みに顔を顰め、シャンプーの言葉もあって、声が途切れる。
 そのまま手で上下に扱かれ、与えられるのが痛みだけではなくなり、乱馬は益々慌てた。
 親指の腹で先端を擦られ、片方の手で幹をやわやわと揉まれ、先走りの汁が溢れ出す。
 棒の全体に、己の液を粘着質な音を立てながら、まんべんなく塗り込められていく。
 (ぎゃああああ!!!犯されるー!!!)
 内心で絶叫するも、身体は動かないし、男の性か与えられる刺激にそれは素直に反応を示している。
 「ふふん…。身体は素直あるなぁ、乱馬ぁ…?勃ってるあるよ?」
 「ひぃぃぃぃ!!ばっ、馬鹿野郎、シャンプーてめー!!これ逆レイプじゃねーかぁぁ!!」
 「男と女なんて、犯ったモン勝ちね。心配ないある。気持ち良くしてやるね、乱馬ぁ…♪」
 乱馬を見下ろすシャンプーの淫靡な表情は、美しくも狂気に近いものの様に思えた。


 再び唇が重なる。
 「んぅっ…」
 大きく節くれだった手が、シャツのボタンを器用に外し、するりと胸元に入り込む。
 (…そういえば痕…付けられちゃったんだっけ…)
 ぼんやりと思う。
 「ふ、んんっ!?」
 と、胸を柔らかく撫でられ、思わず声を上げた。
 唇が塞がれている為にくぐもったものではあったが、衝撃の大きさがよく解る。
 「ん…」
  つ、と宥める様に唾液に濡れた唇をひと舐めして、ゆっくりと離れる。
 ひた、と視線を合わせ、
 「…嫌か?」
 「…あぅ」
 そう問われ、嫌と言える筈も無く。
 「…が、頑張る」
 顔を真っ赤にしてのその言葉にムースはきょとん、とし。
 直ぐに苦笑に変化させ。
 「…かわいいのー、お主は」
 子供へとする様に、頭を撫でた。
 今から抱こうとする女への態度では無いが、むぅ、と膨れながら顔を赤らめるその姿が可愛くて愛しいので、まぁいいか、と思いつつ。
 行為は、再開された。

 その空間を支配するのは、二人分の吐息と熱と衣擦れの音。
 どういう仕組みなのか、ムースの上着は二人を包み込む程の大きさで。
 外から見れば怪しい事この上無いだろうが、元々人はあまり来ない公園だし、と人が来ない事を祈りつつ、意識しない様にして。
 「ひゃうっ…」
 ド近眼なのが疑わしい位にこちらを真っ直ぐ見詰めながら、ゆっくりと優しい愛撫を施され、声が漏れる。
 その指は的確に感じる場所を探し出し、あかねの性感を引き出す様に触れ、昂めていく。
 「ん、んぅ…」


 「…声、我慢せんでいいだぞ?」
 「だ、だって…きゃふっ!!」
 既に露になっていた鎖骨を甘噛みされ、左の胸を柔らかく揉まれた。同時に下着の上から秘所を擦られ、あかねは声を上げる。
 共に細い肩先が震えるのを見て取り、情欲を刺激されるのを感じた。
 こちらを見る瞳は潤み、頬は染まり、知らない快楽に怯える様に震えるその姿は誘っている様で。
 勿論あかねにそんな真似が出来る訳も無く、それはムースも解っているのだが。
 (…あー…ヤバイのぅ…)
 男の身体というものは正直だ。
 腰が熱い。自身の滾りが如実に解る。
 指に触れる下着越しの秘部も、熱を持ってそこを湿らせているのだから、お互い様なのだろうが。
 く、と指で押してみれば、下着越しにもそこが濡れそぼっているのが解る。
 横から指を潜らせ触れれば、指先がぬるりと滑った。
 「ひゃんっ!?あ、や、ムース…っ」
 「ん…熱いのぅ」
 「やぁ…」
 恥じらって顔を隠すあかねに穏やかに笑って、2本の指で入口を探り、粘膜に滑り込む。
 浅く、強弱をつけて指を動かせば、くちゅくちゅと粘り気のある水音が響く。
 「んうぅ…」
 きゅう、とそこが締まり、指先を締め付ける。
 「あっ、あっ、だめぇ…やぁぁん…」
 自分でもコントロールが利かないのか、そこを尚も締め付けながら、指の感触にひくひく震え、鳴く。
 (…これはクるのぅ…)
 中心に集まる熱と、質量が増すのを感じる。
 冷静な様でいて、内心は結構ギリギリなムースだ。
 それでも、無様な真似は晒したくない。男にはヤセ我慢も必要なのである。


 「くっ…あぁ…」
 その怒張を頬張り、舌を絡め、唇で扱き、手と指で幹を刺激し、袋をころころと弄ぶ様に転がし。
 限界まで膨らんだそれを、しかし決してイカせない様にしながら。
 理性が溶けた頃合を見て、シャンプーが棒から口を離す。
 「ん…ぷはぁ…。さぁ、乱馬ぁ…?私と一つになるよろし…」
 見せつける様に足を開き、下着をゆっくりと下ろす。
 乱馬の肉棒を咥えて興奮したのか、そこには触れてもいないのに愛液が滴っていた。
 「ほぉら、乱馬ぁ…?もう私もこんなね…」
 自らの指でそこを開き、中身を晒す。
 その内部が鮮明に見え、粘液が糸を引いて垂れる光景を目の前に。
 荒くなった息の中、乱馬はごくりと喉を鳴らした。
 「ふふふ…」
 淫靡に笑みながら、シャンプーは殊更ゆっくりと乱馬の上に腰を落としていく。
 粘液でてらてらと濡れ光る肉の内部が、ずぶずぶと音を響かせながら乱馬の肉棒を飲み込んでいった。
 「くふぅ…乱馬ぁ…熱いある…」
 うっとりと吐息を吐き出しながら、シャンプーが熱っぽく言う。
 「く…うぁぁ…シャンプー…!!」
 腰を浮かし、再び落とされ、それが繰り返される。
   ぐちゅぷ、ぢゅぷ、ぐちゅんっ…
 精液と愛液が交わり、絡み合い、淫らな水音と、肉のぶつかる音が響く。
 段々とその音が激しく、早くなり、唐突に動きが止まった。
 「んっ、ひっ…あぁあぁぁ!!」
 「ぐぅぅっ!!」
 内部がびくん、びくんと大きく縮み、乱馬のそれを締め上げる。
 その衝撃に、乱馬はシャンプーの最奥へと熱い精液を吐き出した。


 あかねの様子に本番はまだ早いかと判断し、片手では変わらずそこへ浅く出し入れを繰り返しながら、もう一方の手で胸の頂を摘み、扱く。
 右の方には舌を這わし、口で吸い上げながら、舌先で固い先端を何度も擦る。
 声が甘く震わされる。泣き声の様な響きを帯び、あかねは快楽に呑まれかけていた。
 「ふぇぇ…そんな、のっ…やぁ…いっぺん、に、だめぇ…」
 虚ろに光る瞳に涙を浮かべ、与えられる快感に身悶えながら、うわごとの様にあかねが訴える。
 そう言いながらも、粘液をたっぷりと湛えるそこは内部をひくひくと収縮させながら指に絡み、悦びを示していた。
 「…脱がすぞ?」
 「あ…ん…」
 蜜に濡れ、その役割を果たさなくなった下着を、ずる、と引き下ろす。
 糸を引いて取り払われたそれは片足だけ抜かれ、片方の足首に引っ掛かったままにされた。
 単に動きにくくて取り辛かっただけなのだが、随分と羞恥を煽る結果になってしまった様で、あかねは困った様に顔を赤らめた。
 誰にも見せた事の無い秘部を晒している事も、その一因ではあるが。
 そこは綺麗な桜色。まだ男を知らず、それでも女の本能がそうさせるのか、愛液を溢れさせ、誘う様に中身が収縮を繰り返している。
 与えられる刺激に震え、紅く色付き、奥から蜜を零す様は、なかなかに淫猥な眺めだ。
 「…あ、あのっ、ムース…。あんまり、見ないで…」
 か細い声が掛けられるが、それは何と言うか…勿体無い。
 「…美味そうじゃぞ?」
 「なっ!?…ちょ、ちょっと!?」
 足を開かせ、そこへ唇を寄せる。
 「ひゃあぁんっ!?」
 ぬる、と温かい舌に撫でられ、声を上げた。
 引き剥がそうとしたのか、手がムースの頭に添えられる。しかし力が入らず、髪に指を差し入れただけで、寧ろ押さえ付ける様な格好になってしまう。
 それに頓着せず、ナカに舌を突き入れ、わざと音を立てて蜜を啜る。
 更にゆっくりと襞を隅々まで辿るように指を蠢かせ、うっすらと桜色に染まった太腿を、悪戯する様に擽った。
 「やあぁっ、だめ、そんな、やぁぁん!!」
 小さく膨らんだ突起部を舌でつつけば、嬌声と共にびくんっ、と身体が跳ねた。


 シャンプーは陶酔の笑顔を浮かべ、己のナカへ注がれた精液の熱さを味わっていた。
 一滴も零さない様に、寧ろ搾り取る様に、その内部も収縮し、貪っている。
 やがて一息ついて。
 「ふふふ…乱馬ぁ…。これで乱馬は私のモノね…」
 その台詞の所為か否か。
 「っ…ぐぬおぉっ!!」
 「ひぁぁっ!?」
 呆然としたまま荒い息を吐いていた乱馬が、流石に緩んでいた縄を引きちぎり、シャンプーの細い腰を掴んでヤケクソの様に下から思い切り突き上げる。
 ぐちゃり、と音を立てて、白濁の液が飛び散った。
 「くぁあ!!やっ、ひあっ!!乱っ…ひゃあぁん!!」
 いきなりの激しい攻めに、ともすれば泣き声になりそうな甲高い悲鳴が上がる。
 硬さを失っていなかったそれを何度も突き上げ、子宮口を抉る様に叩き、獣じみた咆哮を上げながら、乱馬はシャンプーを犯し続けた。



 「あっ…はぁ…」
 荒い息を吐きながら、くたり、と弛緩する身体に達した事を自覚する。
 それでもまだ足りないと、身体の奥が訴えていた。
 「あぅ…むーすぅ…」
 随分と甘ったるい声が己の口から発せられて驚くが、それを表に出す前に口付けられ、そちらに意識を持っていかれる。
 「…いいか?」
 互いに貪り合って、漸く離れた頃、ムースに真剣な顔で尋ねられ、あかねは控え目に、けれどしっかりと頷いた。
 ぐぷん、と些か乱暴に指の根元まで入れられ、掻き混ぜられる。ぐちゃぐちゃと淫らに響く水音が羞恥を呼ぶが、一方で悦ぶ己もいて、あかねは身を震わせた。
 充分に潤っているのを確認し、熱く硬く、張り詰めたムースのそれが、入口に馴染ませる様に擦り付けられる。
 「んく、ふぅ…」
 熱いその感触に紅潮していた頬が更に染められ、次に訪れるだろう事を想像し、喘ぐ様に息を漏らした。


 「…力、抜いとくだぞ?」
 「ん…」
 腰を掴み、そのままぐぐっ、と腰を進める。
 「ぐっ…」
 「ひんっ…!!」
 初めて男を受け入れるそこはキツく、多大な熱と質量を伴って侵入してくる肉棒を痛い位に締め付ける。
 しかしその内に散々愛撫に蕩けた肉壁はその雄に絡み付き、奥へと誘い込む動きに変わっていく。
 「んく、ん、あっ…!!」
 「ッ…!!」
 その動きに合わせる様に、一気に奥まで突き入れた。
 膜が破れた感覚を覚え、痛みに硬直するあかねに、動きを止めたムースが口付けを落とす。
 額や瞼、涙を舐め取る様に目尻、頬、そして唇に。
 「…落ち着いたか?」
 「うん…。むーす…だいじょ、ぶ、だか、ら…うご、いて…?」
 ろれつも回らず、幼さを感じさせる口調に、その内容の健気さと相俟って埋め込んだ雄が硬度と質量を増した。
 苦しい息の下、そんな事を言ってもらって、耐えられる男もいないだろう。
 「ぐっ…ぬぅぅっ!!」
 「ぁ、くはっ…ひゃぅぅっ!!」
 猛然と腰を打ちつけられ、その激しい動きと付随する痛みだけではない感覚に翻弄される。
 一度達しているせいか、その動きが快感を生み出す様になるのも早かった。
 眉を八の字に寄せ、行き過ぎた快楽に耐えるように固く目を瞑る。
   ぐちゅっ…ぢゅぷっぢゅぐぐっ…ぢゅぷんっ…
 結合部から漏れ聞こえる粘質的な音が鼓膜を犯し、繰り返される抽送が早くなっていく。
 限界が近いのを感じ、ムースの首に縋り付く。
 一際深く、最奥まで貫かれ、全身を大きく震わせながらあかねが達した。
 内部が激しく収縮し、ムースの棒もその動きに促される様にして、迸りを奥へと叩きつけた。


 ごぷり、と秘所から溢れる白濁色と紅の混じり合った液に、顔を赤らめる。
 手持ちのティッシュで拭い、服を着込んで。
 (うぅ…ど、どうしよう、ぱんつ…)
 もうグチャグチャだし…と悩んでいると、こちらも自身の上着を広げて難しい顔をしているムースの姿が目に入る。
 汗やら汁やら、いろんな体液に塗れているのだから仕方が無い。
 取り敢えず下着はポケットに仕舞って、くいくい、と髪を引っ張る。
 「…どうした?」
 「…えっと、その…」
 何を言っていいものか。
 不思議そうな顔でこちらを見るムースに、ともあれ確認を、と口を開く。
 「…シャンプーの事は、いいの?」
 おそるおそる問うあかねに、困った様な顔をするムース。
 「…今更じゃなぁ…。流石にここまでしておいて、シャンプーをまた追い掛けていける程おらは外道ではないぞ?」
 「え、あ、だって…」
 上目遣いで見上げてくるその瞳には、微かな不安と怯えが見える。
 信用ないのー、と心の中で苦笑しつつ。
 「…シャンプーが乱馬の事を好いておるのは解っとったからな。望みが少ないのも承知しとった。第一、お主を抱いておいてそんな真似出来るか?…それとも、そうした方がいいだか?」
 「え、や、そうじゃないけど…」
 無理してない?と小さく問われ、今度は顔にも苦笑が浮かぶ。
 「…お主は、どうじゃ?」
 「え?」
 「乱馬の事は、どうする?」
 「え…」
 呆然とする。
 すっかり頭から消えていた。
 頭の中から、言われるまでその存在が抜け落ちていた。
 確かに好きだった筈だけど。
 そう思うけれど。でも、疲れていたのも事実で。
 今でも、大事な人だとは思うのだけれど。
 それは友愛で、家族愛に近い様な感じがする。


 あかねはふるふる、と頭を振って。
 きゅ、と控え目に、ムースの手を掴む。
 上目遣いでムースを見上げて。
 「…そーゆーんじゃ…ないもん…」
 小さく、拗ねた様に口を尖らせながら、恥ずかし気に答えた。
 その答えに、にぱっ、と笑って。
 「おう!!愛しとるだぞ!!あかね!!」
 そのどストレートな言葉と屈託の無い笑顔に、あかねは頬を染め上げた。
 「そっ、それにしてもムース、何か慣れてなかった!?」
 それは照れ隠しの為の台詞だったのだが。
 「え゛」
 ぎくり、と強張ったムースに、ジト目を向ける。
 「…その反応って…」
 「…いや、女傑族はああいう一族じゃから…」
 気まずげにムース。
 「へ?…ってまさか!?ムムムムムース!?」
 「あ゛あ゛あ゛っ!!仕方無いじゃろー!?子供の頃とはいえ、あの村では負けた男は立場が弱いんじゃー!!」
 つまり、逆らえないという事で。
 「…そ、それシャンプーは!?」
 「知られとったら自殺しとるな…」
 「あー…」
 何ともはや。
 微妙な空気感である。
 「………と、とにかくっ!!送っていくだ!!」
 「ひゃわぁっ!?」
 誤魔化しのつもりか、声を上げ、ぐわばっ、と立ち上がる。
 その腕にあかねを抱いて。
 「ちょっ…それはいーけど何でお姫様抱っこ!?」
 「…腰、痛いじゃろ?」
 ムースの言葉にうっ、と詰まり。
 「…いや、それはそーなんだけど…」
 ごにょごにょと赤い顔で何やら呟いているあかねを無視し、
 「ま、とにかく心配せんでいいだ。責任は取る!!」
 「…は?」
 「家に着いたらそのまま御両親に挨拶じゃな!!」
 「ふえぇ!?ちょっ!?ダメ!!それはダメ!!お父さんに殺されちゃうー!!」


 半裸の男に下着をポケットに入れている女。
 何があった(した)か気付かれなくても、色々と危険極まり無い。もう夜中近くだし。
 「大丈夫じゃ、シャンプーの折檻で慣れとるから、耐えられるだ!!…多分!!」
 「待ってぇぇ!!?てゆーか何なの覚悟完了っぷりは!?」
 「ハッハッハ!!幸せにしてやるだ!!有り難く思えー!!」
 「テンションが凄い事になってるわよムース!?ちょ、まっ、せめて銭湯に寄ってからーーーっっ!!」
 身体を清めらても下着の替えをどーにかしなければいけない事を忘れて叫ぶあかねと、ここで暴走癖が出たのか、愛しい女を腕に抱きつつもその言葉を耳に入れず、高笑いと共に天道家へと走るムース。
 …この後、天道家で何が巻き起こったのかは、ご想像にお任せする。



 ──因みに。
 「…む!?二人が帰っていくあるよ!?…どうやら報告に行くらしいな…」
 「何ーーー!?」
 「乱馬ァ!!私達も行くね!!そしてそのまま祝言ある!!」
 「あ゛あ゛あ゛っお袋に殺されるーーー!!!」
 「さっさと来るよろし!!」
 結局ヤる事やって、合計三回。やっと正気に戻って頭を抱える乱馬を引き摺りながら、シャンプーも二人を追う様に天道家へと。
 …この後に巻き起こる修羅場や騒動がどんなものだったのかは──やはり、御想像にお任せする。



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