著者 : 名無しさん@ピンキー ID:wDStaZbE 氏

その4 ー >>494
開始:06/07/10
最終:06/07/31
その4 − >>640

【 乱馬とらんまの分離ネタ

 
今日も今日とて。土曜の学校帰りの道に、おさげ髪の少年・早乙女乱馬を
巡る者たちの声が響いていた。
「ニーハオ乱馬ぁ!これから私の店で新メニュー食べていくよろし。」
「シャンプーあんたまた変なもん乱ちゃんに食わせる気やなぁ!
行ったらあかんで乱ちゃん!うちが美味しい〜お好み焼き焼いたる
さかい、うちと行こ!」
「ホホホホ乱馬様、このような浅ましい方々など放っておいて、私と
参りましょう。この小太刀が真心を込めて焼き上げました、お菓子
をごちそう致しますわ! さぁ♪乱馬様」
ジャンプー、久遠寺右京、九能小太刀・・・きわめて毎度お馴染みの面々である。
「何勝手に決めとんねんこの変態女っ!乱ちゃんはうちの許婚やでっ!」
「失礼ね、いつ私が乱馬に変なもの食べさせたか!私の作る料理はいつ
 でも乱馬への愛情たっぷりね。さっ乱馬来るよろし!」
「つくづく下品な方々ですわ。乱馬様、私と来てくださいまし!」
「いーーーかげんにしなさいよあんたたちっ!!!」

隣で黙って聞いていた天道あかねがついに口火を切った。
「・・・いーかげんにして欲しいのはこっちだぜ全く・・」
「なによ!大体乱馬がはっきりしないからいけないんじゃない!
いつもいつもあっちふらふら、こっちふらふら。・・・ったく情け
ないったらありゃしないわ。」
「何だとあかね!てめー追い回される側の気持ちもしらねーで!」
「えーえー知りませんとも。男でも女でもモテモテの乱馬さん!
こんな変態のどこがいいのかしらねー。」
「てめぇっあかね!今のはいくらおめーでも聞き捨てならねーぞ!!」
「かわいそうね乱馬。こんな口煩いだけの寸胴女の許婚にされて・・。
 早く私の婿になるよろし!私なら愛人大事にするねっ」
「この女〜・・・誰が寸胴女よ、誰がっっ!!!」
「せやで乱ちゃん。うちなら幼馴染やし、乱ちゃんの体質なんか気に
せぇへんよ!はようちと行こ!」
「乱馬様、おかわいそうに・・。このような凶暴女と一つ屋根の下では、
お気の休まる暇もございませんでしょう?この小太刀が貴方を悪夢
の日々からお救いし、癒して差し上げます!さぁ、参りましょう!」
「だーからー誰が凶暴女よっ失礼ね!!」


ウンザリした様子でこのやりとりを聞いていた乱馬が飛び上がった。
「だーーもうカンベンしてくれッ!!わりぃっあかね!俺は先に帰るからな、じゃな!」
「ちょ、ちょっと乱馬っ待ちなさいよ!」
「あいやぁ乱馬逃げる、ゆるさない!!」
「どこ行く気や乱ちゃん!男らしゅうないでっ!!」
「乱馬様!?何処へ?私もお連れくださいましっ」
あっという間に姿の小さくなっていく乱馬を追う3人の女たち。
先ほどまでの騒ぎが嘘のように静まり、その場にあかねだけが取り残された。
「ふんっ・・・乱馬のバカ!」

常人離れした脚力とスピードで、どうにかこうにか追跡者3名をまいた乱馬であったが・・
「ゼイ・・ゼイ・・ちくしょう、帰宅するだけで何故こんな目に遭うんだ・・・。」
「乱馬〜〜!!おのれというやつは、シャンプーの心がこもった料理を拒否するとは、
そんな羨ましい事を拒否するとはぁぁ〜許せん!おらが成敗してやるだっっ!!!」
「我が変態妹の誘いを断るとは!女の敵・早乙女乱馬!今日こそ引導を渡してくれよう〜!」
物騒な凶器類と木刀を振り回し向かってくるのは、超ド近眼男・ムースと小太刀の兄・九能帯刀だ。
「ちっ!今度は野郎どもかよ・・・てめーらも逆恨みはいいかげんにしやがれってんだ!」
無意識に螺旋のステップを踏んでいた乱馬の闘気が爆発する。
「飛竜昇天破ッ!!!」
ドゴーーーーーーーーーーーン   ムースと九能の二人は空の彼方へ消えた。

「はあああ〜・・・。俺の周りはどうしてこんなやつらばっかなんだよ・・・。」
疲れたようにタメ息をつきながら、ひと運動終えた乱馬は重い足取りで歩き出した。
もはや、見慣れた光景であった。恒例ともいえる何気ない日常のヒトコマであったが、
毎度毎度男女双方から追い回される乱馬は、この日いつになく自分自身に嫌気が
さしていた。そう特に・・水を被ると変身してしまう、もう一人の自分に。


結局、天童家に辿り着いたのはすっかり日が落ちた頃だった。
自分の体質についてあれこれ考えているうちに、いつの間にか隣町まで
行ってしまったのだ。
「何やってんだ俺は・・・良牙じゃあるまいし・・・・この体質の事は今更
考えたってどうしようもねぇじゃねぇか・・・。」
水を被ると少女になってしまう奇特な体質。乱馬はこれまで嫌ではあったが、
女の姿の自分は結構男どもにモテるらしく、何かと都合が良いのでこの頃
は別段気にする事もなく、女の自分を受け入れていた。
「こんな変態のどこがいいのかしらねー。」
昼間のあかねの言葉が思い出される。口喧嘩はしょっちゅうだし、今更そんな
事を言われても傷つく柄でもないのだが、正直、許婚であるあかねに面と向かって
体質を揶揄されると何処か寂しい気持ちを感じていた。
「けっ・・・かわいくねーやつ。俺のほうがずっとかわいいよなぁー・・・」
自分に好意を寄せてくるシャンプーたちは、当然男の自分だけを望んでいるのだろう。
居候させてもらってる天童家の当主・早雲にしろ、この体質の原因をつくった父親の
玄馬にしろ、道場の跡継ぎとしての男である自分だから期待しているのだ。
「じゃあ・・もしまた男に戻れなくなったら、女の俺は・・どうすりゃいいんだ・・??」
今までそんな事を考えた事はない。男だろうと女だろうと俺は俺だと、はっきり認識
していたはずだったのだが。この頃は・・女の自分がまるで別人のように錯覚する事
さえあった。天童家の次女・なびきにいたっては女の自分を隠し撮りして、写真を
学校の男どもや通信販売で売ったりもしている。
「乱馬くん・・らんまちゃんは可愛いから、大人気なのよねー♪いつももうけさせて
もらってるわ。分け前が欲しいなら、もうちょっと色っぽい格好してくれない?」
人の隠し撮り写真でもうけておきながら、あっけらかんとそんな取引を言い寄るなびき。
「なんだよ・・・どっちなんだよ・・・どっちの俺が、必要とされてるんだ?」


「・・・ただいまー・・・。」
いつもなら、大体長女のかすみが出迎えてくれるのだが、今日出迎えたのは最悪の
人物だった。早乙女親子と並ぶ天童家の居候老人・八宝斎である。
「おっかえり〜♪」
「ん? ぶわっっ!!」
いきなり水をぶっかけられ、乱馬は「らんま」になってしまった。そこに立っているのは、
先程までの背の高い少年ではなく、まごうことなき小柄な少女である。
特徴あるおさげ髪こそ共通しているものの、着ている服はオーバーサイズとなり、
しかし帯でウエストを締めているため、身体の各部の女性らしいラインが強調
される事となる。その華奢な身体からは、昼間二人の男をぶっとばしたような
闘気を放った男と同一人物とは、傍目からは想像もつかなかった。
「遅かったのぉ〜らーんま♪心配しとったぞぉ〜スリスリ」
猿の干物にも似た顔が、彼女の頬に頬ずりして来た。そのオゾっ気にはっと我に帰る。
「やめんかーいっ!!!気色わりー・・・てめぇじじー!いきなり何しやがんでぇっ!」
その可愛いらしい顔と声には似つかない怒声をあげるものの、小さい女の子がすごんで
みても迫力に欠け、この老人は全く悪びれる様子もない。
「ら、らんまよ!愛弟子を心配するこの師匠の親心が伝わらんとわ・・・!!
わしゃ、悲しいぞおおお〜スリスリ♪」
「・・・どこに顔を埋めてしゃべっとるんだ己はーっ!! ・・ったくスケベじじーが」
大きめの胸の谷間にしがみついていた八宝斎を弾き飛ばす。
「おれは疲れてんだよ。頼むから静かにしてくれよ、じーさん・・。」
「おりょ?お前にしては珍しく元気がないのう。なんぞ、あったんか?」
「なんでもねー・・・とにかく、そっとしておいてくれ。」
「よし、分かったぞい!その代わり、師匠のささやかな頼みを聞いてくれんか?
これを着けて見せちくりぃ〜!!」
懐から取り出したそれは、やっぱりかと思わせる物だった。またどこぞで盗んで来た
ものか、女ものの下着である。
「き、気に入らんのか!?わしがらんまちゃんに似合うと思おうて用意した秘蔵の
一品じゃぞ!? ほ、ほれ、いつも下着ばかりでは悪いと思おうてちゃんとかわいい
服もプレゼントに用意したんじゃ。」
「あ・の・なっ!!男のおれが、そんなもんプレゼントされて嬉しいわけねーだろが!!
何度言えば分かるんだよ!オトコだぞ、おれは!?」
「でも今は、可愛い女の子じゃろーがぁ〜♪減るもんでなし、たまには着てみんかい!」
今度は彼女のおしりにしがみついて懇願する。ダメだ、このじじーは・・・・。


「あら乱馬くん、おかえりなさい。」
「あ・・・・おかえりなさい。」
八宝菜の喚く声を聞いて、居間で食事をしていた天道かすみ達が玄関へきた。
あかねは昼間の事を少し気にしていた様子だ。
「あの・・・昼間はごめんね乱馬?ちょっと・・・言い過ぎだったわ。ごめんなさい・・・。」
「(ちょっとかよ)・・・・・別に。あれくらいいつもの事だろ、気にしてねーよ。」
「お師匠様、また乱馬くんを女の子にして邪な事をしようとしたんですか?
いい加減にしなさい!彼は立派な男子で、この天道道場の跡取りなんですよ!」
珍しく、自分の為に八宝菜を叱ってくれる早雲にらんまは少し感動した。のだが
「なんじゃいなんじゃいっわしゃただ、帰りの遅い愛弟子の身を案じて出迎えただけじゃぞ!
それでちょーーとこの下着とかわいい服を来てもらいたかっただけじゃいっ!」
一同がやっぱりか、という顔をしてため息をつく。
「ほお〜早雲よ。らんまちゃんに着せてはイカンとゆーなら、別にかすみちゃんやあかねちゃん
にプレゼントしてもよいのじゃぞ?さぞ似合うじゃろうて〜げへへへへ・・・」
「乱馬くん、すまん!!君だけが頼りなのだ。これも修行と思って着て差し上げてくれ。」
「こ、このおっさん・・・・」「お、おとーさん・・・」
一瞬でも感動したのがバカだったと、軽蔑の眼差しで見る。
「もう、おじいちゃんったら!とにかくそんなワガママは許しませんっ!」
「嫌じゃ嫌じゃ!らんまちゃんが着てくれなきゃわしはおさまらん!」
いつものように床で手足をジタバタさせて、喚く妖怪じじいであった。
「・・・・・どいつも、こいつも・・・・おれを何だと思ってやがるんだ?」
・・・・・・・いいじゃねーか・・・・・・服ぐらい着てやれよ・・・・・・・・・
「!!?なんだ、今の声は・・?」


「い〜〜〜かげんにしなさいよっ この妖怪ぬらりひょん!!」
とうとうあかねが堪忍袋の緒を切ろうとしたその時、
「全く、ワガママなじーさんだな。しょーがねー・・・今回だけ着てやるよ。」
「ええっ!!?」その場にいる全員が耳を疑った。
「ちょ、ちょっと乱馬!本気なの!?」
「へー・・・・♪」黙って聞いていたなびきが薄ら笑いを浮かべた。
「ああ、本気だ。おれは疲れてんだよ・・・これ以上まとわりつかれちゃ
たまんねーから、じじーが満足するようにしてやるよ。今回だけな。」
信じられないといった表情の八宝菜が、しかし瞬時に邪な顔に戻る。
「ら、らんまよおおっ ついに、ついにこの師匠の真心が届いたのじゃなぁ〜!?」
邪悪な妖怪がよだれをたらしながら、彼女の胸にしがみつこうとしたが、バキッ
あっさり拳を顔面にめり込まされた。
「・・・調子にのんな!たくっ、さっ部屋へ行こうぜじじー?とっとと着てやるから
早くしろよ。」
「ゆ、夢じゃないんじゃな??あのらんまがわしの望みを聞いてくれるとは!!」
「(これは滅多に無いチャンスだわ!らんまくんが自分からベストショットを提供
してくれるなんてっっ 早速準備しなくちゃ!!)」
くふふふと一人笑いをこらえながら、なびきも部屋へ上がって行った。
「まあ〜乱馬くん、どうしちゃたのかしら?でもあの服を着たら確かにかわいいわね。」
「おねーちゃん、何呑気な事言って・・・、乱馬・・・一体どうしちゃったの・・?」
「別に・・おれだって好きでやるわけじゃねーよ。ただ、もう一人のおれが着てもいいって
言ってるような気がするだけだ・・。」
「え・・・?もう一人のって・・何言ってるの?」
「乱馬くん、今日はそうとうまいってるようだねぇ・・。あかね、学校で何かあったのかい?」
「別に何もないわよ・・・いつもどーり、シャンプー達が現れてドタバタになってそれから・・」
「それから?」
「乱馬は一人で帰るって逃げちゃったけど、なんだかいつもより寂しそうだった・・かも。
あたしが少しきつく・・その体質の事言っちゃったからかな・・?」
「ふうむ・・。あかね、元気だしなさい。あの乱馬くんがそんな口喧嘩くらいで落ち込むか?
彼も多感な時期だし、半分女の子になれる体の事もあって気分が優れない時もあるんだよ。
明日になればいつも通り元気な彼に戻っているさ。」
「だと、いいんだけど・・・・」
しかしあかねは、乱馬の今まで見せた事のない様子に戸惑っていた。


「おおおおおお わ、わしはこの日をどんなに待ちわびた事か・・・!!」
その晩。らんまと玄馬の部屋に、妖怪ジジイの感嘆に満ちた声が響いていた。
この自他共に認めるエロ妖怪八宝斎の、悲願とも言える下着姿のらんまがそこにいた。
裸こそ幾度か見ているものの、女性用下着を纏ったらんまはいつかの写真でしか見た事
がない。この変態老人にとっては、自分の自慢のコレクション(盗品だが)を付けてもらう事
のほうが、裸体そのものを拝むより価値があるようだ。
「・・・泣くような事かよ・・・たく。んで次はどれだ?早く終わらせてくれよ・・」
「そそそうか、すまんのう。で、ではこれはどうじゃ!?とっておき中のとっておきじゃぞ!」
「そのセリフ、もう何回目だよ。これが最後だぜ・・どれ貸しな」
最初は今日のやつだけ付けてやるつもりが、他のも付けてくれとジジイが懇願
するのでいつの間にかこうなっていた。らんま自身も、何故今日はこんな事に付き合って
いるのか分からなかった。ただ、あの時一瞬脳裏に聞こえた声・・・それがまるで自分に
成り代わって自分を動かしているような、奇妙な感覚さえ感じていた。
パシャ・・パシャ・・
「いいわよ〜♪らんまくん!もっともっと着てあげて頂戴。らんまちゃんはいつもトランクス
なんて履いてたから、もっと可愛い下着姿を望む声が多いのよね〜♪これは特ダネだわ!」
障子の隙間からこっそり撮影していたなびきであったが、
「いつまでコソコソやってんだ?撮りたきゃ撮れよ。」
「あ、あはは・・・な〜んだ気がついてたの。それよりどういう風の吹き回しかしら?ま、こんな
大チャンス嫌がられても絶対逃さないけどね♪」
「・・おめーらしいな。いいぜ・・売るなりなんなり好きにしろよ。もうすぐ終了だがな。」
「・・え??ほ、ホントにいいわけ?」
さすがに「一にカネ二にカネ三四がなくてカネカネカネその次くらいに世のため人のため」
をモットーとするなびきでも、この態度の素直さには少々抵抗を受けた。
「くうう〜これで見納めかのう・・・たまらんのう・・・」
『触ったら即中止』と釘を刺されていた為抑えていたのだが、流石に脳内の9割以上が
スケベ脳の八宝斎。夢にまで見たらんまの下着ショーに興奮度は限界を突破しようとしていた。
「じゃあ最後にこの服を着てやるから、それで終わりな。」
その時、ドタドタドタと騒がしい足音が部屋に飛び込んで来た。
「ら、乱馬よー!!聞いたぞ貴様、そこまで堕落してしまったのか!!いくらお師匠様の強要
があったとはいえ、自ら女の下着なぞを着用するとは・・この父は断じてみとめ・・・・・っ?」
色っぽい姿のらんまが目に飛び込んで来たためか、一瞬玄馬は固まってしまった。
「なんだよ親父・・。てめーに都合のいい時は女のおれを利用しやがるくせに・・・!」
「なんじゃい玄馬!貴様なぞに用はないわっ 早々に消え失せいッ!!」
クルンッと八宝斎がキセルを回すと、玄馬は再び何処かへ飛んで行ってしまった。
「おじ様ったららんまくんの下着姿見て固まってたわよ。自分の息子に反応するなんて、まさに
ケダモノねっ!」
「ささ、らんまちゃん。早よう、早よう続きを頼むわい ゲヘヘヘヘ・・・」
「どいつもこいつも・・・分かったよ、これでいいんだろ?満足したか、じじー?」
女の下着を身に付けさらに女ものの服を纏い、今や元が乱馬である事が傍目には
分からない程、女らしく可愛らしい少女ができあがった。
「グッジョブよらんまくん!!これはあなたのファンが大喜びよ〜♪お金が入って来て世のため
人のためにもなる。これって素晴らしいと思わない?」
ここぞとばかりにあらゆるアングルから撮りまくるなびき。むろん際どい角度も忘れない。
「ぬおおもうこらえきれん!!らんまちゃあああーーーーんッ!!」
妖怪図鑑には必ず載っていそうな邪な顔が、よだれをたらしながら飛び掛って来た。
「さわるなって約束したろーが!!」
ずどーーーーんッ・・・・・・・・玄馬に続き八宝斎も夜空の星と消えた。


らんまは服を着替え、下に降りて来た。ほくほくの笑顔のなびきも一緒だった。
「あ・・・終わったの?乱馬・・・その・・・おじいちゃんに変なことされなかった?」
あかねは堪え切れずに二階へ上がろうとしたのだが、丁度そこへ帰宅した玄馬が
やってきて経緯を聞くなりすっとんでいった為、勢いを挫かれた格好だった。
「あー・・・いろいろやらされたぜ。ま、おれがOKしたんだし仕方ねーよ・・・」
「おねーちゃんは何してたの?まさかまた乱馬の写真で商売しようとしてたんじゃ・・!」
「人聞きが悪い事言わないでくれる?これは全国のファンの為、世の為人の為になる
ことなのよっっ!!」
ズビシッとあかねを指さし、得意げにシャウトするなびきであった。
「それに、ご本人様の撮影許可もちゃ〜んと得たわよ?ねっ、らんまくん?」
「・・・・・・・」
「なにそれ!ちょ・・どうゆうことなの!?ねぇ、乱馬・・あんた本当に一体どうしちゃったのよ・・?」
「昼間の事が原因?それならあたし・・・・!」
「誰のせいでもねーよ。おれが望んで決めた事だ。たぶん・・・おれのもう一つの心がな。」
「もう一人とかもう一つの心とかどういう意味なの!?乱馬、お願いっ!しっかりして!!」
「そんなに心配すんなよ・・。おれも自分で自分がおかしいとは思ってる。大丈夫、疲れてるだけだ・・」
「ら、乱馬・・・」
「だから悪いけどもう今日は一人にしてくれ。頼むよ、あかね・・・」
そう言うとらんまは心底疲れた様子で風呂場へ行ってしまった。
「らんまくん、確かに普通じゃないわねー。まさか撮ってもいいなんて言葉が聞けるとは思わなかったわ。」
「おねーちゃん・・その写真、どうするつもり?」
ゴゴゴゴゴ・・・・とでも擬音がバックに流れていそうなあかねの迫力に、さしものなびきも後ずさった。
「あはは・・やーねー本気で売ろうなんて考えてないわよ!?いくらあたしでも、ああ素直になられると
逆に好き勝手しづらいというか♪その、ね、だからとりあえず、安心して?」
「とりあえず、なわけね・・まったく・・!」
やれやれ・・という表情であかねはらんまの消えた方向を見つめた。
「乱馬・・・大丈夫よね?信じていいよね?お父さんが言ったように、明日起きたらいつもの乱馬に戻ってるよね?」
不安を感じながらも、今はらんまをそっとしておいてあげようと、あかねも自室に向かった。


風呂に入り男の自分に戻った乱馬は、先程の事が頭から離れず眠れなかった。
「あかねの言う通りだ・・・・本当に俺は、一体何をやってたんだ?」
「あの時・・・・まるで俺は別人の行動を宙から眺めてるような感覚だった。まるで
本当に俺の中にもう一人俺がいるみたいだぜ・・・ちくしょう!!」
「どうしちまったんだ、早乙女乱馬よ。お前があんな事を進んでやるなんて・・・!!」
・・・・・女が女の下着と服を着るのは自然だろ・・・・・・・・
「!!?誰だ!?誰なんだよお前は!!一体何処にいやがるんだッ!!」
突然頭に直接聞こえた声に、乱馬は部屋を飛び出し外へ駆け出してしまった。
「くそっ・・・おかしいぜ俺はよ・・・なんなんだよあの声はっ!」
無我夢中で駆けながらも、日頃の習慣とは恐ろしいもので、気がつけばいつもシャンプーら
から逃げ回る時に走るコースをとっていた。いつものように何処かの家の屋根に腰を下ろし、
ぼんやりと月明かりを眺めている・・・
「ハァ・・ハァ・・・・こんな風になったのも、全部あのくそ親父と中国なんかに行ったせいだ・・」
「俺は男なのに・・・身体は半分女。しかも女になってる時の俺は、自分でも知らずにその自分を楽しん
でやがる・・!ちくしょーーーー俺は俺だっ・・・他の誰でもねぇ!!お前なんか消えろよ!!!」
・・・・・・・そんなに、おれが邪魔か? おれがいないほうが、あんたは幸せなのか・・・・・・・・・・・?
「!出やがったな・・てめぇっ何処にいるんだよ!誰なんだよ、お前は!」
・・・・・・・自分に向かって誰とはひどいなぁ・・・・・・ おれはいつだって一緒だったのに・・・・・・・・・
「自分・・だと?姿を見せろよ!そんで俺から出ていってくれ!!お前なんかいらないんだっ!」
「ここだよ。あんたのうしろ。そう・・・おれ、いらないんだね・・分かったよ。」
「なっ・・・・・・・・・・・!!?」
肩をとんとんと叩かれ、振り向いた乱馬は絶句してしまった。月明かりに照らされ少女が立っている。
自分と同じおさげ髪で同じ服を着た少女が。それは紛れも無く、水を被った時に現れる女の自分、
「らんま」だった。
「あんたの気持ちと言い分・・・分かるよ。だっておれもらんまだからね。でも寂しいなぁ・・・これでも
少しは役に立ってたんだけどな。あんたが元に戻れない時、おれが代わりにずいぶん助けてやったろ?」
「な・な・な・・・・お、おめーは!!女の俺・・!?ど、どうして俺が目の前にいるんだよ・・?ま、まさか
また悪霊じゃねーだろーなッ!!」
八宝斎に妙な香を嗅がされ、悪霊が女の自分に化けて恐ろしい目にあった時の記憶が蘇る。
「は?あくりょう?何言ってるんだか。だーかーらーおれはあんたなの。厳密に言うとあんたの中に生まれた
新しいらんまってとこかな。おれが目覚めたのは、あんたが天道道場で暮らし始めた頃だよ。」
「そんな馬鹿な事が・・あるわけねーだろ!お前が俺だと・・そんな・・そんなはずは・・!」
「あんた、嫌がってるわりにおれになるとモテて悪い気がしなかったろ?そんな時だ・・・あんたの中で、おれ
が目覚めたのは。でもあんたに悪いから、おれは極力表に出ないようにしてたんだよ。」
「ま、おれと半分の身体になっちまったあんたには同情してたけど・・もうおれだってウンザリだよ!
おれは女なのに、あんたのせいでいつも無防備なカッコさせられてさ!恥ずかしいったらないよ!」
「な、何言ってんだ??俺がどんな格好でいようが俺の勝手だろ!」
「そう、自分の勝手さ。だからおれも好きなようにさせてもらうぜ。おれらしく・・・・な。じゃな!」
言い終わるとらんまはシュタッと踵を返し、夜の闇に駆けて行った。
「お、おい待てよ!!・・・・なんなんだよ・・・本当にあいつはもう一人のおれなのか・・・??」
茫然自失に近い状態で、乱馬はトボトボと歩きながら天道家へ戻った。

翌朝− ほぼ毎回騒ぎの元凶となる八宝斎と玄馬がいない為か、休日の天道家は静かだった。

乱馬は昨夜の出来事は全て夢であってくれと願い、疲れ果てて床に着いたのだが。
「う・・?朝か・・・親父どもがいねーと静かだな・・。ふわああああ・・」
「あいつは・・あの女の俺は・・あれは夢だよな?俺が疲れてたせいだよな?そうに違いねぇっ!」
「いつまでも落ち込んでられねーよな。あかねやおじさん達にも心配かけたし・・よしっ!」
気持ちを切り替える術には長けているつもりだった。そうでなければ、日々繰り返される喧騒に翻弄
される毎日に耐え切れたかどうか。長年身勝手な父親に連れ回されたせいもあるが、乱馬は以外
に他者から自分がどう思われているのか、気にする傾向があった。要するに寂しがり屋なのだが、育った
環境も手伝ってついつい素直になれず、本音と逆の態度が出てしまうのである。
「早く皆にもう大丈夫だって事を見せてやらないとな。どれ、着替え・・・?」
ふと部屋を見回すと、見慣れた部屋に何処か違和感を覚えた。この居候親子は自ら部屋を整理整頓
などした事も無いが、今日はやけに部屋がきれいさっぱり片づいているのである。
「かすみさんが・・・やってくれたのかな?」
不思議に思いつつも、いつもの服に着替え一階に下りて行った。居間ではすでにあかね達が朝食を用意
している所で、乱馬はもう少し寝かせておこうと気を遣ってくれた様子だった。
「あ・・、乱馬おはよう。ど、どう?グッスリ眠れた?その・・・大丈夫?」
「おお、乱馬くん、おはよう!どうだね少しは元気が戻ったかい?顔色は心配無さそうだが・・」
皆が自分の事を気遣ってくれている。その事が、今の乱馬にはとても嬉しかった。
「おはようございます。ああ、もう心配ないぜ!あかね・・心配かけて悪かったな。もう、元通りになったから
心配いらねーよ。おじさんにも色々ご心配おかけしてすいませんでした。」
「そ、そお?良かったわ・・あはは。じゃあ、朝ごはん食べましょうか?ねっお父さん!(良かった・・)」
「うんうん。良かったねぇ・・あかね。乱馬くん、悩み事がある時は遠慮無く私に相談するんだよ。」
「はい・・ありがとうございます。」ちょいと自分をエロ妖怪の生贄に捧げようとしたくせに、と思ったものの、
やはり俺の居場所はここなんだと充実した気持ちが溢れて来た。
「あら、乱馬くん。今朝はありがとうねーとても助かったわ。乱馬くんのおかげで、いつもより何倍も早く家事が
片づいたのよ。でも、折角お休みの日なんだしもうちょっと寝てても良かったのよ?」
「・・・へ?あ、あのかすみさん・・俺は今起きて来たところなんだけど・・・」
「そうよ、おねーちゃん?乱馬は今来た所なんだから・・・」
「あらら?おかしいわねぇ・・・確かに今朝、早くから女の子の乱馬くんがお手伝いしてくれたんだけど・・」
「!!!」 女の自分。昨夜の摩訶不思議な光景が脳裏に浮かぶ。
「乱馬?どうしたの?変よねぇ、それじゃまるで乱馬が二人いるみたいじゃない。」
「俺が・・二人・・。まさか・・・そんなバカなッ!あれは夢のはずじゃあ・・!!ぶわっ!?」


その時である。騒ぎの元凶其の一が舞い戻ったのは。突然背後から冷水を浴びせられ、
「らんまぁっ!おのれ師匠をあんな遠くまで吹っ飛ばすとは!おかげ帰って来るのに一晩かかったぞい!
まあもちろんタダでは帰らんがの。昨夜も大漁じゃったわい〜♪」
「あー!おじいちゃんったら、またドロボーして来たのねっ!もう、いつもいつも・・・」
「お師匠様ぁ〜・・。勘弁してくださいよ、あやまりに行くのは我々なんですから・・。」
「弟子が師匠の為に働くのはとーぜんじゃろうが!さぁ、らんまよ!お詫びにまた来て見せてくれぃ。
早く早く昨夜のようなスィートな姿を見せるのじゃあッ!・・・・・ぎょっ!?」
「ええっ!!?」
その場にいた一同全員がピシッと凍りついた。水を浴びたにもかかわらず、乱馬はらんまになっていないのだ。
「ど、どーゆー事だ・・?女にならねぇ・・・まさか昨夜のあれと関係あるのか・・?」
「そそそんなぁぁぁぁ!!嫌じゃ嫌じゃ!女の子にならん乱馬なぞらんまではなーーーーいッ!!!!
風邪か!?また風邪をひいておるのじゃな!?まっとれ、そのけしからん風邪は今すぐこのわしが
吸い取ってくれるわっ!!超技・風邪吸引法ッ!!!」
ごおおおおおお〜と息を吸い込むと、八宝斎の頭部が数十倍に膨れ上がった。まさに古より伝承されている
日本妖怪の総大将・ぬらりひょんと形容されても不思議はない、巨大な顔がぐばあっと大口を開けて迫って来た。
「ぎょえええええええええ!!それはやめれーーー!!」
全身に鳥肌が立つと同時に、防衛本能に火が着く。次の瞬間には思いっきり八宝斎を殴り飛ばしたのだが。
「乱暴なやつだな・・・・妖怪じみてても相手は一応年寄りだぜ・・。」
吹っ飛ぶ八宝斎を小柄な少女が抱きとめた。おさげ髪に乱馬と同じ服を纏った少女・・・らんまである。
「・・・!!お、おめーは・・・やっぱり!」
「ちょちょちょ・・・ちょっと!!どういう事なの!?ら、乱馬が二人・・・???」
「な、なんとこれは一体??」
「なんじゃ?らんまちゃんがわしを抱いとる!!し、しかし乱馬が目の前におるのに・・??
流石の八宝斎も面くらった様子で目をパチクリさせている。らんまはそっと床に老人を下ろした。
「あら、らんまくん。今朝はありがとうねぇ、本当に助かったわ。」
「いえ・・居候させてもらってる身ですしこれくらい当然です。おれで良ければいつでも手伝いますよ♪」
ずさーとかすみとらんまを除く全員がのけぞった。
「お、おねーちゃん・・驚かないの??乱馬が二人いるのよっ!!」
「あら本当だわ。乱馬くんとらんまちゃんがいるのね。どうしましょう??」
かすみは少し困った顔を見せたが、すぐにいつもの菩薩のような笑顔に戻った。
「でも、男の子の乱馬くんと女の子のらんまちゃんがいれば、毎日が楽しそうね♪」
「かすみぃ〜〜そういう問題では・・」
「ら、乱馬・・・これどういう事なの?あたし何がなんだかわけが・・・」
「おれがそいつから出て入ったんだよ。乱馬の身体からな。ま、そいつもおれが邪魔だったみてーだし
ちょうど良かっただろ?」


「お、おめー何故ここに?まさか、部屋を片付けたのも・・おめーの仕業か?」
「ん?おかしな事聞くなぁ。昨夜も言ったろ、おれはあんただって。まだ分かれたばかりのせいかもしれねーが、
あんたが家に帰りたいと思ったからおれも戻っちまった。いづれお互い干渉しないよーになるとは思うけど。
それよりお前ら居候なんだから、家の手伝いくらいしたらどーだ?部屋も散らかし放題でまー・・見るに見かねて
掃除してやったんだよ。これからは、おれが出来る限り家事を手伝うつもりだよ。」
「まあっ嬉しい!助かるわ〜優しいのね、らんまちゃん。ありがとう!」
「全然平気ですよ!おれ、こういうの得意だし、好きなんですから。」
「昨日からおかしな事が起こり過ぎるわ!ねぇ乱馬、本当にこれでいいの?元々一人なのに、こんなの不自然よっ!」
「なんだよあかね、これでそいつは望み通り男に戻れたんだぜ?おれも女として遠慮無く生きられるし、せいせいしたけどな。」
「で、でも・・・!こんなのやっぱりおかしいわよ!」
黙って様子を伺っていたトラブル其の一が口を挟んだ。
「なんだか知らんが!とにかくこのらんまはずっとらんまちゃんのままなんじゃな!?こ、これは天が遂にわしの願いを
かなえてくれたに違いないッ!!そうじゃろうっ!!?」
「違うよ。全てはそいつが・・乱馬が望んだ事さ。おれたちで決めたって事だな・・・」
「俺は・・・。」
「なんでもえーわいっ!らんまちゅわんっっ女の子ならちゃんとブラをせんといかんぞぉぉ〜〜!」
これから毎日、水をかけるという手間を省いてらんまに会えるとあって、妖怪ジジイのテンションが上がる。
「ああ・・そうだな。確かにブラくらいしてねーと肩が凝ってなぁ。じーちゃん、とりあえず盗品は返してきなよ。
それと下着くらいいつでも着けてやっから、もうおじさん達に迷惑かけないようにな。いい歳なんだし・・・
もっと落ち着いてのんびりしなよ。」
「ゆゆゆ夢のようじゃあ!毎日らんまの下着姿が拝めるとはぁっ!わしは良い弟子を持った・・長生きはするもんじゃのう・・うう・・」
「全くおーげさだな、じーちゃんは!ふふ・・」
らんまがにぱっと笑って見せた。その笑顔は、その場にいる全員が一瞬眩しいと感じる程きれいだった。
「おめー・・これからここで暮らすのか?俺と親父と一緒に・・・本当にそれでいいのか?」
「ん?ああしばらくはな。さっきも言ったが、おれとあんたはそのうちお互い干渉し合わなくなる。あんたは男でおれは女
だからな、いわゆる脳のしくみってやつが微妙に異なるのさ。ま、おいおい分かるよ・・とりあえずよろしくなっ乱馬。」
「・・・・・・・・何とも言えねぇ・・・・」
「乱馬・・・あたしも、その、もう一人のあんたにどう接したらいいのか・・・・」
「二人ともそう深刻な顔すんなよ。嬉しいだろ?普通の許婚同士になれて。おれの事は気にすんな・・つっても
すぐには無理か。おれは極力あんた方には干渉しないから、それなりに仲良くな?お二人さん。」
「あ・・・・」二人とも顔を赤らめて俯いてしまった。
「それとなあかね・・・嫌かもしれないけど、良かったら・・おれとは友人として接してくれないかな?
おれはお前の事・・その・・大切な友達だと思ってる。初めて会った時から・・・・」
「らんま・・・?」急に寂しそうな顔をして見つめるらんまに、あかねは奇妙な絆を感じた。
「・・・・もちろんよ。あなたもらんまに変わりはないんですもの。えっと、よろしくね?らんま・・」
まだ何故こんな事が起きたのか、困惑はしているあかねであったが、今は何故か女のらんま
もここにいて欲しいという感情が込み上げていた。
「ありがとう・・・!」
「ふーん・・・乱馬くんとらんまちゃんか・・・まさかこんな面白い事になるとはね。こりゃあまだまだ
いろいろ波乱がありそうだわ♪」
影のトラブルメーカー・天道なびきはずっとこのやりとりを黙って聞いていたのだが、冷静を装いつつ
心の中では楽しくなりそうだわ、とほくそ笑んでいた。



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