著者 : 75 氏

その2 ー >>129
開始:04/06/12
最終:04/06/12
その2 − >>140

【 ムース×シャンプー


重き荷を背負い、遠い道を戻った沐絲は、猫飯店の勝手口に辿り着いた。
「ぜえぜえ…これで買い物はおしまいだなっ」
遠くの市場まで、何往復もさせられた食材を肩から下ろし、汗で擦り落ちた眼鏡を上げる。
中ではコロンが涼しい顔で、さほど感謝の色もなく。
「うむ、ご苦労じゃったな」と、煎じた薬湯の香りを楽しんでいた。
女に負けるような輩に、容赦はない。
沐絲もその事は身に沁みているとみえ、深く溜め息をついて振り返った。
「おお、ちょっと待ちなさい。今日はよく働いてくれたからのう、これをお前にやろう」
コロンは服の袂をごそごそと探り、ひょいと小さな玉を沐絲に投げた
「何だ? これは…」
「見ての通りじゃ。お前も良く知っているじゃろう」
まじまじと覗き見れば、十円玉にも満たない直系の赤い玉。
(おらもよく知っている…玉?)
沐絲は女傑族に伝わる秘薬ではないかと察した。
「こ、これをおらに!?」
珊璞の祖母であるコロンが、珊璞を慕う沐絲に、一族の惚れ薬を渡す…ということは、
つまり珊璞との仲は一族公認。
踏みつけられ、玩具にされ、こき使われても、健気に耐えてきた沐絲を認めてくれたのだろうか。
……沐絲は思い込みの激しい青年であった。
眼鏡を額に上げ、ぼんやりと映るコロンの姿は、自分に微笑みかけているようにすら見える。
「おぉ…おぉおおお! ありがたい! 一瞬玉はあの時、乱馬のやつが呑んでしまっただから、
これは一生玉だか!? それとも…一日玉だか!?」
「うん? お前、何を言っておるのじゃ。見ての通り、イチ……」
イチゴ味の飴玉だと、そう言いかけたコロンの身を抱きしめる。
……沐絲は感情の起伏が激しい青年であった。
そこそこの色男である若い男に抱きしめられれば、コロンも悪い気はしない。
ポッと頬を赤らめて口ごもった。
「ああ、一日玉でも構わないだ! ただ一日…珊璞がおらのことを見つめてくれるなら…っ」


「……」
「ありがとう! ありがとう!!」
「沐絲…。お前ちょっと落ち着かんか」
ひょいと眼鏡を下げると、目の前のコロンに向かい、沐絲は呟いた。
「むっ、猿のひもの」
「!」
コロンの杖に吹き飛ばされ、沐絲の体は遠い空へと投げ出された。



ちりりーん・・・
出前帰りの珊璞は、おかもち片手に土手の上の道を自転車で通り過ぎていた。
川べりの風が心地良く、気持ちのいい昼下がり。
しかし、悲鳴と共に空から落下してきた姿を見止めると、キィッとブレーキをかけた。
(あれは……)
この飛行ラインでは川に落下してしまう。
珊璞は、どこに隠し持っていたのか双錘を引き出すと、ひょいと天に伸ばした。
双錘にぶち当たり、ずり下がるように地に落ちる。
「沐絲。何してるあるか?」
「しゃ…珊…璞……」
打ち付けられた顔は真っ赤に腫れ、大事な眼鏡にはヒビが入っていたが、
「水に落ちなくてよかたあるな。アヒルにならずにすんだ」
珊璞は容赦ない笑顔でにこりと微笑んだ。
「おぉ…そうか、そうだったのか…。やはり珊璞は優しいだ…」
「お前、夜の仕込みの買い物頼まれてなかたか? こんなところで何してる」
「それならもう済んだだ。それより、聞いてくれ! あの…」
首を傾げた珊璞の顔が愛らしく、直視できずに頬を赤らめた。
「あの…これを…」
「何あるか? それ」
大事そうにつまみあげた赤い玉を差し出され、珊璞は瞬きした。


「……一日玉だ」
「へ? 何言うか。一日玉なら、もう…」
「ばば様がおらにくれただよ! 珊璞、おら達の仲は認められただっ」
「はあ?」
女傑族の厳しい掟を守り、意に染まぬ相手でさえ負けたばかりに追いかけなければならなかった珊璞。
そして、その胸にある幼い頃からの恋心さえも、目を背けていなければならなかった珊璞に、
沐絲は優しく微笑みかけた。
(珊璞の気持ちなら、おら…ずっと分かってるだ)
……沐絲はとことん思い込みの激しい青年であった。
呆れ顔で溜め息をつくのも構わずに、沐絲はその唇に赤い玉を差し出した。
「さぁ、これで珊璞も素直になれるだよ!」
「ふざけるな! 何バカな事言ってる」
「ははは、こいつう…。全く素直じゃないだ」
つんと鼻先を突かれ、珊璞は朗らかな沐絲を見ているのが痛ましくさえ思った。
「意味不明なことばかり言うな! 第一、ひいばあちゃんがお前に一族の秘薬を与えたりするか!」
怒鳴りつけ、大口を開けた瞬間。珊璞の口に赤い玉が放り込まれた。
「!?」
思わずゴクリと飲み込んでしまったが、喉元を過ぎる瞬間に、珊璞は甘酸っぱいイチゴ味を感じ取った。
(これ…懐かしい味あるねー…)
子供の頃。家の手伝いをしたり、修練が進むたびに、お駄賃代わりに貰ったイチゴ飴の味だった。
何かと失敗して、お駄賃を貰えなかった沐絲に、何度か分け与えたこともある。
ふと懐かしい記憶が過ぎった珊璞も、目の前で期待に胸を膨らませ目を輝かせた沐絲の顔を見て
ハッと我に返る。昔も今も、本当に馬鹿な男だと、珊璞は思った。
「しゃ…珊璞…?」
恐る恐る伸ばした腕で珊璞を抱きしめる。抵抗しない。
やはり一日玉が効いているのだと、沐絲は天を仰ぎ、感涙していた。
(どうしようもない、馬鹿な男ある…)
喜びに打ち震えた沐絲の腕の中、珊璞は奇妙な感覚に捕らわれていた。
アホで馬鹿でどうしようもない男だが、ちょっとばかり可愛く思えた。


いくら追いかけてもすり抜けて行ってしまう乱馬への恋心と、
沐絲が自分に向けている恋心と、どこか近いように思え、
自分を慰めると同じように、ほんの一日ぐらい、沐絲に夢を見せてやりたいと思った。
「沐絲…そんなに強く抱いたら、痛いあるよ」
「はっ! す、すまんっ。おら…その、慣れてなくて」
緩く解いた腕の中、珊璞は顔を上げてにこりと微笑みかけた。
こんな風に、優しく微笑みかけてくれたのはいつぶりだろう。
「珊璞…おら、おら…お前のことが好きだ!」
(…そんな事は知ってるある…)
「明日になって忘れてしまってもいい、おら…おらはずっと、ずっとお前だけの事を…」
「沐絲。分かてるよ…」
蕩けた瞳でくすくすと笑い、珊璞は頷いた。
感動に胸を震わせるばかりで、手出しもできない沐絲を前に、珊璞は少々苛立ってくる。
「……沐絲のところへ行くあるか?」



アヒル時には猫飯店で飼われている沐絲だが、珊璞たちが本腰を入れて
この町に住み移ってからというもの、町の片隅に部屋を借りていた。
とはいえ、沐絲がいつも猫飯店へ行くばかりで、この部屋を珊璞が訪れたことはない。
(結構、きれいにしてるあるな)
きょろきょろと室内を見回す珊璞の視線に、沐絲はどこか後ろ暗く、ぎこちない笑顔を見せた。
「珊璞…あの、おら……」
振り返り、見上げた上目遣いに弱い。
沐絲はその肩を掴んだものの、その先に進むことはできず身を震わせていた。
「沐絲、どこか痛むあるか?」
「いや、その…ふ、風呂…入ってくるだ!」
「へ?」
沐絲は高鳴る鼓動を抑えて、浴室へと篭もってしまった。
いざとなると勇気が出ない。


「おら…何やってるだっ」
ぜえぜえと息を整えても、すでにいきり立った部分が服の下で首をもたげている。
少なからず精神面の修行も通り過ぎてきた沐絲ではあったが、
待ち望んだこの場を前に、動揺を隠すことなどできなかった。
ごとりごとりと隠し持った暗器ごと服を脱ぎ捨て、浴槽に湯を溜め始める。
(す…隅々…奇麗にしておかねばならね…だな)
水でもかぶって落ち着かせたいところだが、そうもいかない体質だ。
浴槽に湯が溜まり始めると、浴室の中も湯気が篭もり始める。
泡立てた石鹸で身を清めながら、沐絲は深呼吸して心を落ち着けていた。
「……沐絲?」
「!」
すりガラスに映った人影に沐絲はぎくりと身を屈める。
振り返れば戸が開き、服を脱ぎ捨てた珊璞が立っていた。
(し…しまっただーーー!)
どうせ曇ってしまうからと、眼鏡は服と共に置いてきてしまった。
浴室を覆う湯気も手伝って、いくら目を凝らしても肌色の人影にしか見えない。
「わたしも一緒に入るね♪」
「あ、あぁあ…いや、しかし…」
前屈みになったままの沐絲を見下ろし、珊璞はくすくすと笑った。
「…すまねだ…。おら…その」
どこか後ろ暗く顔を背けた沐絲に近づき、珊璞はそっと手を伸ばした。
「! そ、そげなもん、お前が触ることねーだっ!」
「?」
思わず声を荒げた沐絲を前に、珊璞は一杯の水を汲んで頭から被った。
「珊璞…?」
急に姿が消え、きょろきょろと周囲を見渡す。
と、股座に近づいた毛並みに気付き、ハッと顔を下げた。


「にゃぁぁ…」
猫と化した珊璞は、悪戯に股座に近づいて、猛ったものをペロリと舐めあげた。
「しゃ…珊璞…っ」
ざりざりと尖った舌の表面で舐めあげられ、沐絲は身を硬直させた。
猫の目線、蟻の門渡りから裏筋をぺろぺろと舌が上下する。
既に我慢汁を垂らすまでの状態に陥っていたものに、堪らない刺激が走り、
沐絲は苦しげに息を詰めた。
内股に肉球を置いて立ち上がると、今度は敏感なカリ首から鈴口までを
薄い舌でぐるりと舐めまわす。
「うっ…ぐ、あぁあああ!」
もどかしい刺激に耐え切れず、沐絲は我を忘れて己の手で根元から握り締め、
慣れた手つきで数度擦りあげて、達した。
とんっと前足を下ろした珊璞の体、薄紫の毛並みに白濁の欲望が降り注いだ。
数度残液を吐き出しながらなえていく様を、珊璞は興味深そうに眺める。
「……すまね…だっ!」
精液に塗れた姿がぼんやりと見えて、沐絲は慌てて浴槽の湯を浴びせる。
すると今度は湯気の中から、裸体の珊璞の姿が現れて、沐絲はまた動揺して謝った。
「沐絲…」
赤くなったり青くなったり。ころころと表情を変える沐絲の様子を楽しみながら、
今度は人としての手で、そっと沐絲の内股に手を置いて、身を近づける。
「このくらい近づけば…見えるか?」
「あ…ああ…」
上気した珊璞の瞳を見下ろし、想い人のしどけない姿に堪らず抱き寄せる。
生肌が擦り合う充実した手応え、胸板に押し当たった珊璞の柔らかな胸の感触。
「お…おぉお…おら、もう、が…我慢できねえだっ」
その場に珊璞を抱き倒し、折り重なるようにして首筋に顔を埋めた。
床に珊璞の長い髪が広がる。浴室の湿気を帯びてしっとりとした手触りだ。
胸を突く興奮のままに両胸をわし掴み、充実した手応えを味わう。


「……んっ」
珊璞の唇から思わず漏れた甘い吐息に、沐絲は夢中になって喰らいついた。
ふかしたての饅頭のような柔らかみ。
はぐはぐと開いた口と舌で吸いついているうちに、その先端が顔を出す。
窄めた唇で吸い上げれば、はあはあと息を荒げていた珊璞の口から、
はっきりとした喘ぎ声が響いた。
「ぁ…あぁぁんっ、む…沐絲…ぅ…」
波打つようにもどかしく腰を揺らめかせ、珊璞は下半身を擦り付けてきた。
「珊璞…お前……淫乱だったんだな」
「なっ!」
真っ赤に顔を紅潮させ、どんっと突き押す。
慌てて身を起こしたが、まだ痺れるような快感が走りる胸を覆うように両手で押さえた。
「何言うか! この馬鹿っ」
「痛てて…。おらは褒め言葉のつもりで言っただよ…っ」
「どこが褒めてるか!」
全く不器用な男だと、珊璞は深く息をつく。
「おらは、そんな…いやらしい珊璞も好きだ」
「!」
片足を引かれ、浴室の床に滑るように引き上げられる。
腰を浮かされて、広げられたそこは既に充血し、薄紅の秘所がぼんやりと見えた。
「心配ねえだ、きっと…お、おらの方が…いやらしいだよ」
沐絲の顔が近づくと、珊璞は強く目を伏せて顔を背けた。
最初はほんの悪戯心のつもりだったが、身を突く欲望に敵わない。
肉体が精神を裏切る狭間で、珊璞は目を背けるのが精一杯だった。
「……」
長い沈黙だった。
広げられた足の間に顔を近づけたままの沐絲はじっと黙り込んでいる。
珊璞は湯気に当てられたように朦朧とした意識の中で、鬩ぎ合う葛藤に揺れながら
じっと耐えていた。


(…何…してるか…)
いつも、いつも、もどかしい。沐絲といるといつも、その意気地のなさに珊璞は苛立った。
それが沐絲なりの優しさだということも、珊璞が一番よく知っているが、やはり腹が立つ。
「…沐絲。何…してる…」
ちらりと見上げた視界には、高々と上げられた自分の股座に顔を埋めたままの沐絲の姿。
にやけるでもなく、真剣な表情でじっと目を凝らしていた。
「珊璞のここ…奇麗だ」
「ばっ…!」
「おなごのここは…こんな風になってるだな」
まるで観察するように視姦され、珊璞は居心地悪く身を捩った。
本気で抵抗すれば沐絲を蹴り倒すのも容易だ。しかしそこまでの抵抗はない。
沐絲はそれを一日玉の効果だと信じて疑わなかった。
ひくついた花弁に、沐絲は漸く舌を伸ばす。
既にとろりとした愛液の滴った秘唇は、沐絲の舌と同じぐらいの柔らかさを返してきた。
「い…あーんっ!」
どこがどう感じるのかなど、沐絲には分からない。
鼻につく甘い香りに誘われるままに、めちゃくちゃに舐め回した。
複雑に広がる襞を分けるように舌を走らせ、知らずに、尖った花芯を吸い上げる。
「あんっ、あぁっ…ひぃ…ひゃあぁああんっ!」
びくびくと珊璞の身が痙攣するのも気付かず、浴室に響く甘い声を頼りに吸い尽くす。
がっしりと掴まれ、沐絲の肩に固定されたまま、珊璞は身を躍らせていた。
「も、もぅ…沐絲…っ! くっ…ふっ…、やぁあああっ!」
甲高い珊璞の嬌声が響き、沐絲はハッと我に返って顔を上げた。
「どうしただ…? これ…嫌だっただか…」
解放して足を下ろすと、珊璞は横向きに倒れたまま、全身で息をしていた。
閉じた足の間はまだびくびくとひくつき、その奥にはもどかしい熱が込み上げている。
「すまなかっただ…っ。おら、よく分かんねで…」
この馬鹿者と、罵倒する言葉すらも出て来ない。荒れた息に消える。
心配そうに覗き込む沐絲の肩に手を伸ばし、体を返して沐絲を床に倒した。
「わわっ、珊璞…?」


横になっても、猛った肉茎は天を仰いでそそり立ったままだ。
肩をわし掴んだ片手を伸ばし、蕩けた瞳でうっとりと見つめながら、
根元から掴み上げたそれの先端に、珊璞は腰を近づけた。
「くっ…ふぁ…っ!」
既に先走りの滴を垂らした先端が、しとどと濡れた珊璞の秘裂をなぞると、
互いの眉間が寄り、どちらからともなく吐息が漏れる。
入り口を探りながらくちゅくちゅと擦り合わせ、腰を揺らめかせた珊璞の姿に、
床に押さえつけられたままの沐絲は首だけ上げて、じっと目を凝らした。
はっきりと見えない分、余計に先端に擦り付いた感触が強調され、
浴室に響いた水音が淫猥に響き、思い描いた珊璞の蕩けた表情を思って身が震える。
「ぐぁ…珊璞…っ!」
堪らず掴んだ珊璞の腰をひき下ろすと、膨張した陰茎が呑み込まれた。
「あぁああああんっ!」
奥まで突き下ろした圧迫感に珊璞は背を反らす。
肩を押さえつけていた腕は力をなくし、肉壁を切り拓く刺激に身を震わせた。
抑制を失った沐絲は上体を起こし、震える珊璞の身を対面座位で抱き寄せる。
ここまで近づけば、流石にその表情も見えた。
初めての痛みに瞳を潤ませ、しかし悲鳴はあげまいと耐える強がりな珊璞の顔。
悩ましげに下りた眉尻から、頬に唇を沿わせると、沐絲は突き上げる欲望に敵わず蠢き始めた。
「あっ! あっ、ふぁ……んっ、んんっ…んくぅ…っ!」
痛みに耐えようと自然と身が強張る。食んだ唇から悲痛な声が漏れた。
しかし突き上げた沐絲の肉茎にかき混ぜられているうちに、
珊璞は、身の奥をうずかせていた欲望が解放される悦びも得ていた。
快楽とはまだ呼べない。しかしこの満たされた感触は、痛みにも増して身を突き上げる。
「珊璞…珊璞…っ!」
珊璞の尻肉に指を食い込ませ、ぐしゅぶしゅとかき回しながら沐絲は獣と化した。
自分の上で踊る愛しい娘の姿に、頭が沸騰しそうな官能の波に呑まれる。
全身を筋張らせ歯を食い縛りながら、窮屈な肉襞を行き来すれば、
不規則な動きに先端があちらこちらの肉壁に突き当たり、そのたびに珊璞の声が漏れる。


「はんっ、あぁあっ…あ、あ、あぁっ…あーんっ!」
目の前でゴム鞠のように上下する乳房に顔を埋めると、珊璞もまた縋るもの求めて
沐絲の頭をひしと抱き寄せた。
「んぐぐっ…珊璞、おら……もう…っ」
突き上げた欲望に耐え切れず、沐絲が顔を上げる。
珊璞はその顔を掴み上げると、更なる繋がりを求めてその唇を重ねた。
「んっ…うぅっ!!」
ビクビクと沐絲の腰が震え、突き立てた肉茎から放たれた濃い奔流が
珊璞の膣内へと吹き上げられた。
一度では治まらず、硬直した沐絲の身が無意識に痙攣すると同時に、数度、残液を注ぎ込む。
結合部から沐絲の内股へと、互いの交じり合った液が伝い、床へと流れていった。



翌朝、目を覚ませば珊璞の姿はなかった。
手探りで掴んだ枕もとの眼鏡をかけると、いつもの静かな一人部屋。
浴室を開いてみれば、何事もなかったように湯が抜かれ、整然と片付いている。
あの後。浴槽でも、寝具の上でも、重ねられた行為がまるで夢のように思えてくる。
「うん…?」
洗面鏡を覗き込めば、鎖骨から首筋にかけて赤い跡が残り、
ふと体を返せば、肩から背中にかけて赤い筋が走っていた。
珊璞が縋りついた跡。
「……あいつは本当に猫みたいな奴じゃ……」
まるでわがまま猫のようにさっさと部屋を去った珊璞を思い、沐絲は吐息を漏らした。


猫飯店で顔を合わせた珊璞は、いつも通りにこりともしない顔で沐絲に仕込みの指示を出した。
「わたし、乱馬の昼食届けてくるね♪」
嬉しそうに自転車で出ていくその姿もいつも通りのこと。


やはりあれは、一日玉の効力。
目蓋に残る珊璞の艶めいた姿を思い浮かべながら、沐絲は溜め息をついた。
情事の途中、ふと目を合わせた時、物言いたげに見つめ返してきた珊璞の瞳を思い浮かべる。
(うん…?)
そういえば。あれほど一日玉が効いていた割に、珊璞は一言も自分も好きだと告げなかった。
言葉ではなく体で、そしてその瞳で、自分を求めていることは伝わったけれど。
「こりゃ。さぼるでないわ」
つんと杖で小突かれて、呆けた顔で振り返る。
「ばば様…」
「何を不抜けておるのじゃ、しゃきっとせぬか」
「……ああ」
ほんの一日。もしかすると最初で最後の交わりかもしれない。
この身に残る珊璞の感触は、とても忘れられそうにないけれど。
「昨日は、ありがとう。感謝してるだよ」
「何の事じゃ?」
秘伝の醤を味見しながら、コロンが振り返る。
「……甘酸っぱい体験をしただ……」
「うん? 何じゃ、あの玉のことか」
たかがイチゴ味の飴玉ひとつで。
沐絲はいつまでたっても子供のような奴じゃなと、コロンは思った。
「よく働いてくれたら、またいつでもくれてやるぞ」
「ほ、本当だかっ?」
「わしは嘘は吐かん」
騙すことはあるけれど。
コロンはごそごそと袂を探り、赤い玉を出した。
「喰うか?」
「えっ!? い…今…だか? し、しかし今、ここにはおらとばば様しか…」
もしかすると誘われているのだろうかと思い、沐絲は額が青ざめるのを感じた。


いくら珊璞の曾祖母であろうと、百年以上の歳の差を受け入れることは難しい。
……沐絲は見当違いな妄想に沈むのが得意な青年であった。
「いや! せ、せっかくだが、いらん!!」
「そうか?」
コロンは摘まんだ赤い玉をひょいと宙に放ると、下りてきた瞬間にぱくりと口に含んだ。
「!」
一瞬玉はもうなく、一日玉は昨日使ってしまった。残るは一生玉のみ。
「ぎぃやぁあああああ!」
コロンが顔を上げる前に、沐絲は目を合わせては堪らぬと、
慌てて猫飯店を飛び出して行った。
「ああ、おいっ! まだ仕事は残っておるのじゃぞ」
甘酸っぱいイチゴ味を頬張りながら、走り去った沐絲の後ろ姿に、首を傾げた。

人の一生は 重き荷を背負いて
遠き道を行くが如し 急ぐべからず


(終り)




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