Bitter Kiss

キスをしようと顔を近づけたラビの唇を、触れる寸前でアレンの手のひらが塞いだ。

「何さ?キス…させて?」

「嫌です」

即答するアレンにラビはむっとして、未だにその唇を拒み続けているその細い腕を掴んで退けさせるとそのままシーツに押し付ける。
そして邪魔のなくなったそのアレンの唇に、もう一度触れようとして顔を近づけるがもう一方の手のひらに邪魔されてしまう。

「何で?」

「嫌っ…」

頑なに拒み続ける手のひらに苛立ちを煽られながらも、ラビは唇を覆い尽くすそれにべろりと舌を這わせねっとりと指先まで舐め上げてやる。
するとアレンの身体はびくりと跳ね上がり、力が少し弱まったその腕も同じようにシーツに縫い付けるように押し付けた。

「今更さ?俺たち何度も身体繋げてるのに」

邪魔するものがなくなったのに、再度チャレンジするが今度はアレンが必死に首を横に背けることで、またしてもキスは失敗に終わった。

「ラビこそ…何で今更キスしようなんて思ったんですか?」

顔は背けたまま瞳だけ挑発するように向けてくる。

「今まで抱き合っても…一度もキスなんかしなかったくせに」

「………」

その問いには答えず、ラビはアレンの服の裾を捲り上げていく。
露になった淡いピンク色の胸の蕾に、キスを避けられた腹いせと言わんばかりにきつく唇で吸い上げる。

「やぁっ!ラビっ、まだ答え、聞いて、ないっ!」

空いているほうの手で意地悪く下肢のモノに、ズボンの上から触れてやればアレンの身体はびくりと敏感に反応してみせる。

「そんなの聞いてる余裕、アレンにあるんさ?」

「くっ…ぅ、んぅっ…」

愛情なんて一欠けらもないくせに、自分の身体を良いように扱うラビの態度が許せなくて、アレンはせめてもの反抗と言うように声を必死で押し殺す。

「ふぅん…今日は随分と生意気さね、アレン…。ま、そんなところも可愛いさ…」

わざと声を低めて耳元で囁くラビの言葉は酷く意地悪で、時に優しくアレンを翻弄する。
だからアレンは耐え切れなくて甘い嬌声を上げてしまう。
何だかんだ嫌がってみたりしても、結局は抵抗も出来ない自分の心と身体がもどかしい。
汗に濡れて髪の毛が貼りついた額に、ラビの唇が落ちてくる。
その唇が今度は、甘く追い詰められてこめかみを伝うアレンの涙を優しく吸い上げる。
優しい感触にあやされるかのように息を整えていたアレンだったのだが。

「……っ!」

こめかみから頬に移動していたラビの唇が更に降りてきて、先ほどまで頑なに拒み続けていたアレンの唇に重なった。
首を振ってその口付けから逃れようとしても、顎と後頭部をがっしりと固定され叶わない。
身体もラビの身体が全身で抑え付けているので、抜け出すことも出来ない。

「んぅっ…ぃやっ…んっ!」

一瞬離れた時に抗議の声を上げてみるも、ちゃんとした言葉にならないままにまたしてもラビの唇に絡め取られてしまう。
まるで否定の言葉など聞きたくないとばかりに。
それでも尚抵抗するように肩口を叩くアレンの手首も、然程力が入らなかったためか弱弱しくラビに封じられてしまう。
こんなことで泣きたくなんかないのに、涙はアレンの意志とは逆に後から後から溢れ出し、こめかみを伝って枕元へと吸い込まれていく。
堪能しきったのか、ようやく唇を離したラビはアレンのその涙に気づき、眉間に皺を寄せた。

「そんなに、嫌だったったんか…アレンっ…」

未だに零れ落ちる涙を拭おうとした指が触れたその次の瞬間、乾いた音が部屋に響いた。
ラビの右頬が紅く染まっている。
アレンが思い切りラビの頬を平手打ちしたのだ。
そして持てる限りの力でラビの身体を跳ね除けると、その下から抜け出してアレンは部屋を飛び出していった。





上半身だけだとは言え、乱された服を見咎める者と擦れ違うこともなくアレンは、殆ど無意識のうちに昼間でもあまり人が来ることのない、教団の一角まで来ていた。
そこでようやく立ち止まると、壁を背に力尽きたかのようにずるずると座り込んでしまう。
ラビに初めて触れられた唇は、まだ熱を持っているかのように熱くじくじくと痺れている。

何故?どうして?今になって?

ラビからは一度だって「好き」も、ましてや「愛してる」なんて言葉は告げられたことなどない。
ただ身体を重ねるだけ。
愛情なんてないのだと言うように、キスすらしなかった。
まるで態の良い性欲処理の人形。
どうして自分だったのか?そんなのよく考えなくても分かる。
教団内にいるときならともかく任務に出てしまえば、圧倒的に男の多い環境だ。
任務がないときでも、ここ最近激化してきた千年公との戦いの所為で、いつ任務が入るか分からないから迂闊に町に下りることもままならない。
同じ任務に就くことのある数少ない女性の一人であるリナリーには、マッドサイエンティストのコムイの存在が怖いのか、それとも大事にしているのか手を出すつもりはないらしい。
つまり、たまたまいつも一番近くにいて、後々面倒くさいことにもならないであろうアレンを右手の代わりにしたと言うことなのだろう。
それじゃなければただの好奇心か。彼はブックマンの“後継者”だから。
珍しくもキスをしたがったのも、きっと好奇心。
酷い男だと、嫌いになれたらどれほど楽だっただろう。
でもラビはいつも優しくて。行為の最中だって、まるで愛されているんじゃないかと勘違いするほどに甘くて優しい。
それに身体を重ねることは、アレンも了解した上だったからラビを責めることは出来ない。
触れたかった。触れて欲しかった。
アレンの中に気付いてはいけない感情が小さく息づいていたから。

キスなんてして欲しくなかった。

ラビとキスをした事実が消えればいいと、そして一緒に自分の中にある想いも消えてしまえばいいとアレンは唇を拭おうと手を伸ばしたが、触れる寸前で止まってしまう。
そんなことじゃ消えないと知っている。
たった一度のキスで気付いてしまった感情。それは心の奥まで深く刻み込まれてしまった。
ラビに対する「好き」という、本来なら異性に向けられる筈のそれ。

気付きたくなかったのに。

涙が唇まで伝い落ちた。

「苦いよ…ラビ…」

この涙も。あなたからのキスも。





□■□





「いってぇ…」

容赦なく叩かれた頬は紅く染まってじんじんとした痺れを伴って痛んだ。

「マジで、痛ぇさ…アレン…」

だがラビはその叩かれた方の頬ではなく、胸の辺りで、まるでそこが痛むかのようにぎゅっと服を握り締める。

でもアレンは、もっと痛かっただろうか?

辛そうにゆがめられたアレンの泣き顔が、瞳の奥に焼きついて離れない。
後を追いかけたい。追いかけて抱きしめたい。
でもラビの中にある“枷”が邪魔をする。
そろそろと身体を起こしたラビの視界に映ったのは、ベッドの下に取り残されたアレンの団服。それをラビはそっと拾い上げる。

「アレン…」

大分前に自分の手で脱がせたそれに温もりなんてとうに残ってはいないのに、ラビはそれでもそれにアレンを求めるかのようにぎゅっと強く抱きしめる。
こうしてアレンを抱きしめられたら、どれほどに幸せか。

「……好きなんさ、アレン…」

こうして言葉にして伝えられたら、どんなに楽か。

「好きだ」という一言でさえも言えないのに。
本当は求める資格すら、ブックマンの後継者と言う立場も捨てることが出来ない自分にはないというのに。
でもどうしても欲しかった。
最初は身体だけでも満足できると思った。
けれど身体を重ねれば重ねるほど心は渇望し、いつしかアレンの全てが欲しいと望むようになっていた。
あえて触れないようにしていたアレンの唇。
触れてしまえば溺れてしまうと思ったから。
でもそんな危険なラインを超えてでさえ、アレンの全てがどうしても欲しかった。
あの唇に口付けることが出来たなら、もしかしたら全て手に入れたと思えるんじゃないかと錯覚していた。
結局は甘い夢。
アレンを傷つけ、そのアレンは手の中から逃げていってしまった。

「ごめん、アレン…それでもやっぱり、好きなんさ…」

これからも告げることが出来ないであろう囁きが、静かな部屋に一つ落ちる。
最後に触れたアレンの涙。今は乾いて痕も残ってはいないけれど、ラビはアレンを求めるようにその指に唇で触れる。
微かに舌に残るそれは。

「苦いさ…アレン…」

お題:キス 1.苦いキス


アレンサイドだけで終わらせようかと思ったのですが、それではあんまりラビさんが酷い男過ぎるので、ラビさんサイドも書きました。
ラビさんもアレンさんが好きなんです。それこそ物凄く好きなんです。
でも彼にはブックマンの後継者という立場が枷になってしまって、「すきだ」と言えないんです。
と言うお話です(何だその補足は)
こういう擦れ違いっぽいものも大好きなんですvv
ただハッピーエンド主義って公言してるのに…。拍手いただいたことに対するお礼文なのに、全然幸せじゃないような…。
と言うことで、この後の二人がどうなったのかは皆さんの判断にお任せします!!(なんて奴)

PC用眼鏡【管理人も使ってますがマジで疲れません】 解約手数料0円【あしたでんき】 Yahoo 楽天 NTT-X Store

無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 ふるさと納税 海外旅行保険が無料! 海外ホテル