恋愛相談を、人の出入りの多い談話室等で出来るはずもなく。
ラビの部屋にはブックマンがいるし。そもそも本やら新聞やらがあちらこちらに散乱していて、腰を落ち着けるようなスペースはないに等しい。
なので二人は、比較的片付いていて滅多なことがない限り、他人が入ってくることのないアレンの部屋へと場所を移した。
だが椅子やソファの類のない部屋なので、アレンはラビにベッドにでも腰掛けるよう促した。
「紅茶くらいしかないんですけど、良いですか?」
「え?…ああ、うん」
ラビからの返答に柔らかく笑い返すと、流石英国人というような手慣れた手つきで、アレンは紅茶を入れていく。
ラビは先程のアレンの笑顔と、紅茶を入れている優雅な仕種に一瞬足りとも視線を外せないまま見つめていた。
「どうぞ」
何の模様もない白地のシンプルな、でもどこか洗練されたような上品なフォルムをしたティーカップが、目の前に差し出されてようやくラビは我にかえると少しだけ焦った様子でそれを受け取った。
「サンキュ」
一口、口に含むと途端に口の中に芳しい紅茶の香りが広がる。
「うまい」
「良かったです」
ふわりと微笑むアレンの笑顔にドキドキし、その直ぐ後には、隣に並んで腰掛けてきたアレンのふわりと香る匂いと、やさしく伝わる体温にラビの胸の鼓動は瞬く間に跳ね上がる。
「それで?どんな人なんですか?」
一瞬ラビは何を聞かれたのかわからなかった。
見惚れてしまっていたのだ。白いカップに付けられた小さくて淡い桃色の綺麗な唇に。
「え?え?どんなって?」
「ラビの好きな人…ですよ?」
顔を覗き込まれて、ラビの鼓動は跳ね上がりっぱなしだ。
好きな人は、君なのだと言えたらどんなに良いか。
「強くて優しくて、可愛くて…すげー綺麗なんさあ」
愛おしそうに語るラビの声を聞きながら、アレンの頭の中に一人の人物の姿が浮かんでいた。
それはラビから好きな人がいるということを聞かされたときに、真っ先に浮かんだ人と同一人物。
やっぱりなと確信すると同時に、沸き上がってくる寂しさと胸を刺す痛み。
でもそれがなんなのかまだアレンは知らない。
取りあえず訳の分からない自分の感情はさておいて、自信なさ気に俯いているラビを見つめる。
こんなに自信なさ気なラビははじめてだと思う。
特に、恋愛関係においてここまで弱気なラビなんて見たことがない。
いつだって好みの女性がいれば、自分から積極的にアプローチしていくような人だったのだ。
だから今度の恋は、ラビが自分で言ったように、かなり本気なのだとアレンにも分かった。
ラビの恋が成就するように、自分も出来る限りの協力をしよう。
きっとラビの隣には、その人がよく似合う筈。
二人並んだところを想像する。きっと誰もがうらやむ恋人同士になれるはず。
途端に再びあの胸の痛みが戻ってくるけれど、アレンは気付かないふりをしてラビを応援することに決めた。
「ラビなら…きっと大丈夫ですよ」