走って走って、そしてアレンの部屋の前。息を整えて、ノックしようとした時、内側から扉が開かれた。

「あれ?ラビ」

中から出てきたのは、勿論俺が一番会いたかった人。

「アレン…」

「丁度、ラビを呼びに行こうと思ってたところなんです。さ、どうぞ」

俺の大好きな柔らかな笑顔で、アレンが部屋へと招き入れてくれた。
扉が閉められると同時に、俺はアレンの身体を引き寄せて抱きしめた。

「ずっと探してたんさ…」

「え?僕を?」

「当たり前さ…会いたかったさ…アレン」

久しぶりのアレンの感触。
久しぶりのアレンの甘い香り。
………ん?甘い香り?
確かにアレンからは甘くて良い香りがするけれど、いつものとは違う気がする。
甘い甘い、バニラの香り。

「アレン…すっごい甘い香りがするさ」

「え?ホントですか?」

「うん、バニラみたいな甘い香りさ」

「ああ、なるほど。多分、あれの所為ですね」

アレンが指差す方を見るとそこには、イチゴがたくさん乗った大きなデコレーションケーキ。

「ケーキ?」

「…誕生日、おめでとうございます。ラビ」

「へ?……誕生日?」

思わずカレンダーに目をやると、8月10日に赤い丸がされている。

「気付いてなかったんですか?てっきりもう誰かに『おめでとう』って言ってもらってるんじゃないかと思ってたんですけど」

ファインダーが言いかけた『たん』の続き、そしてリナリーが言っていた『特別な日』の意味。全てがクリアになった。

「ケーキ…僕が作ったんで、あまり自信はないんですが…ジェリーさんに教えてもらったんで大丈夫だとは思うんですが…」

「アレンが作ってくれたんさ?」

ということは、もしかしたら俺が食堂に行った時も実は厨房にいたのだろう。

「プレゼント…何も用意できなかったんで、せめてケーキでも作れたらって…」

アレンが切り分けてくれたケーキを一口食べてみる。
スポンジはしっとりとやわらかく口の中でほどけていき、甘すぎない生クリームがふわりと広がりとけていく。
自分好みに作ってくれたのだろうケーキは、今までの中でも一番の極上品。
当然だろう。アレンの愛情が込められたこの世で唯一のものなのだから。
やっかまれても仕方ないさね。

「まじ美味い!」

「ホントですか?良かった」

「嬉しいさ、凄く。…ありがとう、アレン」

特大のケーキが。
それを一生懸命作ってくれた、アレンの気持ちが。
そして何より、今腕の中にアレンがいることが、堪らなく嬉しくて幸せだった。


抱きしめて、額にキスを落とす。
背中にあった手を後頭部に回し、アレンの顔を上げて唇に自分のそれを重ね合わせる。

「あんまり甘くないですね」

どうやら唇に微かに残っていたらしい。

「そうか?アレンのおかげで物凄く甘いけど」

あ、アレン顔真っ赤。

「ね、もっと味わっても良い?」

「はい、勿論。全部、ラビのものですから」

「それじゃ、頂きますvv」

俺はアレンの身体を抱きこんだまま、ベッドの上にダイブする。

「え?えええ!?」

「言ったさ、全部俺のモンだって」

「はぁ!や、それは、ケーキのことだと」

「アレンを全部頂戴vv」



ケーキよりも、甘く甘く香るキミを。ね。




END

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