ショートケークス
*
フレーバー
1
長期の任務を終えて無事教団に帰ってこられたのは、昨日のお昼ちょっと過ぎ。
少し寂しそうに、でも俺を心配させないように精一杯の笑顔で見送ってくれた愛しの恋人アレンも、俺より二日遅れて出た任務も無事に終えて、今日の夕方には戻って来られる予定だと連絡があったらしい。
これで少しの間はアレンと一緒に、ゆっくりと過ごすことが出来るだろうと俺は足取りも軽く、まずは腹ごしらえしようと食堂へと向かった。
久しぶりのジェリーの飯は、任務先で食べた洋食屋や宿屋の飯などより遥かに美味く感じる。
“家庭の味”って、こういうのもその内に入るのだろうか?
そういえばアレンも『ジェリーさんのご飯が、どこのご飯よりも一番美味しいですvv』と最高に可愛らしい笑顔で言ってたのを思い出す。
近くに座っていた顔見知りのファインダーたちの、やっかみや冷やかしの言葉を頂戴しながら賑やかな食事を終えた後俺は、アレンが帰ってくるまでの時間を自室で本でも読みながら待つつもりだったのだが、自分では気付かなかったがやはりかなり疲れてはいたのだろう。
ベッドに横たわった途端爆睡してしまった。
そして気がつけば部屋の中はうっすら明るくなっていた。
勿論、昼間の明るさではない。
ベッドサイドのチェスト上に置いてある時計に目をやると、朝の7時ちょっと過ぎ。
「うえっ!俺、一体どれだけ寝てたんさ!!?」
どうやらあのまま晩飯すらも食べずに、朝を迎えてしまったらしい。
「―――ってか、アレン!」
夕方には船着場で出迎えて抱きしめて、アレンと離れていた間のこととかたくさん話して、たくさんキスしてゆっくり、まったり、しっぽりと過ごす筈だったのに。
「何で、朝まで寝ちまったんさ!!俺!」
アレンを探しに行こうとベッドから降り立った俺の目に、普段俺の(正確には俺とジジイのだが)部屋にはある筈のないものが置いてあった。
テーブルの片隅。書類の上には置かないように避けた片隅に、布巾をかけられたサンドイッチが置かれていた。
「まさか、ジジイが?」
そう思ったけれど、あの老人に限ってそれはありえないと否定した。
彼はブックマンの使命関連のこと以外、よっぽどのことがない限りは基本放任主義である。
例え俺が何日も飯を食ってなかったり、何日も眠っていなかったりしたとしても死にそうでもなければ、放っておくタイプだ。
だったら誰が?
それは直ぐに判明した。
サンドイッチの皿の下に、申し訳なさそうに挟まれている小さな紙切れ。
その紙切れに綺麗な文字で『ただいま。そしてお帰りなさい、ラビ。』と書かれていた。
「アレン……」
きっと帰ってきてこの部屋に、俺に会いに来てくれたのだろう。でも俺が寝ているから起こさずこっそりと、俺がいつ腹をすかして起きても良いようにとサンドイッチと置手紙だけして出て行ったのだ。
サンドイッチに掛けられた布巾は微かに湿っている。
確かこうしておくとパンが乾きにくいんだと、誰かが言っていたような気がする。そんな細やかな気遣いまでもがとても愛おしい。
今すぐ。速攻で抱きしめたい。
その思いに急き立てられるまま、行儀が悪いとは思いつつもアレンが用意してくれたサンドイッチを口に銜え(詰め込んだりはしない。だって、作ったのはアレンじゃないかもしれないけど、それでもちゃんとアレンの愛情のこもったサンドイッチを味あわないとな)、残ったものは手に持って俺は部屋を飛び出した。