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「アレン」
「はい?」
「その格好は?」
隣まで来て、アレンのその見慣れない服装にラビは気付いた。
普段、かっちりとした服装を好むアレンのその姿に、ラビの頬が緩んでしまう。
アレンは『今日』だからなのかどうしても『或る物』を彷彿としてしまう、濃い焦げ茶色を基調とした丈が長めの、まるでワンピースみたいな上着を着ている。
背中にはご丁寧に赤い色のリボンが結ばれている。
―――まるでラッピングされてるみたいさ///
一見女の子みたいな服装だが、アレンには妙に似合っていて可愛らしい。
「昨日、リナリーから貰ったんです。是非、これを今日着て欲しいって。どうやらミランダさんと共同で作ったらしいですよ」
服の胸元をつまんで、アレンはそう説明してくれる。
「こういう服は、僕には似合わないと思ったんですが…せっかくリナリーとミランダさんが、僕の為に作ってくれたらしいから…」
着慣れない服装の為か、照れくさそうにはにかむその表情がまた一段と可愛くて、ラビの表情は緩みっぱなしである。
「アレン、とても似合ってるさぁvvv」
ラビの真っ直ぐな賛辞の言葉に、「ありがとうございます」と嬉しそうに笑ってくれるアレンも愛らしくて、指先が彼に触れたくてうずうずする。
「でも何でこんなものを、リナリーとミランダさんは作ってプレゼントしてくれたんでしょうか?」
その一言で、ラビにはピンと来るものがあった。
帰ってきて真っ先に告げられたリナリーの言葉である。
『ラビへのプレゼントは、食堂にいるから』
リナリーが何故『いる』と表現したのかも、これならば納得できる。
アレンのこの格好は、勿論アレンへの贈り物でもあり、そしてラビへの贈り物であるのだと。
再びケーキにかぶりつき始め、幸せそうに食するアレンを、これまた幸せそうに暫くは眺めていたラビだったのだが。
「なあ、アレン…貰っていい?」
「え?何を?」
「勿論…」
頬にクリームをつけたアレンは酷く美味しそうで、触れたいという欲望に勝てなかったラビが、指をアレンの頬に伸ばそうとしたその時だった。
「ラビ♪」
ラビの傍らに数人の女の子が寄ってきた。
腕には可愛らしいラッピングが施された箱らしきものを抱えている。
「ラビ、これ」
うっすらと頬を染めた女の子たちがラビに向かって、その箱を差し出した。
「気持ちは嬉しいんだけど…ごめんな。俺、これからは本命以外からは受け取らないことにしたんさ…」
ラビはその箱を受け取らなかった。
見る見るうちに表情を暗くさせていく女の子たちには申し訳ないとも思ったけれど、今までのように軽々しく受け取ることはできない。
「ごめんな」
その響きは優しいけれども、はっきりとした意思を感じて女の子たちはわりとあっさりと引き下がる。
だが、その女の子たちの後ろにいた別の子が、前へと進み出てきた。
「あ、あのっ、私はウォーカーさんに///」
「え?僕…ですか?」
やっぱり彼女の手にも、綺麗にラッピングされた箱があった。
「ごめん。悪ぃけど、アレンも本命から以外は受け取らないから…」
そのプレゼントの意味も、何故自分に差し出されているのかも良く分からず戸惑っているアレンの変わりに答えたのは、ラビだった。
口元は笑っているけど、目まで笑えていないことはラビ自身が良く分かっていた。
「行くさ、アレン…」
アレンの腕を掴み強引に立たせる。
「え?ちょっ、ちょっと、ラビ!?」
いつになく女の子相手に、礼を欠いたラビの態度にアレンは一層戸惑いを隠せずにいた。
「あ、あのっ、ごめんなさい!」
訳が分からずラビに引っ張られながらも、アレンは取り残されようとしている女の子たちに向けてそう誤った。