君と同盟



行灯のちらつく光源の下で濃淡の違う緑の肢体がうす暗がりに浮かび上がる。
いつものように部屋に現れたラファエロに肌を撫でられて熱の高ぶるままに身体を繋げた。
流されるままに始まった関係。
何度も何度も重ねた行為。
最中の言葉は少なく、ただ欲を吐き出して終えるのが常で、その後はただもう気だるい身体を眠りに任せるだけ。
ずっと変わらないと思っていた。
しかし今日は何か空気が違っている。
ラファエロは普段以上に黙りこくったままかと思うといきなり

「好きだ」

などと言い出した。
一瞬何を言っているのかレオナルドにはわからなかった。
今まで一度もそんなことを言われたことがなかったし、そんなものいらなかった。

「何をバカなことを言っているんだ。冗談は大概にしろよ」

至極落ち着いた、それでいて歯牙にもかけないようなレオナルドの言い様にラファエロはむっとしたものの、一層真剣な目と声音で続けた。
「バカなことじゃねぇ。冗談でもねえよ。俺は、お前が好きだ。…って気づいたんだよ」
「それで……どうして欲しいんだ」
「どう……って」

想像もしない答えが返ってきてラファエロは言葉が見つからない。

「オレも好きだとでも言って欲しいのか?あいにくだがお前の事は兄弟だという以上には何とも思ってない」

直截なレオナルドの言葉にラファエロは冷水を浴びせられた。
レオナルドも自分を好いていると無意識のうちに期待していたことに気づく。
自分が強引に始めた関係だったとしても、全く好きでもないやつに抱かれはしないだろうと思っていた。
他でもないレオナルドが快楽の為だけに身体を開くとは想像すらしなかった。
一瞬冷たくなったラファエロの心にすぐさま怒りが沸き立つ。
手に入ると思っていたものが取り上げられて冷静でいられるはずなどなく、こうなればもう手に入れるまで欲しい欲しいと喚くだけだった。

「…嘘つけよ!こうやって俺に抱かれて喜んでるくせに何とも思ってないわけねえだろ!」

どう返していいものかわからず、レオナルドは口を噤んだ。
こうしてラファエロに抱かれるのは好きだからではない。
ただの性欲処理だ。
この世界に同族は自分達四人だけしかいないのだから仕方がない。
……そう自分に言い聞かせてきた。

「……だんまりかよ。上等だ、認めさせてやる」

そう言うとラファエロはやおら律動を始める。
最初から容赦のない攻めにレオナルドは仰け反り、声にならない悲鳴をあげた。
しかし、ラファエロを受け入れる事に慣らされた身体は手荒くされても快楽を拾ってしまう。
愉悦に攫われないように固く握り締めたシーツが皺になる。
その必死さにラファエロは薄く笑った。
彼には確信があった。
腹に当たるレオナルド自身の熱もさることながら、快楽に濁る目も忙しなく上下する胸も震える手足も何もかもが自分を求めているように思えてならなかった。
このまま前後不覚になるまで突き上げて理性を崩せば、レオナルドは悦楽に溶けた声で何度も「好きだ」と言って啼くに違いないと思っていた。
逸るラファエロは先走りを零すレオナルド自身に指を絡めて性急に扱きあげ始めた。
一際甲高い声が漏れて、レオナルドの身体が跳ねる。
前と後ろ、両方から攻めれば耐え切れずに陥落するだろうというラファエロの思惑はレオナルドが唇を噛みしめた事によって裏切られることとなった。
ラファエロはレオナルドの鎖骨に置いたもう片方の指をゆっくりと腹腔の筋に沿って下へと滑らせる。
そのわずかな刺激にびくびくとレオナルドの引き締まった下腹が震えた。
しかし固く結んだままの口からは吐息も漏れない。

「まァだ強情張るのかよ」

ラファエロは苛立ちに任せて深く突き入れる。

「く、ぅ……ッ」

レオナルドは身体を弓形に撓らせて呻き声を洩らす。
それでも閉じたままの唇を促すようになでた。
自分の望む言葉を紡いではくれないこの口が憎くて憎くてしょうがなく、唇を往復する指先に無意識のうちに力が籠る。
そんな頑なな態度とは裏腹にレオナルドの身体はうっすらと赤く染まり、自身からは透明な液体を滲ませている。
それが更にラファエロの苛立ちを煽った。

「何とか言いやがれ!」

突き崩せない強固な意思を感じ取ってラファエロはだんだんと焦れ始めた。
癇癪を起こした子どものようにただ欲しい、それだけだった。

「こんなことするのは特別だからだろ?」

ラファエロの苛立った声がくらくらする頭の中に響いてレオナルドは顔を顰めた。
この関係を持つようになってから、ラファエロが"特別"になってしまいそうで怖かった。
良いリーダーは常にどのメンバーに対して等しいものだと教えられた。
誰か一人を"特別"に思ってはいけないのだ。
だから、この気持ちは殺して無かったことにした。
そうして一度殺したものを再び蘇らせて、まるでゾンビのように醜く引きずるなんて悪趣味だとしかレオナルドには思えなかった。
どろどろになった思考の中、レオナルドは必死で理性の糸を手繰り、一層奥歯を噛みしめた。
苦しい快楽の果てにただ解放だけを切望していた。
幹をさすっていたラファエロの指が鋭敏な鈴口をくじるように押さえつけ、レオナルドは脊髄を走る痺れに背を反らせとうとう逐情する。
その瞬間、堰を切ったように嬌声が響く。
ほぼ同時にラファエロが苦々しさをその顔に映して達するのをレオナルドはもやのかかる意識の中で垣間見た。
ラファエロの熱を孕んだ重い身体が弾む胸に覆いかぶさってくる。
怒りを消耗したのか最中の苛烈な勢いはなりを潜め、ラファエロは

「…ムカつく」

とだけ零すと、そのまま甲羅が軋むほどにレオナルドを抱き締めた。
こうして抱き合っても、たとえ込み上げるような思いを持っていても、自分たちは兄弟でチームで…
何も変わりはしない。
変えさせはしない。
レオナルドは再びそう誓うと首筋に埋まったラファエロの頭に腕を回した。



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