君と同盟



bitter sweet affection ~キミとボクとの3cm~


薄暗い地下のラボ。
資料や鉄くず、描きかけの図案に試作段階の発明品ばかりが並ぶ僕の城はミケランジェロに言わせればつまらない部屋。
確かにポスターやコミックの散らばるミケランジェロの部屋のように派手な色はなくメカやコンピューターの鈍い色ばかりだ。
それでも僕の城だ。
そんな無機物だらけの部屋に今日は外からお客を招いてた。
ベルベットのような黒にインディゴを溶いてその上にクロムバーミリオンの溶液をスポイトでぽとぽとと落としたようなオレンジの斑点。
そんな美しい翅を翻してひらひらと誘うように舞う客とは先ほどゴミ捨て場を漁りに行った時に出会った。
図鑑で見た記憶のある彼はなぜこんな都会に、と疑問を抱かせる間もなく僕の心を捕らえた。
思わず連れてきてしまったのは、研究に行き詰った上に珍しくマイキーとケンカしてしまって荒んだ心が癒しを求めていたからだろう。
その優美な姿を眺めるだけで心臓は瞬く間に高鳴って頭がぼうっとする。
体温、心拍数の上昇、恍惚感。
この症状は恋、なのかもしれない。
あまりにも心臓が跳ねるから胸を上から押さえつけてみる。
そんなことをしても止められるわけがないと痛いほど分かってるのに。

「ん……っ」

普段の冷静な僕には似つかわしくない声が喉をついて出る。
キラキラと僅かな光を反射する鱗粉が宙を舞い、僕の身体に降りかかったのだ。
その美しさに見惚れては身体の芯がじん、と熱を持つ。

「あぁっ……!」

不意に柔らかな針金のような蝶さんの肢が肌に直に触れて僕は身を竦ませた。
くすぐったいようなもどかしい感覚。
翻弄される僕の反応を知ってか知らずか、蝶さんは腕に肩にとあちこち飛んでは止まりを繰り返す。
額に止まった蝶さんが離れ、再び迫ってくるその先は……

「だめっ…!蝶さん!」

咄嗟に唇を手で覆った。
蝶さんは慌てて僕から離れて行ってしまう。
驚かせてしまったことにズキ、と胸が痛んだ。

「……ごめん……唇は……マイキーだけって……」

何を言い訳しているのだろう、と自分でも混乱してしまう。
別に言い訳なんてする必要なんてないのに回り始めた舌は止まってくれない。

「蝶さんのことはもちろん好きなんだけど…でもやっぱり……僕はマイキーのことが一番大事……だから……」

そう告げながら段々と切なさが胸に込み上げてきて、涙が零れそうになる。
今さらやっぱりマイキーが好きなんだと気づかされてしまって心臓が掴まれたように痛い。
そんな僕の元に蝶さんは舞い戻ってくるとそっと指先にとまる。

「蝶……さん……」

蝶さんはそのまま二、三度翅を羽ばたかせる。
まるで僕を慰めてくれるかのようなその仕種に胸のつかえが解けていく。

「ありがとう」

湛えておけなかった涙が一滴頬を伝った。




ふいに通ったドナテロの部屋の前から聞こえてきた声。
一人しかいないはずなのに、と不審に思ったレオナルドがそのまま耳を澄ませて様子を窺っていると、ぬっとドナテロが姿を現してひどく動揺する。

「お、おい、ドナテロ……大丈夫か?」

頭が、とは付け加えられなかった。

「あ、うん、ダイジョブー」
「そ、そうか……ならいいが、悩み事があるなら相談してくれよ……?」

そう言葉をかけたレオナルド自身が悩みを増やしていることに本人は気付いていない。

「うん、ありがとー」

当のドナテロはそう答えると、指先に蝶を乗せたまま軽い足取りで我が家の出口へと消えていった。



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