Potion
食料を抱え込んで「ちょっと篭るから。邪魔しないでね」と告げ、ドナテロが自室にこもってから早や一週間。
そろそろ生存を確認しないとまずいことになっていそうだ、ということでレオナルドが様子を見に行くことになった。
「ドナテロ?」
恐る恐るレオナルドはドナテロの部屋に足を踏み入れる。
実験器具やら資料やらがあちらこちらに置かれて山となり谷となってまるで要塞のようになっている。
踏まないように、倒さないように歩くのも大変だ。
机に向かって作業に没頭しているドナテロはレオナルドが傍まで来ていることにまるで気づかない。
「ドナテロ!」
レオナルドはぽんと肩を叩く。
「うわあああああ!!」
急に立ち上がって悲鳴を上げるドナテロにレオナルドも驚いて思わず後退ると、踵が床に置かれた本に引っかかってしまった。
そのままバランスを失って、「あ」と思った次の瞬間には資料の山に背中から倒れこんでいた。
ドナテロの呆然とした顔が見えた。
一足遅れて資料の向こうの棚が盛大な音を立てて倒れ、反動で棚のものが崩れ落ちてくる。
ネジ、鉱石、地図、工具……
最後に上向いた鼻先に液体が降ってきて、ずぶ濡れになった上に勢い余って少し飲み込んでしまった。
口中に広がる苦さにレオナルドは噎せて咳き込んだ。
幸い、目にも鼻にも流れ込んではいない。
慌しい足音が聞こえ、すぐさま「何かあったのか!」とラファエロとミケランジェロが部屋に駆け込んでくる。
「ちょっと驚かしちゃっただけ」
と答えて、ドナテロはしゃがみ、上体を起こしたレオナルドの様子を伺う。
「大丈夫?ごめんね。もしかして飲んじゃった?ソレ」
「ああ、少し」
ミケランジェロが気遣わしげに、その辺りで発見したタオルで濡れたレオナルドの顔を拭い始めた。
「そうか…どうしよう…」
ドナテロの表情が少し曇る。
「まさか毒じゃねぇだろうな…!」
ラファエロは咬みつかんばかりにドナテロに詰め寄る。
「いやいや、別に毒じゃあないんだけどね」
首を横に振って否定するドナテロ。
「じゃあ、なんだっつーんだよ!」
「興奮剤っていうか媚薬?」
悪びれもせずに言うドナテロにラファエロは呆れたような声をあげる。
「……一週間篭ってんなもん作ってやがったのか…!」
「たまたま出来ちゃったんだよ。で、捨てるのもあれだなーと思ってちょっと置いといたんだけど…まぁ、安心してよ、副作用も依存性もないから。たぶん」
「たぶんかよ!」
「絶対なんてものはないからね。あと、中和剤作るより薬が抜ける方が早いと思うから…」
その答えにラファエロは舌打ちして、レオナルドの方を見る。
まだ薬は効いてないのか、至って普通に見える。
「とりあえず部屋に連れてくぜ」
未だ床に尻をついたままのレオナルドの手を引いて起こした。
握った手が熱を帯びているように感じるのは気のせいだろうか。
レオナルドの簡素で清潔な部屋は本人そのもののようで、その空間で当のレオナルドだけがいつもと違っていた。
ラファエロはレオナルドの震える肩に手を添えて自分の方へ引き寄せた。
「大丈夫か?」
こくりとレオナルドが頷く。
しかし、その潤んだ目元は赤く染まって性感を堪えるので精一杯のようだ。
これは非常に目の毒だ。
ラファエロは舌打ちをすると「楽にしてやるよ」と、反応し始めているそこへ手を這わせた。
すると、慌ててレオナルドがその腕を掴む。
「だ、だめだ、ラフッ…!」
「あ?抜かねぇとつらいだろうが。自分で抜くのか?」
「いいんだ、ほ、ほっとけばそのうち…」
「おさまるって?」
ラファエロが意地の悪そうな笑みを浮かべる。
「そんな風にはみえねぇな」
「んッ…離し…」
「いいから黙ってな」
ゆっくりと手を動かしてやるとびくりとレオナルドの身体が跳ねる。
「うぅ…」
ラファエロはレオナルドを対面するように胡坐をかいた膝に乗せた。
膝に触れるレオナルドの下肢の熱さにラファエロはぎくりとした。
薬で無理やり高ぶらせているためか、異常に熱い。
しかも少し扱いただけで、先走りで指先がしとどに濡れる。
これではそんなにもたないな、と思いながら、親指の腹を鈴口に押し付けると、レオナルドは仰け反って達してしまった。
ラファエロは急なことに驚いて、白濁に塗れた手を見つめた。
それはレオナルドも同じようで、青いハチマキの奥の瞳が惑乱に揺れる。
「レオ……」
「あ…わ、悪い…!オレ…オレ…ッ」
しどろもどろになって謝るレオナルドの額に唇を寄せた。
「別にお前は悪かないだろ。薬抜けるまで付き合ってやるよ」
そう言ってまた兆し始めたそこに手をかけた。
今日はレオナルドを満足させるだけにすると固く心に決めながら。
ラファエロは鎖骨を舌でなぞり、後ろにもう一方の手を回して後孔に指を押し当て、レオナルドの吐き出したものを潤滑剤にして滑り込ませた。
「あ…!」
途端にレオナルドは身を竦ませた。
しかし、ゆっくりと指を抜き差しし、弱いところを押し上げると太股をおののかせて啼いた。
絶え間なく刺激を与えていた前からもまたたらたらと先走りを零す。
「いやだ…ラフ…離してくれ…あ、ぁ…いやだぁぁ」
過ぎる快感のせいか、レオナルドがすすり泣き始めた。
甘く後を引く声にラファエロの体温がまたあがる。
今すぐ衝動のままに押し入りたいのをぐっと堪え、代わりに後ろに埋めた指の動きを更に激しくする。
レオナルドは薬でおかしくなっているんだ、とラファエロは自分に言い聞かせる。
怪しげな薬で高ぶった身体に無駄な負担をかけてはいけない、と。
「ラフ…ラフ…」
涙と唾液でぐちゃぐちゃの顔をラファエロの肩口に押し付け、レオナルドの身体がわななく。
そして一瞬身体を強張らせたかと思うと、レオナルドはラファエロの手の中に吐精した。
指の隙間から白い液体が垂れた。
「はぁ…」
と吐息を零して、力の抜けた身体がラファエロに凭れかかってくる。
「おっと…大丈夫か?」
「ん…」
喋るのも億劫なのか、くぐもった返事だけが返ってくる。
手の甲で涙を拭いながら頬を撫でてやっていると、荒かった息がだんだんと落ち着きをみせる。
「いやだって言ったのに…」
レオナルドがぽつりと呟く。
「なんで、おれだけ…?」
「あ?」
「ラフは…?」
「俺…?」
ラファエロに身体を預けるだけだったレオナルドが、ぎゅっと抱きついてくる。
心臓が口から出るかと思うくらいに跳ね、ラファエロは固まってしまった。
こんな状態で抱きつかれると理性などもうあと少しも持ちそうにない。
「…ラフだってこんなだろ…」
レオナルドの手がラファエロの昂ぶりに触れる。
「…っ、レオ!離せ!俺ァいいんだよ!」
「おればっかりじゃいやだ…一緒に…」
散々嫌だと言ってきたのはこのことだったのか。
ぎりぎりで保っていた堰が切れる音が聞こえた気がした。
ラファエロはレオナルドを掻き抱き、唇を寄せる。
今日、初めての口付けだった。
舌を差し入れ、更にキスを深める一方で手は下へと滑り落ちる。
レオナルドのものに指を絡めて緩く扱くとそこはまた芯を持ちだす。
ラファエロはレオナルドを猛った自身の上に跨らせると、そのまま腰を落とさせて貫いた。
レオナルドの自重がかかっていつもより深く繋がる。
「ああぁッ」
慣らしているとはいえ、きついのか、レオナルドは目をぎゅっと瞑って堪えている。
その苦しげな表情を見て、優しくしたい、丁寧に扱いたいという思いとは裏腹に歯止めが利かない。
「悪い…止まらねぇ」
レオナルドの腰を掴んですぐさま突き上げを始める。
「や…あっ、あ、ああ」
上下する度に、ラファエロの腹にレオナルドのものが擦れて水音を立てる。
辛いだろうかと表情を伺うと、悦楽に蕩けた目と合う。
普段の凛とした生硬な光は見る影もない。
薬のせいだとわかっていても、そのギャップにたまらなくなる。
首筋に唇を押し当て吸い上げると
「イイ…もっと…」
と常には絶対吐かない科白を吐いてレオナルドは悶える。
四肢を絡めて、全身で求めるレオナルドにラファエロは身震いした。
もはや意識が混濁しているのか、切迫した喘ぎを漏らしながら、
「一緒に…一緒に…」
とレオナルドは繰り返す。
「分かってる…」
ラファエロはレオナルドの手を取ってその掌に宥めるようにキスをし、抜けてしまうギリギリまで引いて一気に奥まで収めた。
「―――ッ!」
音にならない声を上げてレオナルドが達する。
と同時に締め付ける後孔に促されてラファエロも呻き声をあげながら欲を解放した。
静まり返った部屋の中、穏やかな寝息を立てるレオナルドを腕に抱いて、ラファエロは赤く腫れたその目元を撫でた。
とんだものを作ってくれたものだ、とドナテロに対して思うところはあるが、普段は拝むことのできないレオナルドを見れたからまぁよしとする事に決めた。