君と同盟



5 titles for smoker in SAINW


■禁煙セラピー (RL)



Illustrated by 漢さま


「お前も呼ばれてたのか、ラフ」
「そりゃこっちのセリフだ。チッ…エイプリルのやつ、呼び出しておいて待たせんのかよ」

元来待つ、という行為が嫌いな上に見たくもない顔を拝まされているのは相当フラストレーションが溜まるようで、ラファエロは上着のポケットに手を伸ばすと皺の寄った煙草の箱を取り出した。
行動を共にしなくなった後、いつの間に覚えたのか、ラファエロは会えば決まって煙草の匂いをさせるようになった。
フリントの擦れる音がしてライターに火が灯る。
その火が煙草に移る一瞬前に、咥えた口から煙草を掠め取ってやる。
そして開いた口から文句が垂れるより先に塞いでやった。
苦い。不健康な味がする。
それでも舌を絡めて吸って、ゆうに1分。
いい加減その不味さに吐き捨てるかのように唇を離すと、目の前の隻眼がおもしろいものを見た、と訴えかけてくる。

「もう終わりか?どうせなら俺が煙草辞められるまでやれよ」
「俺はおまえの禁煙パイプじゃないぞ」

その日に限ってラファエロが煙草を吸うところは見なかった。








■肺が軋む音を聞いた (R&M)


「いつまでこうして待機してりゃいいんだ?」
「溶鉱炉の爆破部隊が手間取ってるんだろ」
「ったく、暇でしゃーねえな」

そう吐き捨てるとラファエロは取り出した煙草に火を点けた。

「俺にもくれ」

そう言ってミケランジェロはラファエロが手にしている煙草の箱から手早く一本抜きとった。

「お前、煙草吸うのか!?」
「なに?俺が吸うと意外?」
「まぁ…な。お前、苦いの嫌いだったじゃねえか」
「いつまで15の頃の俺を引きずってるんだよ…」

ミケランジェロは乾いた笑いを洩らして煙草を咥えた。

「火ィちょうだい」
「ライターライター…」
「いい、こっちから貰う」

顔を近づけ、じりじりと燃えるラファエロの煙草の先に自分のそれを接触させる。
火が移ったのを確認すると深く吸った。
みるみる白く燃え尽きる葉。
ぎしぎしとタールを含んだ紫煙が肺の壁に絡むような気がする。
この、肺の縮むような瞬間が煙草を吸いたい衝動にいつも繋がる。
ここに生きて存在しているんだ。
時折煙草を吸うようになったのはそれを認識したいからかもしれない。
この世界が夢でないと知るために。

風に乗って微かな爆音が響く。
それは「お、やりやがったな」というラファエロの嬉しそうな声を伴って、まるで彼岸の出来事のようにミケランジェロの耳に届いた。
ただ軋む肺が、それが現実であると教えていた。







■闇の中赤く灯る (L&カライ)


いまやネオンどころか街灯もまばらになったNYの夜、レオナルドは忍び込んだ廃墟のボロボロに朽ちたレンガの壁に甲羅を預けてもたれた。
待ち人はまだ来ていないようだ。
コートの両ポケットに手を突っ込むと右手に何か触れるものがあって、そういえばと心当たりを思い出して取り出した。
握りつぶされてしまった煙草の箱。
空だと思ったそれは感触からして、口からシガレット一本だけをのぞかせているようだった。
普段まったく吸わない煙草をしばらく指で弄んだあと、咥えて火を点けた。
夜の闇の中、日中でさえ暗い自分の網膜に煙草の先にたったひとつ強く光を放つ赤だけが滲むように映る。
今はもうほとんど見えなくなったあの赤に似た……

「お前も煙草を吸うんだな」

不意に正面から声がかかって、はっとして自分が思いがけず物思いに耽っていたことに気づく。
姿が見えなくてもその気配と声から待ち人だとすぐにわかった。

「カライ」

ずっと燃焼するままに放っておいた煙草の先の灰を落とす。

「来る前に残り一本しか入ってない箱を投げつけられて捨てるのももったいないから仕方なく、だ」
「長い言い訳ね」
「本当なんだから仕方ない」
「…ああ、赤いやつのか。お前が私に会いに行くのが気に食わない、といったところか」
「あいつが怒るのは分かっていたから黙っていたんだが…」
「気性の激しさは相変わらずだな」

カライの密かな低い笑い声がその後を追う。
確かに可笑しいだろうとレオナルドは思った。
何十年と時を経ても初めて会った時と自分たちはなんら変わってはいない。
こんなにも世界は変わってしまったのに。
根っこの部分はなにひとつ変わっていないのだ。
その事実にとうの昔に色褪せた記憶が去来し、同時に変われていたらこの未来は変わっていたのかという問いが立ちはだかる。
しかし、それを今問うても仕方のないことだ。
振り切ろうとするレオナルドの視界の中で煙草の火が赤く警告信号のように浮かんで息が詰まりそうだった。

「用件を聞こうじゃないか」

そう言って急いで短くなった煙草を壁にぎゅっと押しつけると視界はまた見慣れた黒に戻った。







■どうしてそんなものが旨いのか理解できない (RL)


昔とは比べものにならないほど大きな母体となったフット団との小競り合い。
ラファエロとレオナルド、二人がたまたま居合わせたところを急襲されたが、あまり数がいなかったのもあって一時間もしないうちに撤退していった。
残されたラファエロとレオナルドは慣れた手つきで始末を始めた。

「やっと一服できるぜ」

サイに付着した血をざっと拭くだけで早々に始末を終えたラファエロは、血の滴る刀をぼろきれで丁寧に拭うレオナルドに背を向け、トン、と箱の底を叩いて出てきた煙草一本を咥えてマッチの火をその先に移す。
一息に煙を吐いた途端、

「身体に悪いからやめろと何度言ってもきかないんだな」

と上機嫌に水を差す声が背後から聞こえてラファエロの眉間に深い皺が刻まれる。
磨かれた刀が鞘に収まる音がした。

「リーダー面もいい加減にしやがれ。身体のことなんか知るか。旨いから吸ってんだ」
「全く理解できないな」

溜息ひとつをおまけに返ってきた答えにさっと頭に血が上る。
若い時分より沸点は高くなったものの、ラファエロのやかん頭に変わりはない。

「てめえに理解されたいなんざ思ったこともねーよ」

ラファエロはレオナルドの方に向き直ると、その顎をぐっと掴みあげた。
深く煙草を吸うと、唇を重ねた。
引き結ばれたレオナルドの唇を舌でなぞって割ると、口蓋を押し上げ、互いの舌を絡ませた。
抵抗がないのを見て取ると、ラファエロは肺に溜めておいた煙をゆっくりと吹き込んだ。
途端、胸をドン、と強く突きとばされたがこの反応は予想していたのでよろめくだけで済んだ。
げほげほと噎せるレオナルドを見て、いかにもおかしそうにラファエロが笑う。
ようやっと落ち着いたレオナルドからは戯れでは済まされない気配が漂い、こうでなければ、とラファエロはサイの柄に手を伸ばした。







■この一本を吸い終えてから (M)


薄暗い地下武器庫。
この空間を支配するのは銃火器の冷たく重い空気だ。
ミケランジェロがもたれかかっているコンテナにもマシンガンが詰め込まれているはずである。
人のいない、無機質でどこかメカの匂いのするここがミケランジェロが落ち着ける場所のひとつだった。
昔はゲームもコミックもないシンとした場所なんか一秒たりともいたくなんかなかったのに。
ああ、そういえば…と連想ゲームの要領で紫の影が記憶の隅からふっと湧いてきたかと思うと、すぐに砂嵐がかかったかのようにそのイメージはさざ波立ってプツンと消えてしまった。

「マイキー!マイキー!」

遠くから自分を探している声が聞こえた。
そろそろ実弾演習の時間だ。
新人が何人か入ってくるから優しく教えてあげてちょうだい、とエイプリルが言っていたのを思い出し、気持ちが塞いでいくのを感じながら煙草に火をつけた。
この一本を吸い終えたら行こう。
じりじりと距離を詰める赤い火と長く伸びる白い灰。
この一本が終わってしまったら行かなくてはいけない。
あともう少しもない煙草にまだ終わらないでくれと念じてみる。
無情にも火はフィルタを焦がす手前で消えた。



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