君と同盟



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■切り札を手に(M&R)


背にした分厚いコンクリの壁に銃弾が打ち込まれる振動が、ラファエロとミケランジェロの甲羅を揺すぶる。
その銃撃の合間を縫ってミケランジェロが撃ち返して応戦する。
開けた場所から逃げおおせてやっと滑り込んだシェルターに凭れ、ラファエロは一息ついた。
ついでに文句も口をつく。

「なんだってオメーといるといつもこんな目に会うんだよ」
「それこっちのセリフ。お前、発信機でも埋め込まれてるんじゃないのか?ラファエロ」

今回のミッションはただの偵察で、フット団と直接やり合うこともないだろうと思っていたのだが、いつの間にかこうして市中での銃撃戦を繰り広げる羽目になっていた。
とはいえ、もしもの時の自衛用軽装備ではそう長くはもたない。

「っと、弾切れ!」

カランカランと軽い音を立てて最後の薬莢が地に落ち、ミケランジェロは空の銃を地面に置いた。

「…… どうしよ」

そもそも銃器など装備していない隣のラファエロはサイを構えて、

「ハッ、オモチャがないと戦えねえって?腰にぶら下がってんのは飾りかなんかかァ?」

と顎でそれを指すようにしゃくってにやにや笑う。ミケランジェロもまた口元に薄い笑みを浮かべて返した。ミケランジェロのたくましい左腕がしっかりとヌンチャクの柄を掴んでベルトから引き抜く。

「久しぶりだからダメかもなあ」

言いながらヌンチャクの手ごたえを確かめるように回し始めた。

「なんだよ、やっぱり腑抜けてんのか」

ヒュンヒュンと空気を切る音が次第に速くなっていく。ヌンチャクを回す手はそのままに、ミケランジェロは壁の向こう側を伺うように首を伸ばした。ひぃ、ふぅ、みぃと昔スプリンターに習った和語で敵の頭数を数える。

「いや、加減がダメかも」

ミケランジェロからはっきりとした返事が返ってくる。
向こう側の様子を見るために顔は背けたままだが、歯茎を覗かせて笑っているのはラファエロにもわかった。
笑うこと自体は少なくなったが、笑い方だけは変わらないとラファエロが思った瞬間、弾かれたようにミケランジェロは飛び出していった。
おい、と叫んでラファエロも続く。
まるで弾丸のような勢いで迫ってくるミケランジェロに敵は怯んで銃を構えることもできない。
ミケランジェロは距離を詰めると、素早くヌンチャクで敵の手から銃を叩き落とした。
続いて背後の敵を蹴り上げ、上体を捻って動線上にいた死角の敵もまとめたヌンチャクで殴り倒す。
ラファエロは自らも敵をのめしながら、その鮮やかさに舌を巻いた。
ミケランジェロの俊敏さ、柔軟さは銃火器のような重い武器を捨てたときにこそ発揮されるものだった。
縦横無尽に走る相棒のヌンチャクもとらえようがない。

程なくして辺りには動かなくなったフット団が多数転がった。
面倒だっただのなんだのと文句を言いながらもさっさと歩を進めて帰還するラファエロの後にミケランジェロは黙って続いた。
頭の中は弾を使い切ってしまったことをエイプリルにどうやって報告するかでいっぱいだった。








■未踏の粘膜(RL、R-18)


ギ、ギ、とスプリングの軋む音が、緩慢なラファエロの動きに合わせて狭い部屋に響いている。
レオナルドはその腹の下で、足を割って揺さぶられるがまま、慣れた感覚に身を委ねていた。
明かりは枕元のろうそくだけで、表情を読み取るので精いっぱいだったが、光を失ったレオナルドには関係のないことだった。
深さを求めてラファエロの身体が傾いだ。
互いの息が頬に触れるほど近くなり、互いの腹甲が胸の辺りで擦れ、それだけでレオナルドの四肢はおののいた。
視覚を失くしてから、身体の感度は格段に高まっていた。
しかし昇りつめるにはまだ足りない。
レオナルドの暗い瞳が水を孕んで揺らぐ。
どこにも定まらない視点は、涙を纏ってさらにぐらぐらとしているように見えた。
ラファエロはその眼の寸前に舌を差し出してみた。
見えていないレオナルドは瞼を閉じようとはしない。
たまらない。
内も外も触れるところは触り尽くして、手垢の着いていないところなどないと思っていたが、ここに未だ自分の知らないレオナルドがある。
ぬるい熱に浸かっていた身体の血がかっと湧いた。
そのまま勢い余って突き上げたために、レオナルドが吐息をもらしたのも官能に響いた。
ラファエロは、皮膚の裂け目から露出した、その潤んだ粘膜を余すところなくべろりと舐めた。
瞬間、ぞわ、と怖気のような悦楽に貫かれ、レオナルドはついに高い声をあげた。
走った奇妙な感覚に何故と思う間もなく、ラファエロの動きが大きくなり、レオナルドの開きっぱなしの口からは嬌声が次々と溢れた。
掻いた手がシーツを握りしめて波を作った。
遠くにみえた絶頂が急激に目の前に迫り、レオナルドは身を妖しく捩り、ラファエロは呻きをあげた。


事の後、いつもよりだるそうな雰囲気を纏って一服するラファエロが、
「あー、そういや、目玉の触覚って皮膚と変わんねえんだってな」
と独り言のように呟いた。








■未明の雪道(RL)




二度と会うまいと決別した兄弟とばったり出会った。
そうは言っても狭い島でのこと、思いがけず会うこともあった。それでも二人っきりになることはなかったし、すぐにどちらかがその場を去ることが常だった。
それが今日は違う。
十字路で出会ってからどちらも道を違えようとはしない。

「お前がこんな朝早くに起きだしてるなんて珍しいな。……ああ、だから雪が降ってるのか」
「うっせえ用事があんだよ。お前こそ毎朝毎朝ランニングなんてよくやるぜ」
「あいにく今日のランニングはもう済ませた。俺も用事があるんでな」

――《用事》。
こんな早朝に同じ方向の先にある用事なんて、さらさら偶然にあるものではない。
同じミッションか。
両者、口にはしないがそう確信した。
ということはこの先目的地までずっと一緒。
顔も見るのも嫌だというのに、目的地までの道程のことを思うと途方もなく思えて気が重くなり、自然に歩が早くなる。
二人して黙々と歩いた。
ざくざくと雪を踏みしめる音が重なって響いた。横が気になって落ちつかない。沈黙も痛い。ただただ目的地はまだかと思い速度をあげて進むばかり。
しばらくして、早歩きからもはや競歩の域にまでスピードをあげた頃に、とうとう沈黙に耐えられなくなったラファエロが音をあげた。

「別の道から行けよ!」
「なんで俺が。そう言うお前が違う道で行けばいい」

ほら、とレオナルドは横から生えた小さい通りを示した。

「遠回りになんだろ。お前があっち行け」
「この年にもなってワガママか? ラフィー」
「ラフィーって呼ぶな!」

通りざまにくずれた壁の上に積もった雪を掴んでレオナルドのにぶつけた。
レオナルドは怯みもせずに手でパッパッと雪を払った。
怒ってすぐに噛みついて来るかと思っていたラファエロは、いなされた気がして舌打ちを打って視線を足元に向けた。
その瞬間、首筋に冷たい衝撃を受けた。
横を見ると、しれっとした顔で歩くレオナルド。

「テメェ!」

血の沸くまま、ラファエロはその澄ました顔に再び雪を投げつけた。
次は間を置かずにすぐさま反撃が繰り出された。
その反撃にラファエロがまた反撃をする。それにレオナルドがまた反撃。
雪のちらほら降る未明の道に雪を踏む音とぶつける音が延々と続いた。





「なんなの? あんたたち」

結局、雪まみれで鼻の頭を真っ赤にさせた二人は、集合場所で待っていたエイプリルを呆れさせる羽目になった。



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