君と同盟



手 二、頼朝


寝所に妻と寵臣を引きこんで戯れ疲れて眠った夜、頼朝はふと目を覚ました。
身じろぎをすると夜のしじまに衣擦れがかすかに響いた。
なんとはなしに両手を真上に伸ばしてみた。
まだゆらゆらとわずかに灯っていた明かりを頼りに掌に目を凝らした。

手は欲しいものを掴むためにある。
こうして思い描いていたものを今まさに掴もうとしている手を見つめていると、俄かに昔のことが思い出された。

幼くして全てを取り上げられた頼朝は空の手を飽くことなく見つめていた。
そうして、いつかこの空の手に掴むものがあれば決して放しはせぬ、と誓った。

それから月日は流れて、はじめに右手に掴んだのは北条の娘の透けるような白い手だった。
その次に左手で掴んだのは怯えて震える平家の若武者の翠の髪だった。
これがはじまりだった。

いまや頼朝の手は左右のふたつだけではなくなっていた。
幾千幾万の兵どもが頼朝の手だ。
それは膝元の鎌倉から西は尾張一宮、そのまた先の京へと這うように舐めるように伸びていく。
そうして頼朝は両の手では掴みきれないほど多くのものを手に入れてきた。
その一方で使えない手、主人に背く危険な手は容赦なく切り落としていった。
それは実弟も例外ではない。
しかし、多くを手に入れ、多くを捨てなければならなくなった今でも、両の手で直に掴んだ二つだけは絶対に手放すつもりはなかった。
それがたとえ神仏に背くことであっても。

両脇に侍って眠る妻の手を握り、寵臣の髪を柔らかく掴み、決して放しはせぬ、と頼朝は再び誓った。



e[NȂECir Yahoo yV LINEf[^[Ōz500~`I
z[y[W ̃NWbgJ[h COiq@COsیI COze