君と同盟



煉獄編第十七歌六十行 1


魔物以外に活動する者もいない夜の空をラビエルはラグニッツ地方へと飛んでいた。
立て続けに起こる事件と各勇者の呼び出しに追われ、ラビエルがクライヴの元を訪れるのはおよそ三ヶ月ぶりだった。


身を切るような寒空を飛び貫け、ようやくクライヴの泊まっている宿に着いたが、明かりの燈っている部屋は一つもなかった。
仕事に出てしまっているようである。
小さい村なので、一回りすれば見つかるだろうと身を翻した。
思ったとおり村からちょっとはずれた共同墓地でクライヴを見つけることが出来た。
邪魔にならないよう、近くの木の梢近くにとまって様子を伺う。


数人のゾンビがクライヴを取り囲み、じりじりと距離をつめている。
クライヴは刀を構え、タイミングを伺っているようだ。
ずるりずるりとにじり寄るゾンビどもの呻き声が急に轟くような雄叫びに変わったかと思うと、一斉にクライヴに襲い掛かった。
それを待っていたかのように、クライヴもゾンビに向かっていった。
振り上げられた刃先が月光に光り、鮮やかに一人目のゾンビの首が飛ぶ。
続いて二人、三人と次々と屍が重なる。
もともと死んでいるゾンビは心臓を突いても手足をもいでも殺せない。
動きを完全に止めるには頭部を損壊させるか、胴体と切り離すしかない。
(さすがクライヴですね)
何度かクライヴの戦闘を見たが、対アンデッド戦のクライヴの動きはそれぞれのアンデッドの急所、特徴を捉えているので、動きに無駄がない。


さほど困難な局面に陥ることもなく、ゾンビはすべて屍肉に戻った。
戦闘が終わって刀を鞘に納めるクライヴの近くまで飛んでいくと、まるで出会った時のように酷く驚いて信じられないといった顔をしてクライヴが見上げてきた。
その顔がいくらか青ざめているように見えるのは疲労のためだろうか。

「クライヴ、お仕事お疲れさまでした」

そう言いながら目線を合わせるために地上へ足を着ける。
クライヴの瞳が一瞬動揺したかと思うと、 逃げるように踵を返して村の方へと走り始めた。

「あ、クライヴ!」

泡を食ったラビエルは急いでクライヴを追った。

「クライヴ、待って下さい!ねぇ、どうしたんですか?」

クライヴは振り向きもせずに狭い路地を突っ切ると宿に逃げ込んだ。
居場所を悟られまいとしてクライヴは部屋の灯りを燈さなかったようだが、 ラビエルは暗い部屋で動くクライヴの影を察知するとその窓に近寄った。
ベッドに潜り込んでしまっているようだ。
コンコンと薄い窓ガラスを叩く。

「クライヴ、何かあったんですか?」

反応は全くない。
どうして彼が自分から逃げるのかわからなかった。
忙しさにかまけて訪問しなかったことを怒っているのだろうか。

「長い間会いに来れなくてすみません。 こんなにクライヴが怒っているなんて思いませんでした。もう二度とこんなことはしません。本当にごめんなさい」

謝罪の言葉は押し寄せる後悔のために震える。
クライヴはぴくりとも動かない。
自分の言葉は確かに届いているはずなのに、彼はそれを受け取りさえしてくれない。
罵倒でもなんでもいい、何か反応して欲しかった。
存在を拒まれるほど嫌われてしまったという事実に目の前が暗くなる。

「ごめんなさい、本当にごめんなさい…」

窓ガラスに両手を押し当て、室内のクライヴに縋るように何度も何度も謝った。
空が白み始め、心配したリリィが探しに来るまで、 自分の声が届きはしないかと謝り続けた。


翌日、クライヴは行方をくらました。


妖精たちにも捜索させたが、足取りさえ掴めずに月日ばかり流れ、
捜索にかける情熱は多忙な日々に押し流されてしまった。



yVoC[UNLIMITȂ1~] ECirŃ|C Yahoo yV LINEf[^[Ōz500~`I


z[y[W ̃NWbgJ[h COiq 萔O~ył񂫁z COsیI COze