君の
となり
過去拍手-1
1.藻骨
「隣、いいか?」
マストの下に腰かけたブルックが、少しずれて場所を空けたので、
そのスペースにすべりこんで、足を組む。
何をするでもなく、何を話すでもなく。
二人同じ角度で見上げる夜空は、今日も星が多かった。
「ここはゾロさんの場所だったんですか?」
上を見たまま、ブルックが聞いてくる。
「どういうことだ?」
「いえ、こんなに広い船なのにいつもここにいらっしゃるので。」
お邪魔でしたら退きますよ、ヨホホ。
軽やかにブルックは笑うので、このままでいい、とポツリと呟いた。
お前がここにいなくなれば、どうせ後を追ってまた
お前の隣を探すんだ。
「いい夜ですね」
歌うように静かに、ブルックは夜空に向かって嘆息する。
コイツがこう言うのだから、きっと今日という日は良い日だったのだと確信して、
俺は返事の代わりに欠伸をした。
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君じゃなければだめなんだ。
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君のとなり、をテーマに5題。
一発目はとりあえず、藻骨で。
不器用な剣士と、鈍感な音楽家が我が家の基本スタイル。
2.三嘘
蛇口を捻れば水は止まる。水音もとまる。
けれど、先ほどから続いているマシンガントークは止まらない。
遮る音がなくなってますます興にのるウソップの冒険譚は、酒が入っているからか大いに快調だ。
「だからよ、その時俺はさ…聞いてんのかよサンジ!」
おやおや絡み酒、とからかうように呟いて、手に付いた水を拭いつつカウンターキッチンを出る。
酔いに顔を赤くしたウソップは、ソファーに自由の効かない体をどうにか乗せていた。
「お前飲みすぎじゃねぇの」
「そんらことねぇよ。で、終わったのか、片付け。」
俺が近くに来たことに気づいて、ウソップは体を起して座り直す。
フランキーが作りつけた大きなソファー。
そのドアに遠い方の端、右側に一人空けた位置がウソップのいつもの場所だった。
ウソップの隣に腰かけて、クッションに背中を預け、細く長くため息をつく。
今日一日の仕事はこれで全て終了だ。
「おつかれ、サンジ」
にっかりと咲く、向日葵みたいな笑顔をいつもの角度で見つめてから、
そう言えばアイツが空けたスペースは、俺が座るのにぴったりだということに気がついた。
酔っ払ってるくせに、そういうとこはきちんとしてる。
「お前、俺のために隣空けといてくれてんだな。」
図星だったようで、元々赤かった顔にますます赤みが差す。
俯き逃げるウソップの肩に手を伸ばして、
俺は俺に、今日一日もお疲れ様のご褒美をあげることにした。
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君のとなりは僕のもの。
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実は大好物な三嘘。難しくって小説じゃなかなか書けないですが。
グイグイ押してくるコックと、嫌よ嫌よも好きのうち、な狙撃手が好き。
この拍手群は、終わりの一文を考えるのがすっごく楽しい。
3.鉄花
「お酒、まだ残ってる?」
宴も開けて深夜零時。
甲板の上で一人、夜風に当たって手酌をしていたらニコ・ロビンがやってきた。
持ち上げた酒瓶を月に透かせば、三分の一程残った酒がゆうらり波立つ。
差し出されたグラスに注いでやると、ロビンは俺の隣に座り、口をつけた。
柔らかい風に優しく揺れる髪は、深く美しい黒で
本当に綺麗な黒は闇にこそ映えるんだな、とふと思う。
酒を呷る手が止まったことを不思議に思ったのか、
ロビンがどうかしたの、と声をかけてくる。
「いや…よく見るといい女だな、と思ってよ」
「あら、フランキーだっていい男よ」
くだらない軽口を笑い飛ばしてしまわないで、冗談で返してくるところをみると
彼女は機嫌がいいらしい。
「へぇ、やけに素直だな。酔っ払ってんじゃねぇか?」
残った酒をぐいと呷り、ロビンを見れば
予想とは違って妙に真剣な表情をしていた。
「…そうね。私、しばらく前から酔っ払いっぱなしみたい」
幼い少女のように小首を傾げて、俺の顔を覗いてから
ロビンは鈴のようにころりと微笑んだ。
一気に熱が上がった気がして、思わず視線を空に逃がす。
月が、いやに明るかった。畜生。
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わかってる、君には勝てない。
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大好物第二弾、フラロビ。だって夫婦だもん。
あっさりしてそうで実は公然とイチャイチャしてて、でもあっさりみたいな。
そんな大人な二人が好き。嫌みなく惚気てそうですよね。だって夫婦だし。
4.鹿+骨
「ブルック、昼御飯が終ったら医務室に来てくれ」
最初は、新しい仲間の健康状態のデータを取るための診断だった。
ヨミヨミの能力で骨だけの体で蘇ったブルックは、
数年間を医者として過ごしてきた自分としてもあまりに初めて出会うことばかりで
なかなか普段通りにはいかなかった。
おかげで他のみんなより時間がかかり、何度もに分けて呼びつけることになってしまったのだけど
最後の方には何だか、ブルックの話を聞くことが目的みたいになってしまった。
ねだるのはいつも、ブルックの昔の話。
本でしか読んだことのない、俺たちが歴史と呼ぶ世界を、ブルックは実際に生きてきたのだ。
その目で見て、その肌で感じ、その耳で聴いてきたのだ。
50年前の海の話、50年前の歌の話、50年前の海賊の話。
小さな医務室の大きな机の前で、語ってくれる思い出の海は、俺を新しい世界へと連れてってくれる。
けれど楽しい時間はぐんぐん過ぎて。今日もまた、
「おい、二人とも。そろそろ夕飯できるけど」
「「あ」」
また、明日も健康診断ですねぇ。
呟いたブルックに、申し訳ないと頭を下げる。
いえいえ構わないですよ、といつもブルックは言ってくれるから、俺はどうにも甘えてしまう。
明日こそはと、取らなきゃいけないデータを頭の中で整理しながら
けれど心のすみっこで、明日はどんな話を聞こうと考えている自分がいる。
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君のとなりが好きなんだ。
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最年長と最年少。このコンビ、好き。
お互いに深い愛情と尊敬がありそうですよね。
骨は余りに多くのことを知りすぎてて、多くの時間を経験しすぎてて、
船医はまた余りに多くのことを知らなくて、まだまだ生きてきた時間も短くて。
いろんなことが正反対なのに、だからこそ二人はとっても近い、のかも。
5.影+骨
朝日が昇る。
仲間のいる船に乗っている、というあまりに久しぶりの感覚が、
体を眠らせてくれなくてこんな時間に目が覚める。
まだ夜の青みがほんの少し残った空を見ながら、吸い込む空気は冴えて美味しい。
今日から、この船の一員ですね。
呟いてみればまた嬉しくて、自然頬が緩む(実際はそんな気がするだけでしょうけど)。
浮かんできた笑みを零してしまうのが惜しくて下を向けば、足元には
昇りたての太陽に照らされた、影。
自分の縦に長い輪郭を辿ったその影は、甲板を這って壁に届き、
船壁をなぞるように胸の辺りで直角に曲がっている。
「…それじゃあ苦しいですかね。」
一歩、後ろに引けば長い影が真っ直ぐに、しゃんと伸びる。
強く気高い太陽の船に、映るのは鮮やかな闇。それはきっと、いずれ誇り高き色となる。
「あなたも、これからよろしくお願いします」
ちょこ、とシルクハットを上げて挨拶すれば、影も同じ動作で返す。
朝日が昇り切る。
今日も、空は快晴だ。
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僕にいちばん近いのは、君だから
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一度書きたかったんです。伸びた影が90°折れ曲がっちゃって、
「苦しいですかね」って言って影を伸ばしてあげる優しい骨が。
きっともう、骨にとって影は「影」だけの存在じゃないですよね。
確実に、もう一人の自分、なんです。