ある夏の日の午後。外の天気は悪くない。太陽がまばらに隠れるものの、熱線のような陽射しも手加減してくれている。
到着予定時刻よりも一時間以上早くライブ会場に到着した。
ドームほどの大規模では無いにせよ、万単位の人間が動員できる大会場だ。
「今日のライブ、楽しみだなぁ」
真が俺と組んでアイドル活動を始めてから二年近くが経った。
大きなステージでライブをすることにもすっかり慣れきった真はその瞬間を心待ちにしているようである。
楽屋に向かう廊下を歩く彼女の足取りは軽い。
「えっと……誰もいないよな……よっと」
辺りをキョロキョロと見回して周囲に人影が無いことを確認すると、真が腕を絡めてすり寄ってきた。
遠慮がちに触れるのではなくて、思い切りグッと力を込めて握ってくるのが彼女らしい。
黒いショートカットの髪を撫でてやると心地良さそうに真は目を細めた。
「へへっ……」
「今日の曲目、大丈夫だよな?」
「勿論です! こないだの新曲のしっかり覚えてます!」
心強い返事だ。
やがて『菊地 真 様』とマーカーで書かれたネームプレートのかかったドアが見えた。
今回はここが真の楽屋になるようだ。予定時刻になればスタイリストや他のスタッフがやってきて本格的に直前の準備が始まる。
「よいしょっと」
中に入るなり真は後ろ手に鍵を閉めて、テーブルの上にバッグを置いた。俺もその隣に自分の鞄を並べて置く。
ざっと部屋の中を見渡してみる。今回の楽屋は畳が無いらしい。カウンター式の化粧台が幾つか並んでいて、中央にはテーブルと
椅子があるのみで、化粧台の脇には会場の一部が移ったモニターがあった。まだ観客の姿は無い。
バッグを置いたテーブルの上に腰を乗せている真は、隠し切れない期待を顔に滲ませていた。
ライブを前にして心が昂っているのもあるのだが、本当はそれだけでは無い。
「すまないな真、今日はお前の誕生日なのに」
俺としては今日ぐらい仕事を休みにしてあげたかったのだが、ライブの日程を動かせず敢え無くこうなってしまったのだ。
申し訳ない気分だったが、真はゆっくりと首を横に振った。
「ううん、いいですよ。たっくさんのファンを前にライブする誕生日っていうのも悪くないですし、それに……」
ぴょんと軽く跳ねて床の上に降りて、真が俺の前に立った。頭一つ分近く低い位置から活発な瞳が俺を見上げた。
「終わったら、プロデューサーも祝ってくれるんでしょ?」
「まぁ、そうだが」
ライブの終わる時刻を考えると大した所へは連れて行けないが、誕生日プレゼントぐらいは用意してある。
まだサイズは合わせていないが、【誕生石】のリングを鞄に忍ばせてある。
それなりに男女の関係にあるのだから、これぐらいのプレゼントはしなければと思って結構奮発したのだ。
「楽しみにしてますからね、へへっ」
それだけ言って真は歯を見せて笑った。女の子らしい表情も随分見せるようになったが、爽やかな笑顔は少年みたいだ。
頭をぽりぽり掻くと、真が俺との距離を詰めて密着する姿勢になった。
俺の腰にしなやかな腕が回ってきて、ミントのような匂いが鼻腔をくすぐった。
「じゃ、折角早く来たんだから、今日も……」
「……ライブの前だけど、体力は大丈夫なのか?」
「大丈夫です。緊張しなくなるし、頭がカラッポになって体が軽くなって、ライブが凄く楽しくなるんです……だから」
話続けるうちにどんどん甘えを含んでいく真の声にクラッと来てしまった。
「じゃ、するか」
軽く一言、細い体を思い切り抱き寄せて、自分の体を少し屈めて真にキスをした。
お互いこういう関係になってから、テレビ出演や音楽番組の収録、果ては今日のようなライブの場で変わったことがある。
予定時刻よりも早めに楽屋へ入っておき、誰もいない空間で求め合う。いつからかそんな習慣がついていた。
やってみて分かることだが、こういった行為は意外なほどに体力を消耗する。
俺はヘトヘトになっても真はいつもケロッとした顔で楽屋を後にするのだ。その体力が恐ろしくすらあった。
「あっ……ん、んむ……」
触るだけのささやかなキスを二回もすると、早々に真の舌が積極的に絡み付いてくる。今日は先手を取られた。
舌を突き出して、茹でた餃子の皮みたいな唇の柔らかさと、唾液で濡れてネトネトの舌の感触を味わう。
鼻から漏れ出てくる真の小さな喘ぎ声に、口からは時折熱い吐息。
ミントの匂いに混じった女の香りに、あっという間に股間に重たい熱が集まり始めた。
息継ぎをするように口を離してはまた口付けて、というのを4回は繰り返しただろうか。
「テーブルに腰掛けて、真」
「あっ……はい」
目をとろんとさせて、ぼんやりとした返事をすると、やや緩慢な動作で真がテーブルに腰掛けた。
人間の体重を受けて、きしっと微かに脚のきしむ音がした。
左手を耳の裏に伸ばしてこちょこちょ指で撫でると、真はくすぐったそうに首を捻った。
「っは……やん……」
剥き出しになった首筋に唇を這わせて、上着のジッパーを下ろしながら鎖骨を舌でなぞる。
真は後ろに倒れこんでしまわないように両腕をテーブルの上に突っ張らせていた。
「はぁ……はァッ、んん」
ここを舌で愛撫されるのが真のお気に入りなのだ。みるみる内に吐息混じりの甘い声をあげ、呼吸が荒くなる。
ジッパーを下した手を上着の中へ滑り込ませてみると、奥に着ているシャツのそのまた奥から女体の膨らみを感じ取れた。
昔より少しだけ大きくなった膨らみを布地ごしに揉みしだいていると、真の潤んだ瞳が俺を見上げた。
服の上から触っているだけでは不満なのか、口元は僅かに下がっている。
これはこれで好きだが、やはり直に触れたいと思い、Tシャツの裾から右腕を突っ込み、ブラと肌の隙間に手を滑り込ませた。
「あ……」
口はそのままお気に入りの鎖骨を刺激し、掌に収まってしまうサイズの乳房をぐにぐにと手全体で揉んでいく。
バランスよくついた筋肉のおかげで、控えめながら胸の形はかなり綺麗に整っている。美乳、という形容がよく似合う。
そこが見えないのは残念だが、脳裏に桜色の乳首の色などを思い浮かべながら触るのもこれはこれで愉しめる。
「ん……やん……そこ、いじっちゃ」
早々に掌の中で自己主張を始めた部分を見つけ、指でつまむと熱っぽい息が漏れ出てきた。
「いじっちゃダメなの?」
真が首を横に振る。
「……も、もっとしてください」
俺が首元から視線を上げてみると、困ったような目で訴えかける真は頬を真っ赤に上気させていた。
だいぶ興奮してきているらしい。
Tシャツを少しずつ捲り上げていき、乳房を露出させると、赤かった部分が首筋や耳にまで広がっていった。
真っ白な肌の上にちょこんと乗った美味しそうなピンク。左胸の乳首の脇に、俺がつけたキスマークがあった。
思わずむしゃぶりついた。
「んあっ! あっ……あ、はぁぁ……!」
「お、おい真、声がでかいぞ」
急に二倍近いボリュームになった真の声に驚き、思わず諭してしまった。
「ふっ……んぅ……はぁ、はぁ」
わざとぺちゃぺちゃ音を立てて乳首を舐めていく。真は唇を噛んで漏れて来る声をこらえているようだった。息が荒い。
俺の性欲も相当に昂っていて、既に硬く張り詰めているペニスにますます血が集まり、思い切りズボンを押し上げていた。
胸から口を離す。真のベルトに手をかけて外し、
「真、お尻ちょっと浮かせて」
と呼びかけて裾を折ったジーンズから片足を抜いて脱がせた。
白いショーツのある一点が微かに変色して色濃くなっているのが目に止まった。
「なんだ、もう濡れてるじゃないか」
「だ、だって……」
「気持ちよかった?」
「……うん」
恥ずかしそうに真が頷いた。
「こっちも脱がしちゃうな。あんまりべとべとだと気持ち悪いだろ」
敢えて返事を聞かずに、ショーツにも指を引っ掛けて下げていく。
既にだいぶ濡れていたようで、生地の内側が軽く糸を引いていた。
前戯はもう要らないかもしれないが、さて、口でしようか、手でしようか。
数秒考えてから、俺は手で両脚を広げ、ヒザ立ちになって真の股間に顔を埋めた。
「あっ……プロデューサー、口で……?」
期待を僅かに滲ませているのか、真の声は少し上ずっていた。
蛍光灯の明かりを反射して真の秘裂はぬらぬらと妖しく光っている。
まずはその粘液の泉へと舌を伸ばしていき、湧き水を舌先に汲んでいく。
「ん……んふ……んあぁぁ……!」
クレバス全体に愛液を塗りたくるように舌で舐め上げていくと、真が淫らに溶けきった嬌声をあげた。
俺が視線を上げたのに気付き、つい声をあげてしまった真は慌てて唇を噛みしめていた。
音を立てて愛液をすすっても、留まる所を知らないかのように次から次へと新しい愛液が膣内から溢れ出してくる。
少し生っぽい匂いがしたが、愛しい真のものだと思えば飲み下すことには何の抵抗も無い。むしろ飲みたいぐらいだ。
「はぁっ……プロデューサー……ボク、もう……」
息も絶え絶えに真が訴えるような声をあげた。
「イキそう?」
「あ……そ、そうなんですけど、そうじゃなくって……」
目の端に涙を浮かんだ涙が今にも零れ落ちそうだった。
はぁはぁと荒い呼吸をしながら、切なそうな視線を必死に俺に投げかけてくる。
「ボク、もう欲しくって……お願い、プロデューサぁ……」
「……分かった」
楽屋という場所と、残り時間があまり無いという焦りからか、真の昂りはいつもよりも強いようだ。
もうちょっと焦らしておねだりさせてもいいのだが、それをすると泣いてしまいそうだったので、やめておく。
それに……俺も真の中に入りたくて我慢できなくなりそうだった。
ズボンのファスナーを下ろして、いきり立った愚息を鷲掴みにして外へ引っ張り出す。
それを見た真の目が艶やかに妖しい光を放った気がした。
財布からコンドームの袋を取り出し、手早くはめてペニスを膣口にセットする。
「このまま入れるよ」
「あ……嬉しい、前から……」
後ろ手に突っ張らせていた両腕を前面に持って来て、真は抱擁を求めた。
背中に腕を回して抱き寄せ、位置を合わせてグッと腰を突き出した。
「んあ……! あはァっ……」
真が大きく息を吐き出したのを合図に、一気に奥まで入り込む。首に回された真の手にぐっと力がこもった。
濡れそぼった秘肉の中は肌よりもやや温かい温度で、段々になった襞がキュンキュン締め付けてくる。
滑りもいいし、いきなり動いても問題なさそうだ。早速腰を揺すって真の中を掻き回すことにする。
「はっ……! ああぁっ……くぅ、凄いぃっ……」
イヤイヤするように首を振って真が快楽に悶える。
妙に中の締め付けがキツイというか、断続的に中がヒクついているように感じられる。
ああそういえば、と、先ほど口で愛撫していた時の余韻がまだ残っていたはずだと思い出した。
「プロデューサー……ボク、ボクっ……!」
「どうしたんだ?」
「ボク、もうイッちゃいそう……ん……ねぇプロデューサー、ぃ……イッてもいい?」
「ああ、いいぞ」
大きく往復させていた腰の勢いを少し落とし、思いきり奥まで突き入れて小刻みに膣壁をこすっていく。
ビクビクと真の腰が震えた。手前から奥まで、膣内が腰の動きに合わせて収縮してきた。
「はっ……! あっ、そ、そこぉぉ……! あっダメ、もう、イッ──」
どんどん真の声が大きくなってきて、慌てて俺はキスして真の唇を塞いだ。
「ふぅ……ん、んっん……んんんんんんん!!!」
真の全身が硬直した。しがみついていた真の両腕が、俺の体を抱き寄せようとして首を引っ張る。
膣内の締め付けが一層強くなり、痛いぐらいに締め上げてきた。
グラインドしていた時の快楽が一気に増幅され、急激に射精感が込み上げてきて、俺も思わず達してしまいそうになった。
「ぷはっ! ふぁ……は……ふぅ、ふぅ……」
口を離すと、その途端に真は空気を求めるように大きく肩で呼吸を始めた。
キスしながら絶頂を迎えて窒息しそうになっていたのかもしれない。
「気持ちよかったか?」
まだ息の荒い真に上から尋ねた。絶頂のすぐ後で敏感なので、まだ腰は動かさずに止めたままだ。
俺も一気に射精寸前まで押し上げられてしまい、少し休憩が欲しかった。
「は……はい。すごく……けど」
「なんだ?」
「プロデューサー、まだでしょう? い……いいですよ、もう動いて」
「もう? ……ホントはもう一回気持ち良くなりたいだけなんじゃないか?」
真の気遣いだと分かっていても、つい意地悪くそんなことを言ってしまう。
「……え、エッチな女の子は……き、嫌いですか?」
少し赤みの引いた頬を再び真っ赤にしながら真が小声で言った。
「いや、大好きだ。まぁ、真だったらエロエロでもそうでなくても大好きだけどな」
「プロデューサー……嬉しいっ! ボクもプロデューサーが大好きっ!」
まだ繋がったまま、真が抱擁を強めた。真の喜びを表すように、膣内がキュッと締まった。
「よし、じゃあ今度は俺も気持ちよくさせてもらうからな」
抽送を再開した。ゴム越しでも分かる熱と、さっきよりも強い圧力が締め付けてくる。
「いっ……あっ、あ……!」
先ほど俺が言った言いつけを忠実に守ろうとして、真は結んだ唇から声を漏らさないように頑張っていた。
実際の所、楽屋の壁はそこそこに厚いので喘ぎ声をあげても隣に漏れることはないし、隣の楽屋は空きだ。
声を出すのを我慢させる必要なんて無いのだが、快楽に翻弄されながらも声をあげまいとする真が可愛いので、何も言わない。
俺のペニスの形に合わせるかのように、最も敏感な亀頭や裏筋のぶつかる場所の締め付けが特に強くて、呻き声が漏れた。
腰の奥で快楽がじんじんと疼き、擦っても擦っても疼きが中々取れないのだが、痒みに似た刺激が尿道から上がってくる。
「ん……プロデューサーの、中でおっきくなってる……」
真が恍惚とした声をあげた。
先ほど射精感がだいぶ込み上げていたこともあって、思ったよりも腰からの熱が先端に集まり始めるのは早かった。
もう少し頑張れ、と自分を叱咤しつつ、真の感じやすいポイントを責めていく。
「はぁっ……お、奥の方……そこ、そこぉ……! あ、プロデューサー、ボク……声出すの我慢できなくなっちゃう……!」
「ハァ、ハァッ……だ、だったら俺がまた塞いでやるっ……!」
しがみ付いてくる真に覆いかぶさるようにして唇を重ねて、乱暴に舌を割り込ませる。
ねちねちと舌を絡みつかせながら、グラインドの速度を上げていく。
弱点を責められている真の膣内はうねるように俺のペニスに絡み付いてきて、溶けるような快楽で包み込んでくる。
絶頂を迎えるまであと何往復か。次の瞬間かもしれない。ボコボコ煮えたぎる射精感を堪える。
「はっ……あ、プロデューサー……ボク、また……あん、んん……」
「き……きたか。俺も一緒に……」
「は、はい、一緒に……!」
真が力を込めたのか、うねりはそのままに膣内の締め付けが強くなり、時折起こる収縮も一緒になって俺の性感帯を嬲る。
早く達したい気持ちを抑えきれなくなった俺も、夢中になって腰を振った。導火線に火が点き、今にも弾け飛びそうだ。
「んあっ……ああ、ボク……いっ……あっ、あ、ああぁあぁぁぁぁぁっっ!!」
「うっ……!」
真が大声を上げて達するのを、俺は咎めなかった。
いや、爆発的な快楽に腰全体どころか脳髄まで痺れている今、咎めることなんて不可能だった。
全身から何かを吸いだされるかのように、尿道を通して白い欲望の塊が体外へと放たれていく。
一気に腰から力が抜けて前のめりに崩れ落ちそうになるのを、両手をテーブルについてこらえた。
「ハァ、ハァ、ハァ」
「ふぅ、気持ちよかったぁ……」
俺の下で、真はうっとりした表情で笑みを浮かべていた。
額に浮いた汗を拭ってあげようとしたら、その前に真の指が伸びてきて俺の額を拭った。
汗のついた指を拭くのかと思いきや真はその指を口の中へと運んで行き、
「……しょっぱいや」
と苦笑した。
本番五分前。
ライブ用の衣装に着替え、メイクの人にステージ用の化粧を施してもらった真はステージの脇で待機していた。
もう本番の瞬間が待ちきれないと言った様子で腕を振ったり肩を回したりと準備運動に余念が無い。
誕生日おめでとう、と言っておこうかと思ったが、それはプレゼントを渡す時でいいような気がした。
「真、疲れてないのか?」
先ほど求め合った、心地よくもある疲労感がのしかかってきて、腰がだるい。
疲れている俺とは対照的に、真はいいウォーミングアップになったと言わんばかりに元気いっぱいだ。
「はい! 全然疲れてないですよ! あとライブ二回ぐらいはやれちゃいます!」
「おいおい、流石に一日に二回もライブはしないぞ。……まぁ、大丈夫そうだな」
あんなに乱れていたのが嘘のようだ。
「まぁ、体力は温存しておかなくちゃ、ですよね。終わったらプロデューサーと……へへっ」
ちろりと真が舌なめずりをした。デートを期待しているだけの目には見えない。
(もしかして、まだするつもりなのか……?)
いつか俺は生命力を吸い尽くされてしまうのではないかと、背筋に悪寒が走った。
と、その時、ステージの方から大音量で音楽が流れ始めた。
「お、合図が来たな。行ってこい、真」
「よーし、ガンガン盛り上げてきますね、じゃ、プロデューサー」
拳を突き出して、軽くぶつけ合う。
仕事前の恒例になってだいぶ長い、お決まりの挨拶をして、真は背を向けてステージへと駆けて行った。
男よりも細いそのはずのその背中は、とても大きく、頼もしく見えた。
終わり
―後書き―
真の誕生日に投下してきたネタ。
あのジャージみたいな上着ってどういう服なんだろ。
ジャージでいいのかな。